遺言書がない場合の相続手続き|相続人調査から遺産分割まで

遺言書がない場合の相続手続き|相続人調査から遺産分割まで

遺言が見つからないときは、所在確認、戸籍、財産と借金等の調査、期限管理を並行し、その資料で分け方を考えよう。

遺言がないから、直ちに全財産を、法律の割合である法定相続分どおりに、名義変更する必要があるわけではない。人物・金額は、説明用となる。

父の死後、長男の達郎と長女の美雪は、遺言が見当たらず、家をどう分けるか話し始めた。

母の登美子は、住み続けたい。達郎は売れば分けやすいと考え、美雪は、先に預金と借金を調べようと提案した。以下は、説明用の架空の家族だ。

分け方に全員の合意を求めるのは、各人の権利に関わる財産の行き先を、決めるためだ。

家族の記憶だけでは、参加すべき人や財産が漏れることがある。登美子たちは、売るか残すかの前に、判断の土台をそろえることにした。

1.遺言の所在を確かめる

公正証書を作った可能性があれば、公証役場で、有無と保管先を検索する。1989年以降のものは、全国の公証役場で申し出られる。

相続人等の利害関係を示す戸籍や、本人確認資料等をそろえよう。法務局の自筆証書遺言書保管制度は、別に調べる。

自宅の金庫や重要書類、貸金庫の契約、専門家の預り証、作成先を示すメモも調べる。どこへ照会したかと回答を記録しておく。具体的な順序は遺言書の探し方で整理できる。

封印のある遺言を見つけたら、そのまま残し、家庭裁判所の検認を確かめる。公正証書と法務局保管の遺言は、検認不要だ。

探している間も、相続放棄や申告の期限管理を続けよう。

2.戸籍で、相続人を確かめる

家族の記憶だけで決めず、父の出生から死亡までの、戸籍・除籍・改製原戸籍等を続けて調べる。

亡くなった時の戸籍だけでは、以前の結婚中の子、認知した子、養子等が分からない場合がある。

法律上の配偶者は、常に相続人となる。それ以外は、子、父母・祖父母等の直系尊属、兄弟姉妹の順位で確かめる。

先に亡くなった子の子等が、代わって相続する代襲相続もある。放棄、死亡が重なる数次相続、海外在住者がいる場合は、必要資料と連絡先も追加しよう。

協議書で何も受け取らないと決めることと、家庭裁判所で相続放棄をすることは、別だ。借金への責任も含めて考える。

相続人が一人なら、相続人同士の遺産分割協議は通常不要だ。ただし、相続関係の証明や名義変更の手続は必要となる。

同じ戸籍を複数の提出先へ使う場合は、法定相続情報証明制度の利用も検討する。

認証された一覧図の写しで戸籍一式の提出を省ける場面があるが、協議書や各手続の申請書まで不要になるわけではない。

3.財産だけでなく、借金と未払金も一覧にする

  • 預貯金:金融機関、支店、残高、死亡前後の入出金。
  • 不動産:所在地、登記名義、持分、抵当権、固定資産税、管理状況。
  • 証券・事業資産:証券口座、非上場株式、出資、売掛金、事業上の契約。
  • 保険等:契約者、被保険者、受取人を確認し、遺産分割の対象かを分ける。
  • 債務:住宅ローン、借入金、保証債務、未払税金、医療費、賃料等。

受取人が指定された死亡保険金は、通常、その受取人固有の権利として扱われる一方、相続税ではみなし相続財産となる場合がある(国税庁の説明)。「税金の対象」と「相続人全員で分ける遺産」を同じものと考えない。

不動産の把握には、2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度も利用できる。

氏名・住所等で登記を検索するため、旧住所や未登記の不動産などに限界がある。固定資産税資料や自宅の書類と照らし合わせて調べる。

借金が多そうなら、遺産を売ったり使ったりする前に、放棄を検討しよう。財産の処分等によって、相続を受け入れたと扱われる法定単純承認が、問題になることがある。

判断に要る調査が終わらなければ、期限内に、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法もある。熟慮期間は、受け入れるか放棄するか等を決める期間だ。

美雪は、遺言の検索、戸籍上の相続人、銀行と不動産の回答、未確認の借金を、別の欄にした。

達郎の知る家族だけで署名を集めず、戸籍上の相続人と一致するかを、先に確かめる。

登美子は、父の口座を生活費として使い続けてよいか、気にしている。

処分や放棄の問題、銀行の手続を確かめ、支出した人、目的、領収書を残す。調査にかかる時間と、法律上の期限は、別に管理しよう。

4.期限と、いつから数えるかを調べる

手続 基本的な期限・確認事項
相続放棄等 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内。調査が間に合わない場合の伸長は期間内に検討する。
準確定申告 申告が必要な場合、相続が始まったと知った日の翌日から4か月以内に、故人の所得税等を申告・納付する。
相続税 申告が必要な場合、相続が始まったと知った日の翌日から原則10か月以内に申告・納付する。未分割でも自動延長されない。
相続登記 相続開始と不動産の所有権取得を知った日から3年以内。過去の相続や分割成立後の追加義務も確認する。

所得税と相続税は別の税金であり、片方を申告すればもう片方も済むわけではない。申告が必要かどうかや期限は国税庁の準確定申告案内、相続税の申告・納税案内で確認する。

2024年4月より前から相続したと知っていた未登記不動産は、原則2027年3月31日までの登記が必要になる。

話合いが終わらないときは、相続人申告登記で基本的な義務を果たす方法がある。ただし、名義変更の完成ではなく、分割成立後は別にその内容を反映する登記が必要だ。詳細は法務省の義務化案内を参照する。

5.評価と分け方を決め、合意する

遺産分割協議には、相続人全員の参加と合意が必要だ。

ただし、全員が同じ日、同じ場所に集まる必要まではない。資料を共有し、郵送やオンラインの話合いも使い、最後の合意内容をそろえる。

分け方には、財産そのものを取る方法、一人が不動産を取り、ほかの人へ調整のお金である代償金を払う方法、売って代金を分ける方法等がある。

住み続けたい人がいても、代償金を用意できるか、維持費を払えるかまで確かめよう。

不動産の時価と、相続税の評価額は、目的が違う。資料と、いつの価値で話すかをそろえよう。

生前贈与や介護の負担でもめる場合も、特別受益や寄与分として、どの事情が問題かを、資料と金額で整理する。

親と未成年の子が共に相続人で、利益が対立する場合は、特別代理人が必要となることがある。

判断能力に問題がある人や、行方不明の相続人も、家族が勝手に署名してよいわけではない。適法に参加するための制度を確かめよう。

家の民事上の合意価額を2,400万円、預金を1,200万円と仮定する。相続人は登美子と子二人で、借金等の債務や特別受益等はない例だ。

計3,600万円に対し、法定相続分に相当する額は、登美子1,800万円、子は各900万円となる。

登美子が家、子が預金を各600万円ずつ取るなら、母が子へ300万円ずつ代償金を払うと、この例では法定相続分相当になる。

登美子は、自己資金600万円と、その後の維持費を用意できるだろうか。家の価額は現金ではなく、この合意価額で相続税まで決まるわけでもない。

全員が合意し、違う配分を選ぶ余地もある。

家を残す案も、払う現金を確かめる

本文の架空の例。遺産は家2,400万円と預金1,200万円。相続人は母と子二人、債務や特別受益等はない仮定だ。

登美子:家を取得する

家の合意価額:2,400万円
子へ払う自己資金:計600万円

差引きの価額は、1,800万円相当。ただし、家は現金ではない。

達郎・美雪:一人当たり

遺産の預金:600万円
母からの代償金:300万円

計900万円となる。母の支払額は、300万円×二人だ。

法定相続分相当にそろえる一案で、必ずこの配分にするものではない。母の自己資金600万円と維持費、支払時期を確認する。合意価額から相続税が決まる計算でもない。

6.協議書から、入金・登記まで進める

合意したら、誰が何を取り、代償金をいつどう払い、後で財産が見つかったらどうするかを、協議書へ書く。

不動産の表示は登記と、口座は銀行等の情報と照らし合わせよう。

印鑑証明書、戸籍、協議書原本等は、提出先ごとに、必要範囲と返却方法を確かめる。

署名・押印だけで終わりではない。登記後の名義・持分、振込先と入金額、証券の移管結果まで確かめ、控えを共有しよう。

借金を一人だけが負担すると、相続人同士で決めても、ほかの人の責任が自動でなくなるわけではない。貸した人である債権者の同意も、問題になる。

住宅ローンや保証債務は、金融機関等と、別に対応を確かめよう。

まとまらなければ、家裁の手続を考える

遺産分割調停は、相続人の1人または数人が、他の相続人全員を相手方として申し立てる。

申立先は、相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意した家庭裁判所となる。

父等の亡くなった人一人につき、収入印紙1,200円と連絡費用等が必要だ。戸籍、財産資料、事情説明書等を用意する。

調停が不成立なら、自動で審判へ移り、裁判官が判断する。遺言の有効性や遺産の範囲が争われる場合は、別の訴訟等が必要かも確かめる。

初めから結論だけを迫るより、相続人、財産と借金、期限、未確認のことを一覧で共有すると、話を進めやすい。

資料をそろえ、合意できる点と、専門家や裁判所の判断が必要な点を分けよう。

登美子たちは、住み続ける案、売る案、代償金を払う案を、金額と支払の見通しで比べることにした。

合意後も、協議書、銀行の入金、登記まで担当を決めよう。分割前も、税や登記の期限に対応する。

ほかにも確認する手続がある場合は、遺言の作成・解釈・執行の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

遺言がなければ法定相続分どおりに分けるのか

法定相続分は基準だが、相続人全員が合意すれば別の配分もできる。債務の負担を相続人同士で決めても、債権者を自動的に拘束するわけではない。

相続人全員が同じ場所に集まる必要があるか

全員の合意は必要だが、同じ場所に集まることまでは要求されない。資料を共有し、郵送等も用いて合意内容を一致させる。

相続人が1人の場合も協議書が必要か

相続人同士の遺産分割協議は通常不要だ。ただし、相続関係を示す戸籍や、各名義変更の必要書類は準備する。

話合い中なら税金や登記の期限は延びるか

話合い中というだけで自動的に延びるわけではない。未分割の相続税申告や相続人申告登記など、期限内に取れる対応を確認する。

財産を受け取らないと決めれば借金も負わないか

協議で受け取らないことと家庭裁判所での相続放棄は別だ。債権者に対する責任を含めて、放棄が必要かどうかと期限を確認する。

本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

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文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

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