デジタル遺品と遺言書。見えない財産を発見する手順

デジタル遺品とは、故人がスマートフォンやパソコン上に残したデータ・アカウント・電子財産の総称であり、オンライン銀行口座・暗号資産・SNSアカウントなどが含まれるとされています。

結論から言うと、デジタル遺品の中には相続財産に該当するものが含まれる可能性があり、遺言書にデジタル資産の記載があるかどうかを早期に確認することが、その後の手続きをスムーズにする鍵になります。

スマートフォンを手に取ったとき、あなたはそこに「遺言書」が眠っているかもしれない、と思ったことはあるだろうか。

引き出しの中でもなく。仏壇の奥でもなく。公証役場でもなく。──父が毎晩眺めていた、あの小さな画面の中に。

デジタル遺品の問題が、いま静かに、しかし確実に、相続の現場を揺るがし始めている。

困り顔

親のスマホ、パスワードが分からなくて中を確認できないんだけど……これって財産に関係あるの?

で、結論から言うと。デジタル遺品は「見えない財産庫」である

で、結論から言うと、デジタル遺品とは単なる「思い出のデータ」ではない。立派な相続財産が、そこに潜んでいる可能性がある、ということだ。

具体的に言おう。故人のスマホやパソコンの中に、こんなものが入っていないだろうか。

  • ネット銀行の口座(SBI・楽天・PayPayなど)
  • 証券口座(ネット証券で保有の株式・投資信託)
  • 暗号資産(ビットコイン・イーサリアムなど)
  • 電子マネー・ポイント残高(楽天ポイント・Tポイントなど)
  • 有料サブスクリプション(自動引き落としが続いているケース)
  • オンラインショッピングの未受取注文・返金待ち

これらは、通帳もなければ、証券が郵送されてくるわけでもない。存在すら気づかれないまま、デジタルの海に沈んでいく。

財産が「消える」のではない。「発見されない」だけなのだ。これは、見落とした側の損失になる。

図解

遺言書に「デジタル資産」の記載はあるか。ここが最初の分岐点

遺言書の捜索は、当然やる。引き出し、貸金庫、公証役場への確認。このルーティンは変わらない。

だが、ここで一つ、見落とされがちな視点がある。

「遺言書にデジタル資産の記載があるかどうか」を、意識的に確認しているか、ということだ。

自筆証書遺言であれ、公正証書遺言であれ、遺言書の中に「○○銀行のオンライン口座(ID:○○)は長男に相続させる」などと書いてあれば、それは法的効力を持つ遺言の内容として扱われる可能性がある(民法964条)。

逆に言えば、記載がなければ遺産分割協議の対象になる。相続人全員の合意が必要になるわけだ(民法907条)。一人でも欠けた協議は無効とされているため、デジタル資産の存在を「後から発見」すると、協議をやり直す羽車が、またグルグルと回り始めることになる。

発見の遅れが、手続きの二度手間を生む。この構造を、まず頭に入れておきたい。

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デジタル遺品の「発掘作業」。具体的にどう動くか

では、実際にどう動けばいいか。パスワードで鍵がかかった「デジタルの金庫」に、正面からぶつかるための手順を整理しよう。

ステップ1:デバイスの確保と、メール・アプリの精査

まずはスマートフォン・パソコン・タブレットを確保する。次に、メールの受信箱を確認するのだ。銀行・証券会社・暗号資産取引所からのメールは、財産の在処(ありか)を示す最強の地図になる。アプリ一覧も同様。「SBI証券」「コインチェック」「楽天銀行」といったアイコンが並んでいれば、そこに口座がある可能性が高い。

ステップ2:各金融機関へ「相続手続き」として問い合わせる

口座の存在が疑われる金融機関には、相続人として正式に問い合わせる。戸籍謄本など身分を証明する書類を用意した上で「残高証明書の発行」を請求するのが基本だ。ネット銀行各社も、相続手続き専用の窓口を設けているケースが多い。

ステップ3:暗号資産は「秘密鍵」の有無を確認

暗号資産に関しては、取引所に口座がある場合と、ウォレット(財布ソフト)で自己管理している場合とで、話が大きく変わる。取引所口座は相続手続きで引き継ぎできる可能性があるが、自己管理型ウォレットの場合は「秘密鍵」またはシードフレーズがなければアクセスが事実上不可能だ。遺品の中にアルファベット24語の羅列が書かれた紙があれば、それが鍵かもしれない。捨てないこと。

ステップ4:有料サービスの「自動引き落とし」を止める

動画配信・音楽配信・クラウドストレージなどのサブスクリプションは、死後も自動的に課金が続く。クレジットカードの明細を確認し、不要な支出を早期に止めるのが賢明だ。これは財産を守る行為でもある。

図解

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デジタル遺品と遺言書。この2つが噛み合ったとき、手続きは驚くほどスムーズになる

ここで、一つの理想形を提示しよう。

故人が生前に「自筆証書遺言」または「公正証書遺言」の中に、デジタル資産のリストとIDを記しておいた場合。さらに、法務局の遺言書保管制度(遺言書保管法)を利用していた場合。

相続人がやることは、保管証明書を法務局に提示して遺言書情報証明書を取得し、その内容に従って各機関に手続きするだけ、という状態に近づく。

対して、何の記録もなく、パスワードも不明で、どの金融機関に口座があるかも不明な状態では、発掘作業だけで数週間を費やすことになりかねない。

「準備していたか、していなかったか」。この差が、残された家族の数週間を、劇的に変える。

なお、相続放棄を検討している場合は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申述する必要がある(民法915条、938条)。デジタル遺品の調査に時間を取られすぎて、この期限を見落とさないよう注意したい。

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よくある質問

デジタル遺品のネット銀行残高は、相続財産になりますか

ネット銀行の預金残高は、通常の銀行口座と同様に相続財産に該当するとされています(民法896条)。被相続人の死亡後は相続人が相続手続きを行うことで引き継ぐことができる可能性があります。戸籍謄本などの必要書類を揃えて各金融機関の相続窓口に問い合わせることをお勧めします。

遺言書にデジタル資産の記載がない場合、どうなりますか

遺言書に記載のないデジタル資産は、遺産分割協議の対象になる可能性があります。相続人全員の合意のもとで分割方法を決める必要があり(民法907条)、一人でも欠けた協議は無効とされています。後から資産が発見されると協議をやり直す必要が生じる場合があります。

故人のスマートフォンのロックを解除することは法的に問題ありますか

相続人として財産を調査する目的での閲覧は、一般的には相続財産の調査として認められる範囲と考えられていますが、第三者のプライバシーに関わるデータ等の取り扱いには注意が必要とされています。不明な点は弁護士等に相談されることをお勧めします。

暗号資産の秘密鍵が見つからない場合、その資産はどうなりますか

秘密鍵またはシードフレーズが見つからない場合、自己管理型ウォレット内の暗号資産にアクセスする手段が事実上なくなる可能性があります。取引所に口座がある場合は相続手続きを通じて引き継げるケースがあるため、まず各取引所の相続窓口に確認することをお勧めします。

デジタル遺品の調査中に相続放棄の期限が来てしまいそうです。どうすればいいですか

相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」とされています(民法915条)。財産調査に時間がかかる場合は、家庭裁判所に「期間伸長の申立て」を行うことで、期限を延長できる場合があります(民法915条1項ただし書き)。早めに検討されることをお勧めします。

ホッとした顔

デジタル資産まで確認してから遺産分割協議に進めばよかったんだ。順番さえ分かれば、焦らずに動けるな。

デジタル遺品の発掘は、地味で、根気がいる。だが、それを終えた先には「見落としがない」という、清々しいほどの安心感が待っている。財産の全体像が見えてから動く相続は、驚くほどスムーズだ。

知っておいて、損はない話だったと思う。伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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