「家なき子特例」は法律上の制度名ではなく、被相続人と同居していなかった一定の親族が、被相続人の居住用宅地について小規模宅地等の特例を受ける場面の通称です。
適用判定は「賃貸住まいか」だけではできません。被相続人の配偶者・同居相続人の有無、取得者の納税義務者区分、過去3年の居住先と所有者、現在住む家屋の過去の所有歴、申告期限までの宅地保有を順に確認します。
家なき子特例は、別居親族向けの小規模宅地等の特例
被相続人の居住用宅地を相続または遺贈で取得した親族が一定の要件を満たすと、その宅地の相続税評価額は330㎡まで80%減額されます。配偶者や同居親族だけでなく、それらに当たらない別居親族にも適用の余地があり、この別居親族の類型が一般に「家なき子特例」と呼ばれます。
ただし、単に自宅を所有していない、または賃貸住宅に住んでいるだけでは足りません。現行要件は、国税庁No.4124「小規模宅地等の特例」の「特定居住用宅地等の要件」で確認できます。
家なき子特例の6要件
被相続人の居住用宅地を、配偶者・同居親族以外の親族が取得する場合、国税庁は次の6要件をすべて満たすことを求めています。
- 一定の納税義務者区分を満たすこと
居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち、日本国籍を有しない人に該当しないこと。 - 被相続人に配偶者がいないこと
- 被相続人の家屋に住んでいた相続人がいないこと
相続開始直前に、被相続人の居住用家屋に住んでいた被相続人の相続人がいないこと。相続放棄がある場合は、放棄がなかったものとして相続人を判定します。 - 相続開始前3年以内に一定の家屋へ居住していないこと
日本国内にある、取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族、または取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住していないこと。ただし、相続開始直前に被相続人が住んでいた家屋はこの判定から除かれます。 - 現在住む家屋を過去に所有していないこと
相続開始時に取得者が住んでいる家屋を、相続開始前のいずれの時点でも取得者が所有したことがないこと。 - 宅地を申告期限まで保有すること
取得した宅地を、相続開始時から相続税の申告期限まで保有していること。
1つでも欠ければ、この別居親族の類型では特例を適用できません。外国居住・外国籍が関係する場合は納税義務者区分の判定が必要であり、「5要件」とだけ覚えると確認漏れが生じます。
3年以内の居住歴は、家の名義まで確認する
最も間違えやすいのは4番目の要件です。過去3年の住所を並べるだけでなく、それぞれの家屋を誰が所有していたかまで確認します。
- 取得者本人または配偶者の所有家屋
- 取得者の三親等内の親族の所有家屋
- 取得者と特別の関係がある一定の法人の所有家屋
たとえば親族所有のマンションを借りて住んでいた場合、賃貸借契約があっても所有者の範囲に該当し得ます。また、勤務先名義の社宅でも、その法人が取得者と特別の関係にある一定の法人に当たるかを別途確認します。
反対に「持ち家が一度でもあれば一生使えない」という要件でもありません。5番目が問題にするのは、相続開始時に住んでいる家屋を過去に取得者が所有していたかです。4番目の3年間要件と混同しないでください。
被相続人側で先に確認する2点
被相続人に配偶者がいないか
被相続人の配偶者がいる場合、別居親族である取得者は家なき子類型を使えません。配偶者自身が宅地を取得する場合には、配偶者について居住継続・保有継続の要件はありません。
被相続人の家屋に住む相続人がいないか
判定対象は単に「同居していた親族」ではなく、相続開始直前に被相続人の居住用家屋に住んでいた被相続人の相続人です。相続放棄をした人も、放棄がなかったものとしてこの有無を確認します。
配偶者・同居親族を含む特定居住用宅地等の全体像は、小規模宅地等の特例と同居要件も参照してください。
申告期限までに売却すると保有要件を満たさない
家なき子類型では、宅地を相続開始時から相続税の申告期限まで保有する必要があります。期限前の売却を予定している場合は、売買契約や引渡しを進める前に適用可否を確認してください。
相続税の申告・納付期限は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。期限計算は相続税の申告期限で整理しています。
適用判定に集める資料
申告書へ添付する書類は個別事情と申告書様式で変わりますが、まず次の事実を資料で確認します。
- 被相続人の配偶者・相続人を確認できる戸籍資料
- 被相続人と取得者の住所履歴を確認できる資料
- 取得者が相続開始前3年以内に住んだ各家屋の所有者を確認できる資料
- 相続開始時に住む家屋について、取得者の過去の所有歴を確認できる資料
- 取得する宅地、取得者、持分を確認できる遺言書または遺産分割協議書等
- 宅地を申告期限まで保有していることを確認できる資料
住民票だけでは家屋の所有者を確認できません。住所履歴と登記事項などを対応させ、親族関係や法人との関係も確認します。提出書類は申告年分の国税庁案内と所轄税務署で最終確認してください。
未分割の場合は当初申告で特例を適用できない
申告期限までに対象宅地が未分割であれば、当初申告で小規模宅地等の特例を適用することはできません。
ただし、当初の相続税申告書へ「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、申告期限から3年以内に分割された場合は、要件を満たせば分割日の翌日から4か月以内に更正の請求を行い、特例適用を求められます。詳しくは国税庁No.4208「相続財産が分割されていないときの申告」を確認してください。
適用可否を確認する順番
- 対象が被相続人の居住用宅地に当たるか確認する
- 被相続人の配偶者と、家屋に住んでいた相続人の有無を確認する
- 取得者の納税義務者区分を確認する
- 取得者の過去3年の住所と各家屋の所有者を対応させる
- 相続開始時に住む家屋の過去の所有歴を確認する
- 誰が宅地を取得し、申告期限まで保有するか決める
- 期限内申告と必要な添付書類を準備する
宅地が複数ある場合や、特例対象になり得る宅地を複数人が取得した場合は、対象宅地の選択と関係者の同意も問題になります。制度全体は小規模宅地等の特例の要件・限度面積・申告方法で確認してください。
よくある質問
賃貸住宅に住んでいれば家なき子特例を使えますか
賃貸住宅に住んでいるだけでは決まりません。被相続人の配偶者・同居相続人の有無、賃貸住宅の所有者、過去3年の居住歴、現在住む家屋の過去の所有歴など6要件をすべて確認します。
過去に自宅を所有していたら使えませんか
過去の持ち家歴だけで一律に決まりません。ただし、相続開始時に住んでいる家屋を過去に所有していた場合は要件を満たしません。また、相続開始前3年以内に自己・配偶者等が所有する別の家屋へ住んでいた場合も確認が必要です。
親が所有するマンションを借りて住んでいる場合は使えますか
親が取得者の三親等内の親族に当たるため、その家屋が日本国内にあり、相続開始前3年以内に居住していた場合は4番目の要件を満たさない可能性があります。賃料を払っているかだけでは判定できません。
申告期限前に宅地を売却できますか
家なき子類型は申告期限までの宅地保有が要件です。期限前に売却すれば、この類型の保有要件を満たしません。
申告期限までに遺産分割が終わらない場合はどうしますか
当初申告で未分割の宅地へ特例は適用できません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して期限内申告し、3年以内に分割した場合は、分割日の翌日から4か月以内の更正の請求を検討します。
本記事は一般的な制度説明です。適用可否は宅地の利用状況、取得者・相続人の関係、居住歴、所有歴、納税義務者区分、遺産分割と申告手続で変わります。申告時は国税庁の最新資料を確認し、必要に応じて税理士等へ相談してください。



