生命保険を相続対策に使うなら、非課税枠だけでなく、誰に、いつ、何のためのお金を残すかを、先に考える。
生活費、相続税の納税資金、不動産を引き継ぐ人の代償金では、必要額と受取人が違う。代償金は、遺産を多く受け取る人が、ほかの相続人へ渡す調整のお金だ。
死亡保険金は、原則として受取人自身の財産となる。相続人が取得するものには、一定の非課税枠もある。
ただし、保険料を実際に払った人によって税の種類が変わり、家族間の不公平も問題となる場合がある。遺産の分け方と一緒に考えよう。
架空の家族で考えよう。和彦は妻の佳代へ生活費を残したい。長男の翔は、自宅を引き継ぐための現金が心配だ。
長女の美咲は、兄だけが家も保険金も受け取るのかと感じていた。家族の心配は、それぞれ違う。
和彦は、佳代の生活費、翔の納税資金と代償金、美咲へ渡す財産を並べることにした。
受取人の指定は、必要な人に保障を渡すために役立つ。ただし、それだけで分割や資金不足をすべて解決できるわけではない。
税の種類は、被保険者、実際に保険料を負担した人、受取人の組合せで確かめる。被保険者は、その人の死亡等が支払の対象となる人だ。
相続税の非課税枠を考える前に、所得税・贈与税の対象でないかを調べよう。
保険金の目的と受取人を合わせる
| 主な目的 | 確認すること |
|---|---|
| 配偶者の 生活費 |
毎月の支出、年金等の収入、手元資金と住居を確保できるか |
| 納税資金 | 実際に税を負担する人、原則10か月の納付期限、換金できる財産 |
| 不動産の承継 代償金 |
不動産を取得する人と代償義務、保険金以外の支払えるだけのお金があるか |
| 当面の費用 | 葬儀等の立替、保険金請求に必要な書類と入金までの見込み |
保険金は、請求手続を経て支払われる。死亡直後に、必ず現金が用意できるとは限らない。
保険会社の必要書類、審査や調査がある場合の扱いを確かめ、当面の費用に使える別の資金も調べておこう。
不動産を取得しない人に保険金を集めると、家を引き継ぐ人へ、納税資金や代償金が残らないこともある。
家族全体の財産額だけでなく、一人ずつ、手元に残る現金を比べよう。
死亡保険金の非課税枠は、相続税の対象契約で受取人等の条件を満たす場合に計算する。税目を判定してから枠を確認する。 生命保険金の相続税非課税枠|500万円×法定相続人(法律で相続人になると決められた人)と課税で詳しく確認できる。
保険料を、実際に誰が払ったか調べる
父が亡くなって、子が保険金を受け取る場合でも、保険料を誰が払ったかで、税が違う。
次は、父が被保険者、子が受取人で、一人が保険料を全額負担した単純な例だ。
保険料を実際に全額負担した人を比べる。契約者名義だけで決めない。
↓
相続税の対象
亡くなった父が、保険料を払っていた。
↓
所得税の対象
保険料を負担した人と、受取人が同じ。
↓
贈与税の対象
死亡した人・負担した人・受取人が、すべて違う。
税の対象になることと、実際に納める税額が生じることは別だ。非課税枠や控除等を、その後で確かめる。
複数人が払ったなら、その負担割合に応じて税の区分を考える。契約者を子へ変えただけでは、父の財産と無関係になったとは判断できない。
払込口座、送金、契約変更の記録を残し、実際の負担を説明できるようにしよう。
受取人自身が保険料を負担し、一時金で受け取る場合、通常の一時所得は、保険金から対応する払込保険料と特別控除額を引いて計算する。
特別控除は年50万円が上限で、ほかの一時所得と共通だ。原則として、引いた後の額の2分の1を、総所得金額へ含める。
年金で受け取る場合は、一時金とは別に計算する。
相続税・贈与税の対象となった年金を受け取る権利でも、毎年の受取額すべてへ、再びそのまま課税するわけではない。相続税等の対象部分と運用益に相当する部分等を区分する。詳細は国税庁の死亡保険金の説明で確認できる。
孫や内縁の配偶者は、税も比べる
相続人でない孫や、婚姻届を出していない内縁の配偶者へ、保険金を残したい場合もある。
受取人に指定できるかを保険会社へ確かめ、相続人向けの死亡保険金の非課税枠が使えないことも踏まえて考えよう。
相続税では、故人の配偶者や一親等の血族等以外の人に、税額の2割加算がある。一親等の血族は、親や子等を指す。
保険金額を20%増やす計算ではなく、所定の算出相続税額に加算する制度だ。孫を養子にした場合は原則として対象となるが、親の先死亡等で、親に代わる代襲相続人となった孫には例外がある。
配偶者へ集める案と、子へ分ける案では、今回の税だけでなく、配偶者が将来亡くなったときの財産額も変わる。
ただし、将来の生活費・介護費や財産の変動は、まだ分からない。税額だけで受取人を決めないようにしよう。
放棄する場合も、受取人を確かめる
指定受取人が、自分の権利として取得する死亡保険金は、相続放棄をしても受け取れる場合がある。
故人自身が受取人の給付や、死亡以外の給付まで、同じとは限らない。まず保険証券と約款を確かめよう。約款は、契約の条件を定めたものだ。
相続放棄をした人には、死亡保険金の非課税枠を適用できない。
一方、ほかの相続人に適用する限度額の人数は、放棄がなかったものとして数える。保険金を受け取れるか、非課税か、相続税申告が必要かを、分けて確かめよう。
受取人が自分の保険金を家族へ渡すと、遺産分割とは別に贈与の問題が生じ得る。 生命保険金の相続税非課税枠|500万円×法定相続人と課税で詳しく確認できる。
保険金の帰属と相続税の課税、家族間の特別受益(遺贈や一定の生前贈与など、相続の取り分を考えるときに含める特別な利益)の問題はそれぞれ区別する。 生命保険金の相続税非課税枠|500万円×法定相続人と課税で詳しく確認できる。
契約前と、家族の変化時に見直す
契約前に、保険料を払い続けられるか、途中解約で戻るお金、保障期間、告知事項、受取人にできる範囲を確かめる。告知事項は、健康状態等、保険会社へ伝える事項だ。
外貨建てには、為替変動や手数料もある。相続対策の契約で、本人の生活費や介護費が不足しないようにしよう。
結婚、離婚、受取人の死亡、財産の売却等があれば、契約後も見直す。
会社、証券番号、保障額、保険料負担者、受取人、連絡先を一覧にし、必要な家族へ保管場所を伝えておくと、請求漏れを防ぎやすい。
和彦家では、佳代の当面の生活費、翔が家を引き継ぐ資金、美咲への遺産の配分を、一緒に試算することにした。
非課税枠を使い切る前に、本人の生活費を残し、家族が必要な時期に使えるお金を確かめよう。
ほかにも確認する手続がある場合は、保険・金融資産・デジタル・海外の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
生命保険なら必ず相続税を減らせるか
契約内容と保険料負担者、受取人、他の保険金や財産による。非課税枠の適用だけでなく、保険料と保障内容、本人の生活資金も比較する必要がある。
非課税枠は受取人1人につき500万円か
受取人ごとに固定される枠ではない。法定相続人の数で全体の限度額を計算し、複数の相続人が受け取る場合は受取額に応じて按分する。
子を契約者に変えればかかる税金の種類も変わるか
契約者の名義だけでは決まらない。実際に誰が保険料を負担したかと、被保険者・受取人の組合せを確認する。
相続放棄をしても死亡保険金を受け取れるか
指定受取人が固有の権利として取得するものは受け取れる場合がある。ただし、相続放棄者には相続人向けの非課税枠を適用できない。
保険金を兄弟に分けてもよいか
受取人が自分の保険金を無償で渡すと、贈与税の問題が生じる。遺産分割の代償金として支払う場合とは区別し、送金前に内容を整理する。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



