法律上の配偶者がいない人の相続では、まず子や代襲相続人、次に親・祖父母など、その次に兄弟姉妹の順で確認する。独身でも、子がいないとは限らない。同居するパートナーや友人も、その関係だけでは法定相続人にならない。
誰に渡したいかと、法律上誰が相続人になるかを分けて考えよう。以下は、徹・同居する玲子・母の知恵・弟の孝をめぐる架空の例だ。
徹は、同居する玲子と二十年暮らしている。婚姻届は出していない。子はいない。「自分に何かあっても、この家で暮らせるようにしておくよ」。そう話していたが、具体的な準備はしていなかった。
父はすでに亡くなり、母の知恵は健在だ。弟の孝もいる。徹は、相続人を聞かれて、「玲子と、弟かな」と答えた。だが、何も準備しないまま今の家族関係で徹が亡くなれば、法定相続人(法律で相続人になると決められた人)となるのは母である。玲子も弟も、その母と並んで自動的に相続するわけではなかった。
玲子は、家を欲しいと言いたくて一緒に暮らしているわけではない。それでも、毎日掃除してきた家が、徹の死後どうなるかを知らないのは不安だった。徹も、母を置き去りにしたいわけではない。自分が思う家族と、法律で決まる相続人の違いを、初めて具体的に考え始めた。
独身者の法定相続人は、子・親・兄弟の順に確認する
法定相続人は、法律で遺産を相続する立場になると決められた人だ。まず範囲と順位を確かめ、遺言や相続放棄などの事情も分けて確認する。
亡くなるたびに「一番親しかった人」を周囲が決めるのではなく、戸籍などで確認できるようにするための仕組みだ。
ただし、その標準の順番が、本人の実際の暮らしや希望と必ず重なるわけではない。徹が玲子へ渡したいなら、その違いを埋める準備が必要になる。
ここでいう独身は、亡くなった時に法律上の配偶者がいない場合を指す。未婚、離婚、配偶者との死別では、それまでの家族関係が違う。特に「現在独身」と「子がいない」は同じではない。
| 確認する順番 | 相続人となる人 | 注意する点 |
|---|---|---|
| 第1順位 | 子。代襲相続で孫などになる場合もある | 前婚の子、認知した子、養子も確認する |
| 第2順位 | 父母等の直系尊属 | 父母がいなければ祖父母等。本人に近い世代が優先する |
| 第3順位 | 兄弟姉妹。代襲で甥・姪になる場合もある | 兄弟姉妹からの代襲は甥・姪までで、再代襲はしない |
徹の場合は、子がいないので、まず親などの直系尊属(父母や祖父母など、自分より前の世代に当たる直系の親族)へ進む。父が亡くなっていて母が存命なら、この例の法定相続人は母一人。仮に母も先に亡くなり、ほかに存命の直系尊属がいなければ、次に兄弟姉妹の順番となり、弟の孝を確認する。
徹に子や法律上の配偶者がなく、父はすでに死亡、母の知恵は存命。遺言・相続放棄等がないという本文の仮定。
子がおらず、存命の母が相続人になる。
長く一緒に暮らしていても、その関係だけで法定相続人にはならない。
母が相続人になるこの例では、母と一緒に法定相続人になるわけではない。
玲子へ財産を渡したい場合の遺言や、母の遺留分などの備えは、本文で別に確認する。
弟へ親の世話を頼んでいたか、玲子と何年暮らしていたかは、ここでの順位を自動的に入れ替えない。「気持ちの近さを測る表」ではなく、法律上の関係を確認する順番だからである。
先順位の相続人がいれば、原則として後順位へは進まない。子のいない人で母が存命なら、母が相続人となり、兄弟姉妹は母と一緒に相続するわけではない。父母が亡くなっていても祖父母が存命なら、直ちに兄弟姉妹の順番にはならない。
相続放棄がある場合は、その人は初めから相続人でなかったものと扱われる。先に死亡した場合の代襲相続と混同しないようにしたい。
兄弟姉妹が先に亡くなっている場合
子や直系尊属がなく、兄弟姉妹の順番になったとき、その兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子である甥・姪が代襲することがある。甥・姪の子まで際限なく続く仕組みではない。
例えば、相続人となる兄が一人だけいて、その兄が先に亡くなり、兄の子が二人いるなら、その二人が兄の立場を代襲する。誰がいつ亡くなったかで関係が変わるため、生前の家族一覧だけで確定せず、相続開始時の戸籍等で確認する。
兄弟姉妹や甥・姪まで広がると、親の出生から死亡までの戸籍など、必要な資料も増える。連絡先を残しておくだけでも、残された人の調査の負担を減らせる。
内縁のパートナーや友人には、自動では渡らない
法律上の婚姻関係がないパートナーや友人は、親しい関係や同居の事実だけでは法定相続人にならない。本人が「当然この人が引き継ぐ」と思っていても、遺言等の準備がなければ、その希望どおりになるとは限らない。
徹が「家は玲子のもの」と家族に話していても、それが法的に有効な遺言等になっていなければ、その一言だけで所有権が希望どおり移るとは限らない。玲子は「自分に渡るはず」、母は「息子の財産をどうしたらよいか分からない」というまま、手続が始まってしまう。
財産を渡したいなら、受け取る人と財産を特定し、遺贈(遺言で財産を渡すこと)するための遺言を検討する。同居している家を渡したい場合は、家の名義、ローン、他の相続人の権利、維持費や税金まで確認したい。
受け取る側が困ることもある。遠方の土地や管理費のかかる物件を一方的に遺すより、本人の希望を聞き、何を渡すか、実行を誰に頼むかを考える方がよい。
親には遺留分があり、兄弟姉妹にはない
徹は「全部玲子へ、と遺言を書けば終わり?」と聞いた。ここでは、母の遺留分も確認する必要がある。遺留分は、一定の近い家族に保障された最低限の取り分だ。
自分の財産の行き先を決める自由と、近い家族の権利を調整する制度なので、遺言を書くだけで請求の問題がなくなるわけではない。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の相続人に保障される利益だ。独身で子がおらず、直系尊属だけが相続人となる場合、全体の遺留分割合は原則3分の1となる。父母二人が相続人なら、それぞれ原則6分の1だ。実際の金額は、遺留分算定の基礎となる財産等から計算する。
例えば、母だけが相続人で、遺留分の計算の基礎になる財産が6000万円、ほかの調整はないと仮定すれば、母の遺留分は2000万円となる。全部を玲子へ遺贈する遺言があっても、母が侵害額に当たるお金の支払いを求める問題は残る。
現在の制度では、請求したら家の3分の1が自動的に母名義になるという仕組みではなく、侵害額に相当するお金の請求になる。家などを強制的に共有にして、その処分をめぐる争いを増やさず、価値をお金で調整するための仕組みだ。ただし、玲子に支払う現金がなければ、家を残す計画も難しくなる。遺言の文面と、支払いや納税の資金は両方確認する。
一方、兄弟姉妹と、その代襲相続人である甥・姪には遺留分がない。子や直系尊属がおらず、兄弟姉妹等だけが相続人である場合、有効な遺言でパートナーや友人へ財産を遺贈しても、兄弟姉妹側に遺留分侵害額請求権はない。
ただし、遺留分がないことと、遺言を巡る紛争が起きないことは別だ。方式や判断能力、財産の特定に問題があれば争いになり得る。希望する分け方の理由を残すことも役立つが、理由を書けば不備のある遺言が有効になるわけではない。
備え1 財産・負債と、見つける手がかりを残す
預金、不動産、株式、保険だけでなく、借入れや保証、毎月の契約も一覧にする。通帳がないネット銀行や証券口座は、金融機関名が分からなければ存在に気づけないことがある。
一覧には、契約先、支店、財産の名義、重要書類の保管場所、確認日を記す。暗証番号や秘密鍵そのものを、誰でも読める一覧へまとめる必要はない。財産を見つける手がかりと、認証情報の管理方法を分けておく。
死亡保険金の受取人も確認したい。受取人固有の権利として扱われるのが一般的だが、税金を計算するときの扱いや、著しい不公平がある場合の特別受益(遺贈や一定の生前贈与など、相続の取り分を考えるときに含める特別な利益)との関係は別に検討する。古い指定のままになっていないか、保険会社へ確認することから始められる。
備え2 遺言は、保管と実行まで決める
遺言では、渡す人、財産、残りの財産、先に受取人が亡くなった場合の扱いなどを整理する。長年連れ添った相手へ家を遺すなら、家だけを書いて預金や売却後の財産が漏れないかも考える。
自筆証書遺言は、原則として全文・日付・氏名を自書し、押印する必要がある。財産目録には自書によらない方法も使えるが、各頁への署名・押印などの条件がある。法務局の保管制度を利用すれば原本の保管や検認不要等の仕組みを使えるが、内容の法的有効性まで保証される制度ではない。
公正証書遺言も選択肢になる。どちらの方式でも、死亡後に見つかり、手続を実行できることが重要だ。遺言執行者を指定するか、受け取る人へ何を伝えておくか、保管場所を誰が知るかまで決めておきたい。
家族への気持ちや理由を記す付言事項については、遺言書の付言事項の役割も参考になる。
備え3 生前に支援が必要になったときの担当を決める
玲子は「遺言があれば、入院したときの銀行の支払いも私ができる?」と聞いた。徹が遺言に書く亡くなった後の財産の行先と、生きている間に誰が手続を代行できるかは別だ。死後に効力が生じる紙へ書いたことが、そのまま今日の代理権にはならない。
遺言があっても、自分が生きている間の支払いや契約を自動的に代行してもらえるわけではない。入院で窓口へ行けない場合と、判断能力が不十分になった場合も、必要な支援が違う。
任意後見は、判断能力があるうちに公正証書で契約し、将来の支援者と委ねる事務を決めておく制度だ。判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じる。契約書を作ったその日から、任意後見人として自由に口座を動かせるわけではない。
開始前から支援が必要なら、財産管理委任などを別に検討する。信託も含め、誰がどの財産を扱うか、報告や監督をどうするか、費用はいくらかを具体化する。財産管理を任せることと、医療行為への同意を一律に代わってもらうことは同じではない。
備え4 亡くなった直後の事務を、遺言とは別に考える
葬儀・納骨、未払の入院費、住まいの片付け、契約の解約。これらは、遺言の財産承継だけでは担当が決まらないことがある。任意後見も、本人の死亡後にそのまますべての事務を続ける制度ではない。
死後事務委任を検討する場合は、何を依頼するか、費用と報酬、預けるお金の管理、残額の返還、報告先、受任者が対応できなくなった場合を確認する。葬儀等の事務を委ねる契約を、財産の引継ぎ先を定める遺言の代わりにしないことも大切だ。
同じ人へいくつかの仕事を頼む場合でも、財産の管理、遺言の実行、亡くなった後の事務で、それぞれ何ができるかを整理する。希望を書いておくだけでなく、担当する人と、費用をどこから出すかも決めておく。
備え5 受け取る人の税金と手元資金を確認する
徹の今の家族関係で、法定相続人が母一人なら、人数は一人として基礎控除を計算する。玲子へ遺贈するとしても、玲子と弟を足して三人の枠にできるわけではない。渡したい相手の一覧と、税金の計算に使う法定相続人数の一覧は、役割が違うのだ。
相続税の基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の数。遺言で友人を受取人にしても、その人を法定相続人数に加えられるわけではない。課税対象財産、保険、贈与、債務等を整理して申告が必要かどうかを判断する。
兄弟姉妹、甥・姪、友人、内縁のパートナー等が財産を受け取る場合には、原則として相続税額の2割加算も確認する。これは受け取る財産の20%がそのまま税金がかかるという意味ではなく、所定の計算による相続税額への加算だ。
例えば、2割加算の基になる相続税額を100万円と仮定すれば、加えるのは20万円で、合計120万円になる。家の値段や受取財産6000万円に、そのまま20%を掛ける計算ではない。実際には税額の計算順序と、各人に使える控除も確認する。
家を遺しても、受取人に納税や維持の資金がなければ、結局売らざるを得なくなる場合がある。自分の生活資金を確保したうえで、受け取った後の負担まで考えて配分を決めたい。
法定相続人がいないときも、希望が自動で実現するわけではない
相続人のあることが明らかでない場合、利害関係人等の申立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選任する。清算や相続人の権利主張のための公告などを経て、残った財産について特別縁故者への分与が認められることがある。
同居していた人や療養看護に努めた人などが対象になり得るが、親しかったから自動的に全部受け取れる制度ではない。申立てが必要で、期限は相続人の権利主張の公告期間が満了した後3か月以内。死亡から3か月という意味ではない。
この制度で分与されなかった最後に残った財産は国庫に帰属する。財産を渡したい相手が決まっているなら、死後の裁判所の判断だけに期待するのではなく、生前に有効な遺言等を整えておく方が希望を形にしやすい。
最初に用意するのは、家族関係と希望の一枚
相談前に完璧な契約案を作る必要はない。「法律上の家族」「渡したい相手」「生前の支援を頼みたい人」「財産と負債」を書き出すだけでも、必要な準備が見えてくる。
徹は、玲子に家を残したいことと、母の暮らしも心配なことを、同じ紙に書いた。玲子には、家を持ち続ける場合の修繕費や税金が負担にならないかを聞く。弟には、本人が生きている間の支援と、死後の事務のどこを頼めるかを話すことにした。
まだ遺言も契約も完成していない。それでも「独身だから、弟に任せておけば大丈夫」という曖昧な見通しから、誰に何を頼み、何を渡すための準備なのかを分けるところへ進めた。人の気持ちを法律の順位に合わせるのではなく、順位と希望の違いを知って、自分の希望を実行できる形へする。そのための準備である。
全体の着手順は相続対策を始めるときの確認項目、生活の希望を含めた整理は終活と相続対策の違いで確認できる。家族関係や財産が変わったときには、作った遺言と契約も見直したい。
公的資料・根拠
ほかにも確認する手続がある場合は、相続人・家族関係の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
独身で子がいない場合は誰が相続しますか
父母など本人に最も近い直系尊属が第2順位となる。直系尊属もいなければ兄弟姉妹が第3順位で、先に亡くなった兄弟姉妹の子が代襲することがある。
長く同居するパートナーは法定相続人ですか
法律上の婚姻関係等がなければ、同居や親しい関係だけでは法定相続人にならない。財産を渡すには遺言による遺贈等を検討する。
兄弟姉妹や甥・姪にも遺留分がありますか
兄弟姉妹とその代襲相続人である甥・姪には遺留分がない。子や直系尊属の有無、遺言の有効性は別に確認する。
任意後見契約だけで死後の事務も頼めますか
任意後見は本人の死亡後にすべての事務を続ける制度ではない。遺言執行や死後事務委任との役割分担を確認する。
相続税の2割加算は財産の20%ですか
財産の20%がそのまま加算されるわけではない。所定の計算による相続税額に対する加算で、受取人の続柄等を確認する。
本記事は一般的な情報提供です。個別の対応は、亡くなった日、財産・家族関係の資料を示して弁護士・税理士等へ確認してください。



