相続時精算課税の2,500万円は、選んだ贈与者からの贈与について、何年かに分けて使う累計の特別控除だ。
毎年2,500万円を使えるわけではない。相続税の計算から2,500万円を消す制度でもない。
父の恒男は、息子の祐介へ二年に分けて資金を渡したい。母の紗世は「2,500万円までは手続も要らないのか」と尋ねた。祐介は、二年目の贈与税と、父の相続時の計算が気になる。
架空の家族で考えよう。2026年から制度の対象条件を満たし、過去に特別控除を使っていないと仮定する。
2024年以後は、まず年110万円の基礎控除を使い、その後に2,500万円の残額を使う。この記事では、贈与者が1人の場合、複数の場合、相続時の計算の順に、金額を追って整理する。
計算は、基礎控除、特別控除、20%の順
対象者の条件を満たし、期限内に選択届出をしたことを前提に、特定贈与者ごとに次の順で計算する。年110万円を使えるのは2024年1月1日以後の贈与である。
- その年の対象贈与財産を、贈与時の価額で合計する。
- その贈与者に対応する年110万円の基礎控除額を差し引く。
- 2,500万円から過去の使用額を差し引いた特別控除残額を使う。
- なお残る額に20%を掛け、贈与税を計算する。
年110万円の基礎控除で、余った額は翌年へ持ち越せない。累計2,500万円の特別控除は、使った額を引き、残りを翌年以後も管理する。
二つをまとめて「非課税枠」と呼ぶと、相続時の扱いを取り違えやすい。
例1 父から1年目1,000万円、2年目2,000万円を受け取る
祐介が父から、2026年に1,000万円、2027年に2,000万円を受け取る仮の例を考える。
過去に特別控除を使っておらず、ほかに精算課税を選んだ贈与者はいない。両年とも、必要な手続を期限内に行うとする。
| 計算項目 | 2026年 | 2027年 |
|---|---|---|
| 贈与額 | 1,000万円 | 2,000万円 |
| 基礎控除後 | 890万円 | 1,890万円 |
| 使う特別控除 | 890万円 | 1,610万円 |
| 税率を 掛ける額 |
0円 | 280万円 |
| 贈与税 | 0円 | 56万円 |
| 特別控除の 翌年残額 |
1,610万円 | 0円 |
二年目は、年110万円を引いた1,890万円から、残りの特別控除1,610万円を引く。残る280万円×20%=56万円が贈与税だ。
一年目の申告控えにある使用額を、二年目の計算へ引き継ごう。
特別控除を使い切った後も、2024年以後の各年の基礎控除110万円は別に使える。
同じ年に、ほかにも精算課税を選んだ贈与者から受け取る場合は、110万円を分けて配分する。
祐介が受け取る合計は3,000万円だが、二年目の贈与税56万円を払う現金も要る。家や株式の評価額と、納税に使える現金は別だ。
父の生活・介護資金も先に確認しよう。3,000万円を受け取れば、その分だけ節税できるという意味ではない。
例2 父母から同じ年に、それぞれ1,100万円を受け取る
例1とは別に、父と母の両方について精算課税を選び、同じ年に各1,100万円、合計2,200万円を受け取る案を考える。
年110万円の基礎控除は、受け取る人一人の年額だ。贈与額の割合で父と母へ分けるので、この例では各55万円になる。
各1,100万円から55万円を引くと、父分も母分も1,045万円だ。
過去に特別控除を使っていなければ、父の枠から1,045万円、母の枠から1,045万円を引く。残る枠も、各1,455万円として別に管理する。
「父母それぞれに年110万円を控除する」「父の未使用の2,500万円枠を母の贈与へ回す」という計算はできない。基礎控除は贈与を受ける人単位、特別控除は贈与者単位という違いは、国税庁の複数贈与者の案内でも確認できる。
相続時に加算するのは、特別控除を引く前の金額
2026年分 890万円
+ 2027年分 1,890万円
= 2,780万円
各年の基礎控除後の合計だ。ここから特別控除2,500万円を、もう一度引くことはできない。
2,780万円は、税額そのものではない。ほかの財産、借金、相続人や控除も確認する。
例1で納めた56万円を、対応する相続税額から引く。引ききれない額は、相続税の申告で還付を受けられる。
2023年以前の贈与には、年110万円の基礎控除がなかった。その年分を今から110万円ずつ減らすことはできない。
暦年課税の3年・7年という加算期間を過ぎても、精算課税の対象財産は原則として精算する。
相続時に残っている財産だけで基礎控除を下回るかを判断せず、過去の精算課税贈与も集計する。申告義務と還付については相続時精算課税の選択と相続税の申告義務を参照できる。
紗世は、相続時に加える2,780万円が、父の相続税額そのものではないと分かった。
ほかの財産、借金等の債務、相続人、控除等も確かめて税を計算し、すでに払った贈与税56万円と精算する。生前に財産を移す仕組みと、将来の税をすべて免除する仕組みは区別しよう。
税額0円でも、特別控除には期限内申告が必要
特別控除2,500万円を使うには、贈与税の期限内申告が必要だ。通常は、贈与の翌年2月1日〜3月15日に申告する。
初めて選ぶ年は、選択届出書と必要な添付書類も出す。
例1の一年目は税額0円でも、890万円の特別控除を使うため、申告が要る。
選択済みで、その年の精算課税の贈与が全体で110万円以下なら申告不要、という扱いとは分けよう。
土地や非上場株式を110万円以下と判断して申告せず、後で評価額が上回ると分かる場合がある。非上場株式は、取引所に上場していない会社の株式だ。
期限後の申告では特別控除を使えず、基礎控除後の額に20%がかかる問題が生じる。評価と手続を、期限前に確かめよう。
値下がりと災害は、異なる問題として考える
精算課税では、原則として贈与時の価額を基に、相続時に加える額を計算する。
2026年に評価1,000万円だった財産が、その後600万円へ下がっても、通常の値下がりだけで加算額を600万円に置き換えることはできない。
災害で土地・建物そのものに一定の被害が出た場合は、別の特例がある。2024年1月1日以後の災害で、贈与された土地・建物に物理的な損失が生じ、税務署長の承認を受けること等が条件だ。
贈与日から災害日までの継続所有や、所定の被災割合が10分の1以上であること等も確かめる。被害は、贈与日から贈与者の死亡に係る相続税の申告期限までの間に受けたものである必要がある。
周辺の交通事情が悪化して地価が下がったといった経済的損失だけでは、この特例の対象にならない。承認申請は原則として災害発生日から3年以内で、死亡や期限延長に関する別の扱いもある。詳細は国税庁の土地・建物の価額の特例に関する質疑応答で確認する。
年別一覧には、相続時の加算額まで残す
贈る人ごとに、年、財産、贈与時の価額、年110万円の配分、特別控除の使用額と残額、納付税額、将来の加算額を残そう。
申告書と評価資料も保管し、担当税理士が変わっても引き継げるようにする。
制度を選ぶ前の全体像は相続時精算課税の選択と手続、不動産の小規模宅地等の特例との比較や撤回できない点は相続時精算課税のデメリットで整理している。
恒男と祐介は、例1の二年目の税56万円、特別控除の残額0円、将来の加算2,780万円を分けて記録した。
母からも受け取る例2は、父母別に計算し、二つの例を混ぜない。税額、加える価額、家族に残る現金を比べてから選ぼう。
ほかにも確認する手続がある場合は、生前贈与の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
2,500万円は毎年使えるか
特定贈与者ごとの累計枠である。過去に使った金額を差し引いた残額だけを使う。
2,500万円控除を使い切ると年110万円も使えないか
年110万円の基礎控除は別の仕組みなので、2024年以後の各年に使える。複数の特定贈与者から受ければ按分する。
税額0円なら特別控除の申告は不要か
不要ではない。2,500万円の特別控除には期限内の贈与税申告が必要である。
相続時には贈与額から2,500万円を引くか
引かない。原則として2024年以後分は、贈与時の価額から各年の基礎控除を引いた額を加算する。
値下がりした不動産は相続時の時価で加算できるか
通常の値下がりでは贈与時の価額を基にする。一定の災害による物理的損失には、承認を要する別の特例がある。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



