相続手続きには順番がある。間違えると、取り返しがつかない

相続手続きとは、被相続人の死亡後に発生する、財産の承継や各種届出・申告を行う一連の手続きのことです。手続きごとに異なる期限が定められており、正しい順序で進めることが重要とされています。

結論から言うと、相続手続きには死亡届の提出(7日以内)をはじめ複数の期限が存在し、順番を誤ると取り返しのつかない不利益が生じる可能性があるため、全体の流れを事前に把握しておくことが重要とされています。

焦り顔

親父が亡くなったのに、もう手続きの期限が迫ってるって…どこから手をつければいいんだ!

悲しみに暮れている暇など、一秒もない

身内の不幸というものは、感情が追いつく前に「現実」が暴力的なまでの勢いをもって、怒涛のごとく押し寄せてくるものである。

涙が乾く間もなく、電話が鳴る。書類が届く。誰かが「あの手続き、もうやった?」と聞いてくる。

そう。相続手続きという名の巨大な歯車は、故人を見送った瞬間から、すでに静かに、しかし確実に回り始めているのだ。

で、結論から言うと、「相続手続きの流れ」を知らないまま突っ込んでいくのは、地図なしで山岳地帯に放り込まれるのと同義である。遭難する前に、全体像を頭に叩き込んでおくのが先決だ。

相続が発生した瞬間から始まる「期限の魔物」との戦い

まず、知っておいてほしい事実がある。

相続の世界には、いたるところに「期限」という名の魔物が潜んでいる。これが、また、実にバリエーション豊かで凶悪なのだ。

一つひとつの期限を見ていくと、こうなる。

  • 死亡届の提出:死亡の事実を知った日から7日以内(戸籍法86条)。これを怠ると、その後のあらゆる手続きがピタリと止まる。まず最初の関門。
  • 相続放棄・限定承認の申述:「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申述(民法915条・938条)。ここで重要なのが、死亡日からではなく「知った時」から、という点だ。なお、相続人同士で「あなたが放棄してね」と口約束をしても、法的効力はゼロ。必ず家庭裁判所を経由しなければならない(民法938条)。
  • 準確定申告:故人に確定申告義務があった場合、相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内(所得税法124条・125条)。これを見落とす遺族が、実は多い。
  • 相続税の申告・納付:相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内(相続税法27条)。これが、最終ボス級の期限だ。

図解

みなさんは、これを眺めてどう感じただろうか。

「……思ったより、やること多くないか?」

そう。これだ。

第一フェイズ:遺言書と財産の「全力捜索」

期限の全貌を把握したところで、では実際に何から手をつけるか。

まず最初に全力を注ぐべきなのは、「遺言書の有無の確認」と「財産目録の作成」だ。この二つが、その後の全ての手続きの土台になる。

遺言書。これが、あるかないかで、親族の足並みがパカっと二つに割れる。「うちは家族仲がいいから」と余裕の顔をしていても、特定の一人に全財産が遺贈されていた日には、穏やかなリビングは一瞬で「疑念のカーニバル会場」に早変わりする。

だから、引き出しを執念深く開けまくれ。仏壇の奥、貸金庫、あるいは公証役場。自筆証書遺言であれば法務局での保管制度(法務局における遺言書の保管等に関する法律)も確認の対象だ。公正証書遺言なら公証役場で検索できる。

そして財産の把握。人間が一生の間に残す「足跡(資産)」は、想像以上に、あちこちに散らばっている。

  • 不動産(土地・建物):権利証を探せ。見当たらない場合は、役所で「名寄帳(なよせちょう)」を取り寄せると、その市区町村内の不動産が芋づる式に出てくる場合がある。
  • 預貯金:通帳・キャッシュカードの捜索は基本中の基本。ただし、伏兵として「ネット銀行」が潜んでいる可能性がある。スマホのメール履歴やアプリを丹念にチェックし、残高証明書を請求するのだ。
  • 有価証券・投資信託:証券会社からの郵便物、あるいはネット証券のログイン履歴が手がかりになる場合がある。
  • 負の遺産(借金・保証債務):これが最も恐ろしい。消費者金融からの通知を見落とすな。JICC・CICといった信用情報機関への照会も有効だ。ここを怠ると、後から多額の負債という剛力が人生に直撃してくる可能性がある。

プラスとマイナス、この連立方程式を全力で解いた末に、人は気づく。

「……全部、把握しきれるわけがない」

これだ。ここで絶望してはいけない。

第二フェイズ:遺産分割協議という「全員参加の格闘技」

財産の全容がおぼろげに見えてきたところで、次に待ち受けるのが「遺産分割協議」だ。

これは相続人全員の合意が必要な作業であり(民法907条)、一人でも欠けると、その協議は無効となる。全員参加型の格闘技、とでも思っておいた方がいい。

ここで一つ、重要な事実を伝えておく。

遺産分割協議に、法定の期限は存在しない。「10ヶ月以内に分割を終えなければ違法」などということはないのだ(民法上の規定なし)。ただし、相続税の申告期限(10ヶ月)までに分割が整っていると、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)といった強力な節税特例が使いやすくなる、という実務上の理由から、早めに動くに越したことはない。

また、万が一、申告期限までに協議がまとまらなかった場合でも、法定相続分で仮の申告(未分割申告)を行うことが可能だ(相続税法55条)。協議成立後に修正申告または更正の請求で正しい税額に修正できる(相続税法32条、国税通則法23条)。諦めるのは早い。

なお、「あの特例、後から使えますか?」という問いに対しては、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告期限内に提出することで、後から適用できる可能性がある。ただし条件があるため、個別に専門家への確認を強くお勧めする。

図解

「自分のケースがどれに当たるか判断できない」という人は、一度プロに聞いてみた方が早い。

遺留分という「隠れた爆弾」も忘れるな

さらに、もう一つの爆弾がある。

遺言書で「特定の人物に全財産を」と書かれていた場合、他の相続人が黙って引き下がるとは限らない。一定の相続人には「遺留分」という最低限の取り分が法律で保障されており(民法1042条)、侵害されていれば遺留分侵害額請求権を行使できる。

この請求権の時効は、「相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年」、または「相続開始から10年」(民法1048条)。放っておくと時効で消滅する可能性があるため、こちらも悠長に構えていると取り返しのつかないことになりかねない。

絶望から希望へ。プロを使え、という話

ここまで読んで、こう感じた人も多いはずだ。

「……複雑すぎて、自分には無理だ」

その感覚は、正しい。

相続手続きは、法律・税務・不動産評価が複雑に絡み合う、人生最難関レベルの事務作業だ。自分一人で全てを積分しようなどと思わなくていい。そのためにプロがいる。

弁護士、税理士、司法書士。それぞれに得意領域がある。遺産分割で揉めているなら弁護士、相続税の申告なら税理士、不動産の名義変更(相続登記)なら司法書士、というように、局面に応じて頼る専門家を選ぶのがセオリーだ。

手続きを終えた数ヶ月後。「もっと早くやっておけばよかった」と、清々しいほどスッキリした朝を迎えるために。

早めの相談が、唯一の正解だ。伝わりましたかね。

ホッとした顔

一人で抱え込まずに、専門家に頼っていいんだ。早めに相談すれば、まだ間に合う!

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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