少数株主の締め出しで変わる、相続株式の価値と対抗手段

少数株主の締め出しとは、会社の支配株主(多数派株主)が、少数派の株主を合法的な手続きによって株主の地位から排除し、持株を買い取る一連の行為を指すとされています。スクイーズアウトとも呼ばれ、会社法に定められた複数の方法が存在します。

結論から言うと、少数株主の締め出しには会社法上の厳格な手続きが必要とされており、不当な締め出しを受けた少数株主には株式買取請求権や価格決定申立権による対抗手段がある可能性があります。

会社の株式を相続した、という話を聞いたとき。「よかったね、資産が増えて」と思った人間は、まだ何も知らない。

相続したのが「非上場会社の少数株式」だった場合の話を、今日はしようと思う。

自由に売れない。配当も来ない。議決権を行使しても、多数派にあっさり否決される。そして、ある日突然、会社側から一通の書面が届く。

「株式を買い取ります」

——選べる余地など、最初からなかったかのように。

困り顔

父の会社の株を相続したのに、気づいたら「株主じゃない」と言われそうで……何が起きてるんだ?

で、結論から言うと「少数株主の締め出し」は合法だ。ただし、条件がある

「少数株主の締め出し」、正式名称はスクイーズアウト。字義通り、絞り出す、である。

会社法は、一定の要件を満たした多数派株主に対して、少数株主を強制的に退場させる権限を与えている。非情に聞こえるかもしれないが、これは会社の意思決定を迅速化し、少数株主との利害調整コストを圧縮するための、立法政策上の選択だ。

で、ここが重要なのだが。

合法である、ということは「泣き寝入りしなければならない」という意味ではまったくない

締め出しの手続きには厳格なルールがあり、価格に不満があれば裁判所に「適正価格」を決定してもらう手段が用意されている。知っているかどうかで、受け取れる金額が数百万円単位で変わる可能性がある。これが、今日伝えたい核心だ。

スクイーズアウトの「4つの方法」を知っておけ

会社法が認めるスクイーズアウトの手段は、主に以下の4つとされている。

  • 特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条):総株主の議決権の90%以上を持つ「特別支配株主」が、残りの少数株主全員に対して株式の売り渡しを請求できる制度。株主総会決議すら不要という、圧倒的なスピード感を持つ手続きだ。
  • 全部取得条項付種類株式(会社法108条・171条):株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)により、特定の種類株式を会社が全部取得する方法。少数株主は有無を言わさず退場させられる可能性がある。
  • 株式の併合(会社法180条):たとえば「100株を1株に」という形で株式を大幅に集約し、端数株主を生み出して金銭で締め出す手法。これも株主総会の特別決議が必要だ。
  • 合併・株式交換(会社法748条・767条):組織再編の手続きを利用して、少数株主に金銭を交付しながら株主の地位を喪失させる方法。

これだけ読むと「どの方法を使われても、少数株主に打つ手はないのか」と感じるかもしれない。

違う。ここからが、本題だ。

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「適正価格」という武器——少数株主に残された対抗手段

どのスクイーズアウトの手法においても、少数株主には「価格が不当に低い」と感じたとき、裁判所に適正価格の決定を申し立てる権利が認められている。

図解

具体的には、こうだ。

  • 特別支配株主による売渡請求の場合:価格に不満があれば、売渡請求があった日から20日以内に「売買価格の決定申立て」を裁判所に行うことができる(会社法179条の8)。
  • 株式の併合・全部取得条項付種類株式の場合:「反対株主の株式買取請求権」(会社法116条・182条の4)を行使し、価格決定の申立てが可能とされている。
  • 組織再編(合併・株式交換)の場合:同様に反対株主の株式買取請求権(会社法785条・806条)が行使できる。

ここで鍵を握るのが「非上場株式の評価額」である。

上場株と違い、非上場株式には市場価格が存在しない。会社側が提示してくる買取価格が、本当に適正かどうか、パッと見ただけではわからない。これが、少数株主にとって最も厄介なポイントだ。

裁判所が価格を決定する際には「ナカリセバ価格(スクイーズアウトがなければあったはずの公正な価格)」という考え方が用いられる場合があり、会社の収益力・純資産・将来性などが総合的に判断される。会社側が出してきた数字を、そのまま「そんなものか」と飲み込む前に、評価の根拠を確認するのが先決だ。

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相続で少数株主になった人間が、最初に動くべき5つのステップ

「父の会社の株を引き継いだが、少数派だ」という状況になった場合、以下のステップで状況を整理するのが現実的な動き方だ。

図解
  1. 持株数と持株比率を確認する
    会社の株主名簿を確認し、自分の持株数・議決権比率を把握する。1%未満でも帳簿閲覧請求権(会社法433条)は行使できる場合がある。まず「自分がどこに立っているか」を確定させること。
  2. 定款・株主名簿を取り寄せる
    株式に譲渡制限がついているか、種類株式が発行されているかを確認する。これで、会社側がどの手法でスクイーズアウトを仕掛けてくる可能性があるかが見えてくる。
  3. 会社から「売り渡し請求」等の通知が届いたら、期限を即座に確認する
    特別支配株主の売渡請求であれば価格決定申立ての期限は20日以内。この期限を過ぎると申立権を失う可能性がある。書面が届いた瞬間に、日付を確認せよ。
  4. 提示された買取価格の算定根拠を要求する
    「なぜこの価格なのか」を会社側に説明させること。純資産方式か、収益還元方式か、類似業種比準方式か。根拠なき価格提示には、正当に異議を唱える余地がある。
  5. 価格に納得できなければ、裁判所への申立てを検討する
    価格決定申立ては、申立て自体のハードルはそれほど高くない。ただし、株式評価の専門的知識が要求される場面があるため、弁護士や税理士に評価のセカンドオピニオンを求めることが有効な場合がある。

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よくある質問

少数株主の締め出しは、同意なしに行われる可能性がありますか

はい、会社法上の要件を満たせば少数株主の同意なしに締め出しが行われる場合があります。特に特別支配株主(議決権90%以上保有)による売渡請求(会社法179条)は、株主総会決議も不要とされています。ただし、価格に不服がある場合は裁判所への申立て手段が用意されています。

提示された買取価格が不当に低いと感じた場合、どうすればよいですか

売渡請求の場合は通知を受けた日から20日以内に、裁判所へ売買価格決定申立てを行うことができるとされています(会社法179条の8)。株式の併合や全部取得条項付種類株式の場合は、反対株主の株式買取請求権(会社法116条・182条の4)の行使が考えられます。期限が非常に短いため、通知が届いたら速やかに内容を確認することが重要です。

相続で取得した少数株式にも、帳簿閲覧請求権はありますか

議決権総数の3%以上(定款で引き下げ可能)を保有する株主には、会計帳簿の閲覧謄写請求権が認められています(会社法433条)。持株比率によっては行使できない場合もありますが、まず自分の持株比率を確認することが先決です。

スクイーズアウトを事前に阻止する方法はありますか

特別支配株主による売渡請求は、議決権の90%以上を握られた時点で防ぐ手段は限られるとされています。ただし、手続きに法令違反がある場合には差止請求(会社法179条の7)が認められる場合があります。会社の動向を定期的に把握しておくことが、対策の第一歩といえます。

少数株主として相続した株式を、自分から売却することはできますか

譲渡制限株式の場合、売却には会社または株主総会・取締役会の承認が必要とされています(会社法136条)。承認が拒否された場合には、会社または指定買取人が買い取る手続きに移行する場合があります(会社法138条・140条)。自由に売却できるかどうかは、まず定款の確認が必要です。


知っておくだけで、受け取れる金額が変わる可能性がある。価格決定申立ての期限は20日。株式買取請求権の行使期間も限られている。書面が届いた瞬間に、これを思い出せるかどうか。それだけで、結果は変わってくる。

ホッとした顔

とりあえず、通知が来たら「20日以内」を死守すればいいんだな。それだけは覚えた。

相続した株式が「お荷物」か「交渉できる資産」かは、こちらが何を知っているかで決まる部分が大きい。

けっこうオススメです、早めの情報収集。伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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