本人で相続調停をする:財産・争点・希望案を整理する

遺産分割調停は弁護士なしでできる?本人申立ての準備と判断基準

遺産分割調停は、弁護士を付けず、本人が申し立てて参加することもできる。ただし、書式を埋めるだけでなく、誰のどの財産をどう分けたいか、その理由と資料を説明する準備が必要だ。

相続人、財産、意見が違う点、希望する分け方を整理し、自分で進める範囲と相談したい範囲を決めよう。

母を亡くした美沙子は、裁判所のサイトから申立書を開いた。父はすでに亡くなり、相続人は兄の直樹と自分の二人。預金や債券を調べた結果、遺産は合計2,000万円という点では一致していた。「半分ずつなら簡単なのに」と思うが、葬儀で立て替えた費用を巡って話が止まっている。

美沙子の下書きには、「兄は母の入院中も何もしなかった」「全部こちらが段取りした」と並んだ。書きたいことは多い。でも「どの財産を、どう分けたいか」の欄は、まだ空白だった。

美沙子と直樹は制度を説明するための架空の家族で、実際の相談を紹介したものではない。金額も説明用の仮定だ。本人申立てを勧めるためでも、弁護士が必須と不安をあおるためでもなく、準備で何を分けて考えるかを追う。

申立ての仕組みと、かかる費用の実際

遺産分割調停は、相続人の一人または数人が、他の相続人全員を相手方として申し立てる手続だ。申立先は、原則として相手方のうち一人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所になる。

申立手数料は、亡くなった人一人につき収入印紙1,200円分で、連絡用の郵便料も必要だ。戸籍の取得、不動産の評価、鑑定、専門家への相談にかかる費用は別に考える。

郵便料を切手で納めるか、保管金として納めるかも裁判所による。金額、納め方、必要書類は、申立先の最新案内で確認する。

申立て前に、4つの一覧を作る

申立書の欄を埋める前に、次の四つを用意すると、何が確かで何が不足しているかを見つけやすい。これだけでどの事件も準備が完了するわけではないが、書類を積み上げる前の土台になる。

  • 相続人一覧:戸籍で全員を確定し、住所・送達先を確認する
  • 遺産目録:不動産、預金、株式等を資料と対応させる
  • 争点一覧:遺産性、評価、特別受益、寄与分、分割方法を分ける
  • 希望案:現物・代償・換価・共有の各案と実行可能性を示す

裁判所へ財産探しをすべて任せる手続ではない。「ほかにも遺産がある」と主張するなら、原則として、その裏付けになる資料を自分でも集めて提出する。

裁判所が相手へ資料提出を促したり、必要な調査をしたりすることはある。ただし、調停の中心は、あると確認した遺産をどう分けるかを話し合うことだ。

遺産目録を作りながら、「この預金の引き出しは誰がしたのか」「生前に渡した金はどう扱うのか」という問いが出てくることがある。それが争点一覧に移る瞬間だ。遺産目録と争点一覧は、別の紙に分けて書く。

美沙子は、遺産目録に預金1,200万円・債券800万円、合計2,000万円と書いた。資料で確認し、ほかの調整がなく半分ずつ分けるなら、一人1,000万円となる単純な仮定だ。一方、葬儀の立替金は「費用の精算で争っていること」として、別の欄へ移した。

母への思い、兄への不満、現存する財産、立替えた費用。同じ一枚へ混ぜるより、何が分割の対象で、何を別に話し合いたいのかを分ける。その方が、裁判所にも兄にも、確認してほしい点が伝わりやすい。

本人対応が難しくなる場面はどこか

申立書を書くこと自体は、書式に沿えば進められる。問題は、調停が始まってからの期日対応だ。次のいずれかに当てはまる場合、本人だけで対応し続けることの負担が大きくなりやすい。

  • 遺言が有効か、親子関係があるか、誰の財産かなど、遺産を分ける前に解決すべき問題で意見が食い違っている
  • 多額の特別受益・寄与分や、預金の使い込みを主張する、または主張される
  • 非上場株式、収益不動産、事業財産など、評価の方法が複雑な財産がある
  • 未成年者、認知症の人、行方不明者、海外居住者が相続人に含まれる
  • 相手の主張書面に対して期限内に反論・証拠提出をする負担が追いつかない

特別受益(遺贈や一定の生前贈与など、相続の取り分を考えるときに含める特別な利益)の証拠については、特別受益にあたらない生前贈与も参照してほしい。何が証拠になり、何がならないかは、主張の組み立て方に直結する。

一つでも自分で扱いにくい争点があれば、早めに相談してよい。例えば、不動産の評価額が書面ごとに違うときは、数字を転記するだけでは反論にならない。評価の基準日と方法を並べ、どの違いを争うかを整理する。全部を任せるか、期日前の相談で準備できるかは、その負担を見て判断する。

最初は預金と債券だけの相続でも、直樹から「母は別の口座も持っていた」「昔の贈与を考慮してほしい」と主張が出れば、調べる内容は変わる。財産が現金中心だから簡単と決めず、新たな主張の意味と資料を理解できるかを見直す。

期日のたびに仕事を休む負担や、書面を読むことへの不安も、相談する理由になる。助けを借りる時点を、取り分の額だけで一律に決める必要はない。何が分からず、どの作業を続けにくいかを具体的に伝える。

相手に弁護士がついたら、自分も必ず依頼するか

相手方が弁護士を選任したという連絡が来る。そのとき、「自分も急いで依頼しなければ」という気持ちになるのは自然だ。ただ、相手に弁護士がいることは、自分も選任しなければならない法的な理由にはならない。

相手に弁護士が付いたら、まず相手の書面を理解できるかを確かめる。どの法律上の意見が違い、どの資料で反論するかを整理できるだろうか。審判へ進む場合は、裁判官に言い分と根拠を示す準備も必要になる。

難しいと感じたら、途中から依頼したり、次の期日前に一度相談したりする方法を検討する。最初から全部を任せるかという判断と、困ったところで助けを借りる判断は、分けてよい。

弁護士に相談するタイミングの全体像は、相続で弁護士に相談するタイミング|放棄・遺留分(一定の近い家族に法律で保障された最低限の取り分)・遺産分割の期限で整理している。依頼を検討する判断基準については、遺産分割調停に弁護士は必要?依頼を検討する判断基準も確認してほしい。

調停が不成立になったあと、審判で何が決まるか

話し合いがまとまらず調停が不成立になると、原則として遺産分割審判へ移る。裁判官が提出資料と調査結果に基づいて判断する手続だ。

ただし、審判で扱われる範囲には注意が必要だ。葬儀費用、相続債務、使い道の分からないお金といった付随問題は、遺産分割審判で自動的にすべて判断されるわけではない。調停の段階で合意の中に含めることができる場合もあるが、別の訴訟手続が必要になるかどうかは、争点の性質によって異なる。

調停が成立した場合は調停調書が作成される。その内容に基づいて登記や金銭支払を進めることができるが、調書があれば何でも直ちに執行できるわけではない。条項の内容と、対象となる手続を個別に確認する必要がある。

調停から審判への流れの全体については、遺産分割協議(遺産の分け方を決める相続人同士の話し合い)がまとまらないとき|期限・調停・審判の進め方で整理している。

美沙子は、「調停でまとまらなければ、葬儀費用も裁判官が全部決めてくれる」と思っていた。しかし、葬儀費用の精算は、現存する遺産をどう分けるかとは性質が違う。相続人全員が合意し、調停の解決に含められる場合があっても、自動的に遺産分割審判で決めてもらえるわけではない。

なぜこの違いがあるのか。調停は、当事者が合意できるなら関連する支払なども含めた解決を探れる。一方、合意がないまま裁判官が決める審判は、その手続で判断できる法的な範囲に従う。「家族の問題は全部この事件で」という希望だけで、手続の範囲を広げられるわけではない。

美沙子は、葬儀費用の契約者、領収書、誰が何を立て替えたか、精算についてのやり取りをまとめた。母の遺産目録と同じ欄へ無理に足したり引いたりせず、調停でどう扱えるか、合意できない場合に何を検討するかを確認することにした。

申立書を開く前に、今日できる確認

申立書の書式は、裁判所のサイトから入手できる。ただ、書式を開く前に手元に揃えるものがある。相続人が全員確定しているか。遺産の一覧が資料と対応しているか。争点が感情の記述ではなく、法的な論点として分けられているか。

この確認が先にある。申立書の欄は、その整理が終わった後に埋まる。

どこで手が止まっているかによって、次の動き方は変わる。相続人の確定で止まっているなら戸籍の収集が先だ。遺産の範囲で争いがあるなら、金融機関への照会や評価の資料が必要になる。特別受益や寄与分(遺産を守ったり増やしたりする特別な貢献に応じて、相続の取り分に上乗せする額)の主張を整理できていないなら、その証拠を先に確認する。

美沙子の下書きから、兄への不満が消えたわけではない。それでも、申立書に書く家族関係と遺産、希望案、別に確認する立替費用は分けられた。次に何を集めればよいか、どこを相談したいかも、一枚の紙に書けるようになった。

本人で進めることは、誰の説明も借りず全部一人で判断することではない。裁判所の書式や案内を使い、必要なところを相談し、自分が理解した内容で手続へ参加する。手元の資料と、手が止まっている箇所を書き出すことが、具体的な最初の一歩になる。

確認に使った公的資料

ほかにも確認する手続がある場合は、遺産分割・調停・紛争の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

遺産分割調停に弁護士は必須か

必須ではなく、本人が申し立てて参加できる。争点・証拠・財産額・期日対応の負担を見て、全部依頼、途中依頼、単発相談を選ぶ。

相手に弁護士がいれば自分も必ず依頼するか

法的義務はない。書面の理解、反論、証拠提出、審判移行への対応が難しければ相談を検討する。

裁判所が隠された遺産を調べるか

財産探しを一任する手続ではない。資料提出を促すなどの対応はあるが、追加遺産を主張する側も金融資料などの裏付けを集めて提出する。

調停が不成立ならどうなるか

遺産分割調停が不成立になると原則として審判へ移り、裁判官が資料と調査結果に基づいて判断する。

使い道の分からないお金も審判で解決するか

自動的に遺産分割審判の対象になるとは限らない。調停の合意に含められる場合はあるが、返還責任に争いが残ると別の訴訟が必要になることがある。

この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

最終更新:

文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

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