空き家の3,000万円控除:売却益から引く仕組みと期限

空き家の3,000万円控除|条件・売却期限・2,000万円になる場合

相続した空き家を売ると、一定の条件を満たせば、売却益から最高3,000万円を差し引く「空き家特例」を使える。

3,000万円をもらえる制度でも、どの実家にも使える制度でもない。家、取得者、使い方、売り方、期限を確かめよう。

母の食器棚を開けるたび、美咲は片付けの手を止めた。母に続き、一人で家を守っていた父も、2023年6月15日に亡くなった。

弟の悠人に今年中の売却を提案されても、家族の時間を消す話のように感じてしまう。

遠くに住む悠人は、草刈りのたびに休みを取り、傷んだ雨どいも気にしていた。

二人とも家を大切に思っているが、その方法が違う。これは、架空の家族の話だ。

空き家特例がある理由を知る

思い出のある家は、すぐには手放せない。けれど、誰も住む予定がないまま年月が過ぎると、管理の費用がかかり、建物も傷む。相続人だけでなく、近所の人が落下物や雑草などを心配することもある。

この特例は、そうした空き家が増えるのを抑え、早く活用へつなげるため、一定の古い家を耐震性のある状態にしたり、取り壊したりして売る相続人を、税の面から後押しする仕組みだ。

親の家を相続しただけでは、使えると決まらない。建築時期、父の住み方、相続後に住んだり貸したりしていないか、売り方と期限まで条件になる。

税を安くするために、家族が必ず売るべきだという制度でもない。

家を残して住む案を考えるなら、不動産の相続対策や、家を売らずに相続する資金計画と比べて考えたい。

控除する前に、売却益を計算する

悠人は、売れば3,000万円が戻ると思っていた。美咲は、3,500万円で売れば、税を計算する金額は500万円だと思っていた。

どちらも、売却益を出す前の数字が抜けている。

まず売却代金から、取得費と譲渡費用を引き、売却益を計算する。取得費は、買ったときの代金等だ。相続した土地建物でも、原則として父の購入代金等から計算する。

相続日の評価額へ、自動で置き換わるわけではない。建物は、使った期間に応じて価値を減らす減価償却も関わる。譲渡費用には、売るために直接かかった費用が含まれる。

取得費等を確認した結果を、次のように仮定する。美咲一人が家と敷地を相続して売り、特例の条件を満たす例だ。

売値や費用の相場を示すものではない。

計算の順番 金額
売却代金 3,500万円
確認できた取得費 900万円
譲渡費用 100万円
特例前の
売却益
3,500-900-100=2,500万円
上限3,000万円
を控除した後
2,500万円を差し引き、対象となる譲渡所得は0円

この例で引けるのは、売却益2,500万円までだ。残りの控除枠500万円が、振り込まれるわけではない。

売却益が控除額を超えれば、超えた部分の税額を計算する。

購入時の契約書がなければ、ほかの資料で取得費が分からないか探す。

不明な場合等は、売却代金の5%を概算取得費にできる。ただし、実際の取得費が大きいなら、資料で確認できるかによって、結果が変わる。相続税がかかるかどうかとは別の計算だ。相続税の入口は相続税がかかる目安で説明している。

期限を、具体的な日付で確かめる

父は2023年6月15日に亡くなった。3年を経過する日がある年の、12月31日が、相続ごとの売却期限となる。

父の相続例で、期限を日付にする
2023年6月15日

父が亡くなる。

↓ 3年を経過する日

2026年6月15日

売却期限を決める、基準となる日。

↓ その年の年末

2026年12月31日

この相続の、空き家特例の売却期限。

売却後の工事を使う場合

2027年2月15日まで
2026年の譲渡後、一定の耐震基準を満たすか、家を全部取り壊す。ほかの条件も必要だ。

制度自体の適用期間は2027年12月31日までだが、この父の売却期限が延びるわけではない。

死亡からちょうど3年の日まで、という意味ではない。ただし、制度が対象とする譲渡の期間は、現在2027年12月31日までだ。

相続ごとの期限と、制度の適用期間を、両方確認する。この父の相続の期限が、2027年末へ延びるわけではない。

売り出す日と、税法上の譲渡の日は、必ずしも同じではない。

契約・引渡しと税の判定を確かめよう。年末に広告を出せば間に合うとは限らない。

2024年以後の売却では、条件を満たせば、売った年の翌年2月15日までに、家の全部を取り壊すか、必要な耐震基準を満たす方法も使える。

2026年に売るなら、工事の期限は2027年2月15日だ。確定申告の時期まで、何もしなくてよいわけではない。

買主が工事をする場合、完了しなければ、売主の特例にも影響する。

契約条件、工事と確認資料の受渡し、間に合わなかった場合の扱いまで、契約前に確かめよう。

家と取得者の条件を、売る前に調べる

父の家は1980年築だった。悠人は「古いから使える」と考えたが、それだけでは結論は出ない。主な確認事項は次のとおりだ。

  • 建築時期と登記。1981年5月31日以前に建築され、区分所有建物登記がされた建物ではないことなど。
  • 相続前の居住。原則として、相続開始の直前に父以外の人が住んでいなかったこと。老人ホーム等へ入所していた場合には、認定や家の使い方など別の条件がある。
  • 誰が何を相続したか。対象となる家屋と敷地等を相続・遺贈で取得した相続人か。家と敷地の受け取る人の違いも確認する。
  • 相続後の利用。売却等まで事業・貸付け・居住に使っていないことなど。「決めるまで誰かに貸す」という案は、特例への影響を先に見る。
  • 建物を残すか、取り壊すか。耐震性を備えた家の売却、全部を取り壊して敷地を売る方法、期限内に売却後の工事をする方法など、それぞれの条件を確かめる。
  • 価格と買主。売却代金が1億円以下で、親子や夫婦など特別の関係のある人への売却でないこと。
  • 期限とほかの特例。相続ごとの売却期限・制度の期間を満たし、併用できない特例などに当たらないこと。

売却代金1億円以下かの判定は、自分の持分の代金だけでよいとは限らない。ほかの相続人や、分割して売った部分の代金も含める扱いがある。

母屋と離れがある場合も、敷地すべてが自動で対象になるわけではない。一つずつ、条件へ当てはめよう。

取得者三人以上なら、上限が変わる

2024年1月1日以後の譲渡で、対象の家屋と敷地等を、相続・遺贈で取得した相続人が三人以上なら、一人の控除上限は2,000万円になる。

遺贈は、遺言で財産を渡すことだ。悠人が考えた「相続人三人なら各3,000万円」とは、限らない。

単なる親族の人数ではなく、家屋と敷地等を、誰が取得したかを見る。

特例を使う人は、それぞれ、適用の条件を満たす必要がある。

売却益2,500万円で、上限2,000万円なら、引いた後は500万円となる。上限3,000万円の場合とは、結果が違う。

ただし、控除額だけで取得者を決めないようにしよう。ほかの遺産、代償金、本人の希望も考える。代償金は、遺産を多く受け取る人が、ほかの相続人へ渡す調整のお金だ。

合意・登記・税を、並行して進める

美咲は、名義変更まで査定や売却の相談もできないと思っていた。

相続登記は、不動産の名義を相続人へ変える手続だ。登記を整えて買主へ権利を移せる状態にすることは必要だが、完了前に売却契約が一切できないわけではない。条件と日程を整理しよう。

  1. 相続人・遺言・財産を確認する。誰の合意が必要で、誰がどの権利を取得するかを明らかにする。
  2. 建築時期、居住や利用の記録を集める。登記の情報、住民票関係、必要なら施設の入所資料などをそろえ、自治体の確認書の手続も調べる。
  3. 分割と売却方法を話す。未分割の不動産全体を売るなら、原則として相続人全員の合意が必要だ。持分だけを売る話とは区別する。まとまらなければ調停・審判なども検討する。
  4. 登記と売却の日程を組む。2024年4月1日から相続登記は義務化されている。原則として相続による取得を知った日から3年以内だが、改正前の相続の経過措置や、分割後の申請義務も確認する。
  5. 税額と手取額を試算し、必要書類を付けて確定申告する。特例を使って譲渡所得がゼロになる場合も、特例を使うための申告が必要だ。工事や自治体の確認書の日程を、売却後まで含めて組む。

この家を相続で取得したと、2024年4月1日より前に知っていたなら、登記の経過措置上の期限は2027年3月31日だ。経過措置は、新制度へ切り替わるときの特別な扱いをいう。

一方、この例の空き家特例は、2026年12月31日が売却期限だ。登記の期限を待つと、税の期限を過ぎることもある。

相続人申告登記などで申請義務に対応する場合も、それだけで単独の所有者が決まったり、そのまま買主へ所有権を移せたりするわけではない。相続登記の義務化と、相続手続の期限と流れも合わせて整理したい。

家の管理と、相続放棄を分けて考える

話し合う間も草は伸び、固定資産税、修繕、見回りの負担は残る。

誰が見に行き、費用をどう記録するかだけでも、先に決めると争いを減らせる。

適切に管理されない空き家は、自治体の勧告等、一定の場合に、土地の住宅用地特例から外れることがある。

「指定されたら、家と土地の固定資産税が必ず6倍」という単純な話ではない。空き家と固定資産税も、管理状態や自治体の手続と分けて確認する。

相続放棄は、要らない家だけを外す手続ではない。原則として、最初から相続人でなかった扱いになる。

ただし、放棄時に現に占有している相続財産は、相続人や相続財産清算人へ渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存する義務がある。清算人は、相続人がいるか明らかでない場合に、遺産を管理して借金の支払い等を進める人だ。

放棄した人なら誰でも、次の人が管理できるまで広く管理義務を負う、という意味ではない。

美咲は、すぐに食器棚を空にするとは約束できなかった。それでも、父の購入資料を探す日と、家の状態を確かめる日は決められた。

悠人も、税だけでなく、これからの管理負担を含めて話した。特例を調べるのは、思い出を否定するためではない。選べる方法と、決めるまでの時間を知るためだ。

施設入所・後日の工事・控除も確認する

父が老人ホーム等へ入居していても、一定の介護認定や使用状況等の条件を満たせば、対象となる場合がある。

入居の事実だけで決めず、施設の種類、入居前の居住、家財の保管、家の使用を示す資料等を確かめよう。

2024年1月1日以後の譲渡では、一定の場合、買主が売った年の翌年2月15日までに耐震改修や全部取壊しをする方法もある。

引渡し後の工事が条件なら、契約、完了の確認、必要な証明を、先に調整しよう。

相続税額を取得費に加える特例とは、併用できない。売却益と税額を比べ、どちらを使うか確認する。

市区町村の確認書を取るだけでは、控除は完了しない。確定申告の必要書類まで準備しよう。

あわせて確認する手続と資料

ほかにも確認する手続がある場合は、不動産の登記・分割・処分の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

3,000万円の控除は税金が3,000万円戻る制度か

違う。条件を満たす場合に売却益から一定額を差し引く制度だ。控除しきれない枠が現金で支給されるわけではない。

空き家特例の売却期限は死亡からちょうど3年か

亡くなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までという条件だ。現在の制度の適用期間である2027年12月31日までという条件も別に満たす必要がある。

控除の上限が2,000万円になるのはどんな場合か

2024年以後の譲渡で、対象の家屋と敷地等を相続・遺贈により取得した相続人が三人以上の場合だ。各人の受け取る内容と制度を使うための条件も確認する。

家を売った後に取り壊しても特例を使えるか

2024年以後の譲渡では、売った年の翌年2月15日までの全部取壊しや耐震改修など、一定の条件を満たす方法も対象になる。

特例で売却益がゼロになれば確定申告は不要か

特例の適用を受けるため、必要書類を添えた確定申告が必要だ。自治体の確認書なども含めて準備する。

相続放棄すれば空き家の保存義務は必ずなくなるか

放棄時に現に占有する相続財産については、相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで、自己の財産と同じ注意で保存する義務が残る。

制度・手続の確認先

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

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文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

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