遺留分とは?:遺言の希望と家族の保障を考える

遺留分とは?遺言の自由と家族の最低限の取り分を調整する仕組み

遺留分は、遺言などによって財産を受け取れなくなる一定の近い家族へ、最低限の取り分を保障する仕組みだ。遺言を全部無効にする制度でも、全員を同じ取り分へ戻す制度でもない。侵害がある場合に、権利を持つ人が相手へお金の支払を求める。

ここからは、姉の恵里と弟の孝平の架空の家族を通した説明で、実際の相談を紹介したものではない。母はすでに亡くなり、父の相続について二人が話している。金額は説明のための仮定だ。

父の希望を尊重すると、姉は何も言えないのか

父の遺言には、家と預金をすべて孝平へ相続させるとあった。孝平は父と暮らし、通院も支えていた。「父さんがこの家を残したかったことくらい、分かるだろ」。孝平にそう言われると、恵里もすぐには言い返せない。

けれど、何も受け取れないことへの戸惑いもあった。父の決めたことに反対すれば、欲張りだと思われるのだろうか。恵里が知りたいのは、取り分の数字だけでなく、そもそも自分が話をしてよいのかということだった。

孝平にも、父との毎日を送ってきた自負がある。家を残したいという希望まで、姉が半分に切ってしまうように感じていた。二人の間では、父の気持ちを大事にすることと、姉の権利を確認することが、反対の話になっていた。

遺留分は、その二つを調整するためのルールだ。父が自分の財産の行き先を決める自由はある。一方で、一定の近い家族に何も保障しなくてよいのかという問題もある。どちらか一方だけを採るのでなく、最低限の枠を設けている。

法定相続分と、遺留分は何が違うか

法定相続分は、法律が定める相続人の基本の割合だ。配偶者がおらず子二人なら、基本はそれぞれ2分の1になる。ただし、有効な遺言などがあるときにも、その割合で必ず同じ金額ずつ取得すると決まるわけではない。

法定相続分と遺留分の金額を分ける

母は既に亡くなり、相続人は父の子である恵里と孝平だけ。遺留分の計算の基礎は6,000万円で、贈与・債務等のほかの調整はないとする。

恵里の法定相続分に当たる額
6,000万円 × 1/2
= 3,000万円
遺言等があっても、必ずこの額を受け取れるという意味ではない。
恵里個人の遺留分
全体の遺留分 1/2
× 恵里の法定相続分 1/2
6,000万円 × 1/2 × 1/2
= 1,500万円
恵里が何も受け取らないこの例では、不足分の請求を考える額になる。

孝平へ多く残す父の遺言が、全部消えるわけではない。実際の請求額は、恵里が受け取る財産や一定の贈与、引き継ぐ借金等も含めて確かめる。

家族構成や生前贈与、債務(借金など、支払い等をしなければならない義務)、自分が取得する財産によって実際の侵害額は変わる。計算は遺留分の割合と侵害額を分ける計算例で順に扱っている。「子の遺留分はいつも4分の1」と一つの割合だけ覚えない方がよい。

誰に保障され、誰には保障されないのか

遺留分があるのは、相続人となる配偶者、子やその代襲相続人、父母・祖父母等だ。代襲相続人は、例えば、先に亡くなった子に代わって相続する孫等のことをいう。

亡くなった人の兄弟姉妹や、兄弟姉妹に代わって相続する甥・姪には、遺留分がない。

ここで「兄弟姉妹」という言葉の見方に注意したい。恵里は孝平の姉だが、亡くなった父の「子」として遺留分を確認する。「きょうだいで争っているから、遺留分はない」ということにはならない。

法律上の相続人が、亡くなった人の兄弟姉妹となる場合、その兄弟姉妹には遺留分がない、という意味だ。

放棄や欠格等がある場合も、まず自分がどの立場の相続人なのかを調べよう。家族の呼び方だけで決めず、亡くなった人を中心に関係を並べたい。

遺言で渡した財産が、自動で全部戻るわけではない

恵里は「遺留分があるなら、父の遺言は無効になるの」と考えた。それも別の話だ。遺言の方式や判断能力などが問題となる無効の争いと、有効な遺言によって生じた遺留分侵害を調整することは、区別する。

現在の遺留分侵害額請求は、侵害された額に当たるお金を請求する仕組みだ。2019年7月1日以後に始まった相続に適用される。

請求だけで、実家の一部が自動的に恵里のものになるわけではない。それより前の相続には旧制度が関わるため、亡くなった日を先に確かめよう。

お金で調整する仕組みには、家や事業の財産を細かい共有に戻す混乱を避ける意味がある。本人が決めた財産の行き先を、できる限り保つためでもある。

孝平の住まいと恵里の最低限の保障は、必ず家そのものを分けて調整する必要はなくなった。

ただし、孝平に支払資金がなければ、その工面は別の問題になる。お金の請求になったから紛争が全部なくなる、家は必ず守れる、という保証ではない。合意できる支払方法や、法律上認められる対応も含めて検討する。

生前にもらった財産や借金も確認する理由

亡くなった時の通帳と家だけで最低限の枠を決めると、生前に財産をほぼ全部贈与した場合、その保障が簡単に空になってしまう。そのため、一定の贈与も計算の土台へ加える仕組みがある。一方、借金も差し引き、正味の財産を確認する。

相続人への贈与では、原則として亡くなる前10年以内に、婚姻・養子縁組のため、または生活の基盤となる資金等として受けたものを確認する。家族への贈り物を、すべて加えるわけではない。

相続人以外への贈与は、原則として亡くなる前1年以内が対象だ。ただし、贈った人と受けた人の双方が遺留分を侵害すると知っていた場合は、それより前も加えることがある。相続人への贈与も、この場合は10年より前が対象になることがある。

恵里自身が、遺言や一定の生前贈与で財産を受けている場合も、実際の侵害額に関わる。個人の遺留分を計算した額が、そのまま上乗せの請求額になるとは限らない。

相続税の計算に使った財産一覧や贈与加算期間も、そのまま同じには使えない。民法上の遺留分と、税金の申告は目的と決まりが違う。資料は共有しながら、何の計算に使う数字なのかを明確にする。

請求するかは本人が決める。でも、期限は確認する

遺留分が侵害されていても、必ず請求しなければならないわけではない。父の希望や家族の事情を踏まえ、請求しない選択もある。ただ、権利を理解したうえで選ぶことと、「何も言えない」と思い込んで期限を過ぎることは違う。

期限は、相続が始まったことと、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年だ。遺贈は、遺言で財産を渡すことをいう。

その間に権利を行使しなければ、時効で消滅する。亡くなってから10年を過ぎた時も同じだ。家族の話合いや評価の調査が終わるまで、自動で延びるものではない。

恵里は、家の評価を調べながら、いつ遺言の内容を知ったかも記録した。計算の調査と、権利を使う意思表示を分けて確認する。請求の文面を相手へ届ける必要があるので、内容証明郵便などで内容と到達を記録する方法も検討する。

内容証明で送れば、どんな文章でも有効な請求になるわけではない。

資料を見せてほしいという連絡だけなのか、遺留分を請求する意思まで示しているか。正しい相手へ届いているか。この二つを確かめよう。裁判所に調停を申し立てたことだけで、相手への意思表示も済んだとは考えない。

合意ができなければ、調停と訴訟の役割を分ける

支払の話合いがまとまらなければ、家庭裁判所の調停を利用できる。調停は、調停委員を交えて話し合う手続だ。

遺産分割調停とは違い、不成立になると自動で裁判官が額を決める審判へ進む手続ではない。争いが残れば、訴訟で解決する方法を検討する。

「相続の調停」と一つにまとめず、相手への請求、金額の計算、調停の申立てを分けよう。請求後に発生する、お金を払ってもらう権利の時効も管理する必要がある。

遺言、家族関係、財産・借金・贈与の資料と、通知した記録をそろえて確認する。

相続手続き全体との関係は相続手続きの流れ、話合いの準備は分割協議を進める方法でも整理している。ただし遺留分は、分割協議の名前だけで手続を済ませないようにしたい。

遺言を作る側も、「家を誰に」と支払資金を一緒に考える

父が元気なうちに考えるなら、家を孝平へ残すという希望と、恵里の遺留分にどう備えるかを同時に確認できる。別の財産を渡す案、現金の持ち方、受け取る人の負担を含め、本人が望む結果を実行できる内容へ整える。

生命保険などで支払資金を準備する方法を検討することもあるが、保険へ入れば遺留分の問題が全部なくなるという意味ではない。受取人、金額、保険金の扱い、税金も分けて確認する。遺産を分ける方法そのものは遺産分割の選択肢も参考になる。

恵里と孝平の考えが、その場で一致したわけではなかった。それでも、父の気持ちと姉の権利を、どちらかが消える話にしなくてよいことは分かった。父の意思を大切にするためにも、最低限の保障と、実際に払えるお金の両方を確かめる必要がある。

遺留分は、家族の愛情を採点する制度ではない。本人の希望と、近い家族への保障が重なる場所を、具体的な権利と金額で整理する制度だ。請求するかどうかも、その仕組みを理解してから本人が決めたい。

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よくある質問

遺留分があると遺言は無効ですか

遺言の有効性と遺留分侵害は別の問題だ。現在の制度では、侵害された人が相当する金銭を請求する。遺留分があるだけで遺言の全部が無効になるわけではない。

兄弟姉妹には遺留分がないのですか

亡くなった人の兄弟姉妹と、その代襲相続人の甥・姪には遺留分がない。ただし父の相続を姉弟でしている場合は、二人とも父の子として遺留分を確認する。

遺留分は必ず請求しなければなりませんか

行使するかは本人が選ぶ。ただし相続と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、亡くなってから10年という期間を確認し、権利を理解しないまま放置しないようにする。

遺留分を請求すると家の共有者になりますか

2019年7月1日以後に開始した相続は、侵害額に相当する金銭の請求となる。請求だけで自動的に家の持分を取得するものではないが、受け取った人の支払資金は別に検討が必要だ。

調停が不成立なら審判で遺留分の額が決まりますか

遺産分割調停と同じように自動的に審判へ移る手続ではない。遺留分侵害額について合意ができなければ、訴訟による解決を検討する。相手への意思表示も調停申立てとは別に確認する。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

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