公正証書遺言とは、公証人が作成に関与し、公証役場に原本が保管される遺言書の形式とされています。民法969条に定められた要件を満たすことで、法的効力の高い遺言として認められる可能性があります。
結論から言うと、公正証書遺言は「公証人・証人2名・本人」の三者が揃って作成する形式であり、自筆証書遺言と比べて無効リスクが低く、家庭裁判所の検認手続きが不要とされています。
公証役場の待合室は、妙に静かだった。
番号札を握りしめたスーツ姿の人間が、無言でソファに座っている。おそらく全員、同じ空気を纏っている。「大切な何かを、正式に残しに来た人間」の空気を。
遺言書、という言葉を聞いて、多くの人間は「年寄りがやること」「まだ早い」と思う。が、それは大きな誤解だ。むしろ問題は、遺言書を「残す側」ではなく「受け取る側」にある。残された家族が、遺言書の形式ひとつで、どれほど手続きが変わるか。それを知らずに「とりあえず手書きで書いておけばいいか」と踏み出した瞬間、思わぬ落とし穴が口を開けている可能性がある。
公正証書遺言って、難しそうで……何から調べればいいのかさっぱりわからない。
で、結論から言うと
公正証書遺言とは、「公証人」という国家資格者が作成に介入し、公証役場に原本が永久保管される遺言書の形式だ。民法969条に、その要件がきっちり規定されている。
自筆証書遺言が「手書き一枚、印鑑一個」で作れるお手軽型だとすれば、公正証書遺言はその対極。手間はかかる。費用もかかる。だが、無効リスクという名の地雷を踏まずに済む可能性が、格段に高くなる。そして何より、死後に家庭裁判所の「検認」手続きが不要、という強烈なアドバンテージがある。
これが、わかる人間にはわかる「公正証書遺言が選ばれる理由」の核心だ。
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作り方の前に知るべき「3つの登場人物」
公正証書遺言の作成には、以下の三者が必ず必要とされている。一人でも欠けると、成立しない。
- 本人(遺言者):遺言の意思を持つ本人。口頭で内容を述べる
- 公証人:法務大臣が任命した公務員。遺言内容を正確に文書化し、法律要件を確認する
- 証人2名:作成の場に立ち会い、署名・押印する。ただし相続人・受遺者・その配偶者・直系血族などは「証人になれない」(民法974条)
この「証人2名」が意外な伏兵だ。「じゃあ長男と次男に立ち会ってもらおう」は、アウト。相続人は証人になれない。弁護士・司法書士などの専門家に依頼するか、公証役場に紹介してもらう選択肢もある、という点を覚えておきたい。

作成の流れ、ステップ別に動く
では実際に、どう動けばいいか。スッキリ整理しよう。
ステップ1:遺言の内容を固める
まず「誰に、何を、どれだけ渡すか」を自分の頭の中で整理する。不動産なら登記簿謄本、預貯金なら残高証明書など、財産の特定に必要な書類を手元に準備しておくと、公証人との打ち合わせがスムーズになる。
ステップ2:公証役場に相談・予約
全国各地の公証役場に出向き、公証人と事前打ち合わせを行う。郵送やメールで内容を送り、下書き(原案)を作ってもらうことも可能とされている。病気や身体的事情で外出が難しい場合、公証人に出張してもらえる場合もある。
ステップ3:必要書類を揃える
一般的に必要とされる書類は以下のとおりだ。
- 遺言者の印鑑証明書(実印)
- 遺言者と相続人の続柄を証明する戸籍謄本
- 不動産がある場合:登記事項証明書・固定資産税評価証明書
- 証人2名の氏名・住所・生年月日・職業(証明書類の提出を求められる場合がある)
※必要書類は遺言内容や役場により異なる可能性があるため、事前に確認することが望ましい。

ステップ4:公証役場で署名・押印
公証人が読み上げた内容に間違いがなければ、遺言者・証人2名・公証人がそれぞれ署名・押印して完成だ(民法969条)。原本は公証役場に保管され、遺言者には「正本」と「謄本」が渡される。
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費用は「財産の額」で変わる
公正証書遺言の作成費用は、目的財産の価額に応じた手数料が必要とされている(公証人手数料令)。大まかな目安として、財産総額が1000万円以下であれば2〜3万円程度、5000万円超になると5万円を超えてくる場合もある。証人を専門家に依頼する場合は、別途費用がかかる可能性がある。
「手間も費用もかかる」と聞いて怯む気持ちもわかる。が、考えてほしい。一枚の遺言書の形式ミスで、残された家族が家庭裁判所に検認の申立てをし、相続手続きが数ヶ月単位で止まる可能性と、どちらが「コスト」か。
遺言書を「残す」前に知るべき、遺留分という制約
公正証書遺言は強力だ。が、万能ではない。遺言で「全財産を特定の一人に」と書いたとしても、他の相続人には「遺留分」という最低限の取り分が法律で保障されている(民法1042条)。遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始と遺留分侵害を知った時から1年、相続開始から10年とされている(民法1048条)。
遺言書を作る際は、遺留分の存在を念頭に置いて内容を組み立てることが、後のトラブル予防という観点から有益とされている。
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よくある質問
公正証書遺言は、後から書き直せますか
可能とされています。遺言者が判断能力を有している限り、新しい公正証書遺言を作成することで前の遺言を撤回・変更できます(民法1022条・1023条)。後の遺言が前の遺言と抵触する場合、その部分は後の遺言が優先されるとされています。
自宅に公証人に来てもらうことはできますか
可能な場合があります。病気や身体的な事情で公証役場への出向が難しい場合、公証人が出張して遺言書を作成できるとされています。ただし通常の手数料に加えて日当・交通費等が別途かかる可能性があります。事前に最寄りの公証役場に確認することが望ましいとされています。
公正証書遺言でも、家庭裁判所の検認は必要ですか
不要とされています。民法1004条により、公正証書遺言は検認の対象外とされています。自筆証書遺言(法務局保管制度を利用していないもの)は検認が必要ですが、公正証書遺言はその手続きを省略できる点が大きな利点のひとつです。
証人になれない人はどんな人ですか
民法974条により、未成年者、推定相続人(配偶者・子・親など)、受遺者とその配偶者・直系血族などは証人になれないとされています。「息子に立ち会ってもらえばいい」という発想は要注意で、証人としての要件を満たす第三者を選ぶ必要があります。
公正証書遺言の原本が見つからなくなった場合はどうなりますか
心配は不要とされています。公正証書遺言の原本は公証役場に保管されており、「遺言検索システム」を通じて全国の公証役場で存在を照会できます。遺言者が死亡した後は、相続人などの利害関係人が正本・謄本を再発行してもらえる可能性があります。
なんだ、ちゃんと手順があるんじゃないか。順番に動けばいいだけか。
公証役場の待合室で番号札を握りしめた人たちは、それぞれに「大切な意思」を正式に残しにきていた。難しそうに見えて、やることはシンプルだ。内容を固めて、役場に予約して、証人を手配して、署名・押印する。その一連の動きが、残された家族の手続きを、驚くほどスムーズにする可能性を持っている。
「まだ早い」と思っているうちが、実は動きやすいタイミングだったりする。判断能力があるうちに、元気なうちに。公証役場は今日も、静かに開いている。
けっこうオススメです。公正証書遺言。伝わりましたかね。
よくある質問
公正証書遺言の作成にかかる費用の目安はどのくらいですか
財産の総額によって異なりますが、財産が1000万円以下の場合は2〜3万円程度、5000万円を超える場合は5万円以上になる可能性があるとされています(公証人手数料令)。証人を専門家に依頼する場合は別途費用が発生する場合があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。





