相続では、故人の所得税と、相続人自身の所得税を分けて確認する。故人の申告が必要な場合は「準確定申告」を行い、相続開始を知った日の翌日から4か月以内が原則の期限だ。
相続した財産への相続税は、さらに別の手続となる。一つの申告を済ませれば、ほかも終わるとは考えず、誰の何の税金かを書き分けよう。
父を亡くした奈津は、弟の陽介に「確定申告は来年3月でいいよね」と話した。父は小さなアパートを貸していた。陽介は、その家賃が今後は誰の収入になるか気になっている。二人とも「相続税の申告」と「確定申告」を、同じ書類だと思いかけていた。
ここからは、相続と所得税を整理する架空の姉弟だ。故人の所得を締める準確定申告と、相続後に得た自分の所得の確定申告を区別する。さらに、相続財産への相続税は別の手続だ。人物・金額は説明用である。
所得税は一年の所得を計算する税だが、本人が途中で亡くなると、その人の分を誰かが整理する必要がある。準確定申告は、そのために相続人等が所得と税額を確かめる手続で、申告義務がある場合の期限は相続が始まったと知った日の翌日から4か月以内となる。
父の申告と、子ども自身の申告を分ける
相続が発生したとき、確定申告が「必要になるケース」は、大きく2種類ある。
一つめは、故人の準確定申告だ。原則として1月1日から死亡日までの所得を、相続人等が申告する(所得税法124条・125条)。前年分を申告しないまま亡くなった場合にも注意する。
二つめは、相続人自身の確定申告だ。相続後の家賃収入や、相続した不動産の売却などで、自分の所得税の申告が必要になることがある。
父の申告を済ませた後も、自分の申告が必要かを別に確認する。書類と期限を、申告する人ごとに分けておこう。
準確定申告とは何か。その中身と期限
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内(所得税法124条・125条)。
通常の所得税の確定申告は、原則として翌年2月16日から3月15日までだ。準確定申告の4か月は、それとは別に数える。
来年3月まで待てると思わず、相続開始を知った日と、4か月の期限を先に記録しよう。
準確定申告が必要になる主なケース
- 故人が給与所得者で、年収が2,000万円超だった場合
- 故人が個人事業主・フリーランスだった場合
- 故人が不動産賃貸収入を得ていた場合
- 公的年金等の収入が400万円超、または公的年金等以外の所得が20万円超等で、年金所得者の申告不要制度の条件を満たさない場合。最終的な申告義務は所得・控除等で確認する
- 故人が複数の会社から給与を受けていた場合
これらの収入源があることだけで申告義務が確定するわけではない。所得、源泉徴収、控除、申告不要制度等から判断する。まずは故人の収入源を整理するところから始めるのが実践的な動き方だ。
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準確定申告の手続き。誰が、何を、どうやって
故人に申告義務がある場合、相続人等が準確定申告を行う。遺言で財産全体や一定の割合を受け継ぐ「包括受遺者」も含む。
複数いる場合は、原則として連署で提出する。ほかの相続人等の氏名を付記して別々に出す方法もあるが、その場合は申告内容をほかの相続人等へ通知する。
準確定申告の主な必要書類・作業
- 故人の源泉徴収票(勤務先から取り寄せ)
- 故人の事業収入・不動産収入の帳簿・通帳
- 医療費控除を使う場合は、死亡の日までに故人が支払った医療費の集計。死亡後に相続人が支払った分は、故人の準確定申告へ混ぜない
- 生命保険料控除証明書・地震保険料控除証明書
- 相続人全員の戸籍謄本(相続関係の確認用)
提出先は、故人の住所地を担当する税務署。相続人の住所地ではない点に注意が必要だ。
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奈津は父の帳簿を「入金があった月」だけで集計しようとした。陽介は契約書と家賃台帳を並べ、死亡時までに父へ帰属する所得と、相続後の家賃収入を区別して確認することにした。未収の家賃もあるので、通帳の入金日だけでは分けられない。
例えば父の準確定申告で還付される所得税が30万円と計算されたとしよう。その30万円は、相続人自身がアパートを売って得る利益とは違う。相続財産としての還付金請求権と、その後の自分の所得を、同じ「税金の戻り・もうけ」という箱へ入れない。
相続税の申告と確定申告、混同しやすいポイント
準確定申告と相続税の申告は、対象と期限が違う。次の図のように、自分自身の所得税も別に置いて考えよう。
必要な申告を確認したら、税目ごとに資料と提出期限を分ける。
奈津・陽介の例では、父の所得、自分たちの所得、相続した財産を分けて確認する。どれも、申告が必要かどうかの判定が先だ。
原則、1月1日から死亡日までの所得。期限は相続開始を知った日の翌日から4か月以内。前年分の未申告も確認する。
相続後の家賃や不動産の売却など、自分の所得を確認する。通常の期限は翌年3月15日。休日等の扱いも確認する。
必要なら、原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内に申告・納税する。
父の準確定申告を済ませても、自分の所得税や相続税まで申告済みにはならない。
申告書も計算する対象も違う。一つを出して安心せず、それぞれ提出・納付まで確認する。
なお、相続税の申告期限(10ヶ月)までに遺産分割協議がまとまらない場合でも、法定相続分(法律で決められた相続の割合)による未分割申告という選択肢がある(相続税法55条)。協議が長引いたからといって、申告そのものが止まるわけではない点は知っておきたい。
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陽介がアパートを売る場合を考える。売価3,000万円、引き継ぐ取得費800万円、譲渡費用100万円という仮定なら、特例等を使う前の譲渡所得は3,000−800−100=2,100万円だ。
売価の全額が所得ではなく、相続税の評価額がそのまま取得費になるわけでもない。父の購入資料、建物の減価償却、所有期間、特例等を確認して計算する。
売却した人の所得税は、父の準確定申告を済ませても終わらない。奈津たちは「父の死亡まで」「自分たちが取得した財産」「相続後の家賃や売却」の三段に分けて資料を置いた。
自分で動くための実践ステップ
複雑に見えるが、最初の一手はシンプルだ。
- 故人の収入を確認する:給与・年金・家賃・事業の資料を集める。
- 申告が必要か確かめる:所得、控除、源泉徴収、申告不要制度等を確認する。
- 期限日を記録する:相続開始を知った日の翌日から原則4か月以内で計算し、休日等も確認する。
- 不足資料を集める:源泉徴収票、帳簿、控除証明書等をそろえる。
- ほかの申告も分けて確認する:必要な相続税と、相続人自身の所得税の期限を別に記録する。
まずは故人の収入と資料を集め、準確定申告が必要かを確認する。必要なら、4か月の期限から逆算して不足資料をそろえよう。
関連する手続も、必要な範囲から確認しよう。
国税庁の準確定申告、通常の確定申告、相続した土地・建物の取得費と取得時期も確認できる。
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ほかにも確認する手続がある場合は、相続税の申告・納付・調査の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
準確定申告の期限はいつですか
相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内とされている(所得税法124条・125条)。亡くなった日ではなく「知った日」が期間を数え始める時点になる場合があるため、確認が必要だ。
相続税の申告と準確定申告は同じ手続きですか
別々の手続きだ。準確定申告は故人の所得税に関するもの(所得税法)、相続税の申告は取得した財産に対するもの(相続税法)で、期限も申告書の様式も異なる。それぞれ独立した手続きとして対応が必要になる場合がある。
遺産分割協議が終わっていなくても相続税の申告はできますか
法定相続分で按分した「未分割申告」が可能とされている(相続税法55条)。協議成立後に修正申告または更正の請求(多く申告した税額などを、税務署に直してもらうよう求める手続き)で正しい税額に修正できる場合がある(相続税法32条、国税通則法23条)。
相続した不動産を売却した場合も確定申告が必要ですか
相続で受け継いだ不動産を売却した場合、相続人本人の譲渡所得として確定申告が必要になる可能性がある。この場合は通常の確定申告のスケジュール(翌年2月16日〜3月15日)で申告することになる。
準確定申告が不要なケースはありますか
給与収入2,000万円以下で、給与が一か所からで全部が源泉徴収の対象となり、給与・退職所得以外の所得が20万円以下など、申告不要制度に当てはまる場合がある。年収だけで決めず、故人の所得、控除、源泉徴収等を確認する。申告義務がなくても、還付の申告ができるかは別に検討する。
奈津は父の死亡を知った日と、準確定申告の期限を確認し、陽介は帳簿と源泉徴収票を集めた。もし前年分を申告すべき父が、翌年の通常の申告期限前に申告せず亡くなっていたなら、前年分と本年分の両方を確認する。単純に死亡した年だけを見るとは限らない。
申告義務の有無を確かめ、必要なら4か月以内に申告と納付を進める。相続税の原則10か月と、自分たちの所得税の期限は別に残す。二人は「確定申告は来年3月」という一行を消し、誰の、何の税金かを書いた予定表へ置き換えた。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。



