相続税の路線価と時価の違い|評価通達6項・マンション評価

相続税の路線価と時価の違い|評価通達6項・マンション評価

相続税の評価と、売却の査定額は、同じ数字になるとは限らない。相続税は取得時の時価を原則とし、実務では路線価方式・倍率方式など、通達の方法で計算する。

安い資料の数字を選んだり、売却査定をそのまま申告額へ写したりする仕組みではない。以下は、美保と航という架空の家族が、三枚の資料の役割を確かめる例だ。金額は説明用である。

父の土地を相続する姉の美保と弟の航は、机へ三枚の紙を並べた。固定資産税の評価証明書、国税庁の路線価図、不動産会社の査定書だ。航は「一番安い数字で相続税を出せばいい」と考え、美保は「査定額でなければ間違いになるのでは」と心配した。

通達による共通の方法がなければ、同じような土地でも担当者や納税者ごとに評価がばらばらになりやすい。公平に、期限内に計算するための基準である。ただし、その方法で出した金額なら、どんな事情でも必ず認められるという保証ではない。二人は「何のための価格か」を紙の上へ書き足した。

三枚の紙は、価格の目的が違う
固定資産税の評価証明書
固定資産税等のための評価額を確認する。
宅地の相続税評価で、そのまま使うとは限らない。
国税庁の路線価図
路線価地域の宅地を評価する基準。
地積や形状等を確認し、必要な補正をして計算する。
不動産会社の売却査定書
市場でいくらで売れそうかという見込み。
申告額や、実際に売れる額を保証するものではない。

美保と航は、最安の紙を選ぶのではなく、申告・売却などの目的に合う根拠を確かめる。倍率地域の宅地や建物等では、使う資料と計算方法も別に確認する。

路線価は何を測り、何を測らないのか

相続税法22条は、特別な定めがある場合を除き、取得した時の時価で財産を評価すると定める。

実務の共通の計算方法を示すのが、財産評価基本通達だ。路線価地域の宅地では、道路に付された1㎡当たりの路線価を基に、奥行、ほかの道路との接し方、形状等に応じて補正する。

路線価に地積を掛けるだけで終わるとは限らない。必要な補正の種類と率を確認する。

「路線価÷0.8」を、個別の土地の市場価格を出す式にはできない。取引時点、道路との接し方、形状、規模、権利、収益性などが違うためだ。

三枚の資料の数字に差があるだけでは、どれが誤りかも決まらない。まず、目的と計算の前提を確かめよう。

路線価方式の宅地では、路線価を基に必要な補正をした額で評価する。地積、道路の有無と幅、奥行、形状、利用区分、借地・賃貸の関係を確かめよう。補正の種類と率は条件によって変わる。

美保たちの土地を、地積200㎡、正面路線価1㎡20万円、必要な補正をまとめた結果が0.95と仮定しよう。

20万円×200㎡×0.95=3,800万円となる。説明のために単純化した式であり、0.95を別の土地へそのまま使うことはできない。

売却の査定が5,000万円でも、それだけで税の評価3,800万円が誤りと決まるわけではない。

また、3,800万円を0.8で割った4,750万円が、必ず売れる価格になるわけでもない。税の評価、売却の見込み、実際の売却代金を分けよう。

「差があれば否認される」は正確ではない

路線価と市場価格の差を気にする人は多い。「大きく乖離していると税務調査で否認される」という話が流れることもある。これは、正確ではない。

財産評価基本通達6は、通達の方法で評価することが「著しく不適当」と認められる財産を、国税庁長官の指示を受けて評価すると定める。

共通の方法から離れる合理的な理由があるかを、具体的な事情から判断する。市場価格との差だけで、自動的に別の評価へ変わるわけではない。

では「特別な事情」とは何か。最高裁令和4年4月19日判決は、次の事案について判断した。

亡くなった人らが、近い将来の相続税負担を減少させることを知り、期待して、多額の借入れと不動産購入を企画・実行した。その結果、同じ財産を持ちながら購入・借入れをしなかった他の納税者との間に、看過し難い不均衡が生じた。この事案で、通達評価によらない課税に合理的理由があると判断された。具体的な購入・借入れの経緯と著しい税負担軽減が問題になった事例だ。

通達評価と異なる価額による課税には、他の納税者との公平との関係で合理的な理由が必要になる。この事案では、具体的な取得・借入れの経緯や税負担への影響等が問題になった。路線価と鑑定価額に差があるだけで、すべての土地を鑑定評価へ置き換えてよいわけではない。

この事案では、価格の差だけでなく購入・借入れの経緯と税負担の軽減が重視された。ただし、それ以外の事実関係では通達6項を一切使えないという判断ではない。自分の取得経緯と財産の現況を整理し、通達評価が著しく不適当になる事情の有無を確認する。

自分の財産については、取得時期、借入れの有無と目的、売却予定、鑑定をした経緯等を整理する。価格の差だけでなく、どのように取得し、使っている財産かを説明できるようにしよう。

2024年以後のマンション評価——「60%」という数字の誤解

分譲マンションの相続税評価について、「2024年から市場価格の60パーセントに統一された」という説明を見かけることがある。これは正確ではない。

2024年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した、一定の居住用区分所有財産には、従来の家屋・敷地利用権の評価額へ「区分所有補正率」を掛ける計算が加わった。

築年数、総階数、所在階、部屋の面積に対する敷地持分の小ささ(敷地持分狭小度)から、所定の評価乖離率を計算する。その逆数が評価水準で、これに応じて補正率を求める。

評価水準が0.6未満なら引上げ、1を超える場合は引下げの補正が基本だ。0.6以上1以下なら補正しない。

適用外となる建物等もある。0.6は補正を判断する基準の一つであり、実際の売却査定額の60%を、一律に申告する制度ではない。

貸家・貸家建付地としての評価や、特定居住用宅地等の特例は、区分所有補正後の価額を基に、別に条件と計算を確認する。

対象となる建物や具体的な計算は、国税庁の居住用区分所有財産の評価で確かめられる。

区分所有財産の評価は、相続したマンションの確認事項で詳しく整理している。

航は、父が昔から持っていた宅地の評価と、相続直前の借入れ・購入による節税の事案を同じに扱わないようにした。美保は、購入日、資金の出所、借入れ、利用状況、査定や鑑定の有無を一覧にする。都合のよい価格だけを抜き出さず、評価へ関係する事情を示す。

マンションについても、実際の査定が5,000万円なら60%の3,000万円、と一行で出す制度ではない。対象かどうかと所定の補正率を確認し、家屋と敷地利用権をそれぞれ計算する。美保たちは、今回の土地とマンションの記事の例を混ぜず、財産ごとに計算根拠を分けた。

申告前に整理する六つの確認

申告前には、次の六つを順に確かめる。評価方法と、その根拠となる資料を一緒に残そう。

  1. 課税時期と登記・固定資産税資料の確認:亡くなった日(課税時期)を確定し、登記事項証明書と固定資産税の課税明細を照らし合わせる。地積や地目の記載が実態と合っているかを見る。
  2. 路線価方式か倍率方式かの判定:国税庁の路線価図で路線価地域かどうかを確認する。倍率地域かを評価倍率表で確かめる。路線価地域の一部の道路に路線価がない場合などは、特定路線価等の取扱いを別に確認する。
  3. 地積・接道・奥行・形状・利用区分・借地賃貸関係の確認:画地補正の種類と率はこれらの条件で変わる。賃貸中であれば貸家建付地評価の適用も確認する。
  4. 区分所有財産なら2024年以後の補正対象かの確認:取得日が2024年1月1日以後であれば、築年数・総階数・所在階・敷地持分狭小度を確認し、補正対象かどうかを判定する。
  5. 購入時期・借入れ・売却・鑑定・収益など特別な事情の整理:相続税負担の軽減を目的とした購入・借入れの経緯がないか、売却予定や鑑定の有無を整理する。通達6項の検討が必要かどうかの判断材料になる。
  6. 計算根拠・地図・写真・契約書の申告資料としての保存:評価の根拠を後から説明できるよう、資料を申告書とともに保管する。

「路線価で申告すれば必ず安全」でも「市場価格との差が大きければ必ず否認される」でもない。通達評価の合理性と、自分の取得経緯に特別な事情がないかを確認することが、この六項目の目的だ。

不動産評価の基本的な計算方法は不動産の相続税評価で整理している。海外に不動産がある場合は海外不動産の相続税評価も確認してほしい。

相続した不動産が農地であれば転用の手続が別に必要になる場合があり、農地を転用するための手続を参照してほしい。共有名義になる場合は共有不動産の売却と持分の扱いも確認しておきたい。売却を検討するなら相続したマンションを売却する流れも参考になる。

三枚の紙の答え合わせ

固定資産税の評価証明書、路線価図、売却査定書は、それぞれ作られた目的が違う。

美保と航は「一番安いのはどれか」ではなく、今回の財産にどの評価方法を使い、何の補正が要るかを確かめることにした。

ただし、その計算の前提として、地積と接道と形状と利用区分を確認し、取得の経緯に特別な事情がないかを整理する作業が必要だ。区分所有財産なら2024年以後の補正対象かどうかも確認する。

二人は、地積と接道、亡くなった日、取得経緯を紙に書き出して、税理士へ確認することにした。売却を考えるときは別に費用や税引後の手取りも試算する。「三つのうちどれが安いか」という話から、それぞれの価格を何に使うかを説明できる状態へ進めた。

ほかにも確認する手続がある場合は、不動産評価・小規模宅地・農地の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

路線価を0.8で割れば市場価格か

個別の市場価格を出す換算式にはならない。取引時点、形状、規模、権利と収益などの条件を確認する。

市場価格との差が大きいと必ず否認されるか

差だけで直ちに別評価となるわけではない。取得経緯、時価と税負担の公平などの具体的事情を確認する。

マンションは市場価格の60%で統一されたか

一律ではない。対象の居住用区分所有財産に、築年数・階数・所在階・敷地持分狭小度から計算する補正を適用する。

マンションの貸家評価や小規模宅地特例はどうするか

区分所有補正後の価額を基に、それぞれの条件と計算を別に確認する。

この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

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