相続した非上場株式(証券取引所に上場していない会社の株式)を発行会社へ売る方法はあるが、売却を申し入れれば必ず買ってもらえるわけではない。任意の自己株式取得、会社からの相続人への売渡請求、第三者への譲渡承認と不承認時の買取りは、出発点と条件が違う。
父の隆一の株式を受け取る娘の恵里は、会社で働いていない。納税や生活費のため、株を現金へ換えたい。
会社を継ぐ予定の兄の大輔は、会社に買ってもらえばよい、と話した。しかし経理担当者は、買うと運転資金が不足しないか、心配していた。
ここからは、説明用の架空の家族だ。
家族と金額は、説明用の仮定となる。
誰が手続を始め、会社に必要な決議と資金があり、税や費用を引くといくら残るかを、一つずつ確かめよう。
発行会社に買ってもらう場合は、任意の買取相談と会社から相続人への売渡請求を区別する。会社に資金と取得手続があるか、価格・届出・手取りまで確認する。
まず、任意の自己株式取得を相談する場合
会社が、自分で発行した株を受け取ることを、自己株式取得という。
相続人と会社の任意売買でも、会社法156条等に基づく決議が必要だ。取得する株数、代金等の対価、取得できる期間、特定の株主から買う手続等を確かめる。
社長が口頭で約束しただけで、会社の手続がすべて済むわけではない。
会社法461条の分配可能額の制限もある。分配可能額は、会社が株主へ払い出せる額を、法律に従って計算したものだ。
口座の現金残高とは違う。給与、仕入れ、借入返済等に使う運転資金も、別に考えよう。
恵里の現金化と、大輔の経営の安定は、両立するかもしれない。
ただし、会社に資金が足りなければ、分割払いや、ほかの株主が買う案も比べる。後払いなら、納税期限までの入金と、代金を確実に回収できるかも確かめよう。
任意の相談がまとまらないだけで、会社へ買取りを強制できる一般的な権利が生まれるわけではない。
次の二つの制度は、任意売買とは分けて考えよう。
会社から相続人等へ、売渡しを求める
会社は、譲渡制限株式を相続等で取得した人へ、売渡しを請求できる旨を、定款に定められる(会社法174条)。譲渡制限株式は、譲渡に会社の承認が必要な株式だ。
すべての非上場会社で、自動で使える制度ではない。現行の定款を確かめよう。
請求するには、その都度、対象の株数と人を、株主総会で決める等の手続がある。対象者の議決権にも、制限がある。
会社が、相続等による一般承継を知った日から1年を過ぎると、この請求はできない。
会社が株主構成を調整するための仕組みだ。相続人が、この制度で買ってほしいと、一方的に強制するものではない。
会社が請求しても、価格や入金の時期が希望どおりになるとは限らない。
価格は、まず会社と相続人等で話し合う。会社又は取得者は、請求があった日から20日以内に、裁判所へ価格決定を申し立てられる。
期間内に申立ても価格の合意もなければ、売渡請求は効力を失う。請求書が届いた日を記録し、交渉中も期限を別に管理しよう。
第三者等へ売る場合の承認と、不承認時の買取りは、会社が任意に自社株を買う場合とは別の手続である。
相続した非上場株式を売却する方法|発行会社買取り・税金・特例で詳しく確認できる。
二つの「20日」と、その後を比べる
第三者への譲渡が承認されず、会社・指定買取人が買う場合は、会社法144条を確かめる。
原則として、買取通知の日から20日以内に、裁判所へ価格決定を申し立てられる。期間内に申立ても価格の合意もなければ、法定の一株当たり純資産額に株数を掛けた額が、売買価格となる。
一方、前述の相続人等への売渡請求は、177条による。期間内に申立ても合意もなければ、請求の効力が失われる。
どちらも20日だが、その後の扱いは違う。通知・請求の種類と、期間を数え始める日を確かめよう。
会社法144条
原則として、買取通知の日から20日。
法定の一株当たり純資産額 × 株数が、売買価格になる。
会社法177条
請求があった日から20日。
売渡請求は、効力を失う。
同じ20日でも、出発点と結果が違う。任意の売買交渉すべてに使える制度ではない。届いた通知・請求の種類と、各制度の条件を確かめよう。
任意の売買で価格が合わないとき、いつでも裁判所へ価格決定を求められるわけではない。
定款、請求書、通知、議事録等から、どの制度の条件に当たるかを調べる。
税務評価、交渉価格、手取りを分ける
相続税の評価は、財産評価基本通達に従って行う。会社法上の売買価格は、協議や、当てはまる価格決定の手続で判断する。
相続税の評価額どおりに、会社が買わなければならないわけではない。
仮に、相続税の評価が1,000万円、会社が任意交渉で提示した代金が700万円なら、差は300万円だ。
その差が、自動で損害賠償や節税になるとは限らない。目的の違う評価を、比べている可能性がある。
700万円で売れても、税や費用を引けば、全額が残るわけではない。
父の取得費、取得費加算の特例が使えるか、みなし配当の扱い、手続費用を確かめる。この数字は計算関係の仮定で、売れる価格を保証するものではない。
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売る前に、税の特例と届出を調べる
通常、個人が非上場株式を発行会社へ売ると、受け取る対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分が、配当所得と扱われる場合がある。これが、みなし配当だ。
ほかの株主や第三者への通常の売却と、同じ課税だとは考えないようにしよう。
相続等について納付すべき相続税額のある個人には、特例がある。相続税の対象となった非上場株式を、一定期間内に発行会社へ売る場合だ。
条件を満たせば、みなし配当とせず、対価全額を、株式の譲渡所得の収入金額とする。全額が利益になる、非課税になる、という意味ではない。取得費・譲渡費用等を引いて、所得を計算する。
対象期間は、亡くなった日の翌日から、相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までだ。
譲渡する日までに、決められた届出書を発行会社へ出す必要がある。売った後の確定申告だけで、常に間に合うとは考えないようにしよう。
相続税額の一部を取得費に加える特例を、併用できる場合もある。
対象者、取得財産、売る時期、金額の限度、申告書類は、別に確かめる。契約や支払条件を決める前に、税引後の入金を試算しよう。
詳細は国税庁No.1477と取得費加算の特例を確認する。
交渉と、申告・会社の手続を進める
最初に、株数・種類・取得原因、株券発行の有無、株主名簿、譲渡制限と売渡請求条項を調べる。
登記事項証明書で分かることと、会社の現行定款で調べることを、分けよう。
共同相続で分割前なら、権利行使者の指定・会社への通知等も確認する。会社への連絡担当になったことだけで、その人が株式を単独で売却できるわけではない。
少数株主の権利は相続した少数株式の権利も参照したい。
相続税の申告義務があれば、原則として、相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内に、申告・納税する。
交渉が終わらないだけで、延長はされない。未分割なら、その状態で申告する。評価そのものを省略せず、後の調整は条件と期限を確かめよう。
隆一家は、恵里の現金化の希望、大輔の経営計画、会社の運転資金を合わせて比較することにした。買取りの方法を一つに決めつけず、どの制度が使え、いついくら受け取れるかを確認する。
会社の組織や株式構成を変える案は、持株会社を使う相続対策等も含め、別の法務・税務の影響まで検討する。
ほかにも確認する手続がある場合は、会社・株式・事業承継の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
あわせて確認できる説明
よくある質問
相続した非上場株式は、必ず会社に買い取ってもらえますか
単なる売却の申入れで一般的な買取義務は生じない。任意取得、相続人への売渡請求、第三者への譲渡承認と不承認時の買取りを区別し、条件を確認する。
相続した株式の買取価格はどうやって決まりますか
協議が基本となるが、144条や177条等に当てはまる場面では裁判所の価格決定を確認する。申立期間や、申立て・合意がないときの結果は制度ごとに異なる。
相続税の申告前に買取交渉が終わらない場合はどうすればいいですか
申告義務があれば、交渉と評価・申告を並行する。未分割での申告は評価不要という意味ではない。納税資金も売却代金の入金時期と別に確認する。
会社が「売渡請求」を行うのはどのような場面ですか
譲渡制限株式について定款に定めがあり、必要な株主総会の決議等を経て行う。会社が一般承継を知った日から1年以内という期間も確認する。
相続した株式の相続税評価と、会社への売却価格は同じですか
必ず同じ額になるわけではない。税務評価、分割や売買の価格、税や費用を引いた手取りを分けて、前提と資料を確認する。



