遺留分侵害額の支払額が相続税申告後に確定した場合、金銭を支払う側と受け取る側で税務手続が異なります。支払う側は更正の請求、受け取る側は期限後申告・修正申告が問題になります。
遺留分を請求しただけで税額が自動修正されるわけではありません。支払額が確定した日と、それを知った日、当初申告、合意書・調停調書・判決、実際の支払資料をそろえ、4か月の特則を管理します。
2019年改正後は原則として金銭請求
2019年7月1日以後に開始した相続では、遺留分権利者は、遺留分を侵害する遺贈・贈与を受けた人に対し、侵害額に相当する金銭の支払を請求します。旧制度のように、請求しただけで対象財産の共有持分が当然に戻る仕組みではありません。
国税庁は、支払額が確定した場合、遺留分権利者は取得した現物財産の価額に侵害額相当額を加算し、遺留分義務者は取得した現物財産の価額から同額を控除して相続税を計算する取扱いを示しています。
支払う側は更正の請求を検討する
相続税法32条1項3号は、遺留分侵害額の請求に基づいて支払うべき金銭の額が確定したため、当初の課税価格または相続税額が過大になった人に、更正の請求の特則を設けています。
期限は、金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内です。申告書を出し直せば自動的に還付される制度ではなく、更正の請求書と計算明細、確定を示す資料を税務署へ提出し、審査を受けます。
受け取る側は期限後申告・修正申告を確認する
遺留分権利者の取得額が増える場合、当初に相続税申告をしていなければ期限後申告、申告済みで税額が増えるなら修正申告が問題になります。相続税法は一定の場合に提出できる仕組みを置いていますが、「受け取った人は常に同じ期限・同じ申告義務」と一律には扱いません。
支払う側だけが更正の請求をし、受け取る側が対応していない場合、税務署長による更正・決定が行われる可能性があります。当事者間の合意と税務署への手続は別です。
「確定した日」が分かる資料を残す
| 解決方法 | 確定時期を示す主な資料 |
|---|---|
| 裁判外の合意 | 当事者、対象相続、支払額、成立日を明記した合意書 |
| 家事調停 | 調停調書と成立日 |
| 訴訟上の和解 | 和解調書と成立日 |
| 判決 | 判決書と確定証明書 |
裁判外の合意では、単なる送金記録だけでなく、何の支払か、支払うべき額がいつ確定したかを明確にします。更正の請求の起算日は「実際に全額を払い終えた日」と常に一致するわけではありません。
不動産を代わりに渡す場合
遺留分侵害額は金銭債権です。当事者の合意で不動産を代物弁済として移転すると、相続税だけでなく、支払う側の譲渡所得、受け取る側の取得費、不動産取得税、登録免許税など別の課税関係が生じ得ます。国税庁も、侵害額相当の金銭に代えて宅地を移転した事例で、相続税の更正の請求と他の税務を区別して示しています。
実務チェックリスト
- 相続開始日が2019年7月1日前か後か確認する
- 当初の相続税申告書、財産評価、納付額を双方で確認する
- 支払額、確定日、知った日、支払期限を文書化する
- 更正の請求の4か月期限を最優先で管理する
- 受取側の期限後申告・修正申告と納税資金を確認する
- 不動産等で支払う場合は所得税・登記税等を別に試算する
遺留分請求の期限と通知は遺留分侵害額請求の方法、金銭債権化後の時効は遺留分請求後の金銭債権も参照してください。
公的資料・条文
- e-Gov法令検索「民法」1046条
- e-Gov法令検索「相続税法」32条
- 国税庁「相続法改正関係の相続税・贈与税質疑応答事例」
- 国税庁「遺留分侵害額の請求に伴い取得した宅地」
- 国税庁「相続税の更正の請求書」
よくある質問
遺留分を請求すれば相続税は自動で変わりますか
変わりません。支払額の確定後、支払う側の更正の請求と、受け取る側の期限後申告・修正申告を個別に確認します。
更正の請求はいつまでですか
相続税法32条の要件に当たる場合、支払うべき金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内です。
実際に支払った日から4か月ですか
常にそうではありません。合意成立、調停成立、判決確定など、支払うべき額が確定し、それを知った時を資料で確認します。
金銭の代わりに不動産を渡せますか
当事者の合意は可能ですが、譲渡所得、登記、取得税など別の課税関係が生じ得るため、実行前に試算します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。相続開始日、当初申告、支払額の確定方法、代物弁済により税務は異なります。4か月期限を含め税理士・税務署へ確認してください。



