遺産分割の弁護士費用。着手金・報酬金の構造と、依頼が必要になる分岐点

遺産分割とは、被相続人の財産を相続人全員で話し合い、誰が何をどれだけ引き継ぐかを決める手続きのことです。全員の合意(遺産分割協議)によって成立するとされています(民法907条)。

結論から言うと、遺産分割で弁護士に依頼する費用は着手金・報酬金合わせて数十万円から発生する可能性があり、相続人間で合意できるかどうかで費用の規模が大きく変わるとされています。

困り顔

遺産分割って、家族で話し合えばいいんじゃないの……?弁護士なんてお金かかるし、どこで必要になるのかもわからない。

「相続の費用」という言葉を聞いて、みなさんの頭に浮かぶものはなんだろうか。税理士への報酬、司法書士への登記費用。なるほど。では、「弁護士」は?

「うちは家族だから、そんなの必要ない」と思った方。その判断は、半分正しくて、半分は少々甘い可能性がある。

今日のテーマは、遺産分割における弁護士費用。知っておくと、いざという局面で「あのとき読んでいてよかった」と思えるはずだ。

で、結論から言うと。遺産分割に弁護士が「必要になる瞬間」がある

遺産分割そのものは、相続人全員が同意さえすれば、弁護士なしでも完結する手続きだ(民法907条)。話し合い、署名押印、以上。それで終わる。

ただし。

「全員が同意する」という前提が、音を立てて崩れたとき。弁護士という存在は、一気にメインステージに登場する。

具体的には、こういう場面だ。

  • 相続人の誰かが「分割内容に納得できない」と言い出した
  • 遺言書の内容が遺留分(民法1042条)を侵害している可能性がある
  • 行方不明の相続人がいて、協議が進められない
  • 一人が「自分が全部もらう権利がある」と主張している

こういった状況が発生した瞬間、遺産分割は「協議」から「交渉・調停・審判」という第二フェイズに突入する。そして、そこが弁護士の本来の戦場なのだ。

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費用の現実。弁護士に頼むと「いくら」かかるのか

さて、ここが本題だ。気になるのは数字のはず。

弁護士費用には、かつて「報酬規程」という統一基準が存在していたが、2004年に撤廃された。つまり現在は、事務所によって費用が異なる。ここが最初のポイント。「相場」はあっても「定価」はないのだ。

それでも、おおよその構造は把握できる。

図解

着手金:依頼した瞬間に発生するコスト

弁護士に依頼すると、まず「着手金」が発生する可能性がある。これは、結果に関わらず支払うものだ。相場としては、遺産分割交渉の場合で20万円〜30万円前後が目安とされることが多い。ただし、遺産総額や争いの複雑さによって変動する。

報酬金:解決したときに支払うコスト

交渉や調停が成立した場合、「報酬金」が別途発生する。これが曲者だ。

一般的には「経済的利益の○%」という計算式が用いられることが多い。経済的利益とは、つまり「あなたが遺産分割によって受け取った財産の額」だ。1,000万円を受け取ったなら、その10〜16%、つまり100万円〜160万円前後が報酬金として発生する可能性がある。着手金と合算すると、数十万から百数十万円規模になるケースも珍しくない。

調停・審判になると、さらに変わる

遺産分割調停(家事事件手続法244条)に移行すると、手続きが長期化し、弁護士報酬も増加する可能性がある。審判(家事事件手続法39条)まで進んだ場合は、解決まで1年以上かかることも珍しくないとされている。費用は事件の規模感によるが、トータルで100万円を超えるケースもある。

弁護士への依頼を検討する際は、事前に「費用の見積もり」を複数の事務所に確認しておくことが、判断の助けになるはずだ。

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「弁護士に頼まない選択」と「頼む選択」の分岐点

費用を聞いて「やっぱり自分たちでやろう」と思った方、待ってほしい。それが合理的な選択である場合もある。ただし、判断するための基準は持っておきたい。

図解

弁護士への依頼を検討すべき状況として、以下のようなケースが挙げられることが多い。

  • 相続人の間で「誰がどれだけもらうか」について意見が割れている
  • 遺言書があるが、内容に疑問・不満を持つ相続人がいる
  • 遺留分侵害額請求(民法1046条)を行使したい、または行使される可能性がある
  • 相続人の中に連絡が取れない人がいる
  • 被相続人の生前に特定の人物が財産を「使い込んでいた」疑いがある

逆に、相続人全員の話し合いがスムーズに進んでいて、財産の内容も明確な場合は、司法書士や税理士の関与だけで完結する可能性もある。それぞれの専門家の役割の違いを把握しておくことが、費用を無駄にしない第一歩になる。

一つ重要なことを確認しておこう。遺産分割協議には法的な完了期限はない(相続税の申告期限・相続開始から10ヶ月は別の話だ)。焦る必要はないが、放置し続けると相続人が増え(次の代が亡くなるなど)、さらに複雑化するリスクがある点は、頭の隅に置いておきたい。

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動くなら、この順番で

では、遺産分割において「まず自分でできること」を整理しよう。いきなり弁護士を探す前に、やることがある。

図解

STEP 1:相続人を確定させる

被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せ、法定相続人が誰かを確定させる(民法887条〜900条)。これがないと、協議そのものが始められない。

STEP 2:財産・負債の全体像を把握する

不動産は名寄帳、預貯金は通帳・銀行への残高証明書請求、負債はJICCやCICへの照会。「プラスの財産」と「マイナスの財産」を一覧にまとめる。相続放棄を検討する場合は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月という期限がある(民法915条)。

STEP 3:相続人全員での「顔合わせ」を設定する

遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要だ(民法907条2項)。一人でも欠けると、その協議は効力を持たない。まず全員の連絡先を把握し、協議の場を設定することが先決だ。

STEP 4:合意が取れない場合は家庭裁判所へ

話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所への遺産分割調停の申立てが選択肢として挙がる(家事事件手続法244条)。調停でも不成立の場合は審判へ移行する(家事事件手続法259条)。この段階で弁護士の同席・代理が、実務上の選択肢として現実的になってくる。

ホッとした顔

ステップごとに整理してみると、自分でできることと、そうでないことの境界線が見えてきた気がする。

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よくある質問

遺産分割協議に期限はありますか

遺産分割協議そのものに法的な完了期限はないとされています(民法907条)。ただし、相続税の申告・納付期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内(相続税法27条)とされており、その期限までに分割が整っていると申告がスムーズになる場合があります。

弁護士費用は誰が払うのですか

原則として、依頼した相続人本人が負担するものとされています。費用を遺産から直接支出するためには、他の相続人全員の同意が必要になる場合があります。事前に費用の見積もりを確認し、費用負担について協議しておくことが望ましいとされています。

遺留分侵害額請求の期限はいつまでですか

遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効になるとされています。また、相続開始から10年を経過した場合も消滅するとされています(民法1048条)。

相続人全員が合意しなければ遺産分割はできませんか

相続人全員の合意がない場合、協議は成立しないとされています(民法907条)。全員の合意が得られない場合には、家庭裁判所への調停申立て(家事事件手続法244条)が選択肢として挙げられます。調停不成立の場合は審判に移行する場合があります(家事事件手続法259条)。

遺産分割協議書は自分で作れますか

遺産分割協議書は、法律上の定型書式はなく、自分で作成することも可能とされています。ただし、不動産の相続登記(不動産登記法76条の2)や金融機関での手続きに使用する際は、記載内容の正確性が求められます。不備があると手続きが滞る可能性があるため、司法書士や弁護士に確認を依頼することも選択肢の一つです。

手続きが終わった数週間後。「あの時、費用の仕組みを知っていてよかった」と、少し清々しい気持ちで振り返れるはずだ。

情報は、持っているだけで判断のスピードが変わる。それだけで、かなり違う。

伝わりましたかね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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