相続不動産が売れないときは、権利・家族の同意の問題か、買主が見つからない問題かを分けよう。原因で、先にする仕事が変わる。
値下げや解体の前に、取得の経緯、登記、家族の希望、物件の条件を整理する。以下は、説明用の架空の家族だ。
父の健三を亡くした兄の和也は、郊外の実家を売り、管理を終えたい。妹の由紀は、近所の親戚のため、家を残したいと言う。
弟の修も売却に賛成した。査定が300万円なら、解体すれば高く売れるのでは、と考える。
ところが、不動産会社からは、名義と道路の状況を、先に確かめたいとの返事が来た。
売却が止まる理由を三つに分ける
確認する資料:戸籍、遺言、協議書、登記事項証明書
次に考えること:相続人・権利・遺産分割と相続登記
確認する資料:共有の経緯、持分、各人の希望と資金
次に考えること:全体売却、買取り、現物分割、適切な裁判手続
確認する資料:道路、境界、建物、農地等の制限と見積り
次に考えること:利用できる買主、価格・条件の変更、他の出口
同じ家で、三つの問題が重なることもある。
由紀の反対がある間も、道路との接し方である接道の調査は進められる。ただし、調査が済めば反対を無視して、家全体を売れるわけではない。
家族の合意と、買主が使える物件かの確認を、並行して進めよう。
共有が問題なら共有解消の選択肢、誰も住まない実家なら空き家売却の準備を確認する。分け方が未定なら不動産の遺産分割へ戻る。
相続の権利と、登記の状態を確かめる
父が亡くなると、相続が始まる。登記をしなければ、所有権を一切相続しないわけではない。
一方、法律の割合である法定相続分を超える取得を第三者へ主張するには、原則として、登記等の対抗要件が必要だ。対抗要件は、権利を第三者にも主張するための条件をいう。
買主へ移す登記のためにも、相続の登記を整える必要がある。
和也は、登記が父名義のままか、祖父名義のままかを調べる。
祖父からの相続が未処理なら、当時の相続人と、その後の死亡による引継ぎまでたどる。今回の兄弟三人だけで話せば、全部終わるとは限らない。
未登記だから売買契約を結んでも自動的に無効、という説明も避けたい。誰がどの権限で契約するか、決済・引渡しまでにどの登記を終えるかが問題になる。
先に契約してから売主の権利を整えられなくなることを避けるため、名義変更の手続を確認する。
相続登記は、自分のために相続が始まったことと、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内が基本だ。
2024年4月1日より前の相続には、制度開始時の経過措置がある。分割が成立した後の、追加の登記義務も確かめよう。
正当な理由なく義務に違反すると、10万円以下の過料の対象となることがある。簡易な相続人申告登記で果たせる義務と、売却のための権利の登記は、同じではない。
全体の売却と、持分の売却を分ける
三人の共有となった家全体を、通常の任意売却で売るには、全員の同意が必要だ。
由紀が家を残したいなら、自分で買い取り、管理費も払う案と、一定期間使った後に売る案等を、資金と条件で比べよう。
修が自分の持分だけを売ることは、原則としてできる。ただし、買主は、ほかの共有者と権利を調整する立場になる。
買う人が絶対にいないわけではないが、家全体の査定の3分の1で、持分が売れる保証もない。持分の提示額と、全体を売った場合の手取りを分けて比べよう。
遺産分割前なら、原則として家庭裁判所での遺産分割を考える。協議で共有として取得した後等は、通常共有の分割を検討する。
通常共有の裁判では、土地そのものを二つに分ける等の現物分割や、一人が他の持分を取り、金銭を払う方法等がある。必ず競売になるわけではない。
ただし、物を分けられず、ほかの持分を買うこともできない場合等は、競売が問題になる。競売なら希望価格で売れる、とも考えないようにしよう。
物件の制限は、名称だけで判断しない
- 道路と建替え:道路の種類、接道、建築上の制限を自治体の担当窓口等で調べる。「再建築不可」といわれた理由と、隣地との調整や許可等の余地を確認する。今の建物を解体してから同じ建物を建てられないと知る順序を避ける。
- 農地:農地として売る場合の許可、転用や転用目的の権利移転に必要な手続を農業委員会等へ確認する。相続による取得の届出と、売却の許可を混同しない。
- 山林:農地と一括して農地法3条・5条の許可が必要とはいえない。地目だけでなく現況、境界、進入路、森林法等の手続を調べる。
- 境界・占有・老朽化:隣地との争い、他人の使用、修繕や解体の費用が買主の判断へ影響する。隠して募集するのではなく、資料と対応案をそろえる。
特定空家等や管理不全空家等は、法律に基づく勧告等により、敷地の住宅用地特例が使えなくなる場合がある。
ただ空き家になった、名称が付いた、というだけで、固定資産税の請求額が必ず6倍になるわけではない。自治体の通知と、課税の内訳を確かめよう。
解体費と税を含め、現金を比べる
説明用に、現状の売却見込額300万円、更地の売却見込額500万円、解体費250万円とする。ほかの費用・税は、まだ含めない。
更地案は、500万円−250万円=250万円。現状300万円より、50万円少ない。更地の表示価格が高いだけでは、有利と決められない。
本文の説明例。実際の査定・相場ではなく、ほかの費用や税を入れる前の比較だ。
売却見込額
300万円
500万円 − 解体費250万円
= 250万円
この仮定では、更地案の方が50万円少ない。実際は仲介・測量・処分等の費用、税、売れる見込み、建替えの制限も比べてから判断しよう。
相場や実際の見積りではない。実際は、仲介、測量、残置物の処分、登記、譲渡所得税、解体後の固定資産税等も比べる。
その額で買う人がいるかを調べずに解体すると、費用だけ先に出て、代金が入らない場合がある。
和也は、同じ不動産会社へ、現状と更地での売却を見積もってもらう。由紀は、親戚が使う場合の修繕・管理費を調べる。
修は、相続税の評価、査定、売れた場合の手取りを分けた。必要な相続税の申告・納税期限は、売れるまで自動で延びるものではない。
売却以外の出口も、条件と費用を比較する
隣地所有者へ打診する、空き家バンクで利用希望者を探す、修繕して利用・賃貸する等の案もある。
貸せば必ず黒字になるわけではない。修繕費、空室、契約上の責任、管理担当を確かめよう。自治体への寄附も、必ず受け入れられる制度ではない。
相続土地国庫帰属制度は、一定の土地を、審査・承認と負担金の納付で、国へ引き継ぐ仕組みだ。
不要な不動産を何でも、無償で引き取るものではない。建物、担保権等、境界や権利の問題等は、条件に抵触する。共有土地は、全員で申請する必要がある。
申請の審査手数料と、承認後の負担金は別だ。負担金は、10年分の標準的な管理費用を考えて計算する。
家を解体すれば、必ず承認されるわけでもない。先に法務局へ資料を示し、ほかの除外条件と負担を確かめてから、解体費を払うか判断しよう。
相続放棄は、不要な土地だけを選んで手放す手続ではない。
原則として、自分のために相続が始まったと知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する。申述は、自分の意思を裁判所へ申し出ることだ。ほかの財産・負債も含め、引き継がない扱いを検討する。
財産の処分等で、受け入れたと扱われる単純承認の問題もある。放棄時に財産を現に占有していた人は、引渡しまで保存の義務が残る場合も確かめよう。
原因と希望を整理して、相談する
- 戸籍、遺言、協議書、登記と固定資産税の資料を集める。
- 家族ごとの売却・利用の希望と、負担できる金額を記録する。
- 道路、境界、権利・利用の制限を資料で確認する。
- 現状・修繕・解体後の価格、費用、税金と時間を比べる。
- 売却、買取り、分割、国庫帰属等の条件を担当窓口へ確認する。
三人は、解体案をいったん保留し、登記と道路の確認から進めることにした。
調べれば必ず売れるとは限らない。ただ、権利の問題に値下げだけで対応したり、買主のいない物件へ先に大きな費用をかけたりする判断は、避けやすくなる。
次に確認する関連記事
確認に使える公的資料
関連する手続を、順に確かめる
国へ引き取ってもらう案は、申請できるかどうかから負担金の納付まで順に確認する。 相続土地国庫帰属の条件と費用で詳しく確認できる。
ほかにも確認する手続がある場合は、不動産の登記・分割・処分の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
相続した不動産の名義変更をしないままでも売却できますか
買主への移転登記のため相続登記(相続で受け継いだ不動産の名義を変える手続き)を整える必要がある。未登記なら契約自体が当然無効という意味ではなく、誰が売主かと決済までの条件を確認する。
共有不動産を他の共有者が同意しない場合でも売却できますか
全体の通常の任意売却には全員の同意が必要だ。自己持分の譲渡、他の共有者の買取りや、共有の種類に応じた分割手続を比較する。
売れない不動産を相続放棄で手放すことはできますか
その不動産だけの放棄はできない。熟慮期間(相続を受けるか、放棄するかなどを決めるための期間)、既にした処分、他の財産と負債、保存義務等も確認して、家裁への申述を検討する。
再建築不可の不動産は本当に売れないのですか
必ず売れないとは限らない。制限の具体的な理由、現状利用、隣地との調整、価格と費用を調べる。売却や建替えができる保証として解体を先行させない。
相続土地国庫帰属制度はどんな土地でも利用できますか
建物、担保、境界や管理負担等の条件があり、共有者全員の申請、審査料と承認後の負担金も必要だ。売れない土地すべての受入れを保証する制度ではない。



