成年後見の費用が「毎月かかり続ける」仕組みと、始める前に知るべきこと

成年後見とは、認知症や知的障害などにより判断能力が不十分な方を法律的に保護・支援するための制度で、家庭裁判所が選任した後見人が本人の財産管理や契約行為を代理するものとされています。

結論から言うと、成年後見の費用は月額2万〜6万円程度の後見人報酬が継続的に発生する可能性があり、制度の利用前に費用総額のシミュレーションと他の選択肢との比較検討をしておくことが重要です。

成年後見の申立書類を手に、家庭裁判所の受付窓口に並んだことがある人ならわかるだろう。あの独特の静けさが、かえって不安を増幅させることを。

手続きの説明は丁寧だ。書類の書き方も教えてくれる。だが、誰も教えてくれないのが「で、これ、毎月いくらかかるんですか」という、最も核心的な問いの答えだ。

困り顔

成年後見って申し立てればいいんだろうけど……費用のこと、全然わからないまま来てしまった。

成年後見制度は、親の認知症が進行した瞬間に突如として「必要な制度」として目の前に降ってくる。そして、その費用の全体像を把握しないまま動き出した家族が、数年後に「こんなはずじゃなかった」とつぶやくケースは、決して珍しくない。

で、結論から言うと。成年後見の費用は「一度払えば終わり」ではない

これが、最初に知っておくべき事実だ。

成年後見制度には、申立て時にかかる「初期費用」と、制度を利用している間ずっとかかり続ける「ランニングコスト」という、二段構えの費用構造が存在する。ここを見落とすと、数年後に家計の計算が、静かに、しかし確実に狂い始める。

具体的には、こうだ。

  • 初期費用(申立て関連):申立手数料800円、登記手数料2,600円、鑑定費用(必要な場合)5万〜10万円程度、書類取得費用など。合計すると数万円程度になる場合がある。
  • 後見人報酬(月額):家庭裁判所が審判で決定。目安として月額2万〜6万円程度とされることが多いが、管理財産額が多い場合や業務量によって増額される可能性がある。
  • 後見監督人報酬(月額):監督人が選任された場合、さらに月額1万〜3万円程度が加算される場合がある。

後見人報酬は、「財産管理をしてもらった対価」として家庭裁判所が定めるもので(民法862条)、本人の財産から支払われる。つまり、守るべき本人の財産が、毎月じわじわと、制度の維持費として流出し続ける構造になっている。

図解

10年間、後見人報酬が月3万円だとしたら。電卓を叩けば、答えはすぐ出る。360万円だ。これが、制度を「使い続けること」のリアルな数字だ。

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費用を左右する「3つの分岐点」を押さえておく

成年後見の費用が高くなるか低くなるかは、いくつかの分岐点によって変わってくる。知っておくと、驚くほど使える知識だ。

① 誰が後見人になるか

後見人には「親族後見人」と「専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士など)」の二種類がある。親族が後見人に選任された場合、報酬を請求しなければ報酬はゼロになる場合もある。一方、専門職後見人が選任されると、報酬は継続的に発生する。

ただし、親族が後見人になれるかどうかは家庭裁判所の判断次第。管理財産が多い場合や親族間に対立がある場合は、専門職後見人が選任される傾向があるとされている。

② 管理する財産の規模

管理財産額が多いほど、後見人報酬の目安は上がる。東京家庭裁判所の報酬付与の基準では、管理財産が5,000万円超の場合、月額5万〜6万円程度が目安とされることがある。財産が多いからといって、コストも比例して増える可能性があるのだ。

③ 任意後見か、法定後見か

本人の判断能力がある間に自分で後見人を選んでおく「任意後見制度」(任意後見契約に関する法律)と、判断能力が失われた後に家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見制度」(民法7条〜)では、費用構造が異なる場合がある。任意後見は、本人が元気なうちに契約内容や報酬を決められるため、透明性が高い傾向がある。

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「申立て前」にできる費用シミュレーションの実践ステップ

では、実際にどう動けばいいか。以下のステップで、費用の全体像を自分で把握できる。

  • ステップ1:財産目録を先に作る
    被後見人(親など)の財産総額を把握する。預貯金、不動産、有価証券。この総額が後見人報酬の目安を計算する起点になる。
  • ステップ2:後見期間の見通しを立てる
    平均的な後見期間は数年〜10年以上に及ぶ場合がある。管理財産額と月額報酬目安から、総費用の概算を計算してみる。
  • ステップ3:親族後見人の可能性を検討する
    親族間に対立がなく、後見事務を担える親族がいる場合、親族後見人の申立てが認められる可能性がある。家庭裁判所に事前相談することもできる。
  • ステップ4:「成年後見制度利用支援事業」を確認する
    各市区町村が実施している「成年後見制度利用支援事業」では、申立費用や後見人報酬の一部を助成する制度がある場合がある。本人に資力がない場合は特に確認しておきたい。

これらを一通り確認するだけで、「思っていたより費用がかかる」あるいは「思っていたより抑えられる可能性がある」という判断が、自分でできるようになる。

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制度を使う前に知っておきたい「一度始めたら止められない」という性質

成年後見制度には、知っておくべき重要な特性がある。

原則として、一度始めると被後見人が亡くなるまで続く、ということだ。「やっぱり費用が高いからやめよう」「別の方法に切り替えたい」という理由での取り消しは、基本的に認められない(民法10条、11条等)。

これは制度の趣旨として「本人を継続的に保護するため」であり、合理的な理由だ。ただし、利用を検討している家族にとっては、「始める前に十分に考える」ことが、非常に重要な意味を持つ。

後見が始まった後に「家族が不動産を売却したい」と思っても、後見人の同意と家庭裁判所の許可が必要になる場合がある。財産の使い方の自由度が、大きく制限されることを事前に理解しておきたい。

ホッとした顔

費用の仕組みと、始める前に確認すべきことがわかった。これなら、家族で話し合って決められそうだ。

成年後見制度は、判断能力を失った大切な人を守るための、非常に重要な制度だ。費用を把握した上で、「それでも利用する」という判断をした家族は、後から慌てることが、ぐっと少なくなる。

申立ての前に、財産目録を作り、期間の見通しを立て、費用の総額をシミュレーションする。たったこれだけのことが、数年後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐ、最初の一手になる。

けっこう使える知識ですよ、これ。伝わりましたかね。

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よくある質問

成年後見の申立てにかかる費用はどのくらいですか

申立手数料800円、登記手数料2,600円のほか、医師の鑑定が必要な場合は5万〜10万円程度の鑑定費用が加算される場合があります。また、戸籍謄本等の書類取得費用も別途かかる可能性があります。合計では数万円〜10万円超になるケースもあるとされています。

後見人の報酬は誰が払うのですか

後見人への報酬は、被後見人(保護を受ける本人)の財産から支払われるのが原則です(民法862条)。家庭裁判所が審判で報酬額を決定します。本人に資力がない場合、市区町村の「成年後見制度利用支援事業」による助成が受けられる可能性があります。

親族が後見人になれば費用はかかりませんか

親族後見人が報酬を請求しない場合、報酬はかからない可能性があります。ただし、家庭裁判所が親族後見人を選任するかどうかは審判次第であり、財産規模や親族間の状況によって専門職後見人が選任される場合もあるとされています。

成年後見はいつでも取り消せますか

原則として、判断能力が回復しない限り後見は被後見人が亡くなるまで継続されます(民法10条)。「費用が高い」「使い勝手が悪い」といった理由での取り消しは認められないとされており、開始前に十分な検討が重要です。

任意後見と法定後見はどう違いますか

任意後見は本人の判断能力があるうちに後見人と契約内容・報酬を自分で決めておく制度(任意後見契約に関する法律)で、法定後見は判断能力喪失後に家庭裁判所が後見人を選任する制度(民法7条〜)です。任意後見は本人の意思を反映しやすい一方、契約時に公正証書の作成が必要とされています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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