非上場株式は売りにくくても、相続税の課税対象となる。株式の評価額と、納税に使える現金を別々に計算することが出発点だ。
一括納付、延納、物納、売却等の取引、事業承継税制を、使える条件と費用から比べる。
父の啓一の会社を継ぐ予定の拓也は、自社株の相続税評価の試算を見て驚いた。母の和子は「会社の口座にはお金があるでしょう」と話すが、妹の愛は、給与や仕入代金を払った後も会社に資金が残るのかを心配している。
以下は架空の家族と仮定の数字である。株価が高くても、株主個人が使える現金が同じだけあるとは限らない。相続人が株式を持つこと、会社が預金を持つこと、納税資金を用意することを分けて考える。
最初に、株式を受け取る人の株主区分、会社規模と財産、相続税の概算、期限までに用意できる現金を確認する。
法人版事業承継税制の特例を考える場合、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日だ(2026年10月25日確認)。計画の期限と、相続等・贈与の対象期間は分けて確認する。
資金不足を計算する前に、受け取る人に合う株式の評価ができているか確認する。 非上場株式の相続税評価|株主区分・会社規模・3方式の使い分けで詳しく確認できる。
非上場株式の税が払えないときは、税額と使える現金の差を求め、延納・物納・承継税制・売却を条件ごとに比較する。評価があることと換金できることを分ける。
相続税と個人の現金を並べ、不足額を確かめる
株価の試算と並行して、もう一本の計算が必要になる。相続税の概算額から、申告期限までに確保できる現金を差し引く。その差が、対策を考える出発点だ。
手順を並べると、次のようになる。
- 株主名簿、関係図、決算書、申告書、資産明細から株価を試算する
- 不動産、預貯金、保険、債務などを含む遺産全体と、相続人ごとの取得案を整理する
- 相続税の概算額と、申告期限までに使える現金を相続人別に比較する
- 不足額について、現金化・借入れ・延納・物納・納税猶予を使えるかどうかを比較する
会社の預金残高を、そのまま相続人個人の納税資金とは数えない。
配当、会社による自社株の買取り、役員退職金、会社からの借入れでは、必要な会社の手続や、会社・株主の税負担が異なる。資金繰りと金融機関との契約上の制約も確認する。
会社にお金があるというだけで決めず、実行後に会社の支払いを続けられるかも試算しよう。
不足額の大きさと性質が見えてきたところで、選択肢を並べて比較する。
| 方法 | 確認する点 | 注意点 |
|---|---|---|
| 手元資金・相続現金で納付 | 遺産分割前の資金移動、納付者、精算方法 | 他の相続人との合意と記録を残す |
| 配当・自己株式取得・第三者売却 | 分配可能額、譲渡承認、買い手、価格、所得課税 | 会社の資金繰りやみなし配当等を個別に試算する |
| 借入れ | 返済に使う収入や資金、担保、金利、保証 | 株式の評価額と融資可能額は一致しない |
| 延納 | 税額、金銭納付困難額、担保、申請期限、利子税 | 申請すれば自動的に認められる制度ではない |
| 物納 | 延納でも困難か、財産順位、管理処分適格性 | 非上場株式は第2順位で、先順位財産との関係を確認する |
| 事業承継税制 | 会社・先代・後継者の条件、都道府県手続、担保、継続届出 | 単純な免税ではなく、まず納税猶予として始まる |
拓也の株式の税務評価6,000万円、遺産全体と取得内容等から別に計算した拓也の相続税800万円、納税に使える個人資金300万円と仮定する。
資金表では800万円−300万円=500万円不足だ。ただし、金銭納付困難額は決められた資料で判定するため、不足500万円がそのまま延納の許可額になるわけではない。
会社の預金が2,000万円あっても、翌月の給与・仕入等に1,700万円が必要なら、単純な差は300万円である。その300万円も拓也個人のお金ではない。会社法上の決議・分配可能額、課税、資金繰り等を確認せず、会社から500万円を引き出せばよいとは考えない。
拓也の株式評価6,000万円と相続税800万円は、それぞれ別に計算した仮定だ。会社の預金は拓也個人の預金ではない。
相続税:800万円
使える個人資金:300万円
資金表では500万円不足。この500万円が、そのまま延納の許可額になるわけではない。
会社の預金:2,000万円
給与・仕入等に必要:1,700万円
単純な差は300万円だが、会社のお金だ。自由に拓也の納税へ使える額ではない。
会社から個人へ資金を移すなら、手続、税負担、会社の運転資金、契約の条件を確認してから比べる。
延納は「払えない」という事情だけでは動かない
延納の申請書を手にすると、記載欄の多さに気づく。税額だけでなく、金銭で納付することが困難な理由と、その困難な金額の根拠を書く欄がある。
延納には、次の四つの条件がある。
- 相続税額が10万円を超える。
- 金銭で納めるのが困難な事情があり、その困難な額の範囲内で申請する。
- 原則として、延納税額と利子税に相当する担保を提供する。
- 期限までに延納申請書と担保提供関係書類を出す。
期限内申告なら、原則として申告期限が延納の申請期限にもなる。担保書類を期限までに出せない場合の延長手続は別に確認する。
「株式を売りたくない」という意向だけで金銭納付困難額が決まるわけではない。相続で受け継いだ現金だけでなく、相続人自身の資金、当面必要な生活費や事業資金、換金できる財産の状況を申請書類に即して確認する。延納中は利子税も発生する。許可を受けた後のコストまで含めて、他の選択肢と比べることになる。詳細は相続税の延納|4つの条件・担保・利子税・期限を参照してほしい。
延納は一括納付の困難を分割払いで調整する制度で、税そのものを減らす仕組みではない。担保は原則必要だが、延納税額100万円以下かつ期間3年以下なら不要となる例外もある。拓也の500万円という不足の例へ、この例外をそのまま当てはめることはできない。
物納で非上場株式を渡せるかは、順位と適格性による
物納は、延納によってもお金で納めることが難しい場合に、その困難な金額を限度として申請する制度だ。当初から申請できるが、延納によってもお金で納めることが難しいかを先に判定し、申請期限を守る必要がある。実際に延納の許可を受けることが当初申請の必須条件ではない。
国税庁の財産順位では、不動産・国債・地方債・上場株式等が第1順位、非上場株式等が第2順位になる。後順位の財産は、先順位の適当な財産がない場合などに限られる。つまり、不動産や上場株式があれば、まずそちらが問われる。
特に、譲渡制限株式は国税庁が管理処分不適格財産として示している。担保付きや帰属争いのある株式等にも制約がある。「非上場株式は第2順位」という入口だけで、自社株を国へ渡せるとは判断しない。収納価額の確認も必要だ。相続税を物納できる財産と手続も確認したい。
事業承継税制は「猶予」から始まる制度だ
法人版事業承継税制は、一定の条件を満たす後継者が非上場会社の株式を相続・贈与で取得して経営を続ける場合に、相続税・贈与税の納税を猶予し、その後の一定の事由により免除される仕組みだ。適用した瞬間に税額がゼロになるのではなく、猶予という状態が続く。
法人版特例措置は、計画の提出が2027年9月30日まで、対象となる相続等・贈与が2027年12月31日までだ(2026年10月25日、国税庁No.4148で確認)。
計画を出すだけでは適用は決まらない。会社、取得者、認定、申告、担保等の条件と、その後の継続届出も確認する。
猶予・免除される税額だけで、利用を決めない。後継者が経営を続けられるか、将来の株式譲渡・組織再編・廃業の可能性も考える。
猶予税額と担保の管理、継続届出の負担も、制度を使わない場合と比べよう。
評価方式や特則に疑問がある場合は、財産評価の根拠を先に照らし合わせる。 非上場株式の相続税評価|株主区分・会社規模・3方式の使い分けで詳しく確認できる。
相談前にそろえる資料
相談前に、会社側と相続人側の資料をそろえよう。何があり、何が不足しているかを一覧にすると、評価と納税資金を一緒に検討しやすい。
- 定款、株主名簿、種類株式・議決権に関する資料、株主関係図
- 直近3期程度の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳書
- 土地、有価証券、保険、貸付金、借入金など主要資産・負債の明細
- 遺産全体、債務、相続人別の取得案、相続税の概算
- 相続人の預金、収入、生活費・事業資金、借入れ・売却の見込み
- 後継者、経営計画、都道府県への確認・申請状況
相続開始前なら、株価と納税資金を毎年、または大きな取引の前後で更新しておく。相続開始後は、申告期限から逆算して、評価資料の収集、遺産分割、金融機関との協議、延納・物納申請、事業承継税制の確認を並行して進める。
まず、株主名簿と決算書で、受け取る人に合う株式の評価を確認する。次に、相続税の概算と、期限までに用意できる個人の現金を並べる。
不足額が分かれば、売却・借入れ・延納・物納・納税猶予を、条件と負担から比べられる。株価が高いことだけで、使える制度や資金を決めない。
現在の条件は、国税庁の法人版事業承継税制、延納、物納でも確認できる。
啓一家は、拓也の500万円の不足を埋める案を、借入れ、売却、延納、条件を満たす納税猶予等で比べることにした。和子の生活費と愛への配分も残る。税を払える案でも会社の給与が払えなくなるなら、事業承継の目的に合わない。株価・税額・個人資金・会社資金を並べて確認したい。
ほかにも確認する手続がある場合は、会社・株式・事業承継の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
非上場株式を相続したら必ず納税するか
課税財産には算入するが、納税額は遺産全体、基礎控除、受け取る内容と特例から計算する。
物納できるか
非上場株式は第2順位だ。金銭納付困難額、先順位の財産、譲渡制限などの不適格事由と期限を確認する。
特例承継計画の提出期限はいつか
2026年10月25日確認の計画提出期限は2027年9月30日。特例措置の対象となる相続等・贈与は2027年12月31日までだ。
納税猶予ならその場で免税か
猶予と免除は別だ。認定・申告・担保・継続届出と取消しの条件を確認する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



