海外不動産の相続税評価とは、国外にある土地・建物の権利内容と課税時期の時価を確認し、外貨建ての価額を日本円へ換算して相続税申告へ反映する作業です。
海外不動産は一律に現地鑑定だけで評価するわけではありません。売買実例、公示価格、鑑定評価などを参酌し、取得価額を使う場合も合理的な時点修正が必要です。為替は原則として死亡日のTTB等を使い、現地税制と日本の外国税額控除も別に確認します。
海外に不動産があっても、日本の相続税が課税されるか、どの財産を申告するか、いくらで評価するかは同じ問題ではありません。被相続人と相続人の住所・国籍、現地の所有形態、日本の納税義務の範囲を先に整理し、その後に評価へ進みます。
海外不動産も相続税法22条の「時価」が出発点
相続税法22条は、特別の定めがある財産を除き、相続・遺贈で取得した財産を取得時の時価で評価すると定めています。財産評価基本通達5-2も、国外財産について、まず同通達の評価方法を使うことを原則としています。
ただし、国外の土地には日本の路線価や固定資産税評価額をそのまま使えないことがあります。国税庁は、国外土地について、原則として次の資料を参酌して評価すると説明しています。
- 近隣・同種物件の売買実例価額
- 所在国に地価公示に相当する制度がある場合の公示価格
- 専門家による鑑定評価額
したがって、「海外不動産なら必ず現地鑑定士の鑑定が必要」とは限りません。利用できる公的価格や比較可能な取引事例があるか、権利内容や利用状況を価格へ反映できるかによって、必要な資料が変わります。
取得価額をそのまま相続税評価額にはできない
財産評価基本通達5-2は、通達による評価ができない国外財産について、課税上の弊害がない限り、取得価額または課税時期後の譲渡価額を基に、課税時期の価額へ時点修正する方法も認めています。
しかし、購入時の金額を無条件に使えるわけではありません。国税庁は、親族からの低額取得、売り急ぎによる譲渡、合理的な価格変動率が存在しない場合などには、その方法を使えないと示しています。取得時から死亡時までの現地価格指数、物件の増改築・老朽化、賃貸状況なども確認します。
外貨は原則として死亡日のTTB等で円換算する
外貨建ての評価額は、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期の最終の対顧客直物電信買相場(TTB)またはこれに準ずる相場で円換算します。相続の場合の課税時期は被相続人の死亡日です。
死亡日に相場の公表がなければ、その日前の相場のうち死亡日に最も近い日の相場を使います。また、金融機関によって相場が異なることがあります。国外不動産を複数人が共有で相続した場合、各相続人が取引する金融機関の相場により、円換算額が異なることもあると国税庁は説明しています。「死亡日のレート」というだけでなく、どの金融機関の、どの種類の相場を用いたかを保存します。
現地法人名義なら、相続する財産は株式の場合がある
登記名義が被相続人個人ではなく現地法人であれば、被相続人が保有していたのは通常、その法人の株式です。この場合、日本の相続税で評価する対象は不動産そのものではなく外国法人株式となり得ます。
現地で会社と呼ばれていても、日本法上の法人に相当するか、名義だけを預けているのか、信託や共同所有に近い制度なのかで扱いが変わります。現地の登記、定款、株主名簿、信託証書、取得契約を確認し、権利の実体から判定します。
現地で相続税を払っても、同額を全て控除できるとは限らない
国外財産について外国で相続税に相当する税が課された場合、相続税法20条の2の外国税額控除を使えることがあります。ただし、対象となる外国税か、誰に課された税か、どの国外財産に対応するかを確認し、日本側の計算による控除限度があります。
また、外国税の計算に使われた現地評価額が、そのまま日本の相続税法22条の時価になるとは限りません。現地独自の評価減や非課税措置を適用した価額であることもあるため、現地申告書と評価資料を分けて確認します。
国外財産調書と相続税申告は別の制度
国外財産調書は、一定の居住者が年末時点で保有する国外財産について提出する情報申告です。被相続人の死亡から10か月以内に行う相続税申告とは、提出義務の判定日、記載対象、期限が異なります。
相続開始年の国外財産調書については、相続・遺贈で取得した国外財産を提出義務の判定から除外できる特則があります。もっとも、その財産が日本の相続税の課税対象になるかどうかは別に判断します。
評価資料を集める順番
- 被相続人・相続人の住所、国籍、過去10年の居住状況を確認する
- 現地登記、取得契約、管理契約で財産と権利者を確定する
- 現地法人・信託・共有・リースホールドなど権利形態を整理する
- 死亡日前後の売買実例、公示価格、鑑定、価格指数を集める
- 使った金融機関のTTB等と公表日を保存する
- 現地の相続税申告書、納税証明、税額計算書を取得する
- 日本の相続税申告と外国税額控除の計算を確認する
評価通達を一律に適用すると適切な時価を算定できない特別な事情があるかは、裁判でも争点になります。東京地裁平成25年8月30日判決、大阪地裁平成29年6月15日判決などの裁判例も踏まえ、通達評価から離れる場合は、なぜその方法が合理的かを資料で説明できるようにします。
公的資料
- e-Gov法令検索「相続税法」(20条の2、22条ほか)
- 国税庁「財産評価基本通達」(4-3、5-2)
- 国税庁「国外財産の評価―土地の場合」
- 国税庁「No.4665 外貨(現金)の邦貨換算」
- 国税庁「取得価額等を基に評価することについて課税上弊害がある場合」
- 国税庁「在外財産に対する相続税額の控除」
- 国税庁「No.7456 国外財産調書の提出義務」
よくある質問
海外不動産は必ず現地鑑定が必要ですか
必ずではありません。売買実例、公示価格、鑑定評価などを参酌します。取得価額や譲渡価額を使う場合も、課税上の弊害がなく、合理的な時点修正ができることが必要です。
為替はどの日のレートを使いますか
原則として被相続人の死亡日に、納税義務者の取引金融機関が公表した最終のTTBまたはこれに準ずる相場を使います。その日に相場がなければ、直前の最も近い日の相場を確認します。
現地で相続税を払えば日本の相続税はなくなりますか
必ずしもなくなりません。相続税法20条の2の外国税額控除には対象要件と控除限度があります。現地税額と日本の相続税額を別々に計算します。
国外財産調書を出せば相続税申告は不要ですか
不要にはなりません。国外財産調書と相続税申告は別制度です。提出義務、基準日、対象財産、期限をそれぞれ判定します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な評価・申告は、現地資料を確認できる税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。



