相続対策と贈与の組み合わせ。生活資金・税金・遺言を整える

相続対策と贈与の組み合わせ|生活資金・税金・遺言を整える

贈与は生前に財産を移し、遺言は原則として亡くなった時の財産の行き先を定める。両方を使えば必ず有利になるわけではない。贈与後に残る生活資金、贈与税、相続時の加算、他の家族の権利まで合わせて設計する必要がある。

架空の家族で考えよう。72歳の健司には、自宅と預金がある。長女の沙織は住宅を買う予定だ。次男の直人は、姉に先に多く渡すと、後の相続はどうなるのかと尋ねた。

妻の幸子は、夫婦の介護費を残しておきたい。健司は、援助することと、家族に公平に残すことを両立したい。

先に贈与の上限を決めるより、今渡す財産、今後も本人が使う財産、亡くなった時に残す財産を、一つの表でつなごう。

税金がいくら減るかと、預金がいくら減るかは別に計算する。

贈与、遺言、遺産分割の役割を分ける

贈与は、渡す側と受け取る側が合意して結ぶ契約だ。実際に贈与を受けた人は、その財産を使ったり処分したりできる立場になる。

渡した人が、いつでも自分のものとして取り戻せると思ったまま、名義だけ変えた場合は、実態を確かめる必要がある。

遺言では、亡くなった時に残る財産を、誰にどう引き継ぐかを決められる。

ただし、法律で決めた方式と本人の意思能力が必要だ。一定の近い家族に保障された最低限の取り分である「遺留分」の問題も残る。生前に贈与すれば、全ての争いを避けられるわけではない。

沙織に住宅資金を贈った後、以前の預金残高のまま遺言を放置すると、直人へ残す財産が足りなくなることがある。

実行した日、額、お金の出どころを記録し、遺言で指定した財産と、実行できる内容を見直そう。

減る預金と、減る税金は別に計算

健司の預金6,000万円から、沙織へ1,000万円を贈与したと仮定する。ほかの収支、手数料や運用の損益がなければ、手元の預金は5,000万円だ。

この1,000万円が、そのまま相続税の節税額になるわけではない。

通常の暦年贈与なら、沙織が同じ年に受けたほかの贈与も合わせて、贈与税を調べる。

特例を使うなら、対象の目的と条件を確かめよう。相続時精算課税なら、健司の死亡時の精算も試算する。同じ1,000万円でも、使う制度によって、後に相続税の計算へ入る額は違う。

沙織が健司から相続・遺贈等で財産を得る場合は、一定期間内の暦年贈与が、相続税の計算へ加算されることがある。

一方、住宅取得等資金の非課税を適用した金額には、加算しない扱いがある。贈った時の税だけでなく、その後の扱いまで確かめよう。

幸子が知りたいのは、残る5,000万円のうち、いくらを夫婦の暮らしに使えるかだ。

介護や家の修繕にお金が必要なら、税が下がる見込みでも、予定どおり贈与するとは限らない。自宅は暮らす場所だが、すぐ使える預金と同じではない。

年110万円の控除と、相続時の加算

暦年課税には、年110万円の基礎控除がある。受け取る人が、1月から12月までに受けた対象贈与の合計で判断する。

健司と幸子が、それぞれ沙織へ110万円ずつ渡しても、沙織の合計は220万円だ。全部が基礎控除の範囲内になるわけではない。

暦年贈与を加算する期間は、死亡年で変わる

相続・遺贈等で財産を受け取った人の、一定の暦年贈与を考える。相続時精算課税の加算は別だ。

死亡が2026年まで

原則、死亡前の
3年以内

死亡が2027〜2030年

2024年1月1日
から死亡日まで

死亡が2031年以後

原則、死亡前の
7年以内

死亡前3年を超える部分があれば、その部分は合計100万円まで加算しない。毎年100万円を差し引く仕組みではない。

贈与税の年110万円の基礎控除内でも、相続税への加算対象になることがある。

年110万円を10回渡すと、移る現金は合計1,100万円だ。しかし、全額を相続税の加算から外せるとは限らない。

贈与日、死亡日、受け取る人が相続等で得た財産を調べなければ、税金の計算へどう影響するかは決まらない。

毎年同じ額を渡すだけで、一括の贈与になるわけではない。ただし、最初から数年分をまとめて約束すれば、その権利への課税を調べる必要がある。

わざと額や時期をずらすより、毎年贈与を決め、契約書、振込記録、受け取る本人の認識と管理の実態を残すことが大切だ。

相続時精算課税は、後の精算も確認

相続時精算課税は、贈与の年の1月1日に、原則60歳以上の父母・祖父母等から、同日に18歳以上の一定の子や孫へ贈る場合に選べる。

誰からの贈与かごとに選び、一度選ぶと、その人からの贈与について暦年課税へ戻れない。

2024年以後は年110万円の基礎控除があり、超える部分に累計2,500万円の特別控除を使う。特別控除後の額には、20%の贈与税がかかる。

渡した人が亡くなった時に、相続税と精算する仕組みだ。2,500万円まで、相続時にも完全に非課税になる制度ではない。

相続時は原則、贈った時の価額を使い、2024年以後の贈与については、年110万円の基礎控除後の額を加える。

値上がりする財産では比べる余地がある一方、値下がりしても、通常は現在の価格へ置き換えない。預金の贈与と、値動きのある不動産の贈与を、同じ計算だと思わないようにしよう。

税額がなくても、制度を選ぶ届出が必要だ。2,500万円の特別控除を使うには、期限内申告等の条件もある。

2024年以後の年110万円以下の贈与は、通常、贈与税申告は不要だ。ただし、初めて選ぶ年の届出とは分けて考える。

目的別の特例は、条件と期限を調べる

沙織の住宅購入なら、住宅取得等資金の非課税を検討する。現行制度は、2026年12月31日までの贈与が対象だ。一定の省エネ等住宅は1,000万円、ほかの住宅は500万円が限度となる。

年齢、所得、床面積、住宅の性能、取得・入居の期限、申告書類等の条件がある。額が限度内だから使える、とは決まらない。

対象は、自分が住む住宅の新築、購入、増改築等に使うお金だ。住宅そのものの贈与や、住宅ローンの返済資金は、同じ対象ではない。

期限が近いからと先に振り込まず、契約と使い道を確かめよう。

教育資金の一括贈与の特例は、2026年3月31日で新しく資金を入れる適用期間が終わった。

既存の契約は、領収書、契約を終える時の扱い、渡した人が死亡した時の管理残額を確かめる。必要な教育費を、その都度支援する非課税の扱いとは別だ。

婚姻期間20年以上の夫婦間では、国内の居住用不動産等に、贈与税の配偶者控除2,000万円を使える場合がある。

相続の配偶者の税額軽減とは違い、申告や居住等の条件がある。不動産取得税や登録免許税も比べ、贈与税だけで自宅の名義を変えると決めない。

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取り分・遺留分と、税の加算を分ける

相続人への住宅資金の援助等は、分割の時に「特別受益」として考慮するかを検討する場合がある。一定の生前贈与や遺贈等を、取り分の計算へ反映する仕組みだ。

生活の基盤となる財産の贈与か、故人に計算へ戻さない「持戻し免除」の意思があったか等を調べる。相続税の生前贈与加算とは、目的と条件が違う。

健司が、沙織への1,000万円は分割で考慮しなくてよいと望むなら、意図を明確にし、遺言等と食い違わないようにする。

ただし、持戻し免除をしても、遺留分の請求まで必ず避けられるわけではない。直人の遺留分と、死亡時に残るほかの財産との関係も確かめよう。

直人に説明がなく、後で減った預金だけが見つかれば、贈与の事実や理由から争いになるおそれがある。

健司の意思、契約内容、実行額を残し、家族にどこまで伝えるかも本人と考えておこう。

本人の生活資金と、希望を先に確かめる

  1. 不動産、預金、保険、債務、既往の贈与を一覧にする。
  2. 本人と配偶者の生活費・予備費を取り分ける。
  3. 贈与を受ける人の目的、金額、使う制度と届出・申告期限を決める。
  4. 贈与の記録と遺言を照らし合わせ、分割・遺留分への影響を確認する。
  5. 家族構成、資産、住居計画が変われば試算を更新する。

贈与契約には、本人が内容と結果を理解して決める意思能力も必要だ。

早くしなければと焦らせて契約しても、希望を確かめたことにはならない。判断や説明に不安があれば、実行を急がず個別に確認しよう。

健司たちは、沙織の住宅資金、幸子に残す預金、直人へ引き継ぐ財産を同じ表に書いた。

贈る額が希望より少なくても、本人の暮らしを守れるなら、それも選択肢だ。贈らない案とも比べて、組み合わせる意味を考えよう。

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各年の契約と複数年の約束の違いは国税庁の贈与税Q&A、加算期間は国税庁No.4161で確認できる。

ほかにも確認する手続がある場合は、生前の全体計画の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

暦年贈与の110万円は毎年使えるか

贈与を受ける人がその年に受けた対象贈与の合計で判定する。複数の人からの贈与も合算し、各年の贈与の成立と履行、本人の認識・管理を記録する。

加算期間は現在すべて7年か

段階的な延長である。2026年までの相続は原則3年以内、2027〜2030年は2024年1月1日以後、2031年以後は原則7年以内となる。3年超部分の100万円控除は期間全体での合計額である。

贈与と相続のどちらを優先するか

本人の生活・介護資金を確保したうえで、贈与税、相続時の加算、特例、分割・遺留分への影響を比較する。贈与をしない方が適している場合もある。

贈与後もその財産が相続税へ加算されるか

暦年課税では受け取る人と時期等、相続時精算課税では別の加算ルールを確認する。住宅資金非課税などの特例は適用を受けた金額の取扱いを個別に見る。

持戻し免除をすれば遺留分の請求も防げるか

遺産分割上の特別受益の持戻しと遺留分は別の問題である。持戻し免除の意思表示があっても、遺留分侵害額請求が問題となる場合がある。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

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