「妻に全部」と書いたメモに、子どもの名前を書き足す。長男にはこの土地、長女には預金の一部。考えている財産の総額は変わらない。それでも、公正証書遺言の手数料は変わることがある。
財産をいくら持っているかだけでなく、誰に、いくら遺すか。その組合せで計算するからだ。「財産5,000万円なら料金表のこの欄」と一度だけ指で追うと、見積りと合わなくなる。
公正証書遺言の公証人手数料は、受け取る人ごとに計算した額を合算し、遺言加算や交付費用などを加えて求める。2025年10月1日に改定されているため、古い料金表にも注意したい。
まず仕組みを知り、そのうえで自分の案を公証役場へ持っていく。相談そのものは無料だ。家族への思いを料金表に合わせる必要はないが、何にお金がかかるかが分かれば、準備はずっと進めやすくなる。
5,000万円を一人に遺す場合と、二人に分ける場合
財産の価額が5,000万円で、全額を一人に相続させる単純な例なら、目的価額による手数料は3万3,000円。全体が1億円以下なので、遺言加算1万3,000円を足すと4万6,000円となる。
これを、長男へ3,000万円、長女へ2,000万円とする。各人の価額はいずれも「1,000万円超3,000万円以下」に入り、一人につき2万6,000円。二人分5万2,000円に遺言加算1万3,000円を足し、6万5,000円となる。
どちらも財産総額は5,000万円。それでも、この基本部分だけで1万9,000円違う。受取人ごとに手数料を計算する、というのはこういうことだ。
ここで示した金額には、交付費用、証人の謝礼、出張費、専門家への依頼料などは含めていない。ほかの条項による加算もないと仮定した計算例で、当事務所の料金表示や総額見積りではない。
手元の料金表は、2025年10月以後のものか
数年前に調べたメモを残している人もいるだろう。そこに「500万円以下は1万1,000円」「1,000万円以下は1万7,000円」とあれば、その金額を現行表として使わないことだ。遺言加算も、以前の1万1,000円から1万3,000円に変わっている。
現在の主な区分は次のとおり。ここへ当てはめるのは、相続または遺贈を受ける人ごとの財産価額になる。
| 受け取る人ごとの目的価額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超500万円以下 | 1万3,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 2万円 |
| 1,000万円超3,000万円以下 | 2万6,000円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 3万3,000円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 4万9,000円 |
1億円を超える場合も、次の段階で計算する。超過額について「5,000万円までごと」に加算するため、端数があればその区分に入る。
- 1億円超3億円以下:4万9,000円に、1億円を超える部分5,000万円までごとに1万5,000円を加える。
- 3億円超10億円以下:10万9,000円に、3億円を超える部分5,000万円までごとに1万3,000円を加える。
- 10億円超:29万1,000円に、10億円を超える部分5,000万円までごとに9,000円を加える。
各人の手数料を合算した後、遺言の対象となる財産全体が1億円以下なら、遺言加算1万3,000円を加える。これは受取人一人ごとに1万3,000円を重ねる計算ではない。
土地の値段が曖昧なままでは、見積りも固まらない
「実家はたぶん3,000万円くらい」。最初の相談では、そこからでも構わない。ただ、売れそうな値段と手数料を算定するための評価を、最初から同じと決めない方がよい。
不動産は登記や固定資産評価の資料、預貯金は残高、株式は保有銘柄・株数や価額を確認できる資料などを用意し、公証役場に評価方法を確認する。共有物なら、自分が遺言で処分する持分も整理する。
遺言の中には、財産の配分以外の希望も入る。例えば祭祀主宰者の指定は、現行表で1万3,000円の手数料が示されている。予備的な条項や信託などを設ける場合も、文案に応じて確認が必要だ。
下書きの最後に希望を一行足したら、その部分も公証役場へ伝える。財産額だけを電話で告げたときの概算が、最終文案の総額とは限らない。
電子データでも、交付費用はある
作成した原本は公証人が保管する。本人が受け取る従来の正本・謄本に相当するものには、別に交付手数料がかかる。
電子データでの交付は各1通2,500円。書面で交付する場合は1枚300円となる。必要な通数、電子か紙か、送付が必要かを、見積りの段階で確認しておきたい。
原本の枚数による加算もある。電子の公正証書原本を紙に出力した場合の枚数が3枚を超えると、超える1枚につき300円が加算される。例外的に書面で作成する公正証書は4枚を超える場合という別の扱いがあるため、作成方法を確認する。
「電子になったから書類関係はすべて無料」と覚えると、請求時に小さな食い違いが残る。内訳を知っておけば驚く費用ではない。
病院や自宅で作るときは、時間と移動の費用も
本人が公証役場へ出向けない場合には、公証人の出張を相談できる。病院、自宅、老人ホームや介護施設などでの作成が考えられるが、日程や対応地域の確認が必要になる。
病床での執務では、目的価額によって算定する手数料に50%が加算される場合がある。遺言加算までまとめて1.5倍にする計算ではない。
出張には、日当1日2万円、4時間以内なら1万円と交通費もかかる。単に「出張費込みか」と聞くだけでなく、病床加算、日当、交通費を分けて確認すると分かりやすい。
ただし、一番急ぐべき確認は金額だけではない。本人が何を誰に遺したいのかを理解し、その意思を伝えられるか。遺言能力は作成時に必要で、家族が代わりに決めておけばよい手続ではない。
話すことや聞くことが難しい場合には、意思を伝えるための法定の方法もある。病状、意思疎通の方法、必要資料、公証人と証人の予定を早めに相談したい。出張を予約して費用を用意すれば、必ず作成できるというものではない。
子ども二人に立ち会ってもらえばよい、とは限らない
公正証書遺言には、証人二人以上の立会いが必要となる。そこで近くにいる家族を思い浮かべても、証人になれるとは限らない。
未成年者、推定相続人や受遺者、その配偶者・直系血族などは証人になれない。公証人自身との一定の関係による欠格事由もある。「財産をもらわない予定の子だから大丈夫」と決めず、続柄や関係を伝えて確認する。
適格な知人に頼めるか、公証役場や依頼する専門家に紹介を相談するか。証人を誰が手配するかが決まると、謝礼等の確認も進む。
証人の謝礼や紹介に伴う費用は、公証人手数料と同じ全国一律の額ではない。二人分でいくらか、交通費等を含むか、専門家報酬の中に証人の手配が含まれるかを確認したい。
弁護士などへ依頼する費用は、どこまで頼むかで変わる
公証役場への相談と、弁護士などに遺言の設計や準備を依頼することは、費用の確認先が異なる。専門家への報酬に、公証人の手数料が含まれるのか、実費として別に払うのかを見ておく。
財産や相続人の調査、遺留分を踏まえた配分の検討、文案の調整、公証役場との連絡、証人の手配。当日の立会いだけか、そこまで頼むのかで仕事の範囲は違う。遺言執行者への就任を依頼する場合も、将来の執行報酬は作成費用とは分けて確認したい。
公正証書にすれば家庭裁判所の検認は不要となり、原本も保管される。ただ、公正証書であることだけで、遺言能力や内容をめぐる争いがすべてなくなるわけではない。
方式の比較は遺言書3種類の違い、遺言で実現できることは遺言書の効力も確認すると、どこに準備をかけたいかが見えてくる。
見積りを頼むときは、財産の横に受取人を書く
完成した法律文書を持っていく必要はない。不動産、預貯金、株式などの一覧に、誰に何を遺したいかを書き添える。相続関係や受遺者が分かる資料、出張や証人手配の希望も一緒に伝える。
まだ迷っている部分には「未定」と書いてよい。案が変われば、内容だけでなく見積りも更新してもらう。最終的には、公証人手数料、加算、交付・出張、証人、専門家報酬を並べ、支払先と総額を確認する。
最初に子どもの名前を書き足したメモへ戻ろう。大切なのは、一人にまとめれば手数料が安くなる、という発見だけではない。その人に遺したいものが何だったかだ。費用を確かめる作業は、その希望を実現する準備の一部になる。
公的資料・根拠
よくある質問
公正証書遺言の手数料は財産総額だけで決まりますか
受け取る人ごとに財産価額から手数料を計算して合算する。同じ総額でも配分や受取人の人数で変わる。
遺言加算はいくらですか
遺言の対象となる財産全体が1億円以下なら、現行の遺言加算は1万3,000円だ。受取人ごとに重ねるものではない。
2025年10月に手数料は変わりましたか
2025年10月1日に改定された。例えば200万円超500万円以下は1万3,000円となり、遺言加算も改定されている。
病院や自宅へ公証人に来てもらえますか
出張を相談できる。対応地域、日程、本人の意思確認に加え、病床加算、日当、交通費を確認する。
子どもを証人にできますか
推定相続人などの欠格事由に該当する人は証人になれない。遺言で財産を渡さない予定でも、続柄や関係を確認する必要がある。
本記事は2026年9月11日確認時点の一般的な情報提供です。個別の費用・対応は、財産や依頼範囲、必要資料を示して公証役場・依頼先の専門家へ確認してください。



