遺言書保管制度の仕組み。法務局に預けると検認が不要になる理由

遺言書保管制度とは、法務局(遺言書保管所)が自筆証書遺言の原本を預かり、データとして管理する制度です。2020年7月10日に施行された遺言書保管法(法務局における遺言書の保管等に関する法律)に基づく公的なサービスとされています。

結論から言うと、遺言書保管制度を利用すれば、紛失・偽造リスクの回避に加え、家庭裁判所での「検認手続き」が不要になる可能性があり、遺族の手続き負担を大きく減らせるとされています。

「法務局に遺言書を預けられる」という話を、聞いたことがあるだろうか。

知らなかった人間のほうが、おそらく多い。なぜなら、この制度が始まったのは2020年。まだ5年も経っていない、比較的新顔の仕組みだからだ。

そして知らないまま、「タンスの引き出しに入れておけばいい」と自己流で保管した結果──発見されなかった遺言書、あるいは「これが本物か?」と疑いをかけられた遺言書を巡って、親族間の空気が、グラッと傾く。

困り顔

遺言書って、書いたら引き出しに入れとくだけじゃダメなのか……?

安心してほしい。この記事を読めば、遺言書保管制度の仕組みと、使いどころが、スッキリ整理される。

で、結論から言うと。遺言書保管制度は「検認ゼロ」と「紛失ゼロ」の二刀流

遺言書保管制度の核心は、二つだ。

  • 法務局が原本を保管する→ 紛失・改ざん・偽造のリスクが、ほぼ消える
  • 家庭裁判所の検認が不要になる(遺言書保管法11条)→ 遺族の手続きが、一段階シンプルになる

自筆証書遺言は、本来であれば遺言者が亡くなった後、相続人が家庭裁判所に持ち込み、「検認」という確認手続きを経なければならない(民法1004条)。これが地味に、手間だ。申立てから完了まで数週間かかる場合があり、その間は遺産に手が触れられない。

ところが、法務局に預けた遺言書は、この検認が「不要」になる。一手間が、まるごと消えるのだ。

図解

ただし、勘違いしてはいけない点がある。「検認不要」は「中身が正しい」を意味しない。法務局はあくまで「保管している」だけであり、遺言書の内容の有効性まで保証するわけではない。その点は、民法の要件(民法968条)を満たしているかどうかで別途判断される。

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遺言書保管制度を使うとき。知っておきたい4つの現実

「じゃあ全員使えばいいじゃないか」と思うかもしれない。そうでもない。この制度には、いくつかの「条件」と「壁」が存在する。

① 対象は自筆証書遺言のみ

公正証書遺言は、そもそも公証役場で作成・保管される。遺言書保管制度の出番はない。あくまで、自分で手書きした遺言書(自筆証書遺言)が対象だ。

② 遺言者本人が法務局に出頭しなければならない

代理人による申請は、認められていない(遺言書保管法4条6項)。遺言者が自分の足で、自分の管轄の法務局(遺言書保管所)に行く必要がある。体が不自由な場合は、この点が課題になる可能性がある。

③ 手数料が発生する

保管申請の手数料は1件3,900円(遺言書保管法施行令2条)。一度預けた後でも、閲覧・変更・撤回などで別途手数料が発生する場合がある。

④ 遺言書の「書き方」は自分で責任を持つ

法務局は「保管と外形チェック」はしてくれるが、内容の法的有効性の確認まではしてくれない。用紙のサイズや余白の規格(法務省令で定められた様式)には合わせる必要があり、そこから外れた遺言書は受け付けてもらえない場合がある。

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実際に預ける手順。動く順番はこうだ

では、具体的に何をすれば預けられるのか。フローはシンプルだ。

図解
  1. 遺言書を自筆で作成する(民法968条の要件を満たすこと。全文・日付・氏名の自書と押印が必須)
  2. 法務省令で定める様式の用紙に書く(A4サイズ、片面、余白の規定あり)
  3. 管轄の遺言書保管所(法務局)を確認する(遺言者の住所地・本籍地・所有不動産所在地のいずれかを管轄する法務局が対象)
  4. 予約を取る(法務局のウェブ予約システムまたは電話で予約が必要)
  5. 本人が出頭し、申請書類・本人確認書類・手数料を持参する

預けた後には「保管証」が交付される。これは大切に保管しておこう。相続発生後、相続人が「遺言書情報証明書」を取得する際の手がかりになる。

また、もし遺言の内容を変えたくなった場合は、いつでも撤回・変更できる(遺言書保管法8条)。一度預けたら取り消せない、という縛りはない。

相続人が取るべき手順。「死亡後」の動き方

遺言者が亡くなった後、相続人・受遺者・遺言執行者は次のアクションが取れる。

  • 遺言書情報証明書の交付請求:遺言書の内容を証明する書類を取得できる(遺言書保管法9条)。これが実質的な「遺言書の開封・確認」の手続きに当たる
  • 遺言書保管事実証明書の交付請求:「そもそも保管されているか」だけを確認したい場合はこちら
  • 関係遺族等への通知:法務局は、証明書が交付されると、他の相続人等に「遺言書が保管されている旨」を通知する仕組みがある(遺言書保管法9条の2)

つまり、一人がこっそり遺言書の内容を確認して終わり、とはならない設計になっている。全員にお知らせが届く。これが、制度の「透明性」を担保している部分だ。

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よくある質問

遺言書保管制度を利用した場合、検認は本当に不要ですか

遺言書保管法11条の規定により、法務局に保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所における検認手続きが不要とされています。ただし、遺言の内容の法的有効性そのものは保証されるわけではなく、要件を満たしているかどうかは別途判断される可能性があります。

遺言書保管制度に預けた後、内容を変更したくなった場合はどうすればよいですか

遺言書保管法8条に基づき、遺言者はいつでも保管の撤回を申請することができるとされています。撤回後、改めて新しい内容の遺言書を作成し、再申請することが可能です。なお、後から作成した遺言書の内容が前の遺言書と抵触する場合、後の遺言書が優先される旨が民法1023条に定められています。

遺言書保管制度で預けられる遺言書の形式に指定はありますか

遺言書保管法に基づく法務省令により、A4サイズの用紙を使用し、所定の余白を設けることなど、一定の様式が定められています。この様式を満たさない遺言書は受け付けられない場合があるとされています。また、民法968条の自筆証書遺言の要件(全文・日付・氏名の自書と押印)も満たす必要があります。

遺言者が遠方に住んでいる場合、どの法務局に申請すればよいですか

遺言書の保管申請ができる法務局(遺言書保管所)は、遺言者の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局とされています(遺言書保管法4条3項)。複数の選択肢がある場合は、利用しやすい場所を選ぶことができる可能性があります。

遺言書保管制度と公正証書遺言は、どちらが「強い」ですか

法的な「強さ」という点では、どちらも適切に作成されていれば有効な遺言書とされています。ただし公正証書遺言(民法969条)は公証人が作成に関与するため、形式の有効性については比較的高い信頼性があると言われています。一方、遺言書保管制度は検認不要・手数料が低廉という実務上のメリットがある可能性があります。

遺言書保管制度を「知っていた人」の、落ち着いた顔

遺言書というものは、書いた後の「保管場所」で、その運命がガラリと変わる。自宅で保管していれば、発見されないリスク、改ざんを疑われるリスク、そして検認手続きという時間的コストが、すべて残る。

法務局に預ける選択をすれば、そのリスクが、かなりの部分、消える。費用は3,900円。手間は一日。それで遺族に「検認不要」のプレゼントができるなら、コスパは相当いい話だ。

遺言書を書こうとしている人も、既に書いた人も。「どこに預けるか」を、今一度考えてみてほしい。

ホッとした顔

法務局に預けるだけで、あの検認手続きが要らなくなるのか。親父に教えてやりたかった。

手続きを終えた後。「ちゃんと調べておいてよかった」と、スッキリした顔で次の話題に移れるために。

けっこうオススメです。遺言書保管制度。伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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