海外不動産も、日本の相続税では、原則として亡くなった時の時価で評価する。現地の売買事例、公表された価格、鑑定等から価格を調べ、原則として適用する金融機関の死亡日のTTBで円に換算する。
TTBは、金融機関が顧客から外貨を買うときの為替相場だ。会社名義の部屋なら、相続するのは会社の株式かもしれない。現地で払った相続税も、日本の税から全額引けるとは限らない。
父の晴夫が亡くなり、娘の美月は海外の部屋の権利証を見つけた。母の恵子は賃料を生活費に残したく、弟の翔太は管理が難しいなら売りたいと考えている。
ただ、父個人の部屋なのか、父の会社の部屋なのかも、まだ分かっていなかった。
以下は架空の家族で、金額と為替も仮定だ。残すか売るかを決める前に、誰のどんな権利か、日本で課税されるか、亡くなった時の価格を確認する。評価額と、家族が使える現金は別だ。
最初に、父と相続人の住所・国籍等、現地の権利、死亡時の価格資料、適用する金融機関の為替を調べる。
国外財産調書は、海外に持つ財産を報告する書類だ。相続税の申告とは別なので、一方を出せばすべて済むわけではない。
価格を調べる前に、権利を確かめる
まず、何を相続したのかを確かめる。不動産そのものか、株式等の別の権利かで、評価する対象が変わる。
父個人の名義なら、土地や建物の権利を調べる。
現地法人の名義なら、父が持っていたのは通常、その法人の株式だ。日本の相続税でも、外国法人の株式を評価する場合がある。
現地で会社と呼ばれていても、日本の税では法人と扱うか、名義を預けただけか等を調べる。信託や共有、土地を一定期間使うリースホールド等でも、権利が違う。
登記、定款、株主名簿、信託証書、取得契約から、実際の権利を確かめる。ここを後回しにすると、価格の計算もやり直すことになる。
父と相続人の住所・国籍、以前住んでいた国や期間、在留資格も確認する。
海外の不動産というだけで、日本の相続税の対象外にはならない。日本で課税される財産の範囲を確かめてから、評価へ進む。
晴夫個人の部屋なら、その不動産の権利と持分を調べる。会社の部屋なら、美月が受け取るのは株式かもしれない。
会社の部屋と父の株式を、両方とも父の遺産として足すと、同じ価値を二重に数えてしまう。恵子に賃料が直接入るかも、この確認なしには決まらない。
路線価のない土地を、どう評価するか
権利の実体が確認できたら、次は価格の算定だ。
相続税法22条は、特別の定めがある財産を除き、取得した時の時価で評価すると定めている。
海外の財産も、まず財産評価基本通達の方法で評価するのが原則だ。通達5-2で、この扱いを確認できる。
ただし、海外の土地へ日本の路線価や固定資産税評価額をそのまま使えない場合がある。国税庁は、次の資料等を参考にして評価すると説明している。
- 近隣・同種物件の売買実例価額
- 所在国に地価公示に相当する制度がある場合の公示価格
- 専門家による鑑定評価額
海外の物件でも、必ず鑑定が必要とは限らない。使える公的価格や似た物件の取引があるか、権利や利用の状況を価格へ反映できるかで、資料を選ぶ。
購入額や売却額を使える条件
通達の方法で評価できない海外の財産では、購入額や死亡後の売却額を出発点にできる場合もある。
ただし、課税上の問題が生じないこと等が条件だ。地域や同種の財産の合理的な価格変動率等で、亡くなった時の価格へ調整する。これを時点修正という。
購入額を、そのまま申告してよいという意味ではない。
その購入額や売却額を、価格調整の出発点にしてよいかを調べる。例えば、次の事情を無視して計算しない。
- 親族からの低額取得
- 売り急ぎによる譲渡
- 合理的な価格変動率が存在しない場合
購入時から死亡時までの価格指数、増改築、古くなった程度、賃貸の状況等も確認する。
当時の購入額等が適正だったか、合理的な変動率を使えるかを調べ、方法を選んだ理由を資料で説明できるようにする。
外貨を円に換算する相場と日
外貨の評価額が出たら、日本円へ換算する。原則、納税する人の取引金融機関が公表する、亡くなった日の最終のTTBか、これに準ずる相場を使う。
財産評価基本通達4-3で確認できる。為替予約で相場が確定している場合等は、例外の扱いも調べる。
死亡日に相場の公表がなければ、その日前の相場のうち死亡日に最も近い日の相場を確認する。
同じ日でも、金融機関によって相場は違う。共有で相続した場合、各人の取引金融機関の相場により、持分の円換算額が違うこともある。
どの金融機関の、どの種類の相場を、いつ公表したものか、三つを記録する。
同じ部屋でも、亡くなった時の評価と、後日売って受け取るお金は一致しない。次の例で分けてみよう。
物件全体を父が個人で持ち、日本の相続税の対象になるとした架空の例。外貨の価格と為替は、実際の相場ではない。
30万米ドル × 145円
4,350万円
適用するTTBで円換算
29万米ドル × 140円
4,060万円
税や仲介費用等を引く前
差の290万円は、そのまま税額や譲渡損にはならない。相続税の評価、売却時の所得、費用等を引いた手元資金は、それぞれ計算する。売却の所得計算に使う為替も、別に確認する。
翔太は、相続時の評価が4,350万円でも、その額をすぐ母へ送れるわけではないと分かった。税や費用を引いた後、実際に使える金額を確かめる必要がある。
現地の相続税を引く条件
現地で相続税に相当する税を課された場合、日本の相続税から差し引けることがある。相続税法20条の2の外国税額控除だ。
次の三点を調べる。
- 対象となる外国税か
- 誰に課された税か
- どの国外財産に対応するか
日本側の計算による上限もある。外国で課された税を、必ず全額引ける制度ではない。
現地の相続税申告に使った価格が、そのまま日本の申告にも使えるとは限らない。
現地独自の値引きや非課税の扱いが含まれているかもしれない。現地申告書と価格資料を、日本の時価の評価とは分けて確認する。
外国税額控除は、同じ海外財産に相続税相当の税が重なる負担を調整する仕組みだ。現地の所得税や名義変更費用まで、何でも引けるわけではない。
仮に、条件を満たす外国税が円換算300万円、日本側の控除上限が200万円なら、引けるのは200万円までだ。
実際の上限は、受け取る人ごとの日本の相続税額と、債務を差し引いた財産の割合等から計算する。外国税の円換算も、財産評価のTTBをそのまま使わず、別に確認する。
国外財産調書と相続税申告は別
国外財産調書は、一定の居住者が年末に持つ海外財産を報告する制度だ。
相続税申告は、必要な場合、原則として自分のために相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内に行う。調書とは、判定する日、載せる財産、期限が違う。
相続が始まった年の国外財産調書では、その相続や遺贈で取得した海外財産を記載せずに提出できる。その場合、提出義務を判定する合計額からも、その財産を除く特則がある。日本の相続税の対象になるかは、別に判断する。
国外財産調書は、原則として、非永住者を除く居住者が12月31日に5,000万円を超える国外財産を持つとき、翌年6月30日までに出す。
美月も、父の生前の調書、自分の相続税申告、自分の年末の調書を、一つの手続と思わず、それぞれ確認する。
資料を集める順番
何から動けばいいか分からないとき、集める順番を決めると少し動きやすくなる。
- 亡くなった人・相続人の住所、国籍、過去10年の居住状況を確認する
- 現地登記、取得契約、管理契約で財産と権利者を確定する
- 現地法人・信託・共有・リースホールドなど権利形態を整理する
- 死亡日前後の売買実例、公示価格、鑑定、価格指数を集める
- 使った金融機関のTTB等と公表日を保存する
- 現地の相続税申告書、納税証明、税額計算書を取得する
- 日本の相続税申告と外国税額控除の計算を確認する
権利の確認には、現地の専門家や現地語の書類が必要な場合もある。特に、3番の権利形態が分からないと、4番で何の価格を調べるかが決まらない。
手が止まったら、ある書類と、まだない書類を分けて書く。
美月たちは、権利証の名義と管理契約を、現地の担当者へ確かめることにした。
恵子の継続収入と、翔太の管理負担は、評価額だけでは決まらない。権利、死亡時の評価、売却後の手元資金を調べてから、残す案と売る案を比べる。
手元にある書類の種類と、まだ手元にない書類の一覧を紙に書き出す。現地の権利形態が複雑で判断がつかない場合、その書類の一覧を持って相談すると、どこから動けばいいかを整理しやすい。
- 相続した不動産の売却を検討している場合は、登記・税金・特例の流れも確認しておきたい
- 誰も住まない実家を相続した場合の登記・税金・空き家控除についてはこちら
- 相続税申告の税理士費用の見方については別記事で整理している
- 相続人や亡くなった人が海外居住者である場合の課税範囲・手続については、こちらで詳しく確認できる
評価の根拠は国税庁の国外土地の評価と財産評価基本通達4-3・5-2、調書の条件は国外財産調書の提出義務を確認したい。
ほかにも確認する手続がある場合は、保険・金融資産・デジタル・海外の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
国外不動産は日本で課税されるか
住所、国籍、過去の居住状況などで納税義務の範囲が変わる。国外という所在地だけで除外しない。
現地申告の評価額をそのまま使うか
日本法上の時価を確認する。現地の評価減や非課税を適用した価額とは区別する。
取得価額をそのまま申告できるか
通達で評価できない国外財産は、課税上弊害がない等の条件の下、取得価額等を合理的に時点修正する方法もある。
国外財産調書だけで申告は済むか
別制度だ。調書の判定時点・記載対象・期限と、相続税の課税範囲・期限を別に確認する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



