相続税を自分で試算:入力資料・計算・現金を分ける

相続税シミュレーションを自分でする方法|8,000万円の家族の計算と確認表

相続税のシミュレーションを自分でするなら、最初から一つの「正解の税額」を出そうとしなくてよい。まず、確かな数字と未確認の数字を分ける。次に、基礎控除、法定相続分(法律で決められた相続の割合)での仮計算、実際の分け方、各人の軽減という順に進む。その税額を、実際に払える現金と比べる。これで、家族が次に調べるべきことが見えてくる。

ここからは、父を亡くした母の律子と、子の由佳・航平の架空の例だ。実際の相談を紹介したものではなく、税額を説明するための単純な条件を置いている。申告書を完成させるための計算とは区別して読んでほしい。

手元で試算する際は、各財産の根拠と未確定の条件を残し、条件を変えた案を比較する。電卓の一つの答えだけで、申告が必要かどうかや資金の準備まで決めない。

自宅の評価と、払える現金を分ける

航平は、父の財産を表計算ソフトへ入力した。実家の土地と建物、預金、株式だ。

合計8,000万円に、見かけた税率を掛けようとした時、姉の由佳に止められた。

「土地の値段は、何の資料? 保険は入れた? 借金は引いた?」。父の書類は由佳が預かっていたが、航平には全部伝わっていなかった。

航平は、分からない欄まで、ゼロで埋めていた。

母の律子は、ここで暮らすため、預金をどれだけ残せるか知りたい。由佳は申告の準備、航平は納税額が気になる。

同じ表を見ても、三人が知りたいことは違っていた。

そこで、まず「資料」「金額」「確かかどうか」の三つの欄を作った。

分からないことを消して、安心するための表ではない。どの数字が変われば、家族の予定も変わるかを調べるためだ。

手順1 財産と根拠を書く

確認項目 手元へ集める資料の例 概算で間違えやすい点
預貯金・現金 死亡日時点の残高証明、通帳、取引履歴 記帳した日と死亡日が違う。ネット口座や自宅現金が抜ける
土地・建物 固定資産税通知書、登記事項証明書、路線価図・倍率表、地積資料 土地の固定資産税評価額や査定額を、そのまま相続税評価に使う
株式など 証券会社の残高証明、銘柄・数量・評価資料 購入額を使う。相続税の評価と売却益の計算を混ぜる
死亡保険金・死亡退職金 契約・保険料負担・受取人・支払額の資料 全部非課税と考える。受取人ごとの扱いを見ない
債務・葬式費用 借入残高、請求書、領収書、支払記録 支出は全部引けると思う。まだ払っていない費用を見落とす
生前贈与 贈与契約書、振込記録、過去の申告、使った制度 父名義でなくなった財産を調べない。加算期間・制度を混ぜる

まず、財産の範囲、非課税部分、引ける借金等、必要な贈与加算を整理する。その後の額から、税額を計算する。

例えば借金を引くのは、返すべきお金を、自由に使える財産と同じにしないためだ。

土地と建物では、評価方法も違う。土地は、路線価や評価倍率を使い、形や権利関係も調べる。

家屋は原則、固定資産税評価額を使うが、貸家や一定の分譲マンション等には調整がある。通知書の数字を全部足すだけで、正確とは決められない。

贈与は、相続時精算課税と暦年課税を分ける。2026年12月31日以前に開始する相続では、暦年課税の加算対象期間は相続開始前3年以内で、その後は段階的に延びる。精算課税の2024年以後の年間110万円の基礎控除なども別に確認する。分からないものは、計算表から消さず「要確認」にする。

入口の整理は相続税はいくらからかかるか、生前から資料を集める場合は相続対策は何から始めるかも参考になる。

手順2 基礎控除を引く

以下は、財産調査、非課税部分、借金等、必要な贈与加算を整理した後の、正味の遺産額が8,000万円という仮定だ。

相続人は律子・由佳・航平の3人。土地の特例は使わず、ほかの個人別の加算・控除もないものとする。

基礎控除は、3,000万円+600万円×3人=4,800万円だ。

相続全体から一度引く額であり、一人ずつ4,800万円を使うわけではない。

8,000万円−4,800万円=3,200万円

残る3,200万円が、課税遺産総額だ。税を計算する、共通の課税ラインを超えた部分である。

基礎控除以下なら通常は申告不要だが、土地の特例で初めて下回るなら、適用のための申告が必要になる。

人数の数え方には、相続放棄や養子についての税金を計算するときのルールがある。基礎控除の人数と計算式を確認し、「実際にもらう人だけ」を数えないようにしたい。

手順3 法定相続分で税の総額を計算

航平は、母が何をもらうか決まらなければ、計算も進められないと思った。

だが、この段階は、実際の分け方ではない。3,200万円を、法定相続分で仮に分ける。

妻と子二人なら、妻が2分の1、子は残る2分の1を二人で分ける。

計算上は、律子1,600万円、由佳800万円、航平800万円。この額に、税率と速算控除を使う。

人 法定相続分で仮に分けた額 税率による計算 仮の税額
律子 1,600万円 1,600万円×15%−50万円 190万円
由佳 800万円 800万円×10% 80万円
航平 800万円 800万円×10% 80万円
合計 3,200万円 190万円+80万円+80万円 350万円

相続税は、大きな額の部分ほど税率が高くなる。初めから実際の分け方へ直接税率を掛けると、同じ家族・同じ遺産でも、基本の総額が変わってしまう。

そこで、法定相続分を共通の基準にし、まず税の総額を求める。

後で配偶者の軽減等を使うので、実際の分け方が無関係という意味ではない。

表の1,600万円も、律子が実際にもらう家の値段や、払う税金ではない。基礎控除後の3,200万円を、税の計算用に分けた額だ。

手順4 取得割合と軽減を確認

次に、実際に受け取る額で計算する。

正味8,000万円を、律子4,000万円、由佳2,000万円、航平2,000万円とする例だ。こう分けなければならない、という意味ではない。

人 実際に受け取る額(仮定) 取得割合 350万円の配分 配偶者軽減後の例
律子 4,000万円 50% 175万円 0円
由佳 2,000万円 25% 87万5,000円 87万5,000円
航平 2,000万円 25% 87万5,000円 87万5,000円

この仮定では、律子の取得額は配偶者の軽減の範囲内だ。分割や申告等の条件を満たせば、配分した175万円は、軽減でゼロになる。

由佳と航平にほかの調整はないので、家族の納税額は、合計175万円となる。

財産8,000万円、課税遺産総額3,200万円、配分前の税の総額350万円、軽減後の納税額175万円。

四つは、役割の違う数字だ。同じ「相続税」として話さず、どの段階かを分けよう。

実際は、保険金を受け取る人、借金を負担する人、代償分割等で、各人の課税価格も変わる。

2割加算、未成年者や障害者の控除、贈与税額控除等があれば、この単純な例だけでは計算できない。

手順5 未確定の評価を変えて比べる

由佳は、最初の土地評価を「まだ概算」と書き直した。ここで最低の見積もりだけを使い、「175万円で決まり」と伝えるのは早い。評価が変わった場合に何が変わるかも、同じ条件で比べる。

土地以外の条件と、実際に受け取る割合を同じにし、正味の遺産額だけを、7,000万円、8,000万円、9,000万円に変えてみよう。

土地の特例は使わず、母の取得割合は50%、配偶者軽減の条件を満たし、子にほかの調整はない前提だ。

正味の遺産額 基礎控除後 配分前の相続税の総額 母の軽減後の家族納税額
7,000万円 2,200万円 225万円 112万5,000円
8,000万円 3,200万円 350万円 175万円
9,000万円 4,200万円 480万円 240万円

実際の相場の幅や、正式な評価結果を示す表ではない。

未確定の額が1,000万円変わると、税額も変わることを見るための仮定だ。申告では、好きな評価額を選ぶことはできない。

土地の特例は、最後の税額175万円から、適当に80%引く制度ではない。

対象の土地の評価を、条件と面積の限度に従って先に調整し、課税価格から計算し直す。財産の評価を減らす制度と、計算後の税額を軽減する制度では、使う段階が違う。

最後に、支払い用の現金を確認

航平が2,000万円相当を受け取っても、それがほとんど土地の持分なら、口座へ2,000万円が入るわけではない。

87万5,000円を納める現金を、いつ、どこから用意するかは、別に確かめる。

取得額が2,000万円でも、現金は足りるか

航平の税額は本文の仮定で87万5,000円。取得する財産は土地持分1,990万円、預金10万円で、別に使える現金はない例を考える。

財産として受け取る額

土地持分:1,990万円
預金:10万円
↓
合計2,000万円

土地の評価額だけの現金が、口座へ入るわけではない。

この預金だけを納税に使うと

納税額:87万5,000円
使える預金:10万円
↓
不足は77万5,000円

費用や生活費も必要なら、資金の不足は別に増える。

仮定の資金比較で、土地がこの価額ですぐ売れることや、融資を受けられることを保証しない。税額の確認と、期限までの資金準備を分けよう。

律子も、税額がゼロになれば生活費の心配が全部なくなるわけではない。家を持ち続ける固定資産税や修繕費があり、ほかの相続人へ代償金(遺産を多く受け取る人から、ほかの相続人へ渡す調整のお金)を払う案なら、その資金も必要だ。家を売らずに残すための税金・代償金・生活費の整理も合わせて考えたい。

国税庁の申告要否判定コーナーも、概算を確かめる助けになる。

だが、財産や特例の条件を間違えて入力すれば、出力だけで正しい判断はできない。試算できることと、未確認の評価や権利関係を確定できることは、違う。

三人は、ファイル名を「確定税額」から「確認中の概算」へ変えた。土地の資料、保険会社への確認、母の支出を調べる担当も決めた。

必要な申告・納付は、原則、相続開始を知った日の翌日から10か月以内だ。未確認の項目を、期限までそのままにしない。

生前の準備として計算する場合も、一度出した金額を何年も使い続けず、財産・家族・制度が変わったら見直す。家族へ自然に相続の準備を切り出す方法も、数字だけで話を終わらせないための入口になる。

確認に使った公的資料

試算に、未確定の条件を残す

欄 記録内容 比較する条件
相続人 戸籍と続柄・人数 法定相続人に含める人と税金を計算するときの人数が合っているか。
財産・債務 金額と根拠資料・基準日 土地評価、名義預金、贈与加算、借入等の未確定額を分ける。
取得案 誰が何を取得するか 配偶者が全部取る案と、他の配分案で比較する。
特例・控除 使う条件と申告・分割等の期限 適用できる案と、使えない場合の当初税額を分ける。
支払いに使うお金 各人が期限までに使える現金 評価額と納税額を計算した後、資金不足を求める。

数字が確定していない財産をゼロにせず、仮定と不足資料を残す。標準の計算順序は相続税の計算方法で確認し、この表では自分の条件を変えた結果を比べる。

ほかにも確認する手続がある場合は、相続税の申告・納付・調査の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

相続税のシミュレーションは自分でできますか

資料と条件を整理して概算を出すことはできる。ただし不明な財産や評価をゼロにせず、入力の根拠を確認する必要がある。概算結果だけで正式な申告額や申告不要が保証されるわけではない。

遺産総額に税率を掛ければ計算できますか

その計算では足りない。非課税部分・債務・贈与加算などを整理し、基礎控除を引き、法定相続分での総額計算、実際に受け取る割合への配分、各人の加算・控除へ進む。

土地の特例は計算の最後に80%引きますか

最終税額から80%引く制度ではない。条件と面積の限度に従って対象土地の評価を調整し、課税価格の段階から計算する。

配偶者の税額がゼロなら家族全体もゼロですか

配偶者の税額軽減は子の税金まで消すものではない。実際に受け取る割合へ税の総額を配分した後、各人に適用する加算・軽減・控除を確認する。

概算の納税額が分かれば家を残せると判断できますか

納税額に加え、実際に使える現金、ほかの相続人への代償金、残される家族の生活費や修繕費も確認する必要がある。財産の評価額と、支払に使える現金は同じではない。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

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