非上場会社の少数株式を相続したら|議決権・帳簿閲覧・売渡請求

非上場会社の少数株式を相続したら|議決権・帳簿閲覧・売渡請求

少数の株を相続したら、何株もらうかだけでなく、その株で何の権利を使えるかを確認する。分割前に家族で共同保有しているのか、分割後に各人が持つのかも区別しよう。

相続すること、会社で議決権などを使うこと、会社へ売ること、相続税の評価は、それぞれ別の確認が必要だ。

父が持っていた会社の株を、莉緒と弟の賢人が相続することになった。母はすでに亡く、父の株は40株。会社全体は1,000株で、どの株にも一株一議決権があり、自己株式などはないという架空の例で考える。

会社で働く賢人は「半分ずつでいいだろう」と言う。会社の外で働く莉緒は、まず会社が何を持ち、配当を出しているのか知りたい。20株ずつに分ければ公平に見えるが、それぞれが使える権利まで、父の40株と同じとは限らない。

分割前は、共同の株について権利を使う人を決める

遺産をまだ分けていない間、共同相続した株は相続人の共同保有になる。これを「準共有」という。自分の相続分があるからといって、その分の議決権を一人で自由に使えるとは限らない。

会社法106条は、共有者が株式について権利を使う者を1人定め、会社へ氏名等を通知しなければ、原則として権利を行使できないと定めている。共有者の間で誰が権利行使者になるかを決め、それを会社へ通知する——この手順を踏まずに進めると、行使した議決権の効力が問題になりうる。

会社が権利行使に同意する例外もある。ただし、共有人の持分価格による意思決定に従わない議決権行使を、会社の同意だけで適法にできるわけではない。通常の管理行為に当たる議決権行使は持分価格の過半数で決める扱いが問題になる。処分・内容変更などの特段の事情がある議案は別に確認する。

準共有の段階では、権利行使者の指定と通知が先に来る。遺産分割の話と並行して、この手順を確認しておく必要がある。詳しくは共同相続した株式の議決権も参照してほしい。

遺産分割前は、父の40株が姉弟の共同のものとなっているのであって、自動的に莉緒の20株・賢人の20株へ分かれているとは限らない。会社が同じ40株について二人から違う議決権の指示を受ければ、どちらで集計すればよいか困ってしまう。そのため、共同の株について権利を使う人を定めて通知する仕組みがある。

権利を使う代表者を決めても、その人が何でも自由に決めてよいわけではない。家族でどう決めるかと、会社へ誰が権利を行使するかは別だ。

莉緒と賢人が半分ずつの持分で対立すれば、一人の意見だけで過半数にはならない。分割を待つ間も、総会の議案と、その議案についての決め方を確認する。

株主名簿に名前が載った後、少数株主に何ができるか

遺産分割が成立し、株主名簿への記載手続を経て、ようやく株主として権利を使える段階になる。では少数株主には何もできないのか、あるいは株主であれば何でも言えるのか。どちらも正確ではない。

権利の種類と、行使に必要な保有割合・継続保有条件・会社類型は、条文ごとに異なる。まとめて「少数株主の権利」と呼んでも、実際に使える手続は手元の株数と会社の状況で変わってくる。

株主名簿の閲覧・謄写(会社法125条)

会社法125条は、株主による株主名簿の閲覧・謄写請求を定めている。ただし同条には拒絶事由も定められており、請求が認められない場合がある。株主であれば無条件に認められる権利ではない点を確認しておく。

株主総会の招集請求(会社法297条)

株主総会の招集請求は、原則として議決権の3%以上を6か月前から保有する株主の権利だ。非公開会社では6か月の保有期間を要しない。定款で割合を引き下げたり、期間を短縮したりできる。議題と招集理由を示して請求するので、持株数だけでなく議決権総数と定款を確認する。

株主提案権(会社法303条)

取締役会設置会社の議題提案は、原則として議決権の1%以上または300個以上を持ち、株主総会の8週間前までに請求する。公開会社では原則6か月の保有期間も要る。非公開会社では保有期間を要しない。定款による条件緩和があり、取締役会のない会社では株主による議題提案の扱いが異なるため、機関構成を確かめる。

会計帳簿の閲覧・謄写(会社法433条)

会計帳簿の閲覧・謄写請求は、原則として議決権の3%以上、または自己株式を除く発行済株式の3%以上を持つ株主が、理由を明らかにして行う。定款で割合を下げられる。競業等の拒絶事由もあり、株数・請求目的・会社の対応を合わせて確認する。

四つの権利を並べてみると、共通して言えることがある。株式数だけで「経営に介入できる」「帳簿を必ず見られる」と断定するのは早い。会社類型と拒絶事由まで確認して初めて、手元の株数で何ができるかが見えてくる。

40株の4%を、20株ずつの2%へ分けたら

この架空の例で父の40株は全体の4%。分割して20株ずつになれば各2%だ。例えば会計帳簿の閲覧で、定款の緩和がなく、ほかの条件も通常どおりなら、莉緒一人の2%では原則3%の入口に届かない。賢人と合わせて請求できるか、他の協力者や定款の条件を確認する必要がある。

一方、非公開の取締役会設置会社で、定款による条件の変更がない場合の議題提案なら、原則1%等の別の入口がある。だから「2%しかないので何の権利もない」とはならない。議題を出せることと、議案を可決できることも違う。

父の40株を、20株ずつに分けると保有割合も変わる

全体1,000株、すべて一株一議決権、自己株式等なしという本文の仮定だ。

父の40株:全体の4%
20株ずつに分割した後 ↓
莉緒:20株=2%
賢人:20株=2%

会計帳簿の閲覧請求の原則3%には、一人の2%では届かない。定款で条件を緩めていないか、二人で請求できるか、理由や拒絶事由も確かめる。

権利ごとに条件は異なる。分割前の共同保有の手続や、税務評価の株主区分とも別に確認する。

帳簿には会社の営業上の情報もある。知りたいから無制限に見られるのではなく、一定の持株条件や請求理由、拒絶事由で線を引く仕組みになっている。反対に、会社側が「少数だから」の一言で、どの請求も退けられるわけでもない。莉緒は、まず何の資料を何の権利のために求めるかを具体化することにした。

「譲渡制限があるから相続できない」は正確ではない——売渡請求と区別する

非上場会社の株式には、多くの場合、譲渡制限が付いている。これを見て「相続もできないのか」と思う人がいる。逆に「会社が必ず買い取ってくれる」と思う人もいる。どちらも正確ではない。

相続という一般承継による株式の取得自体は、通常の株式譲渡と同じ承認手続を自動的に要するわけではない。譲渡制限は、株主が第三者へ株式を売り渡す場面を想定した制度だ。相続で受け継ぐことと、譲渡の承認を得ることは、別の話になる。

定款に、相続人等へ株を売り渡すよう請求できる定めがあれば、会社法174条以下を確認する。会社が相続等を知った日から1年以内に、株主総会の決議などを経て請求する制度だ。株主名簿を書き換えた日から数えるのではない。

価格は会社と相続人等で話し合う。会社または相続人等は、請求があった日から20日以内に、裁判所へ価格の決定を申し立てられる。期間内に申立てがなく、価格の合意もなければ、売渡請求は効力を失う。会社が支払える分配可能額も確認する。

つまり、定款を確認しないまま「相続できない」とも「会社は何もできない」とも判断できない。手元に定款がなければ、まずそこから始まる。

賢人は、莉緒が会社へ売却したければ会社は必ず買うのだと思っていた。しかし、会社から相続人へ売渡しを請求できる場合の制度と、相続人がいつでも会社へ買い取りを強制できる権利は同じではない。売渡請求が実際に届いたら、届いた日、請求内容、価格協議と20日の申立期間を記録して対応する。価格が気に入らないまま放置してよい、という話でもない。

少数株だから配当還元方式——その前提を確かめる

相続税の申告で取引相場のない株式を評価するとき、「少数株だから配当還元方式でいい」という理解で動き出すことがある。ただ、この判断は受け取る人の区分を確認する前には成立しない。

国税庁No.4638は、取引相場のない株式について、取得者が同族株主等かそれ以外かによって、原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式等)か配当還元方式かを使い分けると説明している。少数株であっても、取得後の議決権割合や株主構成によっては同族株主等に該当し、原則的評価方式が適用される場合がある。

会社規模、株主構成、取得後議決権、資産・利益・配当の内容を評価明細書で確認する必要がある。株数の少なさだけで評価方式を決めると、申告後に修正が必要になることがある。

確認を始める順番——手元に何があるかから整理する

非上場株式(証券取引所に上場していない会社の株式)の相続では、確認すべき事項が株主権・売渡請求・相続税評価と複数の方向に広がる。どこから手を付けるかで、後の判断の精度が変わってくる。

まず確認するのは、株数・定款・株主名簿・遺言・他の相続人の構成の五点だ。定款には譲渡制限の有無と、会社法174条の売渡請求の定めがあるかどうかが書かれている。株主名簿には現在の株主構成が載っており、取得後の議決権割合を計算する基礎になる。遺言があれば、誰がどの株式を受け取るかが先に決まっている場合がある。

複数の相続人がいる場合は、遺産分割が成立するまでの準共有の段階で、会社法106条の権利行使者指定が必要かどうかを確認する。この手順を後回しにすると、総会の議決権行使の場面で問題が生じることがある。

相続税の申告期限は相続が始まったと知った日の翌日から原則10か月だ。評価方式の確認と申告の準備は、株主権の整理と並行して進める必要がある。遺産分割の話に集中しているうちに、申告期限が近づいていたという状況は起きやすい。

定款と株主名簿が手元にない段階でも、保有株数と他の相続人の構成が分かれば、どの確認が先に必要かを整理することはできる。相続手続の全体像は非上場株式の相続手続も参照してほしい。

莉緒と賢人は、20株ずつという数字だけを先に決めず、定款と株主名簿を確認した。莉緒が知りたい情報、賢人が続けたい仕事、売却や税の資金を別々に書く。分けた後に「父と同じ権利を一人で使えると思っていた」とならないよう、分割前に確認する意味がある。

相続税の評価が低くなることと、会社から受け取れる現金が増えることも別だ。法的な権利、株の売り方、税の評価をつなげて確認して初めて、この株を引き継ぐことが自分の生活にどう関わるかを考えられる。

会社や支配株主から取得の通知が来た場合は、任意の売却交渉と手続を分ける。少数株式の締め出しの方法と、価格決定の申立期間を確認し、通知日だけで一律に期間を数えない。

ほかにも確認する手続がある場合は、会社・株式・事業承継の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

少数株主は帳簿を見られるか

会計帳簿は原則として議決権または発行済株式の3%以上が入口だ。理由と拒絶事由も確認する。株主名簿の閲覧は別の権利だ。

譲渡制限株式は相続できないか

相続による取得と通常の譲渡承認は区別する。定款に相続人への売渡請求条項があるかは別に確認する。

会社の売渡請求期限は名簿書換えからか

会社が相続等を知った日から1年以内だ。価格決定の申立てには請求から20日の期限もある。

保有5%未満なら配当還元でよいか

本人の割合だけで決まらない。同族関係者・株主区分・役員等を通達で確認する。

この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

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