「報酬は10%」。そこまで聞いて、少し安心する。1,000万円を受け取る話なら100万円だろう、と頭の中で計算する。ところが隣の見積書にも10%とあり、説明を読むと金額が違う。こちらは、相手の提示額から増えた分に掛けるという。
料率が同じでも、その前に置く数字が違えば、費用は変わる。弁護士費用の説明で聞き落としたくないのは、「その何%は、何円に掛けるのか」という点だ。
相続の弁護士費用には全国一律の法定料金がない。相談料、着手金、報酬金、実費などを、依頼内容と各弁護士の報酬基準・契約に沿って確認する。料金表の一行から想像するより、自分の案件を当てはめた計算を示してもらう方が、支払の見通しは立ちやすい。
同じ10%なのに、100万円と20万円になる
違いを見るためだけの仮の例を置こう。相手の提示は800万円、交渉の結果、受け取る額が1,000万円になったとする。次の10%は相場や当事務所の料金を示す数字ではなく、計算方法を比べるための例だ。
- 取得した1,000万円全体に10%を掛ける約定なら、100万円。
- 提示額から増えた200万円に10%を掛ける約定なら、20万円。
どちらも消費税や着手金、実費、最低報酬などを加える前の単純計算だ。同じ「10%」を比べても、これだけ違う。
契約でいう「経済的利益」が、取得額、増額分、争いのある額、守った財産の価値などのどれなのかを確かめる。現金が新しく入らず実家を確保した場合でも、契約上は経済的利益を得たと扱うことがある。報酬を払う現金をどこから用意するかも、併せて考えたい。
不動産の評価に時価、固定資産税評価額、相続税評価額、売却額のどれを使うかも重要だ。共有持分や債務、特別受益・寄与分をどう扱うかまで分かれば、ようやく自分の数字で計算できる。
最初の支払と、終わるときの支払を分けて見る
費用の名前を覚えるだけでは足りない。「いつ、何に対して支払うか」を、依頼する仕事と対応させる。
| 項目 | 契約前に確かめること |
|---|---|
| 相談料 | 相談時間、延長料金、事前の資料検討、初回無料の対象範囲。 |
| 着手金 | 依頼開始時の支払額。一般に結果にかかわらず必要だが、中途終了時の精算は契約で確認する。 |
| 報酬金 | 成果の定義、経済的利益の計算、料率・定額・最低額、支払時期。 |
| 手数料 | 遺言や書面作成、調査など、一定の業務に対する費用とその範囲。 |
| 実費 | 印紙、郵便、戸籍、登記情報、交通、送金など。概算で預けた額の精算方法。 |
| 日当・時間制報酬 | 期日や出張・移動の扱い、時間単価、計上単位、上限や経過報告の方法。 |
全項目が必ず発生するわけではない。定額制や時間制など、組合せも異なる。税込・税別、分割払いの可否、回収金から差し引くのか、先に支払うのかを聞いておく。
「着手金0円」でも、依頼全体が無料になるわけではない。終了時の報酬や最低額、途中で終わった場合の扱いまで見る。反対に、着手金があるという理由だけで、総額も高いと決まるわけではない。
「相続をお願いします」は、契約の範囲としては広すぎる
相談する側は、一つの相続が終わるまで頼むつもりでも、契約書は「任意交渉」まで、ということがある。話合いで折り合わず調停へ進んだとき、初めて追加費用を知る。それを避けるには、段階を区切って確かめるのがよい。
- 相続人・財産調査、通知書作成、相手との交渉はどこまで含むか。
- 調停、審判、抗告へ進んだ場合、着手金や日当が追加されるか。
- 遺留分や使途不明金の訴訟、保全、強制執行は別の依頼になるか。
- 合意後の送金、書類の取りまとめなど、終了後の実行をどこまで行うか。
相続税申告、不動産登記、鑑定、測量、売却仲介の費用も、当然に弁護士費用へ含まれるとは限らない。税理士・司法書士・不動産鑑定士などへの費用と、弁護士に依頼する連携業務の範囲を分けて確認する。
相続人の数、海外居住や行方不明、財産の範囲の争い、特別受益・寄与分、不動産や非上場株式の評価は、仕事の量に影響する。遺産総額が同じでも、合意できる預金の分割と、調査・鑑定・訴訟を重ねる案件では、必要な作業が違う。
弁護士へ交渉を依頼する範囲や、調停で弁護士が必要になる場面も、自分が困っている段階に合わせて考えたい。
見積りを頼むのは、遠慮することではない
弁護士会の統一報酬基準は2004年4月1日に廃止された。旧基準を参考にする事務所があっても、それが現在の強制的な料金表というわけではない。
各弁護士は、報酬の種類や算定方法などを明示した基準を作り、事務所に備え置くことになっている。受任時には報酬とその他の費用について説明する義務があり、依頼しようとする人から申出があれば、見積書の作成・交付に努めるものとされている。
また、委任契約書は原則として作成する。法律相談や簡易な書面作成など、合理的な理由による例外はあるが、相続の交渉などを委任する際には、仕事の範囲と費用を契約書で確認したい。見積書の交付に関する努力義務と、契約書作成の原則は区別する。
「詳しい金額は依頼後に」という話だけでは、判断しにくい。まだ総額を確定できないなら、何が決まれば見積りが変わるのか、追加作業に入る前に説明があるのかを聞けばよい。
契約書の余白に、六つの確認を書いておく
- 依頼する事件、相手、対象財産、手続は何か。
- 着手金・報酬金などの額や計算方法、支払時期は何か。
- 経済的利益と不動産評価をどう決めるか。
- 実費、日当、鑑定、他の専門家の費用はどこまで含むか。
- 追加業務、和解、解任・辞任などによる中途終了では、どう精算するか。
- 預り金、回収金からの控除、消費税をどう扱うか。
複数の事務所を比べるなら、同じ財産資料と同じ依頼範囲を示す。交渉だけの見積りと、調停まで含む見積りを、合計欄だけで比べないようにしたい。
費用倒れを考えるときは、入金額と手元に残る額を分ける
相手から受け取れる見込みの額に対し、費用がどの程度かかるか。ここは率直に相談してよい。交渉で終わる場合、調停まで進む場合、訴訟や執行が必要になる場合で、費用と時間の見通しを分けて聞く。
判決を得ても相手に資力がなければ、予定どおり回収できないことがある。不動産で受け取るなら、維持費や売却・登記・税金の負担も考える。「得られる財産の評価額」と「すぐ使える現金」は違う。
一方、期限を守るための通知、財産処分に備えた保全、散逸しそうな証拠の確保など、金額が決まる前に必要な作業もある。依頼すれば必ず得をすると考えるのでも、費用が怖いから何もしないのでもなく、まず急ぐ部分と、その後に判断できる部分を分けたい。
相談や書面の確認だけを頼む、交渉までを頼むといった範囲の絞り方も検討できる。ただし、相談だけの依頼では、相手との交渉や期限管理まで任せたことにはならない。誰が何をするのかを明確にしておく必要がある。
いま支払うお金が足りないとき
収入・資産などの条件を満たせば、法テラスの無料法律相談や、弁護士等の費用立替を利用できる場合がある。立替には審査があり、原則として返済が必要だ。無料相談と費用の免除を同じものとして考えず、利用条件や返済の扱いを公式窓口で確認する。
加入済みの弁護士費用保険などがあれば、相続紛争が対象か、問題の発生時期や待機期間、支払限度、依頼前の承認が必要かを保険会社に確認する。保険に入っているというだけで、今回の費用が出るとは限らない。
分割払いなどの相談ができるかも、依頼予定の事務所へ確認したい。支払が難しいことを隠したまま契約するより、最初に事情を伝えた方が、現実に続けられる依頼範囲を考えやすい。
予約のときは「相続の相談」から、もう一歩だけ具体的に
たとえば「遺産分割協議書案が届いた。署名の前に内容を見てほしい」「兄と交渉してほしい。調停まで進む場合の費用も知りたい」と伝える。自分が求める仕事が分かると、見積りの前提もそろいやすい。
手元にあれば、相続関係図、遺言書、協議書案、財産・債務一覧、不動産評価、預金や株式の資料、相手との連絡記録を用意する。相続開始日や、通知を受け取った日、気になる期限もメモしておく。資料が足りなくても、期限が近いなら先にその事情を伝えて予約したい。
見積書に戻ったら、もう「10%」だけには目が止まらないはずだ。その前の金額、その後の追加費用、そして任せられる仕事の範囲を見る。分からない欄を残したまま署名する必要はない。費用の説明を聞くことも、相続を依頼する最初の仕事なのだ。
公的資料・根拠
よくある質問
相続の弁護士費用は全国一律ですか
一律ではない。各弁護士の報酬基準と個別の契約で決まる。弁護士会の統一報酬基準は2004年4月1日に廃止された。
着手金を払えば調停や審判まで含まれますか
契約による。交渉、調停、審判、訴訟などの範囲と、追加の着手金や日当を確認する。
成功報酬の経済的利益とは何ですか
報酬計算の基礎となる利益のことだが、取得額や増額分など、具体的な定義は契約で確認する。不動産の評価方法も重要だ。
税理士や司法書士の費用も含まれますか
当然には含まれない。相続税申告、登記、鑑定などにかかる別費用と、依頼範囲を確認する。
見積りでは何を比べればよいですか
同じ財産資料と依頼範囲を前提に、着手金、報酬金、最低額、実費、追加業務、中途終了時の精算、支払時期を比べる。
本記事は一般的な情報提供です。個別の判断は、相続開始日、資料、契約内容などを示して弁護士へ確認してください。



