生前贈与で相続税は減る?2024年改正後の暦年課税・相続時精算課税

生前贈与で相続税は減る?2024年改正後の暦年課税・相続時精算課税

振込金額の欄に「1,100,000」と入力する。

今年も、子どもの口座へ110万円。これを毎年続ければ相続税の対策になる、と聞いたことがある。送金が終わると、ひと仕事済んだ気がする。けれど、そのお金が相続税の計算から外れるかどうかは、振込完了の画面には出てこない。

生前贈与の効果は、贈与の合意と実行、贈与税の計算、相続時の加算を分けて確かめる必要がある。2024年からは、暦年課税の加算期間が段階的に延び、相続時精算課税には年110万円の基礎控除が加わった。同じ110万円でも、どの制度の数字かで、その後が変わる。

まず、贈らなかった場合の税額を知る

「相続税の最高税率は55%」。この数字だけを見れば、財産の半分以上を取られるように感じるかもしれない。だが、遺産総額へ一律に55%を掛ける計算ではない。

基礎控除を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で仮に分け、その取得金額に累進税率を当てる。最高税率55%は、この仮の一人分の取得金額が6億円を超える部分に対するものだ。総財産に占める税負担の割合とは違う。

贈与した方がよいかを考えるなら、最初に現在の財産と相続人を基に試算したい。相続税がどの程度見込まれるのか、生活費や介護費をいくら残す必要があるのか。そこが分からないまま、毎年の振込額だけを決めるのは順序が逆だ。

口座へ送ったことと、贈与の合意

「子のために貯めている」と「子にあげた」は、よく似ている。だが、まだ親が自分のお金として管理し、子には何も伝えていないなら、贈与があったのかという確認が必要になる。

民法549条の贈与は、無償で与える意思表示と、相手の受諾によって成立する。契約の成立、送金などの履行、相続時に誰の財産かを判断する問題は、区別して考えよう。

  • 何を、いつ、誰へ贈るという合意があったか
  • 送金、名義書換え、引渡しをどのように行ったか
  • 通帳・印鑑・カードなどを誰が管理し、誰の判断で出金したか
  • 利息、配当、賃料、払戻金を誰が受け取ったか
  • 必要な贈与税申告や制度選択の届出を行ったか

契約書や申告書は大切な資料だが、一枚あればすべて決まるわけではない。反対に、親が通帳を保管していたという一点だけで、必ず親の財産になるとも限らない。未成年への贈与なら、法定代理人がどのように受諾・管理に関わったかも確認する。

実態の確認は生前贈与の証拠と管理実態、家族の口座については家族名義預金の判断要素で詳しく扱っている。記録を整えるのは、見た目を作るためではなく、実際に何をしたかを説明できるようにするためだ。

二つの制度の、同じ110万円を比べる

暦年課税と相続時精算課税。名前は堅いが、今の贈与税と将来の相続税をどうつなぐかという違いがある。

項目 暦年課税 相続時精算課税
年110万円の基礎控除 受贈者が一年に暦年課税で受けた贈与の合計から控除 2024年以後、受贈者が一年に精算課税で受けた贈与について控除。特定贈与者が複数なら按分
贈与税の計算 基礎控除後の額に累進税率(10〜55%)。一般税率・特例税率の区別がある 基礎控除後、特定贈与者ごとの累計2,500万円の特別控除を使い、残額へ20%
相続時の加算 取得者と期間などの条件に応じて贈与時の価額を加算。110万円以下の贈与も対象になり得る 2024年以後は原則として年110万円の基礎控除後の贈与価額を加算
制度の選択 精算課税を選択していない贈与者からの贈与は原則としてこちら 届出が必要。一度選択した贈与者について暦年課税へ戻れない

どちらの基礎控除も、同じ制度の中で贈与者を増やすたびに110万円ずつ増えるものではない。暦年課税と相続時精算課税を異なる贈与者について使っている場合は、それぞれの枠を区別して計算する。まず、贈与者ごとにどちらの制度かを整理しよう。

暦年課税では、「贈与税がゼロ」の先に加算がある

年110万円以下で贈与税の申告が不要だった。それでも、相続税の計算に加えることはある。税目と時点が違うからだ。

国税庁の案内では、相続・遺贈や相続時精算課税に係る贈与などによって財産を取得した人について、被相続人から対象期間内に受けた暦年課税の贈与を加算する。期間は、相続が始まった日によって次のように変わる。

  • 2026年12月31日まで:相続開始前3年以内
  • 2027年1月1日〜2030年12月31日:2024年1月1日から相続開始日まで
  • 2031年1月1日以後:相続開始前7年以内

延長された、相続開始前3年を超える部分については、その部分の贈与価額の合計から総額100万円を控除する。毎年100万円ではないし、贈与税の年110万円とも違う数字だ。対応する贈与税を既に納めていれば、相続税の計算で控除する仕組みもある。

孫へ贈る場合も、「孫だから必ず対象外」とは決められない。死亡保険金などのみなし相続財産を取得すれば、加算の対象になる場合がある。誰が何を取得するかまで確認したい。

過去の振込履歴を確かめるときは、生前贈与加算の経過措置を参照してほしい。複数人からの贈与は110万円を誰ごとに数えるか、毎年続ける場合は定期贈与と加算の注意点も確認しておこう。

精算課税の2,500万円は、相続税まで消す枠ではない

相続時精算課税は、原則として贈与年1月1日に60歳以上の父母・祖父母などから、同日に18歳以上の推定相続人である直系卑属または孫への贈与で選択できる。住宅取得等資金の特例には年齢要件の例外がある。

2024年以後は、まず年110万円の基礎控除を使う。同一年に複数の特定贈与者から受ければ、110万円を贈与額の割合で按分する。その残額について、特定贈与者ごとに累計2,500万円の特別控除を使い、残りへ20%を掛ける。

たとえば、2024年以後に一人の特定贈与者から1,000万円を受け、基礎控除と特別控除を使えるなら、贈与税はゼロになり得る。だが、110万円を引いた890万円は、原則としてその人の相続時の加算対象になる。2,500万円は、贈与税の計算上の特別控除だ。将来の相続税まで非課税になるという意味ではない。

2023年以前の精算課税による贈与には、この年110万円の控除はない。過去の贈与と2024年以後の贈与を分け、原則として贈与時の価額で相続税に加算する。既に納めた精算課税の贈与税相当額は相続税から控除し、控除しきれない場合は申告により還付されることもある。

申告が不要でも、最初の届出まで不要とは限らない

2,500万円の特別控除を使うには期限内申告が必要だ。一方、2024年以後の精算課税の贈与が年110万円以下なら、贈与税の申告が不要となる場合がある。この二つを、制度を初めて選ぶときの届出と混ぜないようにしよう。

選択する際は、原則として最初に適用を受ける贈与年の翌年2月1日から3月15日までに、必要書類を添えて相続時精算課税選択届出書を提出する。年110万円以下でも、初めて選択する際の届出は必要だ。その贈与者については撤回して暦年課税へ戻れないので、送金後に慌てて決めるより、事前に試算したい。

詳細は相続時精算課税の110万円・届出・計算と、国税庁の計算例で確認できる。

振り込む前に、残すお金も決めておく

制度だけ比べても、どちらが得かは決まらない。贈与者の年齢、財産の規模、値動きや収益、相続人の構成、将来の税負担によって結果が変わる。相続がいつ始まるかは決められないので、時期を変えた複数の試算も役に立つ。

  1. 贈与する側の生活費・介護費・納税資金を確保する
  2. 財産、取得価額、含み益、収益、過去の贈与を整理する
  3. 贈与税と将来の相続税を合わせ、二つの制度を比較する
  4. 合意、送金、管理、使用収益の記録と届出・申告を整える
  5. 住宅・教育・結婚子育て資金や配偶者控除などの特例は、利用できる時期と個別要件を確認する

特例には期限や改正がある。以前使えたという記憶だけで今も申し込めると考えず、贈与を行う時点の案内を確認しよう。実際の進め方は生前贈与の契約・振込・管理・申告にまとめている。

振込金額を入力する前に、今年渡すお金と、自分のために残すお金を並べる。その一覧に過去の贈与履歴を添えて税理士へ相談すれば、「110万円だから」よりも、自分の家族に合った理由で金額を決められる。

公的資料・根拠

よくある質問

毎年110万円以下なら相続税にも加算されませんか

暦年課税の贈与税がかからなくても、取得者や期間などの条件により相続税へ加算することがある。贈与税の基礎控除と相続税の加算は別に確認する。

相続時精算課税の2,500万円は非課税枠ですか

贈与税計算上の特別控除であり、相続税まで非課税になる枠ではない。2024年以後は原則として年110万円の基礎控除後の贈与価額を相続時に加算する。

贈与契約書があれば名義預金になりませんか

契約書は重要な資料だが、それだけでは決まらない。合意、履行、管理、使用収益などの事実を確認する。未成年への贈与では法定代理人の関与も見る。

2026年に亡くなった場合も7年分を加算しますか

2026年12月31日までに始まった相続では、暦年課税の加算対象期間は原則として相続開始前3年以内だ。7年への延長には経過措置がある。

暦年課税と相続時精算課税はどちらが得ですか

財産額、贈与の時期、値動き、相続人、将来の税負担によって変わる。贈与税だけでなく相続税も合わせて試算し、贈与する側に必要なお金も確保したい。

本記事は一般的な情報提供です。贈与日、相続開始日、申告状況、合意や財産管理の実態によって結論は異なります。個別の判断は税理士・弁護士へ資料を示して確認してください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律と税務を分けずに確認

相続税申告、相続登記、不動産処分、遺産分割が同時に動く場面を前提に、弁護士・税理士の両面から整理しています。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

確認日

最終更新:

相続の全体整理が必要な方へ

相続税申告・相続登記・不動産処分まで、ひとつの窓口で相談できます。

税理士、司法書士、不動産会社、金融機関に別々に説明する前に、まずは相続全体の地図を作ることが大切です。ATBでは、遺産分割、相続税申告、登記の段取り、不動産や非上場株式の処分までまとめて整理します。

相続ワンストップサービスを見る

TOP

電話でお問い合わせ LINEで簡単お問い合わせ