株式 相続 会社 買取

株式の相続と会社への買取、制度の構造を知ると変わる選択肢

株式の相続とは、被相続人が保有していた株式(上場・非上場を問わず)が相続財産となり、相続人に承継される手続きとされています。会社の株式が絡む場合、通常の相続と異なり「会社による買取」という選択肢が生じる場合があります。

結論から言うと、相続した株式を会社に買い取ってもらうには、会社法上の手続きと株価の評価が重要な鍵を握るとされており、手順を把握しておくことで選択肢の幅が大きく変わる可能性があります。

「株式なんて、売ればいい話でしょ」

以下は特定の依頼者の実例ではなく、制度を説明するための典型例です。表情はどこか余裕があった。そして続けた。「父が中小企業の株を持っていたみたいで……でも、どこにも売れないんですよね」と。

そう。非上場株式は、証券取引所に「ポン」と売り注文を出せばどうにかなる代物ではない。市場という概念が、そもそも存在しないのだ。

ではどこへ売るのか。誰が買うのか。その答えのひとつが、「会社そのもの」である。

困り顔

相続した株って、どこに売ればいいんだ……誰も買ってくれないし、会社に言っても無視される気がして。

で、結論から言うと「会社への売却」には手順という名の関門がある

相続した非上場株式を会社(発行会社)に買い取ってもらう、という手段は、会社法上に明確に規定されている。具体的には、会社法第155条以下に定める「自己株式の取得」の枠組みがそれだ。

で、ここで多くの人が勘違いをする。「会社に頼めば、なんとなく買い取ってもらえるだろう」と。

甘い。実に甘い。

発行会社への売却は、会社側に「買い取る義務」が原則として存在しない。つまり、会社が「いりません」と言えば、それで終わりになりうるのだ。ただし、相続という特定の文脈では、活用できる手続きが存在する。それが、

会社側からの「相続人等に対する売渡請求」と、株主側からの「譲渡等承認請求・買取人指定の請求」。似て見えるが、出発点も要件も違う2つの制度だ。

相続株式をめぐる「2つの制度」、知らないと損をする構造

ひとつずつ、丁寧に解体していこう。

① 会社側からの「売渡請求」(会社法174条)

これは、会社側が相続人に対して「その株式を売ってくれ」と請求できる制度だ。ただし条件がある。定款にあらかじめ「相続人に対して売渡請求ができる」旨の規定が置かれている必要がある(会社法174条)。

会社側の視点で言えば、「見知らぬ相続人に株式が渡って、経営に口を出されると困る」という防衛本能がここに凝縮されている。で、この請求は相続があったことを知った日から1年以内に行使しなければならない(会社法176条1項)。

つまり、相続人からすると「会社から買い取り請求がくる可能性がある」という状況であり、逆にいえば「会社が動いてくれれば株式の換金ができる」チャンスでもある。

② 第三者へ譲渡するための「譲渡等承認請求」(会社法136条・138条)

一方、相続人が第三者への譲渡を希望する場合は、会社に「その譲受人への譲渡を承認するか」を請求できる。これは、相続人が会社に直接買い取りを強制する一般的な権利ではない。

非上場株式は多くの場合、譲渡制限株式として発行されている。第三者へ譲渡するには会社の承認が必要だ。そこで相続人は「譲渡等承認請求」を行い、その請求時に、会社が不承認とする場合には会社または指定買取人が買い取るよう求めることができる。買取人指定の請求をしていなければ、会社は不承認の通知だけで足りる場合がある(会社法138条・140条)。

ポイントはここだ。

  • 会社は請求から原則2週間以内に承認・不承認を通知する。定款でこれより短い期間を定めることができる(会社法139条2項・145条1号)
  • 買取人指定の請求があり、会社自身が買い取る場合は不承認通知から原則40日以内、指定買取人が買い取る場合は原則10日以内に買取通知が必要となる(会社法141条・142条・145条2号)
  • 所定期間内に通知等がなければ承認したものとみなされるが、定款による期間短縮や請求者との別段の合意があり得る(会社法145条)

つまり、期限だけを見ても足りない。定款、請求時に買取人指定まで求めたか、会社・指定買取人が供託と通知をしたかを一続きで確認する必要がある。

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株価という名の「最大の争点」を制する者が、交渉を制する

さて、仮に会社が買い取るとなったとき。次に浮上する最大の問題は何か。

価格だ。

これがまた、一筋縄ではいかない。非上場株式には「市場価格」が存在しないため、評価方法によって数字が驚くほどブレる。相続税の申告では国税庁の「財産評価基本通達」に基づいた評価(類似業種比準方式・純資産価額方式など)を使うが、会社への売却価格の交渉においては、必ずしもその評価額が「適正価格」とイコールになるわけではない。

価格に双方が合意できない場合、最終的には裁判所が「売買価格の決定」を行う手続きに移行することがある(会社法144条)。

つまり整理すると、こうなる。

株価という名の「最大の争点」を制する者が、交渉を制する

  • 相続税の申告価額:財産評価基本通達に基づく(相続税法22条)
  • 会社への売却交渉価格:当事者間の合意 or 裁判所による決定
  • 評価のズレ:同じ株式でも、どちらの文脈で評価するかで数百万円単位の差が生じうる

だからこそ、相続した株式の「評価の軸」を事前に理解しておくことが、交渉の土台になる。

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相続人が今すぐ動けるアクション・ステップ

では、実際に相続株式が発生した場合、何から手をつければいいか。シンプルに整理する。

ステップ1:株式の存在と種類を確認する

まず、被相続人がどの会社の株式を、何株保有していたかを確認する。証券会社の取引明細、配当金の通知書、株主名簿の写しなどが手がかりになる。上場株式か非上場株式かによって、その後の手続きが180度変わる。

ステップ2:定款を取り寄せ、譲渡制限の有無を確認する

まず会社の登記事項証明書で、株式の譲渡制限と登記された承認機関を確認する。ただし、登記事項証明書は定款そのものではない。会社法174条の相続人等への売渡請求の定め、通知期間の短縮その他の詳細は、会社が保管する現行定款で別に確認する必要がある。

ステップ3:相続税の申告期限(10ヶ月)を意識しながら動く

株式の評価額は、相続税の申告に直結する(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内:相続税法27条)。買取交渉が長引いても、申告は未分割のまま法定相続分で行う「未分割申告」が可能だ(相続税法55条)。交渉と申告は、別軸で動かせる。

ステップ4:会社所定の方法を確認し、記録が残る形で請求する

会社法138条所定の事項に加え、不承認時に会社または指定買取人による買取りを求めるかを明示する。法令や定款で定める方法を確認し、到達日と請求内容を後から確認できる書面・電磁的方法で行うのが安全だ。

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発行会社へ売るときは税務特例を先に確認する

個人が非上場株式をその発行会社へ譲渡すると、通常は、対価のうちその株式に対応する資本金等の額を超える部分が配当所得とみなされることがあります(所得税法25条)。しかし、相続税額がある個人が、相続税の課税対象となった非上場株式を一定期間内に発行会社へ譲渡する場合、要件と届出を満たせば、その部分をみなし配当とせず、対価全額を株式の譲渡所得の収入金額とする特例があります(租税特別措置法9条の7)。

期間は、相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。譲渡日までに所定の届出書を発行会社へ提出する必要があります。さらに、要件を満たせば、相続税の一部を取得費に加算する特例(同法39条)も併用できます。売買価格だけでなく、期限と届出を契約前に確認してください。

よくある質問

相続した非上場株式は、必ず会社に買い取ってもらえますか

必ずしもそうとは限りません。相続人が第三者への譲渡等承認請求と併せて、不承認の場合の買取人指定を求め、会社が譲渡を不承認としたときは、会社または指定買取人による買取手続へ進みます(会社法138条・140条)。単に会社へ売却を申し入れただけで、一般的な買取義務が生じるわけではありません。

相続した株式の買取価格はどうやって決まりますか

原則として当事者間の協議によって決まるとされています。合意に至らない場合、裁判所が「売買価格の決定」を行う手続きがあります(会社法144条)。非上場株式には市場価格がないため、評価方式の選択が価格に大きく影響する可能性があります。

相続税の申告前に買取交渉が終わらない場合はどうすればいいですか

相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに遺産分割が整わない場合でも、法定相続分で未分割申告を行うことができるとされています(相続税法55条)。買取交渉が長引いても、申告と交渉は並行して進められます。

会社が「売渡請求」を行うのはどのような場面ですか

定款に売渡請求の規定がある場合、会社は相続人に対して「株式を売るよう請求」できるとされています(会社法174条)。この請求は、相続の事実を会社が知ってから1年以内に行使する必要があります(会社法176条1項)。

相続した株式の相続税評価と、会社への売却価格は同じですか

必ずしも一致しないとされています。相続税の評価は財産評価基本通達に基づきますが(相続税法22条)、会社への売却価格は当事者間の合意や裁判所の判断によって決まる場合があります。同じ株式でも、評価方式の違いにより数百万円単位の差が生じる可能性があります。

手続きを把握して数週間後。「あのとき書面で動いておいてよかった」と、静かにコーヒーを飲めるその日のために。

ホッとした顔

書面で請求を出したら、会社がちゃんと動いてくれた。手順を知ってるだけで、こんなに違うんだな。

相続株式の「会社への買取」は、決して難解な話ではない。制度の構造を知り、期限を意識し、書面で動く。それだけで、選択肢の幅が驚くほど広がる。

けっこうオススメです、早めの確認と書面提出。伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律と税務を分けずに確認

相続税申告、相続登記、不動産処分、遺産分割が同時に動く場面を前提に、弁護士・税理士の両面から整理しています。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

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