相続税の物納は、延納によってもお金で納めることが難しい場合に、一定の相続財産で税金を納める制度である。現金が少ない、不動産を売りたくないという事情だけで選べるものではなく、納付困難額と財産の適格性を確認する必要がある。
架空の家族で考えよう。父から土地を相続した敦子は、納税資金が足りないと考えている。弟の良平は、空いている土地で物納すればよいと提案した。
ところが、候補の土地には、隣地との境界がはっきりしない部分があった。母の澄江は、準備にかかる時間と費用を心配している。
土地の相続税評価額が分かっても、物納を使えるとは決まらない。
延納でも払えない額、境界や権利、申請の期限を調べる。国が受け取る時の価額である「収納価額」も、売値と分けて確かめよう。
延納で払えるかを先に判断する
相続税は原則、現金でまとめて納める。難しければ年払いの延納、それでも難しければ物納を検討する。
これは、払えるかを判断する順番だ。当初の物納申請で、実際に延納の許可を受け、何回か払った実績まで必要という意味ではない。
申請できるのは、延納でもお金で納めることが難しい額までだ。希望の金額を自由に決める制度ではない。
相続した現金だけでなく、本人の財産、収支、売ってお金にできる財産、延納での支払い等を、所定の資料と計算で確かめる。
敦子の納税額を1,000万円、今納税に回せる現金を200万円と仮定すると、家計上の不足は800万円だ。
しかし、800万円全ての物納が認められるとは限らない。今後、お金で払えるかも審査される。澄江が残したい予備費と、制度上差し引ける資金も同じではない。
換金しにくい財産に対する税を、現金だけでは払えない場合がある。物納は、その困難に対応する例外だ。不要な財産を国へ渡すための制度ではない。
相続税の延納とは|4つの条件・担保・利子税・申請期限
延納は、相続税を一度にお金で納めるのが難しい場合に、条件と審査を経て年払いにする…

出せる財産には、種類と順位がある
原則、その相続税を計算するもとになった相続財産のうち、日本国内にある一定の財産が対象だ。
敦子が以前から持っていた別の土地を、そのまま同じように物納へ出せるわけではない。
大きく分けた順位は次のとおりだ。ただし、同じ順位の中でも、後で扱う「物納劣後財産」を分ける。
後の順位の財産は、先の順位に適当な価額の財産がない場合や、税務署長が特別の事情を認める場合に限って検討する。
- 第1順位:不動産、船舶、国債・地方債、上場株式等。これらのうち物納劣後財産となるものは後に扱う。
- 第2順位:非上場株式等。この中でも劣後する財産を分ける。
- 第3順位:動産。
相続時精算課税を使った財産等、物納の対象外のものもある。税額の計算へ加える財産だから、物納にも出せるとは決まらない。
特定登録美術品には順位の例外もあるため、財産ごとに条件を調べよう。
良平は、土地が第1順位なら問題ないと考えた。しかし、順位が先でも、受け入れられる状態でなければ使えない。財産の種類、順位、適格性を別々に確かめよう。
使えない財産と、後で扱う財産を分ける
国が受け取った後、管理や処分をできる状態が必要だ。担保権が登記された不動産、権利を持つ人に争いがある不動産、境界が不明な土地等は、「管理処分不適格財産」に当たり得る。
つまり、そのままでは物納に使えない財産だ。
共有の不動産も、ほかの共有者が同意すれば必ず使える、とはいえない。何を一単位として物納するか、権利がどうなっているかを確かめる。
借地人が不明な土地や、敷金の返還等を国が負担する土地にも条件がある。支払う義務を残したまま渡せると思わないようにしよう。
一方、法令に違反した建物とその敷地、一定の居住・事業用財産、道路に接する条件を満たさない土地等には、「物納劣後財産」に当たるものがある。
これは、ほかに適当な財産がない場合に限って検討するものだ。物納に使えない「不適格」と、順番が後になる「劣後」を分けよう。
敦子が先にするのは、隣地との境界と、必要な測量の確認だ。国に渡す予定だから、境界は後でよいとは考えない。
登記名義、抵当権、賃貸借契約、利用状況、現地と図面の違いも調べる。土壌汚染等があれば、除去や引渡しの条件も確認する。
測量や権利の整理にかかる費用を、物納で自動的に払えるわけではない。澄江が心配する準備費用も、税とは別に必要な現金として見積もろう。
申請書と、関係書類の期限は別に管理
物納申請書と関係書類は原則、対象の相続税の納期限、または納付すべき日までに税務署へ出す。
期限内申告なら通常、相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内だ。
関係書類がそろわなければ、所定の延長届出書で、1回3か月を限度に、最長1年まで書類の期限を延ばせる。
申請書を出さず、1年後まで待てる制度ではない。申請書と、書類の延長手続を分けて管理しよう。
不動産なら、登記事項証明書、図面、境界・測量、賃貸借や権利の資料等を調べる。
必要な書類は土地等の状況で変わる。一覧にして、取得中、確認済み、未解決に分けると、残る作業が見える。
原則、物納申請期限から3か月以内に、税務署長が許可か却下を決める。財産の状況によって、最長9か月の追加の延長がある。
書類の訂正や、財産を整える措置を求められたら、指定された期限を守る。申請しただけで、許可されたわけではない。
敦子と良平は、申告、境界確認、書類の取得を、同じ予定表に並べた。
家族の話し合いが続いても、税の期限は自動的に延びない。通常の納付や延納で払えるかも、並行して調べよう。
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国が受け取る価額と、売値を比べる
国が受け取る時の「収納価額」は原則、相続税を計算するもとになったその財産の価額だ。売却の相場と同じとは限らない。
路線価に面積を掛けるだけで、全ての土地の収納価額が決まるわけでもない。小規模宅地等の特例を使った土地は原則、特例を使った後の価額になる。
説明用の仮定だ。物納の条件を全て満たし、800万円の物納が許可される場合を考える。
国が受け取る価額
800万円
土地で800万円の税を納める。測量等の準備費用は、別に現金を用意する。
売値1,200万円
− 費用・譲渡税等200万円
= 手取り1,000万円
ここから税800万円を払い、現金200万円が残る。
実際の売値・費用・税額ではない。売却代金が期限に間に合うか、物納の準備費用はいくらかも、同じ条件で比べよう。
売って多く現金を得られても、入金が納期限の後なら間に合わない。
物納に必要な測量等の現金支出も見積もり、金額と、実行までの日数の両方を比べよう。
物納でも、譲渡所得の税を確認
物納による譲渡所得等の非課税は、租税特別措置法40条の3で条件を確かめる。
対象は、延納でも金銭納付が難しい額として、物納を許可された相続税額に対応する財産の価額だ。
税額を超える財産で物納し、超えた分が現金で還付される場合、その部分は通常の譲渡と同様に課税の対象となる。
物納の許可前に相続税が減った場合と、許可後の減額更正による場合でも扱いが違う。「物納なら譲渡所得の税が一切かからない」とは考えないようにしよう。
国税庁の超過物納の質疑応答と減額更正がある場合の質疑応答で、条件の違いを確認できる。
敦子は、物納する案と、売って払う案の両方を計算した。良平には、価額だけでなく、準備費用、譲渡税、入金日も比べていると伝えた。
何となく得か損かで決めず、同じ条件で数字を比べることが大切だ。
却下後の手続と、延納からの変更
財産が不適格・劣後に当たるとして却下されたら、却下日の翌日から20日以内に、別の財産で1回だけ再申請できる仕組みがある。
延納でもお金で納めるのが難しい、という理由がないとして却下された場合は、延納への変更を調べる。却下された理由ごとに、次の手続を確かめよう。
申請者が書類を訂正したり、国が受け取れるよう財産を整えたりする期間等には、利子税がかかる。
却下や、取り下げたものとみなされる場合にも利子税が生じる。一方、自分から取り下げた場合は、納期限等の翌日からの延滞税が問題になる。申請中なら追加の税負担がない、とは限らない。
延納の許可後に、その条件どおり払うのが難しくなった場合は、「特定物納」を調べる。
申告期限から10年以内に、分納期限がまだ来ていない税額について、物納への変更を検討できる。収納価額は、特定物納を申請した時の価額となる。当初の物納とは、条件と価額の時点を分けて考えよう。
申請前に、払う方法と準備費用を確認
- 納税額と延納によっても困難な額を、所定の計算で確認する。
- 候補財産が国内の対象相続財産か、順位と適格性を確認する。
- 境界、担保、共有、利用・賃貸状況と必要な措置を調べる。
- 書類と申請の期限、準備費用、売却・延納との比較を記録する。
敦子は、境界が不明な土地でも出せると思い込まず、まず準備の見通しを確かめた。澄江の生活費を確保し、良平とは、物納が認められなかった場合の払い方も話した。
物納は、土地に価値があるだけでは足りない。国へ渡せる状態に整える作業と、期限までに払う方法を一緒に考える必要がある。
条件の一覧は国税庁No.4214、納税方法全体は納税資金の整理を参照できる。
ほかにも確認する手続がある場合は、相続税の申告・納付・調査の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
物納の申請期限はいつか
対象の相続税の納期限等までとなる。期限内申告では通常10か月以内で、関係書類の延長制度と申請書そのものの期限を分ける。
境界が不明な土地や共有地も使えるか
管理処分不適格に当たる場合がある。共有者の同意だけで自動的に適格になるわけではなく、権利や対象財産の状態を確認する。
物納なら譲渡所得税は必ず非課税か
許可された相続税額に対応する範囲で非課税を確認する。金銭で還付される超過物納部分は、通常の譲渡と同様に課税対象となる。
収納価額は売却相場と同じか
原則として相続税の課税価格計算の基礎となった価額であり、売却価格とは異なる。小規模宅地等の特例があれば原則として適用後の価額となる。
先に延納をしなければ物納を申請できないか
当初申請で実際の延納実施は必須ではない。延納によってもお金で納めることが難しいかを判定する。延納許可後に変更する特定物納とは別である。
物納が却下されたらどうするか
却下理由に応じて、他の財産での1回の再申請や延納への変更等を確認する。20日以内の手続や、利子税・延滞税の違いにも注意して必要な納付を進める。



