山林の相続税評価は、死亡時点の現況、所在地の評価区分、権利や利用制限を確認して進める。登記に山林と書かれていても、固定資産税評価額へ一律の倍率を掛ければ終わるとは限らない。土地と立木も別に確認する。
架空の家族で考えよう。父を亡くした茂樹は、父の財産一覧にある山林を、引き継ごうと考えている。
妹の千佳は、固定資産税が安ければ、相続税の価額も小さいのではと言う。母の芙美は、父が世話をしていた木を、誰が管理するかを心配していた。
三人は、書類の地目だけでなく、現地と契約、木の資料も調べることにした。税務の評価額が出ても、売却代金や将来の収入、管理の負担が同じ数字で決まるわけではない。
登記地目より先に、現況を確かめる
登記簿の地目は、過去のある時点に記録されたものだ。その後、現地の使われ方が変わっても、登記は自動で書き換わらない。
財産評価基本通達7は、土地の地目を課税時期の現況によって判定するとしている。
登記簿が山林でも、現況が宅地や雑種地であれば、その現況に応じた評価が問題になる。逆に、登記地目が宅地でも現況が山林として使われていれば、山林として評価を検討することになる。
現地の写真、公図、固定資産税の課税明細書、森林簿等で、実際の状態を調べる。公図は、土地の位置や形等を示す図面だ。
登記だけで計算方式を選ぶと、評価の前提から違うことがある。
評価倍率表から、区分を調べる
現況が山林と確認できたら、次は区分だ。純山林・中間山林・市街地山林のどれかによって、計算方式が変わる。
国税庁の評価倍率表では、山林欄に「純」「中」「比準」「市比準」などの表示がある。所在地を確認して、その土地がどの区分に当たるかを読む。この表示が、計算方式の選択を決める。
所在地の市区町村・地番、固定資産税評価額、地積を確かめよう。地積は、土地の面積だ。
現況写真、公図、森林簿、伐採制限の有無も調べる。すべてそろうまで待つ必要はない。今ある資料から、不明な点と、次に入手する資料を整理しよう。
山林の区分ごとに、方式を確かめる
財産評価基本通達45・47〜49は、次の方式を定めている。
| 区分 | 基本方式 | 計算の骨格 |
|---|---|---|
| 純山林 | 倍率方式 | 固定資産税評価額 × 評価倍率 |
| 中間山林 | 倍率方式 | 固定資産税評価額 × 評価倍率 |
| 市街地 山林 |
宅地比準 方式または 倍率方式 |
宅地とした価額から通常必要な造成費を控除して地積を乗じる。倍率が定められた地域は倍率方式 |
純山林と中間山林は、どちらも固定資産税評価額へ倍率を掛ける。使う倍率は、所在地と区分に応じて、評価倍率表から調べる。
市街地山林も、評価倍率表に倍率が定められていれば、倍率方式を使う。倍率がない地域では、宅地としての価額を基にする、宅地比準方式を使う。自分に有利な方を、自由に選ぶものではない。
ただし、宅地比準の結果が近隣の純山林価額を下回る場合や、急傾斜等で宅地造成ができない場合は、近隣の純山林価額と比べて評価する扱いがある。
父の純山林の固定資産税評価額を80万円、所在地・年分に応じて調べた倍率を1.1とする。他の調整がなければ、土地の評価額は、80万円×1.1=88万円となる。
1.1は、説明用の仮定だ。全国共通ではない。明細書では、税額ではなく、土地の価格の欄を確かめよう。
造成費は、現地の状態から調べる
宅地比準方式では、宅地にするため通常必要な造成費を引く。ただし、市街地山林という区分だけで、大きな金額を引けるわけではない。
造成費は、実際の状態から調べる。土地の傾斜や道路との高低差、土を支える擁壁、土盛り・土止めの工事が必要かを、現地資料で確かめよう。
そのうえで、その年・地域の造成費の金額を使う。
平らで道路と同じ高さの土地と、急傾斜で大きな擁壁が必要な土地では、造成費も変わる。
現地を調べずに金額を決めると、後から修正が必要になることがある。
土地と立木は、別に評価する
土地と、そこに生えている立木は、別々に評価する。
森林の立木は、原則として土地と別に評価する。財産評価基本通達111以下は、樹種・樹齢を同じくする1団地ごとに評価し、杉・ひのき等の主要樹種については標準価額、地味級、立木度、地利級を使う方法を定めている。
地味級は土地の生育条件、立木度は木の密度、地利級は搬出のしやすさ等を反映する区分だ。木の種類だけで、同じ価額になるわけではない。
土地の固定資産税評価額が分かっても、立木の相続税評価まで済んだわけではない。
木の種類・樹齢・面積と、誰の所有かを調べる。土地と立木を分けて、財産目録へ書こう。売買資料が合計額だけを示す場合も、内訳を確かめる。
どちらかを決め打ちせず、国税庁の山林・森林の立木の評価明細書を使って土地と立木を区分して確認する。森林簿や現況資料を使い、立木の樹種・樹齢、伐採制限と分収契約も照らし合わせる。
茂樹家の説明例で、土地88万円とは別に、父が所有する立木の評価が350万円と確認されたとする。合計は438万円だ。
これは相続税額でも、伐採後に手元へ残る金額でもない。千佳は、搬出費や管理費をまだ引いていないことを確かめ、芙美の希望も聞くことにした。
本文の茂樹家の仮定。父が土地と立木を所有し、それぞれの評価額が確認できた場合だ。
固定資産税評価額80万円
× 仮の倍率1.1
木の種類・樹齢・状態等から、土地と別に確認した評価額。
88万円 + 350万円 = 438万円
合計の評価額を示す図だ。相続税額や、伐採・売却後の手取りを示すものではない。立木の所有者が違う場合や分収契約がある場合は、その権利を別に調べる。
利用制限と、契約上の権利を調べる
利用や伐採を制限されている土地や、他人の権利がある土地は、その条件を反映して評価する。
保安林等の利用・伐採制限は、通達50・123の控除を調べる。
賃借権や地上権がある山林、分収林契約がある山林も、所有者が自由に使える山林と、同じには計算できない。分収林契約は、伐採や譲渡の収益を、一定の割合で分ける契約だ。
森林簿、保安林指定、賃貸借契約書や分収林契約書を確かめよう。
登記簿や固定資産税の課税明細書だけでは、分からない権利もある。現地の状態と並行して、制限や契約の有無を調べる。
価格の差だけで、例外適用とは決まらない
実際に売買される価格と、通達による評価額が違うと、鑑定の価格で相続税を計算するのか、疑問を持つかもしれない。
財産評価基本通達6項は、通達による評価が著しく不適当と認められる財産を、国税庁長官の指示を受けて評価する規定だ。
通達の評価と実際の価格に差があるだけで、自動的に適用されるものではない。
多額の購入・借入れで相続税負担が著しく軽くなった不動産の裁判では、取得の経緯と、税負担の公平から、通達以外の評価による課税が適法とされた。
ただし、山林を直接評価した事案ではない。価格の差だけで、あらゆる山林を別評価にできる、という説明ではない。
まず、現況と、通達の適用条件を確かめよう。転用が見込めない土地や保安林等には、個別の評価規定がある。
通達6項だけを理由に、自分で選んだ低い価格へ置き換えないようにする。
評価と、引継ぎの計画を進める
山林の評価は、土地・立木の状態や権利を、税の計算に反映するために行う。
固定資産税の税額や、希望する売値で代用すると、別の数字を使うことになる。
まず、写真と公図等から、現地の利用状況を調べる。次に、評価倍率表で区分と方式を確かめる。市街地山林は、傾斜や道路との関係も記録する。
土地の固定資産税評価額と、立木の資料を分けよう。森林簿、保安林指定、賃貸借・分収林の契約も調べる。
分からない点を埋めながら、計算方式を決めていこう。書類の地目だけでなく、現況と、誰がどの権利を持つかを確かめることが、出発点となる。
一般的な土地の評価については不動産の相続税評価、山林と雑種地の区別については雑種地の評価も確かめよう。
茂樹は土地と立木の一覧を、千佳は不足資料を整理した。芙美には、管理と売却の希望を聞く。
申告が必要な相続税は、原則として、相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内に申告・納付する。調査中でも、自動では延びない。
家族の役割と期限を決め、評価と、誰が引き継ぐかの判断を、並行して進めよう。
ほかにも確認する手続がある場合は、不動産評価・小規模宅地・農地の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
登記が山林なら倍率方式か
課税時期の現況と、純・中間・市街地山林の区分を確認する。市街地山林では宅地比準や倍率、転用が見込めない場合の別の扱いがある。
立木は土地に含めてよいか
土地と立木は別に評価する。樹種・樹齢・面積、所有者や分収契約を確認する。
市街地山林なら造成費を大きく引けるか
現況と通常必要な工事に基づく。年度・地域の造成費を使い、宅地転用が見込めない場合の評価も確認する。
保安林は同じ倍率を掛けるか
利用・伐採制限を反映する規定がある。固定資産税の非課税だけから相続税評価も零とは決めない。
この記事は、一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録等の資料を示し、弁護士・税理士へ確かめよう。



