兄弟と絶縁しても相続権は消えない。公正証書・遺言・話し合いの違い。別々の方向を向いて書類を持つ架空の姉弟。

兄弟と絶縁しても相続権は消えない|公正証書・遺言・協議の扱い

兄弟との不仲や絶縁だけで、親族関係や相続権が消えるわけではない。絶縁状を送り、公正証書にしても、それだけで法定相続人(法律で相続人になると決められた人)から外すことはできない。

相続人・遺言・財産・期限を確認し、協議できなければ家庭裁判所の調停(裁判所で調停委員を交えて話し合う手続き)・審判へ進む。「関わりたくない」という気持ちと、相続手続をどう動かすかは、分けて考えよう。

父の葬儀の翌朝、恵美のスマホに、八年ぶりに兄の修から連絡が来た。「父さんの通帳の写しを送ってほしい」。お悔やみより先にお金の話か。そう思った瞬間、恵美は返信画面を閉じた。

母はすでに亡くなっている。父の通院に付き添い、病院からの電話に出ていたのは恵美だった。修は遠方で暮らし、家を空けにくい事情があった。それは分かっている。それでも、助けてほしいと頼んだ日に「今は無理」と返された記憶が、恵美には残っていた。

修にも、妹から「もう連絡しないで」と言われ、父の様子やお金の管理が分からなくなったという思いがあった。通帳を見せてほしいという一文の中身は、二人の頭の中で違っていた。

「絶縁している兄を、相続の話に入れなければいけないのか」。この記事は、この架空の家族を通じて考える。仲直りをするかどうかと、相続の手続を進めることは、同じ宿題ではない。

相続人の順序は、国税庁「相続人の範囲と法定相続分」でも確認できる。

絶縁状を公正証書にしても、戸籍は書き換わらない

口で言うだけでは弱い気がする。だから紙にする。さらに公正証書にすれば、今度こそ法的に縁を切れるのではないか。

恵美は、以前修へ送った「今後は家族として付き合わない」というメールを読み返した。公正証書なら、今度こそ違うのではないかと考えた。だが、公正証書という形式は、法律にない「兄の相続権を妹が消す力」を作るものではない。

考えたくなる順番としては、よく分かる。だが、書類を立派にすることと、法律にない効果を生み出すことは別の話だ。

私的な絶縁状、連絡の拒否、「今後は関わらない」という約束。それらを理由に戸籍上の親族関係や法定相続人の地位を消す制度はない。公正証書にしても、そこへ相続権を消滅させる効果が付け足されるわけではない。

誰が相続人になるかは、亡くなった時の家族関係をもとに確かめる。相続欠格・廃除・相続放棄がないかも確認する。遺言は、誰にどの財産を渡すかを決めるものだ。遺言で財産をもらえなくても、相続人でなくなるとは限らない。

親の相続で兄弟がともに相続人になるなら、仲が悪い一人を外して分け方を決めることはできない。相続人を漏らして話し合いを終えた場合は、その合意が有効か、やり直しが必要かを確認する。

なぜ、仲が悪くても全員の参加が必要なのか。仮に「嫌いだから外してよい」としたら、声の大きい家族が、ほかの相続人の財産の権利を一方的に失わせることができてしまう。修に権利がある以上、恵美だけでその取り分を決められない。反対に、修だけで恵美を外すこともできない。

全員の合意を確かめることは、自分が勝手に外されないための仕組みでもある。

もっとも、相続人であることと、必ず同額を受け取ることは別だ。遺言や生前贈与などの事情を確かめる必要がある。恵美の特別な介護が父の財産を守ったなら、兄を外す話にせず、寄与分(遺産を守ったり増やしたりする特別な貢献に応じて、相続の取り分に上乗せする額)として取り分の調整を考える道もある。「関わってほしくない」という気持ちの奥にある問題を、制度ごとに分けていくのだ。

「相続人から外す方法」を探す前に、誰が使える制度なのかを確認する

親の相続と、自分の相続では入口が違う
親の相続ではあなたも兄弟も親の子として相続人になる。自分の相続では、子やその子孫、父母・祖父母などの先順位の人がいないときに兄弟姉妹の順位になる。図を大きく表示(別タブ)

一般的な相続の順序を示した図。戸籍、死亡の前後、相続放棄、欠格・廃除等は別に確認する。遺言の扱いと遺留分は本文で分けて考える。

図の内容を文章で確認する
  1. 親が亡くなった場合

    あなたも兄弟も、その親の子。絶縁の約束だけで、兄弟の相続権は消えない。亡くなった親に配偶者がいれば、その配偶者も相続人になる。

  2. あなたが亡くなった場合

    子やその代わりに相続する子孫、父母・祖父母など、先順位の相続人がいないときに兄弟姉妹の順位になる。あなたの配偶者がいれば、一緒に相続人になる。

絶縁で駄目なら、別の方法はないのか。検索を続けると、欠格、廃除、放棄、遺言という言葉が出てくる。

ここで、いったん手を止めてほしい。名前が似た方向を向いていても、誰が、何を理由に、どんな手続をする制度なのかが違う。

相続欠格は、不仲への罰ではない

民法891条は、相続人になることができない事由を定めている。たとえば、亡くなった人や相続について先順位・同順位の人を故意に死亡させ、または死亡させようとして、刑に処せられた場合。詐欺・強迫で遺言を妨げたりさせたりした場合、相続に関する遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合なども、同条が定める事由に含まれる。

ただし、遺言書を破棄・隠匿したという外形だけで、直ちに欠格と決まるわけでもない。相続に関して不当な利益を得る目的がなかった場合には、破棄・隠匿だけで欠格には当たらない。行為と目的を、資料から確かめる必要がある。

単なる不仲や連絡拒否を、この箱に入れることはできない。「家族としてどうなのか」という評価と、法律上の欠格事由に当たるかは別の判断になる。

廃除を求められるのは、相続人同士ではなく亡くなった人

民法892条・893条の廃除は、遺留分を持つ推定相続人から虐待・重大な侮辱を受けた場合や、その他の著しい非行がある場合に、亡くなった人が家庭裁判所へ請求する制度だ。遺言で廃除の意思を示した場合には、遺言執行者(遺言の内容を実現するために必要な手続きを進める人)が家庭裁判所へ請求する。

つまり、兄弟の一人が「あいつを外してほしい」と、別の兄弟を一方的に廃除する仕組みではない。亡くなった人自身の兄弟姉妹は遺留分(一定の近い家族に法律で保障された最低限の取り分)を持たないため、そもそも廃除の対象にならない。検索で制度名を見つけても、自分が使える手続とは限らないのである。

相続放棄は「何もいらない」の一言では終わらない

相続放棄は、相続が始まった後、相続人本人が家庭裁判所へ申述する手続だ。原則として、自分のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に行う。

生前に「相続しない」と約束することや、遺産分割協議で財産を受け取らないこととは違う。財産を受け取らないという協議をしても、それだけで債権者への相続債務を免れるわけではない。家族への宣言と、家庭裁判所で行う相続放棄。この二つを同じものとして進めないことが大切だ。

遺言を考えるときは「誰の相続か」を取り違えない

遺言では、相続分や遺産分割方法を指定し、決まった財産を引き継がせることができる。ただし、子や配偶者など遺留分を持つ相続人には、遺留分侵害額請求が生じることがある。

一方、亡くなった人の兄弟姉妹には遺留分がない。兄弟姉妹が法定相続人になる場面なら、適式な遺言で他の人に財産を引き継がせることが、兄弟姉妹への承継を避ける有力な方法になる。もちろん、遺言で親族関係そのものが消えるわけではない。

ここは検索中に混線しやすい。「兄弟には遺留分がない」という説明を読んでも、親の相続で自分と兄がともに「子」として相続人になる場合には、そのまま当てはめられない。まず紙の一番上に、亡くなったのが誰かを書く。制度の読み違いは、そこから防げる。

絶縁した兄弟へ連絡する前に、相続人・財産・分割案を整理する

恵美が返信を止めている間、修は「通帳を見せたくない理由があるのか」と不安を募らせていた。恵美は要求の仕方に傷つき、修は情報が届かないことにいら立つ。このすれ違いを、そのまま分け方の話へ持ち込むと、どの書類にも昔の不満が重なってしまう。

気まずさが先に立つと、最初の連絡文だけで何日も使ってしまう。何から切り出すか。昔のことに触れるか。そもそも、返事が来るのか。

まずは、連絡の中身を作るための確認から始めよう。順番に並べると、少し動きやすくなる。

戸籍を集め、誰と話す必要があるか確定する

亡くなった人の出生から死亡までの戸籍等を集め、配偶者、子、代襲相続人などを確認する。相続順位によっては兄弟姉妹や、先に亡くなった兄弟姉妹の子である甥・姪が相続人になることもある。普段の付き合いの濃さではなく、戸籍上の身分関係を確かめる作業だ。

遺言と財産を確認する。負債が疑わしければ先に期限を見る

公正証書遺言の有無、自筆証書遺言書保管制度の通知、金融資産、不動産、借入れ・保証債務を確認する。負債が疑われるなら、遺産分割の話より先に相続放棄・限定承認の熟慮期間を管理する。調査が間に合わなければ、期限内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法がある。

放棄を考えている間は、預金の私的な消費や財産の売却にも注意したい。相続財産の処分は、保存行為などの例外を除き、単純承認とみなされる原因になる。なお、限定承認は相続人全員で行う必要があり、一人でできる相続放棄とは違う。

「誰がもらうか」の話に夢中で、そもそも引き継ぐかどうかの判断を後回しにしない。

送るのは、昔の不満の一覧ではなく具体的な提案

恵美は「今さらお金だけ欲しいの?」と打ちかけた文を消した。代わりに、父の死亡日、確認できた口座、これから調べる財産を書いた。父のために自分が立て替えた費用は、領収書と一緒に別にまとめる。まず資料を確認してもらい、分け方については書面で意見をもらう、とした。

亡くなった人、相続人、財産一覧、希望する分割案、回答期限、連絡方法を簡潔に示す。感情的な経緯を長く書くより、何について返事が必要なのかが伝わる文書にする。

内容証明郵便は、送った内容と時期を記録する方法になる。ただし、内容証明を送っただけで相手の同意ができあがったり、相続権がなくなったりするわけではない。封筒にできる仕事と、できない仕事を分けて考えよう。

話がまとまらなければ、調停・審判へ進む

相続人全員の合意が得られなければ、相手を外した協議書を作るのではなく、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てる。調停で合意できない場合は原則として審判へ移り、裁判所が提出資料や調査結果に基づいて分割方法を判断する。

ここでも、返事がないことを「同意した」と読み替えない。二人だけでは決まらないときのために、第三者を交えて話し、必要なら裁判所が分け方を判断する道がある。調停の中心は、どちらが良い兄・妹だったかの採点ではなく、対象となる遺産と分け方の整理だ。

返事を待ち続ける以外にも、進め方はある。調停の呼出しを相手が無視した場合の流れも確認しておきたい。

住所不明と連絡拒否では、必要な調査と手続が違う

「連絡がとれない」の一言でも、中身は同じではない。住所は分かるが返事をしないのか。住所自体が分からないのか。生きているかどうかも分からないのか。

住所が分からなければ、戸籍や戸籍の附票などで調査する。請求できる人や必要書類は自治体で確認し、代理人を通じた職務上請求が必要になる場合もある。音信不通の兄弟を探す方法では、調査から連絡までを整理している。

不在者財産管理人は、行方の分からない人の財産を守るため、裁判所が選ぶ人だ。「その人がいないから、残った家族の都合で全部決める」としないための役割を持つ。家族の誰かが勝手にその人の代わりとして印を押せるわけではない。

調べても所在が分からない不在者を、そのまま除いて協議することはできない。家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があり、管理人が遺産分割に参加するには、権限外行為の許可を得る。生死不明が原則7年以上続いているなど民法30条の条件を満たす場合には、失踪宣告も検討対象になる。

同じ「連絡できない」でも、必要な資料と手続が変わる。相談するときも、最後に連絡した時期、判明している住所、調べたことを分けて伝えると、いまどの段階にいるのかを整理しやすい。

話し合い中も、相続放棄・税申告・登記などの期限を確認する

相手の返事が来てから考えよう。そうして机の端に置いた書類にも、期限はある。少なくとも、次の四つは別々に確認しておく。

  • 相続放棄・限定承認:原則として、自己のために相続開始があったことを知った時から3か月
  • 相続税申告・納付:原則として、その人が亡くなったと知った日の翌日から10か月(通常は死亡日の翌日から)。申告が必要かどうかも確認する
  • 遺留分侵害額請求:相続開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、亡くなってから10年。2019年7月1日以降に開始した相続についての制度で、それより前の相続は旧法の遺留分減殺請求を確認する
  • 相続登記:自己のために相続が始まったことと、不動産の所有者になったことを知った日から原則3年

遺産分割が終わらなくても、相続税の申告期限は延びない。未分割のまま申告し、後日の分割後に修正申告や更正の請求をする制度がある。相続登記が期限内に難しい場合は、相続人申告登記も確認する。これは基本的な申請義務に対応するための制度で、遺産分割や所有権移転の登記を済ませるものではない。

2024年4月1日より前に相続で受け継いだことを知った不動産は、原則として2027年3月31日が登記の期限になる。また、遺産分割が後から成立した場合には、その成立日から3年以内の登記義務にも注意したい。「昔の相続だから関係ない」とはならないのである。

恵美は、修と昔のように話せるようになったわけではない。修も、妹の負担を全部理解したとは言えない。それでも、資料の受取りはメール、分け方への意見は書面と決めれば、いきなり二人で実家の食卓につくところから始めずに済む。

父の口座一覧と、恵美が立て替えた費用の一覧を送る。修には、ほかに知っている財産や借金がないかを確かめてもらう。意見が合わなければ、手続の助けを使う。長年の関係を今日一日で直す必要はない。まずは、誰が相続人か、何を分けるのか、どの期限が近いかをそろえる。

スマホから名前を消しても、相続の書類からは消えない。そのことは、また親しく付き合いなさい、という意味ではない。権利を確かめ、連絡の方法を選び、財産の話を前へ進める。そのために使える制度を、一つずつ選んでいこう。

参考資料

関連する手続を、次の段階まで確認する

家族と距離を置き、遺産分割への関与を減らしたい場合も、書面の種類と残る責任を確かめる。 相続分を譲る・放棄する方法と借金で詳しく確認できる。

ほかにも確認する手続がある場合は、遺産分割・調停・紛争の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

兄弟の縁を切る法的手続はありますか

私的な絶縁状や連絡拒否だけで、兄弟姉妹の戸籍上の関係を消す一般的な手続はない。相続人の地位は欠格・廃除・相続放棄などの制度、財産の引継ぎ先は遺言の内容などを分けて確認する。

絶縁状を公正証書にすれば相続権は消えますか

絶縁状を公正証書にするだけでは消えない。公正証書という形式を選んでも、法律上の欠格・廃除・相続放棄などの条件や手続に代わるものにはならない。

絶縁中の兄弟を除いて遺産分割協議をできますか

共同相続人である兄弟を、絶縁を理由に外して協議を成立させることはできない。協議ができなければ、遺産分割調停・審判を利用する。

兄弟姉妹にも遺留分はありますか

亡くなった人の兄弟姉妹には遺留分がない。一方、親の相続で兄弟がいずれも子として相続人になる場合には、子としての遺留分が問題になる。誰の相続なのかを区別して考えよう。

住所が分からない兄弟を除外できますか

住所が分からないことだけで除外はできない。戸籍・戸籍の附票等で調査し、所在不明なら不在者財産管理人の選任と権限外行為許可、条件を満たす場合には失踪宣告を検討する。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務判断ではありません。相続順位、遺言、欠格・廃除、放棄、連絡状況によって対応は異なります。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

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文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

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