成年後見とは、認知症や知的障害などにより判断能力が不十分な方を保護するために、家庭裁判所が後見人を選任して財産管理や法律行為を支援する制度です(民法7条)。
結論から言うと、成年後見制度には毎月の費用負担・財産の自由な活用制限・一度始めたら原則として終身続くといった複数のデメリットがあるとされており、利用前に仕組みをしっかり把握しておくことが重要です。
「親の認知症が進んできた。早めに何かしておかなければ」と思い立ち、調べて最初にたどり着くのが、たいてい「成年後見制度」という言葉だ。
響きは頼もしい。後見。見守る。守ってくれる感じがする。
だが待ってほしい。「聞こえのいい名前」と「実際に動かしてみた現実」は、往々にして、かなりの距離がある。
成年後見って申し込めばいいだけじゃないの?なんか手続きが複雑そうで……
そう思っている人間が、思いのほか多い。だからこそ、デメリット側から先に知っておく価値がある。制度の恩恵を受ける前に、仕組みの全体像を把握する。それだけで、選択肢の精度がぐっと上がる。
で、結論から言うと──成年後見には「終わりがない」
で、結論から言うと、成年後見制度の最大のデメリットは「一度始めたら、原則として本人が亡くなるまで続く」という点だ。
そう。終わりが、見えない。
相続対策として「財産を動かしたい」「家族信託を組みたい」「不動産を売却したい」と考えて後見制度を申し立てる人は多い。だが実際に後見が開始されると、財産の管理権限は「家庭裁判所が選任した後見人」に移る。家族が後見人になれるケースもあるが、財産規模が大きかったり親族間で意見が割れていたりすると、見知らぬ弁護士や司法書士などの専門職後見人が選ばれる場合がある(民法843条)。
その費用が、毎月、静かに、確実に発生し続ける。

成年後見のデメリット、具体的に何が起きるか
抽象論では伝わらない。数字と事実で整理しよう。
- 費用が終身続く:専門職後見人の報酬は家庭裁判所が決定する。管理財産額が5,000万円以下の場合、月額2万円程度が目安とされているが、財産規模が大きいほど報酬も増える傾向がある。10年続けば、総額240万円以上になる可能性がある。
- 財産の自由な活用が制限される:後見人は「本人の利益」を最優先に動く義務がある(民法869条・644条)。つまり、「節税対策のための生前贈与をしたい」「孫への教育資金を渡したい」といった家族側の意向は、後見人に却下される場合がある。
- 家族信託との併用はほぼ不可:後見開始後に家族信託契約を新たに結ぶことは、本人の判断能力が失われている以上、原則として困難とされている。順序を間違えると、選択肢が一気に狭まる。
- 一度開始したら、途中でやめられない:「やっぱり家族で管理したい」と思っても、後見開始の審判を取り消すことは原則できない(民法10条の解釈上、回復が認められた場合を除く)。
これらが「費用」「自由度」「柔軟性」という三方向から、同時に押し寄せてくる。なかなかの圧力だ。
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それでも成年後見が「必要になる場面」はある
デメリットを並べたからといって、制度全否定をするつもりはない。むしろ逆だ。
成年後見が本領を発揮するのは、「すでに判断能力が失われた人を、外部の詐欺・悪徳業者・あるいは身内の一部から守る必要がある場面」だ。具体的には、こうなる。
- 認知症が進行し、預金の不正引き出しが疑われる場合
- 遺産分割協議に参加できない相続人がいる場合(成年後見人が代理人として協議に参加できる)
- 施設入所の契約など、本人が意思表示できない法律行為が必要な場面
特に「相続人の中に認知症の方がいる」ケースでは、遺産分割協議そのものが無効になりかねない(民法3条の2)。全相続人の合意が必要な遺産分割協議において、判断能力のない人が署名しても、それは有効な意思表示とは言えないからだ。こういう場面では、後見制度が「手続きを前に進めるための唯一の手段」になることがある。

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「始める前に知るべき」3つの判断軸
成年後見を検討するとき、事前に整理しておきたいのは次の3点だ。読者が自分で動けるよう、判断基準として提示する。
① 判断能力はどの程度か
成年後見制度には「後見」「保佐」「補助」の3類型がある(民法7条・11条・15条)。判断能力の程度によって選ぶ類型が変わり、「補助」であれば制限される行為の範囲が最も狭い。まず医師の診断書をもとに、どの類型に当たるかを把握することが出発点になる。
② 後見開始前に家族信託・任意後見を検討したか
判断能力が「まだある」うちに動けるなら、法定後見よりも柔軟な「任意後見契約」(任意後見契約に関する法律2条)や「家族信託」を先に検討する余地がある。これらは本人の意思を最大限に反映した設計が可能で、財産の活用自由度が大きく異なる。
③ 財産規模と費用負担のバランスを試算したか
管理財産が少額の場合、専門職後見人の報酬が毎年かさむことで、相続財産そのものが目減りしていくケースがある。後見制度の利用期間が長くなるほど、この影響は無視できなくなる。事前に「想定される後見期間 × 月額報酬」を概算するだけでも、判断の材料が増える。
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よくある質問
成年後見を申し立てたら、必ず専門職後見人が選ばれますか
必ずしもそうとは限りませんが、親族間に意見の対立がある場合や管理財産が複雑な場合には、家庭裁判所が弁護士・司法書士などの専門職後見人を選任する可能性があるとされています(民法843条4項)。申立時に「候補者」を推薦することはできますが、最終的な選任は家庭裁判所の判断によります。
成年後見を始めた後、やめることはできますか
一度開始された後見は、本人の判断能力が回復したと認められない限り、原則として取り消すことができないとされています(民法10条)。「財産の管理が一段落した」などの理由では終了できないため、開始前に十分な検討が必要です。
遺産分割協議に認知症の相続人がいる場合、どう対応しますか
判断能力がない状態の相続人が署名した遺産分割協議書は、有効な意思表示とみなされない可能性があります(民法3条の2)。この場合、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、選任された後見人が本人を代理して協議に参加する方法が取られる場合があります。
成年後見の申立費用はどのくらいかかりますか
申立手数料(800円程度)のほか、鑑定費用(5万〜10万円程度)や診断書費用が必要になる場合があります。また、後見開始後は後見人への報酬が継続的に発生するため、初期費用と継続費用の両面から試算しておくことが望ましいとされています。
任意後見と法定後見の違いは何ですか
任意後見は、本人の判断能力があるうちに自ら契約内容を決めて後見人を指定できる制度です(任意後見契約に関する法律2条)。一方、法定後見(成年後見・保佐・補助)は、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任する制度です(民法7条)。自由度と費用負担の面で両者には大きな違いがあるとされています。
デメリットを先に知っておくだけで、こんなに選択肢が変わるんだな。早めに調べてよかった。
制度の名前だけ聞いて「これを使えばいい」と飛びつくのではなく、仕組みとデメリットを先に把握してから動く。それだけで、後から「こんなはずじゃなかった」という展開をかなり減らすことができる。
成年後見が必要な場面は確かに存在する。だが、「判断能力があるうちに家族信託や任意後見を整えておく」という選択肢と比較した上で、どちらが自分たちの状況に合っているかを考える。それが、今できる最も有益な一手だ。
けっこう大事なことなので、書きました。伝わりましたかね。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。





