相続放棄の費用はいくらか。3ヶ月の期限と実費の現実

相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産・負債を含む一切の権利義務を引き継がないことを選択できる制度であり、家庭裁判所への申述によって効力が生じるとされています(民法938条)。

結論から言うと、相続放棄にかかる費用は手続き自体は数千円程度で済む可能性がありますが、状況によっては司法書士・弁護士への依頼費用が数万〜数十万円に及ぶ場合があり、期限(知った時から3ヶ月以内・民法915条)との戦いが最大の課題です。

「お金がないのに、お金がかかる」──相続放棄の話をすると、決まってこんな声が出てくる。

負債を抱えた親の財産を引き継ぎたくないから放棄したいのに、その放棄するための手続きにまた費用が発生する。なんという皮肉な構造だろうか。しかも、のんびりしていられる時間的余裕など、ほぼゼロだ。

困り顔

費用がいくらかかるか、誰も教えてくれなかった……。期限も迫ってるのに、どう動けばいいんだ。

相続が発生した直後の頭の中は、「悲しみ」と「手続き」と「お金」が入り混じった、なんとも収拾のつかない混沌状態になる。そこに「放棄するかどうか3ヶ月で決めてね」という、静かな、しかし非情なタイムリミットが加わる。知っておいて損はない、費用の現実と手順を、ここで整理しておこう。

で、結論から言うと

相続放棄の費用は、大きく「自分でやるか」「専門家に頼むか」で、話がガラっと変わる。

裁判所に納める実費だけで言えば、収入印紙800円と郵便切手代数百円程度。合計で1,000〜1,500円前後に収まる場合がある。

これだけ聞くと「意外と安い」と思うかもしれない。そうだ、手続きそのものは安い。問題は、その「手続きにたどり着くまでのプロセス」だ。戸籍を集め、書類を整え、期限内に正確に申述する。そこに予想外の労力とコストが潜んでいる。

なお、ここで絶対に押さえておきたいのが法的根拠。相続放棄は民法938条に定められており、家庭裁判所への申述なしには成立しない。「放棄するって相続人みんなに伝えた」「遺産には手をつけない約束をした」──それだけでは、法的な効力はゼロだ。

図解

相続放棄の費用、内訳を分解する

①自分で手続きする場合(実費のみ)

  • 収入印紙:1人あたり800円(家庭裁判所への申述用)
  • 郵便切手:家庭裁判所によって異なるが、数百円〜1,000円程度
  • 戸籍謄本等の取得費用:1通450〜750円。必要な枚数は状況によって異なる
  • 合計目安:2,000〜5,000円前後になる場合がある

ただし、相続関係が複雑な場合(数次相続・代襲相続など)は、取得すべき戸籍の枚数がドカっと増える。このあたりで「思ったより時間がかかる」という現実に直面することになる。

②司法書士に依頼する場合

  • 相場:1人あたり3万〜7万円程度
  • 複数名が同時に放棄する場合:2人目以降は割引になる事務所も多い
  • 含まれるもの:書類収集の代行、申述書の作成、裁判所への提出サポート

③弁護士に依頼する場合

  • 相場:1人あたり5万〜15万円程度
  • 弁護士が向いているケース:債権者との交渉が発生する場合、放棄の有効性に争いが生じる可能性がある場合など

「費用をかけたくない」という気持ちは当然だ。ただ、書類の不備や期限オーバーで放棄が認められなかった場合のリスクを考えると、複雑なケースほど専門家への依頼コストは「保険料」に近い性質を持つ、とも言える。

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「3ヶ月」というタイムリミットの本当の意味

民法915条が定める「3ヶ月」。これは被相続人の死亡日からではなく、「自己のために相続の開始があったことを知った時」からのカウントだ。ここを誤解している人が、思いのほか多い。

たとえば、疎遠だった親族の死亡を後から知らされた場合、知らされたその日から3ヶ月が始まる可能性がある。ただし「知っていたかどうか」の証明は状況によるため、早めに動いておくに越したことはない。

さらに、この3ヶ月は「伸長申請」によって延長を求めることも可能だ(民法915条1項ただし書き)。財産の全体像が把握しきれていない、負債の調査が終わっていない──そういった正当な事情があれば、家庭裁判所に申し立てることで期間延長が認められる場合がある。

「3ヶ月は短い」と感じたなら、動きながら考えるのが正解だ。待っている間にも、カウントは進む。

図解

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相続放棄を決める前に確認すべき、費用以前の話

費用の話をしてきたが、そもそも「放棄すべきかどうか」の判断が先だ。焦って放棄して、後から「実は資産のほうが多かった」と気づいても、原則として取り消しはできない(民法919条)。

判断のための確認リストはこうだ。

  • 故人の預貯金・不動産などプラスの財産の総額はいくらか
  • 借入・保証債務などマイナスの財産はいくらか(信用情報機関JICCやCICへの照会も有効)
  • 生命保険の受取人が「相続人」ではなく「特定の個人名」になっていないか(保険金は放棄後も受け取れる場合がある)
  • 不動産を売却すれば負債を上回る可能性はないか

これらの「プラス」と「マイナス」を天秤にかけた結果、マイナスが明らかに重い──そう確認できてから、放棄の手続きに進む。この順番が崩れると、後悔というよりも「確認不足による損失」が発生する。

また、放棄は相続人全員がするわけではない。一人が放棄すると、相続権が次の順位の親族に移る点も把握しておきたい。知らずに放棄した結果、疎遠な親族に負債が転がり込む──という展開は、事前に防げる話だ。

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よくある質問

相続放棄の手続きにかかる費用はいくらですか

自分で手続きする場合、収入印紙800円・郵便切手数百円・戸籍謄本取得費用を合わせて2,000〜5,000円程度になる場合があります。司法書士に依頼する場合は1人あたり3万〜7万円程度、弁護士に依頼する場合は5万〜15万円程度が目安とされています。ただし事務所・状況によって異なります。

相続放棄の期限は死亡日から3ヶ月ですか

死亡日からではなく「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内とされています(民法915条)。疎遠な親族の場合など、死亡を後から知らされたケースでは、知った日が起算点になる可能性があります。

期限の3ヶ月を過ぎた場合、相続放棄はできませんか

原則として3ヶ月を過ぎると相続放棄は難しくなります。ただし、財産調査に時間がかかる正当な理由がある場合、期限内に家庭裁判所へ「期間伸長の申立て」をすることで延長が認められる場合があります(民法915条1項ただし書き)。また、相続財産の存在を全く知らなかったなど特別な事情がある場合に例外が認められたケースもあるとされていますが、確実ではありません。

相続放棄は口頭や書面の約束だけでできますか

できません。相続放棄は家庭裁判所への申述が唯一の方法とされています(民法938条)。相続人間で「放棄する」と約束しても、裁判所への申述なしには法的効力は生じません。

相続放棄すると生命保険の死亡保険金も受け取れなくなりますか

死亡保険金の受取人が「特定の個人名」で指定されている場合、保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産とみなされる可能性があります。その場合、相続放棄をしても保険金を受け取れる場合があります。ただし受取人が「相続人」とのみ記載されているケースなど状況によって異なるため、個別の確認が必要です。

相続放棄の手続き自体は、シンプルで費用も決して高くない。恐ろしいのは費用そのものではなく、「期限内に正確な判断をしなければならない」という構造的なプレッシャーだ。

財産の全体像を早めに把握し、プラスとマイナスを比較し、必要なら期間伸長も活用する。この三つを頭に入れておくだけで、3ヶ月という時間はずいぶん違う使い方ができるはずだ。

ホッとした顔

費用の目安と期限の仕組みがわかれば、何から動けばいいかが見えてきた。

手続きを終えた後に「早めに調べておいてよかった」と思えるかどうかは、今この瞬間の行動量にかかっている。

けっこうオススメです。費用と期限、セットで把握しておく、という習慣。伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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