成年後見で変わる暮らし:費用・管理・支援の範囲を知る

成年後見制度のデメリット|費用・財産制限・後見制度支援預金

成年後見は、本人の意思と暮らし、権利を守るための制度だ。家族には費用や確認手続の負担が生じる。家の売却など、最初の用事が済んでも原則として支援は続く。

家族の手続を便利にすることだけが目的ではない。本人が十分に判断できないときでも大きなお金を扱うために、使い方を確認する仕組みがある。

母の澄子が施設へ移ることになり、娘の真由は母名義の家を売って費用に充てたいと思った。弟の秀一も賛成だ。ただ、秀一は「後見人が付いたら、母さんのお金を家族が使えなくなるんだろう」と心配している。

澄子は、庭の花を気に掛けている。家を売る話を十分に理解できるかは、まだ丁寧な確認が必要だ。真由に悪意はないが、手続を早く済ませたい気持ちは強い。ここからは、後見の制限とその理由を考える架空の家族である。

家を売れたら終了、とは限らない

真由が今困っているのは家の売却だが、売れた後にはまとまった代金が残る。その代金から施設費を払うこと、本人の希望する暮らしに使うこと、別の不利な契約から守ることは続く。最初の用事が終わった瞬間に支援もなくなれば、今度は売却代金の管理が宙に浮きかねない。

現在の法定後見等は、申立てのきっかけが解決しただけでは終わらない。本人の能力の回復等による取消しや死亡まで続くのが基本で、家族が「もう用は済んだ」とやめられる制度ではない。後見人が辞任・交代することと、本人への支援そのものが終わることも別だ。

また、家族を候補者として挙げても、必ずその人が選ばれるわけではない。裁判所が本人の状況や家族関係などを踏まえて選任し、専門職や監督人が関わる場合もある。利用を考えるときは、目の前の売却だけでなく、その後の暮らしまで見通す必要がある。

成年後見制度の4つのデメリット

負担を確かめるには、何を制限し、誰を守るためのものかを並べてみると分かりやすい。

  • 継続する費用と報告:後見人等が本人の財産から報酬を受けるには家庭裁判所の審判が必要で、金額は事務や財産などの事情で決まる。すべての人に一律の月額料金が自動で発生するわけではないが、専門職等が継続して関わる費用を見込む必要がある。
  • 家族だけでは用途を決められない:本人の生活費を出せなくする制度ではない。一方、「相続税が減るから」「子が助かるから」というだけで、本人の財産を贈与や家族の支出へ自由に回せるわけではない。本人の意思と生活上の必要性を確認する。
  • 別の制度への切替えは自由ではない:判断能力を失った後、家族が代わりに本人の意思があったことにして新しい信託を作ることはできない。ただし、既存の信託と後見が常に併用不可能という意味ではなく、対象財産と支援の役割を分けて検討する。
  • 当初の用事だけで終了できない:不動産売却や遺産分割が終わっても、継続する財産管理・本人支援を考える。短期の手続代理だけを頼む感覚で始めない。

「母のお金を残す」と「子へ残す」は同じではない

澄子の預金を1,800万円、年金を月14万円、施設・生活費を月20万円と仮定する。毎月足りない6万円を預金から補うなら、5年分は6万円×12か月×5年=360万円になる。

さらに、家計の大きさを比べるため、後見人の報酬等を仮に月2万円と置く。その5年分は120万円で、生活費の不足分と合わせて480万円だ。

これは費用の見積りや余命の予測ではない。継続する費用を見落とさないための仮計算で、実際の報酬は裁判所が判断する。

秀一は、1,800万円の残高を見て「少し孫に贈っても大丈夫」と思っていた。だが、これからの施設費や医療費はまだ続く。澄子の暮らしのためにあるお金と、将来子が受け取るかもしれない遺産を同じ財布として扱わないために、支出の確認が必要になる。本人が楽しみのために使うお金まで、一律に禁止されるわけではない。

後見制度支援預金のデメリット

後見制度支援預金は、本人の財産のうち日常的な支払いに必要な金額を通常口座で管理し、残りを専用口座へ分けて保管する仕組みだ。財産の使い込みを防ぎやすい一方、次の制約がある。

  • 払戻しに時間がかかる:専用口座からの払戻しや契約変更には、原則として家庭裁判所が発行する指示書が必要だ。急な高額支出へすぐ対応できない場合がある。
  • 家族が自由に動かせない:本人の利益のための支出でも、後見人や家庭裁判所への説明・手続きが必要になり、資金管理の自由度は下がる。
  • 信託と預貯金で対象が違う:後見制度支援信託は成年後見・未成年後見が対象だ。一方、後見制度支援預貯金は、金融機関によって保佐・補助でも利用できる場合がある。両者をまとめて「保佐・補助は使えない」と判断せず、裁判所と取扱金融機関へ確認する。
  • 取扱金融機関を確認する必要がある:すべての金融機関・預金商品で同じように利用できるわけではなく、口座開設や資金移動の手続きが生じる。

例えば、澄子が日々使う口座と、普段使わない大きな金額を置く口座を分けると、日常の支払を続けながら、一度に多額が動く危険を減らせる。専用口座から追加で出すときに指示書を必要とするのは、その確認を挟む仕組みだ。大きな支出を予定するなら、普段の口座に必要な額と、追加払戻しまでの時間を見込んで準備する。

対象の違いは、裁判所の後見制度支援信託・支援預貯金の案内で確認できる。古い資料にある対象となる種類の説明を、そのまま現在の全金融機関へ当てはめない。

成年後見の費用|申立実費・後見人報酬・継続する管理の試算

成年後見の費用は、申立て時の実費と、開始後に裁判所が認める報酬等を分けて考えよう…

生前対策
成年後見の費用|申立実費・後見人報酬・継続する管理の試算

成年後見制度が必要になる場面

真由が家の売却を進める場合も、まず澄子本人の判断能力と意思、暮らしの必要性を確かめる。

成年後見制度を検討するのは、本人の判断能力が不十分で、契約や財産管理に法律上の支援が必要なときだ。不正な引出しや不利な契約から守ることも、その支援に含まれる。

  • 認知症が進行し、預金の不正引き出しが疑われる場合
  • 遺産分割協議に参加できない相続人がいる場合(成年後見人が代理人として協議に参加できる)
  • 施設入所の契約など、本人が意思表示できない法律行為が必要な場面

遺産分割の話し合いも、内容を理解して意思を示せる状態で行う必要がある。その時に意思能力がなければ、法律行為は無効になる(民法3条の2)。

ただし、認知症という診断名だけで、すべての契約が無効になるわけではない。本人に必要な支援の種類を確認し、後見人と本人の利益が対立する場合は、別の代理人を立てるなどの対応も検討する。

遺産分割協議の進め方|まとまらない時の手順と注意点

遺産分割協議は、相続人全員の有効な合意で、誰がどの財産を受け取るかを決める話合い…

遺産分割・トラブル
遺産分割協議の進め方|まとまらない時の手順と注意点

成年後見制度を始める前の判断するための3つのポイント

利用前には、次の3点を整理しよう。

① 判断能力はどの程度か

法定後見には「後見」「保佐」「補助」の3つがある(民法7条・11条・15条)。判断能力の程度に応じて、必要な支援や制限の範囲が変わる。

診断書などで本人の状態を確かめ、どの法律行為に支援が必要かを整理する。最終的な判断は家庭裁判所が行う。

② 後見開始前に家族信託・任意後見を検討したか

判断能力が「まだある」うちに動けるなら、法定後見よりも柔軟な「任意後見契約」(任意後見契約に関する法律2条)や「家族信託」を先に検討する余地がある。ただし、任意後見にも監督や費用があり、家族信託だけで身上の支援やあらゆる契約を代行できるわけではない。本人の理解と意思があるかを確認して検討する。

③ 財産規模と費用負担のバランスを試算したか

管理財産が少額の場合、専門職後見人の報酬が毎年かさむことで、本人の生活に使える資金への影響が生じる場合がある。後見制度の利用期間が長くなるほど、この影響は無視できなくなる。事前に「想定される後見期間 × 月額報酬」を概算するだけでも、判断の材料が増える。

相続対策まとめ|何から始める?財産・遺言・贈与・生活資金の準備

相続対策は、税金を小さくする作業だけではない。財産を探せること、分け方を決められ…

生前対策
相続対策まとめ|何から始める?財産・遺言・贈与・生活資金の準備

関連記事として、こちらも参考になります。

成年後見と家族信託の違い|管理する財産・代理権・費用を比較

成年後見等は本人の権利と意思を支える仕組み、家族信託は特定の財産を目的に沿って管…

生前対策
成年後見と家族信託の違い|管理する財産・代理権・費用を比較

ほかにも確認する手続がある場合は、家族信託・成年後見の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

後見制度支援預金にはどのようなデメリットがありますか

専用口座からの払戻しや契約変更に家庭裁判所の指示書が必要となり、急な高額支出へすぐ対応できない場合がある。また、取扱金融機関と対象となる後見類型が限られ、家族が自由に資金を移動できる制度ではない。

成年後見を申し立てたら、必ず専門職後見人が選ばれますか

必ずしもそうとは限らないが、親族間に意見の対立がある場合や管理財産が複雑な場合には、家庭裁判所が弁護士・司法書士などの専門職後見人を選任する可能性があるとされている(民法843条4項)。申立時に「候補者」を推薦することはできるが、最終的な選任は家庭裁判所の判断による。

成年後見を始めた後、やめることはできますか

一度開始された後見は、本人の判断能力が回復したと認められない限り、原則として取り消すことができないとされている(民法10条)。「財産の管理が一段落した」などの理由では終了できないため、開始前に十分な検討が必要だ。

遺産分割協議に認知症の相続人がいる場合、どう対応しますか

判断能力がない状態の相続人が署名した遺産分割協議書は、有効な意思表示とみなされない可能性がある(民法3条の2)。この場合、家庭裁判所に後見開始の審判(裁判官が事情や資料を調べて判断する手続き)を申し立て、選任された後見人が本人を代理して協議に参加する方法が取られる場合がある。

成年後見の申立費用はどのくらいかかりますか

申立手数料だけでなく、登記手数料、郵便料、診断書・戸籍等の取得費用を確認する。必要に応じて、鑑定費用もかかる。

手続の種類や裁判所により違うため、申立先の最新案内で確かめよう。開始後に続く報酬等は、申立ての費用とは別に見込む。

任意後見と法定後見の違いは何ですか

任意後見は、本人の判断能力があるうちに自ら契約内容を決めて後見人を指定できる制度だ(任意後見契約に関する法律2条)。一方、法定後見(成年後見・保佐・補助)は、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任する制度だ(民法7条)。自由度と費用負担の面で両者には大きな違いがあるとされている。

母の暮らしに必要な支援から選ぶ

真由と秀一は、家を売ることだけを目標にせず、澄子の年金、施設費、帰宅の希望、日々の楽しみを一枚の表にした。自宅など居住用不動産の処分では、後見人の権限だけでなく家庭裁判所の許可が必要になる場面も確認する。手間が増えるのは確かだが、家族の都合だけで澄子の住まいや資金を決めないための確認でもある。

本人が自分で決められることは何か、どの法律行為を支える必要があるか、費用を払いながら生活を続けられるか。三つを一緒に考えると、単に「便利か不便か」だけでは見えなかった制度の意味が見えてくる。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

最終更新:

文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

TOP

電話でお問い合わせ LINEで簡単お問い合わせ