非上場株式は売却して現金化しにくくても、相続税の課税対象です。株価評価と納税資金は別々に計算し、現金一括納付、延納、物納、会社・株主間の取引、事業承継税制を要件ごとに比較します。
最初に確認するのは、取得者の株主区分、会社規模・財産内容、相続税の概算、申告期限までに用意できる現金の4点です。事業承継税制の法人版特例措置を検討する場合、特例承継計画の現在の提出期限は2027年9月30日です。
非上場株式の評価額と手元資金は別問題
取引相場のない株式は、すぐに買い手が見つからない場合でも相続税の評価対象になります。会社の利益や内部留保が多いという一つの事情だけで株価が決まるわけではありません。まず、相続人が同族株主等に当たるか、それ以外の株主かを判定し、会社規模、業種、総資産、従業員数、取引金額、配当・利益・純資産、特定の評価会社への該当性などを確認します。
| 確認項目 | 主な内容 | 資金計画への影響 |
|---|---|---|
| 取得者の株主区分 | 同族関係者を含む議決権割合、中心的な株主、役員該当性 | 原則的評価か配当還元方式かの入口になる |
| 会社規模 | 業種、総資産、従業員数、取引金額 | 類似業種比準、純資産、併用方式に関係する |
| 資産・負債 | 土地、有価証券、保険、貸付金、借入れ、含み損益 | 純資産価額と換金可能性の双方に影響する |
| 納税資金 | 相続人自身の預金、相続現金、配当、売却・借入可能額 | 期限内に不足する金額を把握する |
国税庁は、大会社を原則として類似業種比準方式、小会社を原則として純資産価額方式、中会社を両者の併用方式で評価すると説明しています。同族株主以外の株主等には配当還元方式を用いる場合があります。ただし、三つの方式から最も安いものを自由に選ぶ制度ではありません。
納税資金の不足額を数字で出す
相続税は、原則として申告期限までに金銭で一括納付します。そこで、株価だけでなく、相続税の概算額から期限までに確保できる現金を差し引き、不足額を見積もります。
- 株主名簿、関係図、決算書、申告書、資産明細から株価を試算する
- 不動産、預貯金、保険、債務などを含む遺産全体と相続人ごとの取得案を整理する
- 相続税の概算額と、申告期限までに使える現金を相続人別に比較する
- 不足額について、現金化、借入れ、延納、物納、納税猶予の適否を比較する
会社に現預金があることと、相続人個人がその資金を自由に使えることも同じではありません。配当、自己株式の取得、役員退職金、会社からの借入れなどには、会社法、税務、資金繰り、金融機関との契約上の問題があり得ます。実行前に会社側と株主側の税負担まで試算します。
資金不足に対する選択肢
| 方法 | 確認する点 | 注意点 |
|---|---|---|
| 手元資金・相続現金で納付 | 遺産分割前の資金移動、納付者、精算方法 | 他の相続人との合意と記録を残す |
| 配当・自己株式取得・第三者売却 | 分配可能額、譲渡承認、買い手、価格、所得課税 | 会社の資金繰りやみなし配当等を個別に試算する |
| 借入れ | 返済原資、担保、金利、保証 | 株式の評価額と融資可能額は一致しない |
| 延納 | 税額、金銭納付困難額、担保、申請期限、利子税 | 申請すれば当然に認められる制度ではない |
| 物納 | 延納でも困難か、財産順位、管理処分適格性 | 非上場株式は第2順位で、先順位財産との関係を確認する |
| 事業承継税制 | 会社・先代・後継者の要件、都道府県手続、担保、継続届出 | 単純な免税ではなく、まず納税猶予として始まる |
延納は4要件と申請期限を確認する
国税庁によると、延納には、相続税額が10万円を超えること、金銭で納付することが困難な事由がありその困難額の範囲内であること、原則として担保を提供すること、延納申請期限までに申請書と関係書類を提出すること、という要件があります。延納中は利子税も生じます。
「株式を売りたくない」という希望だけで金銭納付困難額が決まるわけではありません。相続で取得した現金だけでなく、相続人自身の資金、当面必要な生活費・事業資金、換金できる財産などを申請書類に即して確認します。期限内申告なら、延納申請期限は原則として相続税の申告期限と同じです。
物納で非上場株式を納められるとは限らない
物納は、延納によっても金銭納付が困難な場合に、その困難額を限度として申請する制度です。国税庁の財産順位では、不動産・国債・地方債・上場株式等が第1順位、非上場株式等が第2順位です。後順位の財産は、先順位の適当な財産がない場合などに限られます。
さらに、譲渡制限、権利関係、会社の状況などから管理または処分に適さない財産は物納できないことがあります。「非上場株式をそのまま国へ渡せば納税できる」とは考えず、延納の可否、財産順位、管理処分適格性、収納価額を申告準備の早い段階で確認します。
事業承継税制は納税猶予から始まる
法人版事業承継税制は、一定の要件を満たす後継者が非上場会社の株式を相続・贈与で取得して経営を続ける場合に、相続税・贈与税の納税を猶予し、その後の一定の事由により免除される仕組みです。適用と同時に税額が無条件でゼロになる制度ではありません。会社、先代経営者、後継者、対象株式、認定、担保、継続届出などの要件を確認します。
2026年8月24日時点で、法人版特例措置の特例承継計画の提出期限は2027年9月30日です。財務省は令和9年9月末までの提出と案内しています。改正前の旧期限を掲載した資料もあるため、実行時点の財務省・中小企業庁・都道府県の案内を確認してください。
制度を使わない場合と比べて有利かどうかは、後継者が経営を継続できるか、将来の株式譲渡・組織再編・廃業の可能性、猶予税額と担保、報告事務まで含めて判断します。納税資金対策と経営権の承継を一つの表にまとめると、税額だけを見た判断を避けられます。
裁判例・裁決例から分かるのは「評価方式を機械的に選ばない」こと
東京高裁平成13年3月15日判決(平成12年(行コ)第215号)は、非上場株式を配当還元方式で著しく低く評価できる仕組みと、時価純資産価額相当での買取りが見込まれていた特殊な事案で、通達上の方式を形式的に当てはめずにした課税を是認しました。一般の非上場株式すべてについて通達評価が否定されるという判決ではありません。
国税不服審判所の令和6年3月25日裁決も、相続直前の決算期変更や配当などを含む個別事情を検討しています。ここから「利益を下げれば必ず株価が下がる」「配当を出せば必ず有利」といった一律の方法は導けません。取引の事業目的、実行時期、株主・会社への影響、評価通達の適用関係を資料で説明できるかが重要です。
相談前にそろえる資料
- 定款、株主名簿、種類株式・議決権に関する資料、株主関係図
- 直近3期程度の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳書
- 土地、有価証券、保険、貸付金、借入金など主要資産・負債の明細
- 遺産全体、債務、相続人別の取得案、相続税の概算
- 相続人の預金、収入、生活費・事業資金、借入れ・売却の見込み
- 後継者、経営計画、都道府県への確認・申請状況
相続開始前なら、株価と納税資金を毎年または大きな取引の前後で更新します。相続開始後は、申告期限から逆算して、評価資料の収集、遺産分割、金融機関との協議、延納・物納申請、事業承継税制の確認を並行して進めます。
公的資料・裁判例
- 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」
- 国税庁「No.4211 相続税の延納」
- 国税庁「No.4214 相続税の物納」
- 財務省「事業承継税制について」
- 中小企業庁「法人版事業承継税制」
- 東京高裁平成13年3月15日判決(平成12年(行コ)第215号)
- 国税不服審判所令和6年3月25日裁決
よくある質問
非上場株式は売れなくても相続税がかかりますか
はい。市場で直ちに売却できるかとは別に、相続税法と財産評価基本通達に沿って評価します。取得者の株主区分、会社規模、資産内容などを確認します。
会社の内部留保が多いと必ず株価が上がりますか
一つの要素にはなり得ますが、それだけでは決まりません。評価方式、株主区分、利益・配当・純資産、土地や有価証券の含み損益、特定の評価会社該当性などを確認します。
現金が足りなければ延納は必ず認められますか
必ずではありません。税額、金銭納付困難額、担保、申請期限などの要件があり、許可を受けた後は利子税も必要です。
非上場株式をそのまま物納できますか
非上場株式等は第2順位の物納財産です。延納でも納付困難であること、先順位財産との関係、管理処分適格性などの要件を満たす必要があります。
事業承継税制を使えば相続税はゼロになりますか
適用時は納税猶予として始まり、一定の免除事由に至るまで要件と届出を継続します。法人版特例措置では、特例承継計画の現在の提出期限は2027年9月30日です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。株主構成、会社規模、資産・負債、遺産分割、納税者の資力、相続開始日、制度改正により評価・納税方法は異なります。最新資料を示して税理士・弁護士、所轄税務署、都道府県等へ確認してください。



