相続税は、各人が実際に取得した財産へ直接税率を掛けて計算する税金ではありません。各人の課税価格を合計し、基礎控除を差し引き、法定相続分で一度仮計算して相続税の総額を求めます。
計算は「各人の課税価格→基礎控除→相続税の総額→実際の取得割合による按分→各人の加算・控除」の5段階です。財産評価、生前贈与、債務、法定相続人の数のいずれかを誤ると、後の計算も変わります。
相続税は5段階で計算する
相続税の計算では、「遺産総額×税率」という一度の掛け算はしません。国税庁が案内する計算構造は、次の5段階です。
- 財産を取得した人ごとに課税価格を計算する
- 課税価格の合計額から基礎控除を差し引く
- 課税遺産総額を法定相続分で仮に分け、相続税の総額を計算する
- 相続税の総額を実際の取得割合で各人へ按分する
- 各人ごとに2割加算や税額控除を反映する
全体像は国税庁のNo.4155「相続税の税率」と相続税の申告要否判定コーナーでも確認できます。
ステップ1:財産を取得した人ごとの課税価格を出す
最初に、相続人・受遺者など財産を取得した人ごとに課税価格を計算します。おおまかな構造は次のとおりです。
本来の相続財産+みなし相続財産+相続時精算課税の対象財産-債務・葬式費用+一定の生前贈与加算
預貯金、不動産、株式だけでなく、死亡保険金や死亡退職金の課税対象部分、名義にかかわらず実質的に被相続人へ帰属する財産も確認します。一方、被相続人の確実な債務や一定の葬式費用は、取得者ごとの要件に従って控除します。
国税庁は、取得者ごとの課税価格を計算してから合計した金額を「課税価格の合計額」と説明しています。財産と債務を世帯全体で単純相殺すると、申告要否を誤る場合があります。
不動産の相続税評価は市場価格や固定資産税評価額と一致するとは限りません。土地がある場合は相続税における不動産評価の確認方法も参照してください。
ステップ2:基礎控除を差し引く
課税価格の合計額から、次の基礎控除を差し引きます。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
差し引いた残額が「課税遺産総額」です。法定相続人が配偶者と子2人の計3人なら、基礎控除は4,800万円です。
ここで使う法定相続人の数には、相続放棄があった場合や養子がいる場合の税法上の数え方があります。単に実際に財産を受け取る人数を入れるわけではありません。詳しくは相続税の基礎控除と法定相続人の数え方で整理しています。
ステップ3:法定相続分で相続税の総額を計算する
課税遺産総額を、法定相続人が法定相続分どおりに取得したものと仮定して分けます。各人の仮の取得金額へ速算表の税率と控除額を適用し、その税額を合計したものが「相続税の総額」です。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | 0円 |
| 1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
この段階では、実際の遺産分割割合ではなく法定相続分を使います。実際に誰が多く取得するかは、次の按分段階で反映します。
ステップ4:実際の取得割合で各人へ按分する
相続税の総額を、各人の課税価格が課税価格の合計額に占める割合で按分します。これが各人の算出税額の基礎になります。
例えば、相続税の総額が350万円で、実際の課税価格の割合が配偶者2分の1、子2人が各4分の1なら、按分額は配偶者175万円、子は各87万5,000円です。
遺産分割を変えても、同じ相続人構成・同じ課税遺産総額なら、法定相続分で計算する相続税の総額自体は原則として変わりません。ただし、各人の加算・控除や取得財産にひもづく特例により、最終納付額は変わります。
ステップ5:各人の加算・税額控除を反映する
按分後の金額へ、各人の事情に応じて加算・控除を反映します。代表例は次のとおりです。
- 被相続人の一親等の血族・配偶者以外などに対する相続税額の2割加算
- 贈与税額控除
- 配偶者の税額軽減
- 未成年者控除・障害者控除
- 相次相続控除・外国税額控除
配偶者の税額軽減により納付税額が0円になる場合でも、その適用を受けるために申告が必要です。「最終税額が0円」と「申告不要」は同じではありません。
計算例:配偶者と子2人、課税価格の合計8,000万円
- 法定相続人は3人なので、基礎控除は4,800万円
- 課税遺産総額は8,000万円-4,800万円=3,200万円
- 法定相続分で仮分けすると、配偶者1,600万円、子は各800万円
- 速算表では、配偶者190万円、子は各80万円
- 相続税の総額は350万円
その後、実際の取得割合で350万円を按分し、配偶者の税額軽減などを各人別に反映します。実際の申告では、財産評価、生前贈与、債務、特例適用を確認してから計算してください。
相続税計算で間違えやすい5点
- 固定資産税評価額や購入価格を、そのまま土地の相続税評価額にする
- 生命保険金、死亡退職金、名義財産、一定の生前贈与を漏らす
- 法定相続人の数と、実際に取得する人数を同じものとして扱う
- 実際の取得額へ直接速算表の税率を掛ける
- 税額が0円になる特例を使う場合も申告不要だと思い込む
計算後に申告が必要となる場合は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告・納付します。期限と未分割時の扱いは相続税の申告期限と未分割申告を確認してください。
確認に使える公的資料
よくある質問
遺産総額に税率を掛ければ相続税を計算できますか
できません。取得者ごとの課税価格を合計し、基礎控除を差し引き、法定相続分で相続税の総額を計算してから実際の取得割合で按分します。
基礎控除以下なら必ず申告不要ですか
特例を使わずに計算した課税価格の合計額が基礎控除以下であれば、通常は相続税申告は不要です。ただし、相続時精算課税、一定の生前贈与、みなし相続財産などを含めて判定する必要があります。
配偶者が取得する財産には相続税がかかりませんか
配偶者の税額軽減により、実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円または法定相続分相当額までなら、配偶者の納付税額が0円になる場合があります。ただし適用には申告が必要です。
不動産の評価は固定資産税評価額で計算しますか
土地は原則として路線価方式または倍率方式、家屋は固定資産税評価額を基礎に評価します。財産の種類や利用状況に応じた調整もあるため、固定資産税通知書の数字を全財産へ一律に使うことはできません。
相続税を自分で試算するとき、何を先に集めますか
相続人を確認できる戸籍、預貯金・証券・保険の残高資料、不動産の登記事項と固定資産税資料、債務・葬式費用、生前贈与の記録を集めます。資料の日付と名義も確認してください。
本記事は一般的な相続税計算の説明です。法令・通達・申告書様式は改正されることがあり、財産評価や特例適用は個別事情で変わります。申告時は国税庁の最新資料を確認し、必要に応じて税理士等へ相談してください。



