遺言書が無効になる主な原因|方式・遺言能力・偽造と遺留分の違い

遺言書の無効とは、法律が定める方式を欠く、作成時に遺言能力がない、本人が作成していないなどの理由で、遺言としての効力が認められないことです。

確認する順番は、遺言の種類、原本、全文・日付・氏名・押印等の方式、作成時の遺言能力、筆跡・作成経緯、撤回の有無です。遺留分を侵害する遺言でも、そのことだけで遺言全体が無効になるわけではありません。

遺言書に疑問があっても、自分の判断で破棄、書込み、訂正をしてはいけません。封筒、用紙、筆跡、押印、加除訂正の状態そのものが証拠になります。原本を保全し、家庭裁判所の検認が必要かを確認します。

遺言書が無効になるかを確認する5つの視点

1.法律が定める方式を満たしているか

民法960条は、遺言は法律が定める方式に従わなければできないと定めています。普通方式には、自筆証書、公正証書、秘密証書があります。

自筆証書遺言は、民法968条により、原則として遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印します。財産目録はパソコン等で作成できますが、各頁への署名・押印が必要です。加除・変更にも所定の方式があります。

次の点を原本で確認します。

  • 本文が本人の自書か。財産目録との区別はあるか
  • 作成日を特定できる日付があるか
  • 氏名の自書と押印があるか
  • 複数枚の一体性、用紙・筆記具・記載内容の連続性
  • 訂正、加入、削除が方式に沿っているか

東京高裁平成18年10月25日判決は、署名・押印を欠く文書や、方式に沿わない加入・訂正等が問題となった事案です。題名が「遺言書」であっても、方式を満たすかは各記載から判断します。

2.作成時に遺言能力があったか

民法963条により、遺言者は遺言をする時にその能力を有していなければなりません。15歳以上であることに加え、遺言の内容と結果を理解して意思決定できたかが問題になります。

認知症の診断があるだけで直ちに無効になるわけではなく、診断がないだけで能力が認められるわけでもありません。作成時点を中心に、次の事情を確認します。

  • 診療録、認知機能検査、服薬、入院・介護記録
  • 遺言内容の複雑さと、財産・相続人の認識
  • 作成前後の言動、説明への応答
  • 遺言内容が従前の意向や人間関係と整合するか
  • 作成へ関与した人、公証人・証人・専門家の記録

遺言能力を否定した裁判例でも、診断名だけでなく、遺言内容、現実の状況を理解・把握する能力、誘導の有無等が検討されています。能力は、遺言を作成した具体的時点と内容に即して判断します。

3.本人が作成・署名したものか

自筆証書遺言について、筆跡が本人のものか、押印が本人の意思によるか、他人による代筆・改ざんがないかが争われる場合があります。比較対象となる日記、手紙、申込書、過去の署名等を保全します。

筆跡鑑定だけでなく、原本の入手経緯、用紙・インク、記載内容、遺言者が内容を知っていたことを示す会話やメモ、作成に関与した人の説明などを総合します。

4.撤回・破棄された遺言ではないか

遺言者はいつでも遺言の全部または一部を撤回できます。後の遺言が前の遺言と抵触する場合や、遺言者が故意に遺言書を破棄した場合にも撤回の規定があります。

最高裁平成27年11月20日判決は、遺言者が自筆証書遺言の文面全体に赤色ボールペンで斜線を引いた事案で、故意に遺言書を破棄したと認め、遺言を撤回したものとみなしました。線や書込みを見つけたときは、誰が、いつ、どのような意思で行ったかを確認します。

5.内容が法律上実現できるか

遺言の一部が公序良俗に反する、対象財産・受遺者を特定できない、法的に実現できない場合は、その条項の解釈や効力が問題になります。直ちに遺言全体が無効になるとは限らず、他の条項から分離できるか、遺言者の真意をどう解釈するかを検討します。

遺留分侵害と遺言無効は別問題

一定の相続人には遺留分がありますが、遺留分を侵害する遺言が、そのことだけで無効になるわけではありません。侵害を受けた人は、要件と期限を満たして遺留分侵害額請求を行い、金銭の支払を求めます。

民法1048条により、遺留分侵害額請求は、相続開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年で消滅します。遺言無効の主張を検討している場合でも、遺留分の期限を別に管理します。

問題 主な効果 確認する手続
遺言が無効 遺言による指定の効力が認められない 当事者間の合意、遺言無効確認訴訟等
遺留分を侵害 遺言は有効でも金銭請求が生じ得る 遺留分侵害額請求、調停・訴訟等

検認は遺言の有効・無効を決める手続ではない

家庭裁判所の検認は、相続人に遺言の存在・内容を知らせ、検認時点の形状、加除訂正、日付、署名等を明確にして偽造・変造を防ぐ手続です。遺言が有効か無効かを確定する手続ではありません。

公正証書遺言と、法務局保管の自筆証書遺言について交付される遺言書情報証明書は、検認不要です。それ以外の自筆証書遺言等は、封印の有無も含めて家庭裁判所の案内を確認します。

無効を疑ったときの証拠保全

  1. 遺言書・封筒・添付資料の原本をそのまま保全する
  2. 遺言の種類と検認・法務局保管の要否を確認する
  3. 戸籍、財産目録、過去の遺言を集める
  4. 作成日前後の診療録・介護記録・認知機能検査を確保する
  5. 本人の筆跡資料、作成関与者、公証人・証人の記録を確認する
  6. 遺留分、相続税、登記等の期限を別に管理する

遺言無効の争いは、家庭裁判所の検認とは別に、地方裁判所等の民事訴訟で扱われます。遺産分割調停の前提として遺言の効力が争われる場合は、手続の順序を弁護士へ確認します。

公正証書遺言でも争われることはある

公正証書遺言は公証人と証人が関与するため、自筆証書遺言より方式違反や偽造のリスクを抑えやすい方法です。ただし、作成時の遺言能力、証人欠格、口授・読み聞かせ等の手続、詐欺・強迫等が争点になる余地はあります。

「公正証書だから争えない」「認知症だから無効」と形式的に決めず、作成記録と具体的事情を確認します。

よくある質問

自筆証書遺言に日付がなければ無効ですか

民法968条が求める日付の自書を欠く場合は、方式違反が問題になります。「令和○年○月吉日」のように日を特定できない記載も裁判例上問題となります。原本全体を確認します。

認知症の診断があれば遺言は無効ですか

診断だけで決まりません。遺言作成時点で、その内容と結果を理解して意思決定できたかを、医療・介護記録、遺言内容、説明状況等から判断します。

検認を受けた遺言書は有効ですか

検認は現状を確認して偽造・変造を防ぐ手続で、有効性を確定するものではありません。方式、遺言能力、筆跡等は別に争われる場合があります。

遺留分を侵害する遺言は無効ですか

遺留分侵害だけで遺言全体が無効になるわけではありません。侵害を受けた人が期限内に遺留分侵害額請求をするかを検討します。

公正証書遺言は無効になりませんか

方式上の信用性は高いものの、遺言能力、証人、作成手続、詐欺・強迫等が争われる可能性はあります。作成時の資料を確認します。

根拠資料

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律判断ではありません。遺言原本と作成時の資料を確認できる弁護士等へご相談ください。

この記事の読み方

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