生前に遺留分を放棄するには、本人の自由な判断と、家庭裁判所の許可が必要だ。父や兄が一方的に決めることはできない。念書、公正証書、贈与の約束、家裁の許可を分けて考える。
架空の家族で考えよう。父は、事業を継ぐ長男の大地に財産をまとめたい。次男の涼は、将来の遺留分を求めないと約束する念書を渡された。
遺留分は、一定の近い家族に保障された最低限の取り分だ。父には預金と会社株式があり、涼への贈与も考えている。母はすでに亡く、子は二人だけだ。
家裁の許可を必要とするのは、親等からの圧力で、本人の自由な判断が失われるのを防ぐためだ。
涼は父の希望を聞きながら、何を失い、何が残り、代わりに何をいつ受け取るかを確認することにした。
署名を求められたら、すぐに返す前に、書面の意味を自分の立場で確かめる。親の希望を理解することと、自分が納得して権利を手放すことは別だ。
家族の希望と、自分の権利を分ける
遺言で財産を一人へ集めることと、ほかの相続人が遺留分を放棄することは別だ。
有効な遺言でも、遺留分が足りなければ、お金を求める請求が問題になる。ただし、請求されただけで遺言全体が自動的に無効になるわけではない。
遺留分を持つのは、兄弟姉妹以外の相続人だ。涼と大地は父の子として相続するので、どちらにも遺留分がある。
二人が兄弟であることと、亡くなった父自身の兄弟姉妹が相続することを、混同しない。
生前の放棄を考えるなら、父の財産と借金等、予定する遺言と贈与、生活への影響を確認する。
事業を続けたいという目的があっても、本人の権利が自動的に消えるわけではない。
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生前の放棄には、家裁の許可が必要
民法1049条は、相続が始まる前の遺留分放棄は、家裁の許可を受けた時に限り効力を生じると定める。
家族で合意したり、念書に署名したりするだけでは、生前の遺留分放棄の効力は生じない。公正証書にしても、許可は必要だ。
ただし、その紙に別の約束が書かれていないかも調べる。放棄の許可がなくても、贈与契約等の別の合意まで、すべて無意味になるとは限らない。
署名済みなら、原本と、説明を受けた経緯を、そのまま相談へ持参しよう。
涼は、父の説明を聞いた日、贈与の額を聞いた日、念書を渡された日を記録した。
父や大地の希望と、自分の理解や疑問を分けて残す。説明を受けずに急いで署名した、断りにくかった、という事情も隠さず伝える。
許可は、金額だけで決まらない
許可の判断では、本人の自由な意思、放棄する理由が合理的で必要か、見返りとなる贈与等、財産や家族の事情を確かめる。
本人が同意すれば必ず許可される、一定額を渡せば必ず許可される、という一律の基準ではない。
父の財産が8,000万円、相続人は子の大地と涼だけで、借金や贈与等の調整がないと仮定した例だ。
8,000万円×1/2
=4,000万円
4,000万円×1/2
=2,000万円
涼へ1,000万円を渡す案
②と差があっても、金額だけで許可・不許可は決まらない。
①②は今の数字による仮の計算だ。相続時の財産・借金・贈与・相続人が変われば、遺留分も変わる。将来も2,000万円になるという約束ではない。
涼が受け取る贈与については、何をいつ受け取るか、税や条件、生活への影響、事業に財産を集める必要性等も説明する。
額面の1,000万円と、税や条件を考慮した後に自由に使える手取りが、同じかどうかも確かめる。
父が将来渡すと約束しただけか、すでに渡したかは違う。契約、入金や登記、財産の評価資料を確かめる。
約束が実行されなければ、いつでも自分で放棄を撤回できる、と考えない。許可後の取消し・変更は家裁の職権等が問題になり、自動的に認められるわけではない。
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生前の放棄には本人から家庭裁判所への申立てと許可が問題になる。提出先・書類は申請手順の記事で確かめる。 遺留分の生前放棄|家庭裁判所の許可・判断要素・相続放棄との違いで詳しく確認できる。
相続人の地位と借金は、別に残る
遺留分を放棄しても、相続人の地位は残る。遺言に書かれていない財産の分割に参加したり、相続した借金等の支払いを求められたりする場合がある。
放棄の許可だけで、お金を貸した債権者等への責任まで、免れるとは考えない。
相続放棄は、亡くなった後に、別の条件で家裁へ申し出る制度だ。判断期間は、原則、自分のために相続が始まったと知った時から3か月となる。
遺留分放棄と同じ書面で、将来の借金まで解決できるわけではない。父の借金と保証を調べ、相続時に改めて選択と期限を確かめよう。
一人が遺留分を放棄しても、ほかの共同相続人の遺留分は増えない。
一方、贈与を受けた涼が、ほかの人から遺留分の請求を受ける可能性は別だ。自分から請求しないことと、ほかの人に請求されないことは同じではない。
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相続後の請求・放棄・和解を確認
亡くなった後の遺留分放棄や和解は、生前の家裁許可とは別に考える。
本人が自由に判断できたか、判断する能力があったか、誤解、だまされた事情や脅された事情、合意の内容と範囲等を確かめる。口頭なら必ず無効、書面なら必ず有効、という一律の扱いではない。
2019年7月1日以後に始まった相続では、遺留分が足りない分について、お金を求める請求をする。
相続が始まったことと、遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、亡くなってから10年の期間を確かめる。遺贈は、遺言で財産を渡すことだ。
支払う相手へ、権利を使うという通知を届かせる。調停を申し立てただけで、通知が済むわけではない。
請求を受けた側も、通知が届いた日、金額の根拠、放棄の許可や合意、財産・贈与・借金等を確認する。
権利が行使された後のお金の請求には、別の時効がある。1年が過ぎるのを待てば、必ず支払いが不要になるわけではない。
涼は父と大地の計画を聞き、自分が理解して判断するための資料を求めた。放棄するかだけで決めず、遺言、贈与、使える現金、借金と生活を一緒に確認する。
迷う点は、結論を出せないまま相談へ持っていってもよい。
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署名前に、五つ確認する
署名する前に、次の五つを確かめよう。
- 手放すのは、遺留分か、相続の取り分か。
- 誰が亡くなった時の相続についての約束か。
- 見返りとされる贈与を、実際に受け取ったか。
- 説明された財産や借金等に、不足はないか。
- 自分で考え、相談する時間があるか。
金額だけでなく、書面全体の内容を確かめる。
家族の希望を理解することと、権利を手放すことに同意することは別だ。
書面の写し、贈与等の資料、まだ分からない点をそろえる。家族と別に相談できる場も考えよう。
ほかにも確認する手続がある場合は、遺留分の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
生前放棄は本人が一人ですべて申立て事務をする必要があるか
本人が申立人となり、本人の自由な意思を確認する手続だ。弁護士の代理等まで使えない意味ではない。未成年等の代理と利益相反は個別に確認する。
遺留分を放棄すると相続権もなくなるか
相続人の地位は残る。遺産分割や相続債務の問題があり、相続放棄とは別に検討する。
相続後に遺留分を請求する期限はいつか
相続開始と侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、亡くなってから10年を確認する。権利行使後の金銭債権の時効も別に管理する。
生前の口約束や念書だけで放棄できるか
民法1049条の生前放棄には家裁の許可が必要だ。書面に別の契約が含まれる場合もあるので、署名済みなら内容と経緯を確認する。
一人が放棄すると他の相続人の遺留分は増えるか
増えない。一人の放棄は他の共同相続人の遺留分に影響しない。贈与を受けた人が他の人から請求される問題とは別だ。
本記事は一般的な説明である。本人の意思、財産・債務、遺言と贈与、許可の範囲、相続開始時期と合意内容を資料で確認し、個別に判断する必要がある。



