生前贈与の証拠は何を残す?契約書・振込・管理実態の確認点

「毎年、子どもの口座にお金を入れていたから」。父の相続で、家族はそう説明した。ところが通帳と印鑑は父の引き出しにあり、子どもは残高どころか、口座があることも知らなかった。

別の家では、同じように親から送金を受けていたが、契約書が残り、子ども自身が口座を管理していた。送金額だけを並べれば似ていても、そのお金が誰のものになったのかを説明する資料は違う。

生前贈与の証拠は、合意、財産の移転、その後の管理をつないで残すことが大切だ。契約書や振込明細の一つだけで安心せず、実際に何が行われたのかを、後から確認できる形にしておきたい。

契約書がなくても成立し得るが、説明できる資料は必要になる

民法549条では、財産を無償で与える意思表示と、相手の受諾によって贈与の効力が生じる。口頭の合意でも成立し得るため、「契約書がないから必ず贈与ではない」とはいえない。

ただし、書面によらない贈与は、履行が終わっていない部分について各当事者が解除できる。何より、贈与した本人が亡くなった後は、いつ、何を、どの条件で約束したのかを確かめにくくなる。

「渡すつもりだった」「子どものために貯めていた」という気持ちと、既に贈与したことも別だ。贈与するなら、その時点の合意と実行を残す。将来渡す予定なら、既に渡したものとして記録しないようにする。

残す資料は、五つの役割で考える

資料 主に説明すること それだけでは分からないこと
贈与契約書 当事者、対象、時期、合意内容 実際に移転したか、その後の管理
振込明細・受領書等 財産がいつどこへ動いたか 贈与か貸付け・預け金か
管理・利用の記録 誰が使い方や運用を決めたか 当初の合意内容すべて
手紙・メール等 受贈者の認識、受諾、やり取り 財産移転の実行
必要な税申告と納付記録 申告した贈与内容、納税 贈与の実態が必ずあること

どれか一つの書類を増やすより、資料同士が同じ事実を示しているかを見る。契約書では子へ渡したことになっているのに、父が自由に引き出して自分の生活費にしていたなら、その理由が問題になる。

贈与契約書には、後から読んでも分かる内容を書く

贈与者と受贈者、贈与する財産、合意した日、移転方法などを記載する。金銭なら金額と振込先、不動産なら物件の表示、株式なら会社名や株式数等、対象を特定できるようにする。

受贈者が内容を理解し、受け取ることに合意していたことも重要だ。親だけで書類を作って保管するのではなく、双方が内容を確認して、それぞれ控えを持つ。

不動産の登記や株式の名義書換えなど、財産によって必要となる手続も併せて確認する。契約書を作れば、名義変更や税務手続まで自動的に済むわけではない。

過去の贈与を整理するとき、日付を遡らせない

何年も前の送金について書面を残していなかったことに、後で気づく場合もある。そのときは、今ある振込記録、当時のメール、記憶を分けて整理する。

現在作る確認書や経緯のメモには、作成日と、確認できる過去の事実を区別して書く。当時作成したような日付や署名を後から整えると、資料全体の信用に関わる。

当事者の一方が亡くなっている場合などは、残った資料だけで何が説明できるかを弁護士・税理士に見てもらう。書面が足りないからといって、なかった事実を補うことはできない。

振込記録と、贈与後の管理をセットで残す

金銭なら、贈与者から受贈者への銀行振込は、日付、金額、資金の流れが残る。現金で渡す場合は受領書等も用意する。

ただし、同じ送金でも、借金の返済、生活費を一時的に預けたもの、立替金の精算かもしれない。振込明細に、契約書や贈与内容を確認したやり取りを対応させると、送金の意味を説明しやすくなる。

贈与後は、受贈者が自分の財産として管理できる状態を整える。通帳、届出印、カード、ネットバンキングの認証手段を誰が持ち、入出金や運用を誰が決めたかも確認される。

贈与を証明するために無理に使い切る必要はない。貯蓄を続ける場合でも、誰の判断で残しているのか、贈与者が自分のお金として使っていないかが大切だ。

名義預金は、通帳の名前だけでは決まらない

子や孫の名義でも、実質的には親の財産なら、親の相続財産として扱われることがある。原資を出した人、贈与の合意、口座を作った経緯、管理・運用、利益の帰属などを総合して確認する。

そのため、「親が資金を出したから絶対に親の財産」「子の名義だから絶対に子の財産」という判断はできない。原資を親が出すのは贈与でも同じだからだ。

親が子名義口座を使って、自分の医療費を支払うために資金を預けた場合も、子への贈与とは限らない。何のために移したのか、残金をどう扱う約束だったのかまで確認する。

未成年者の口座を親が管理している場合

幼い子の口座を親が管理すること自体は不自然ではない。通帳を親が保管しているという一事だけで、贈与が成立していないと決めることはできない。

一方で、子名義にしておけば何も問題がないわけでもない。誰が子のために受諾したか、誰の財産として管理しているか、親自身の財産と区別されているかを確認する。

祖父母から孫への贈与、親から子への贈与では、代理する人の立場も変わる。負担付きの贈与などを含め、代理や利益相反の確認が必要な場合は実行前に相談したい。

贈与税を申告すれば、実態の確認が不要になるわけではない

申告書と納付記録も証拠の一つだ。ただし、申告したことだけで、当事者の合意や財産移転が確定するわけではない。契約書と資金の流れ、管理の実態を併せて残す。

暦年課税の基礎控除110万円は、原則として受贈者がその年に受けた対象贈与の合計について考える。父から110万円、母から110万円なら、それぞれ別枠で必ず申告不要ということではない。

申告が必要な場合、原則として受贈者が翌年2月1日から3月15日までに申告・納税する。特例や相続時精算課税を利用する場合は、申告・届出の条件を別に確認する。

申告義務のない贈与でも、合意や移転の記録は残したい。逆に、証拠作りのためだけに不要な課税を生じさせればよい、という話でもない。

毎年の贈与は、金額を変えるより約束の内容を確かめる

「毎年同じ日に同じ金額を渡すと、全部まとめて課税される」と聞いて、送金日をずらす人もいる。しかし、確認すべき中心は、日付の見た目ではなく合意の内容だ。

国税庁は、毎年その都度贈与契約を結んで実行する場合と、最初から10年間毎年一定額を渡すと約束した場合を区別している。後者では、定期金を受け取る権利の贈与が問題となる。

各年に何を合意して、いくら移し、誰が管理したかを記録する。毎年の契約書はその助けになるが、実際には最初から総額を約束していたのに、紙だけ年ごとに分ければよいわけではない。

贈与が成立していても、相続税に加算される場合がある

贈与の成立と、その後の相続税の計算も分けて考えたい。有効な贈与であっても、相続や遺贈で財産を取得した人への一定の暦年贈与は、相続税の課税価格へ加算される。

加算対象期間は段階的に延長される。相続開始が2026年末までなら原則として相続開始前3年以内、2027年から2030年は2024年1月1日以降の期間、2031年以後は原則7年以内となる。延長部分には総額100万円の控除があり、対象者や例外も確認する。

基礎控除110万円以下で贈与税がかからなかったことだけで、この加算から外れるわけではない。また、相続時精算課税は別の計算になる。

「3年たったから契約書を捨てる」といった一律の保存期限を決めず、贈与と相続の両方を説明できるよう、長期保存を考えておきたい。

年ごとのファイルに、合意から申告までをまとめる

その年の契約書、振込明細、受諾のやり取り、管理・名義変更の資料、必要な申告と納付記録をまとめる。不動産や株式では評価の資料も残す。

贈与者と受贈者の記録が食い違っていないかも確認する。親の財産一覧では既に渡したことになっているのに、子は預かっているだけと思っていた、という行き違いをそのままにしない。

対策全体は相続対策の始め方、希望を残すことと法的な準備の違いは終活と相続対策の違いでも確認できる。

過去の贈与に不明点がある場合や高額な贈与では、資料をまとめて弁護士・税理士へ相談する。税務を依頼する範囲や費用は相続税申告の税理士費用と見積りも参考になる。

親が残したかったのは、お金と、子の暮らしを支える気持ちだったはずだ。その気持ちを後の説明の難しさで曖昧にしないよう、今できる合意と記録を、一緒に残しておこう。

公的資料・根拠

よくある質問

贈与契約書がないと贈与は無効ですか

口頭の合意でも成立し得る。ただし、書面によらない贈与の未履行部分は解除の問題があり、合意や実行を説明する資料を残すことが重要となる。

振込明細だけで贈与を証明できますか

送金の事実は示せるが、貸付けや預け金との区別、受諾や管理の実態も確認する。

贈与税を申告すれば必ず贈与と認められますか

申告と納付も証拠の一つだが、それだけで実態が確定するわけではない。合意、移転、管理を併せて確認する。

毎年同額を贈ると必ずまとめて課税されますか

同額という事情だけでは決まらない。各年に個別の合意をしたか、最初から複数年の給付を約束したかを確認する。

未成年の通帳を親が持つと必ず名義預金ですか

保管者だけでは決まらない。子のための受諾、誰の財産として管理しているかなどを個別に確認する。

本記事は一般的な情報提供です。個別の対応は、相続開始日、財産・家族関係の資料を示して弁護士・税理士等へ確認してください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

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