相続における株式の名義変更とは、被相続人が保有していた株式・有価証券を相続人名義に切り替える手続きのことで、証券会社や信託銀行を通じて行われるとされています。
結論から言うと、相続した株式の名義変更は遺産分割協議書と証券会社ごとの手続きが必要で、放置すると配当金の受け取りや売却ができなくなる可能性があります。
株式というものは、実に静かに存在する。
故人の引き出しを漁っても出てこない。通帳のように残高が目に見えるわけでもない。気づいたら「うちの親、株やってたのか……」と、証券会社からの郵便物を見てはじめて知る——そういうケースが、驚くほど多い。
問題は、その「静かな存在」を放置した瞬間から、手続きの時計が淡々と刻み始めることだ。
え、株の名義変更ってどこに行けばいいんだ。銀行?役所?全然わからない……
で、結論から言うと、株式の名義変更は「証券会社ごとの個別対応」が必要になる
不動産の名義変更は法務局。銀行口座の相続手続きは各銀行。そして株式は——証券会社、それぞれに書類を出しに行くことになる。
しかも、ここが厄介なのだが、証券会社によって要求書類が微妙に違う。「遺産分割協議書」が必要なところもあれば、「残高証明書の発行依頼書」が別途必要なところもある。一律に「この書類を揃えれば全部OK」とはならないのだ。
これが、相続における株式名義変更の、最初にして最大の関門である。
そして、もうひとつ。故人がどの証券会社に口座を持っていたか、把握できていない相続人が非常に多い。タンス株(証券会社を介さず手元に保管されている株券)が出てきて、「これ、どこの会社の株だ」と頭を抱えるケースまである。まずは「株式がどこに、どれだけあるか」の全体像を把握することが、スタートラインだ。

株式の所在を探す。伏兵は意外な場所に潜んでいる
故人の株式を探すルートは、大きく3つある。
- 証券会社からの郵便物・取引報告書を探す:故人宛に届いた「特定口座年間取引報告書」や「配当金計算書」が手がかりになる。これが一枚でも出てきたら、その証券会社に問い合わせるのが近道だ。
- 証券保管振替機構(ほふり)への照会:「登録済加入者情報の開示請求」という制度を使うと、故人が保有していた上場株式の口座情報(どの証券会社に口座があるか)を一括で調べることができる場合がある(手数料が発生する)。複数の証券会社に口座がありそうな場合に特に有効だ。
- タンス株の確認:2009年以前に発行された株券が手元に残っている可能性がある。株券不発行制度への移行以降は基本的に証券会社が管理しているが、古い株券が出てきた場合は「株券電子化前の手続き」が必要になる場合がある。
この3つを軸に、「持ち株の全容」を把握することが先決だ。一つでも見落とすと、後の遺産分割協議がやり直しになる可能性がある(民法898条・遺産分割は遺産の全体を対象とすることが前提とされているため)。
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名義変更の具体的なステップ。証券会社ごとに動く、これが現実だ
株式が見つかったら、次は名義変更の実行フェイズに入る。

おおまかな流れは以下のとおりだ。
- ① 証券会社への連絡(口座凍結と相続手続き開始の申し出):被相続人の死亡を証券会社に連絡する。これにより口座が相続手続きモードに移行し、勝手な売却や出金が防がれる(これは相続人を守る措置でもある)。
- ② 必要書類の確認と収集:証券会社ごとに異なるが、共通して求められることが多い書類は次のとおり。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(連続したもの)
・相続人全員の戸籍謄本
・遺産分割協議書(相続人全員の実印・印鑑証明書付き)
・相続人の本人確認書類
・証券会社所定の「相続手続き依頼書」 - ③ 遺産分割協議書の作成:「この株式は誰が相続するか」を相続人全員で合意する文書だ。民法907条に基づき、相続人全員の合意が必要とされており、一人でも欠けると無効になる点は、念を押しておきたい。
- ④ 証券会社への書類提出と名義変更:書類を提出後、審査を経て相続人の口座(既存または新規開設)に株式が移管される。移管完了まで2週間〜1ヶ月程度かかる場合がある。
- ⑤ 売却 or 保有の判断:名義変更が完了してはじめて、株式を売れる状態になる。名義変更前に売却することはできないため、「早く現金化したい」という場合こそ、手続きをスピーディーに進める必要がある。
なお、相続した株式の取得費(税務上の計算に使う)は、被相続人が購入した時の価格が引き継がれるとされている(所得税法60条)。後で売却する際の税計算に関わるため、被相続人の取引記録を捨てないようにしたい。
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相続税の申告と株式評価。10ヶ月という現実的な期限を忘れるな
株式の名義変更とは別に、相続税の申告という問題がある。
上場株式の相続税評価額は、以下の4つのうち最も低い価格を使う。
- 課税時期(死亡日)の終値
- 死亡日が属する月の終値の月平均
- 死亡日が属する前月の終値の月平均
- 死亡日が属する前々月の終値の月平均
「最も低い価格」を選べるのは、相続人にとって有利に設計された仕組みだ。これを知らずに死亡日の終値だけで計算すると、余計な税負担が生まれる可能性がある。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内(相続税法27条)。この期限を過ぎると延滞税・加算税が発生する可能性がある。遺産分割協議が未了でも、法定相続分で仮の申告(未分割申告)ができるとされており(相続税法55条)、後から修正申告や更正の請求で正しい税額に修正することも可能だ(相続税法32条)。「協議が終わってから申告しよう」と待っていて期限を超えた、というのは避けたいシナリオだ。
非上場株式の評価は、さらに複雑で「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」などが絡んでくる場合がある(財産評価基本通達に基づく)。この部分は税理士に計算してもらうのが現実的なルートだろう。
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よくある質問
相続した株式の名義変更をしないと、どうなりますか
名義変更を行わないままでも株式の権利自体は消滅しないとされていますが、配当金の受け取りや株式の売却ができない状態が続く可能性があります。また、放置期間が長くなると証券会社との手続きが煩雑になる場合があるため、早期に着手することが望ましいとされています。
遺産分割協議が終わっていなくても、株式の名義変更はできますか
遺産分割協議が未了の場合、法定相続分に基づく「法定相続分での移管」を認める証券会社もある場合があります。ただし、後から遺産分割協議で異なる分割をした場合は再度の手続きが必要になる可能性があります。各証券会社の対応を個別に確認することをお勧めします。
相続した上場株式の評価は、どの時点の価格を使いますか
上場株式の相続税評価では、死亡日の終値・死亡日が属する月の月平均終値・前月の月平均終値・前々月の月平均終値のうち、最も低い価格を採用するとされています(財産評価基本通達169条)。複数の選択肢の中から相続人に有利な価格を選べる点が特徴です。
タンス株(手元にある古い株券)が見つかりました。どうすればいいですか
2009年の株券電子化(ペーパーレス化)以降、手元の株券は原則として効力を失っているとされています。ただし、適切な証券会社または信託銀行に手続きを行うことで権利を回復できる場合があります。株券に記載された会社名・株数をもとに、発行会社または株主名簿管理人(信託銀行等)に問い合わせることが最初のステップとされています。
相続した株式を売却したときにかかる税金はどのくらいですか
相続した株式を売却した場合、売却益(売却価格から取得費を引いた金額)に対して約20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%)の税率が適用される可能性があります(租税特別措置法37条の11)。取得費は被相続人が購入した価格が引き継がれるとされており(所得税法60条)、取引記録の保管が重要です。
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手続きを終えた数週間後、証券会社から「移管完了」の通知が届いた瞬間。あの静かに存在していた株式が、はじめて「自分の資産」として可視化される。
書類を揃えて、問い合わせして、遺産分割協議書を用意して——確かに面倒だった。ただ、「何をすべきか」がわかってから動き始めると、思った以上に前に進める。
株の名義変更、ちゃんと自分で動けた。意外となんとかなるもんだな。
株式は「見えにくい遺産」だからこそ、見つけた瞬間から動き始めることが、いちばんの近道だ。
けっこうオススメです。早めに証券会社へ連絡、そこから全部始まります。伝わりましたかね。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。





