マンションを買う相続対策は、購入額と相続税評価額の差だけでは判断できない。2024年以後は一定の居住用区分所有財産に補正が入り、管理費、修繕、借入れ、家族の住居や分割まで含めた比較が必要になる。
架空の家族で考えよう。修司は、預金の一部で高層マンションを買う提案を受けた。「現金を不動産にすれば相続税が減る」と聞き、前向きだ。
妻の玲子は、生活費に使える預金が減ることを心配する。長男の将人は住む予定がない。長女の詩織は、将来売って分けられるかを知りたい。
この家族では、買わない案も含めて比べる。相続税はいくらか。現金はいつ出入りするか。誰が引き継ぐか。
税を計算するための評価額が下がることと、家族の財産が増えることは、同じではない。
取引価格と、税の評価額を分ける
従来の一般的な方法では、建物は固定資産税評価額を基にする。土地は敷地全体を路線価方式・倍率方式等で評価し、その住戸の敷地権割合等を反映する。
敷地権割合とは、マンションの敷地に対して、その住戸が持つ権利の割合だ。土地全体を、一戸だけで持つわけではない。
一方、実際の取引価格には、眺望、階数、立地、買い手の需要等も影響する。
従来の評価と取引価格に差が出る場合があり、その差と借入れ等を使う相続対策が問題になった。
買った金額で、そのまま売れるとも限らない。相続までに値段が動き、売却の費用もかかる。持っている間も、管理費、修繕積立金、税金等が必要だ。
使った預金を、すぐ全額取り戻せるという前提では決めない。
2024年以後の補正を反映して比べる
一定の居住用の区分所有財産には、2024年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から、新しい補正を使う。区分所有財産は、マンションの一室と、その敷地の権利等を指す。
買った年だけで、対象かは決まらない。建物と敷地の権利を分け、築年数、総階数、その部屋の階、敷地持分等を調べる。
「売却査定の60%を申告すればよい」という意味ではなく、補正の対象外となる建物もある。購入前の比較では、購入しない場合と、補正を反映して購入した場合を同じ財産・債務の前提で試算する。計算の順序、補正率、適用しない場合は、マンションの相続税評価と土地・建物の計算にまとめた。
修司が知りたいのは、評価額だけではない。買った後も夫婦の生活費を残せるか。相続の時に納税できるか。売るなら、いくら手元に残るか。
玲子たちは、税額の試算とは別に、預金と借入れの表を作ることにした。
修司の預金5,000万円から、物件4,000万円と購入時の諸費用200万円を払う仮定だ。借入れも、ほかの入出金もないものとする。
物件の代金:4,000万円
諸費用:200万円
↓
合計4,200万円
物件は取得するが、費用もかかる。購入代金が、そのまま将来の売却代金になるとは限らない。
購入前:5,000万円
支出:4,200万円
↓
残高800万円
今後の生活費、管理・修繕費、税金は、この後に別にかかる。
相場や税額を示す例ではない。相続税の評価が下がるかとは別に、玲子たちが使える現金を確かめよう。
借入れと購入は、取引全体を確認
ある相続では、借入れをして不動産を買い、税の評価と市場の価額に大きな差が生じた。税務署が、通常の通達評価より高い鑑定評価で課税し、その是非が争われた。
ただし、差が大きいという理由だけで、通常の評価を外せるとした判決ではない。
この事案は、購入・借入れがなければ、相続税の課税価格は6億円を超えていた。一方、購入・借入れを行い、通達で評価すると、相続税総額はゼロになった。
判決は、こうした効果や、負担が軽くなると知り期待して取引を企画・実行した事情等から、税負担の公平を判断した。
この判断から、「自分で住めばよい」「賃貸なら必ず認められる」「何年以上持てば安全」といった保証はできない。
新しい区分所有補正を計算しても、取引全体の検討まで済むわけではない。
買う目的、資金の調達、相続までの経過、税がどれだけ軽くなるか等を、具体的に調べる。
修司家も、営業資料の節税額だけでは決めない。税理士等へ、前提と取引全体を示して検討することにした。
居住用の特例は、土地部分で確認
小規模宅地等の特例は、一定の住居等の基盤を引き継ぐ時の負担を和らげる制度だ。
特定居住用宅地等は330平方メートルまで80%減額する。ただし、マンションの建物も含む購入額全体を、80%減らす制度ではない。
補正した後の敷地利用権の価額を基に、対象の面積や、引き継ぐ人の条件を確かめる。
配偶者、所定の同居親族、所定の別居親族では、条件が違う。家族の誰かが住めば、必ず使えるわけではない。
分割と申告も確かめる。特例で初めて税額がゼロになる場合も、適用のための申告が必要だ。
貸す物件なら、貸付用の区分等を調べる。居住用の80%を、そのまま使わない。
保険・贈与も、税と現金を分ける
不動産を買う、現金を残す、生命保険を使う、贈与する。それぞれ、権利と現金の動きが違う。
組み合わせれば必ず有利、というものではない。費用、税金、贈与後に自分が使える資金等も比べよう。
例えば、亡くなった人が保険料を負担した死亡保険金には、受取人等の条件がある。
相続人が受け取るものの非課税限度は、500万円×法定相続人の数だ。法定相続人は、法律で相続人になると決められた人である。保険全般が無税、という意味ではない。
暦年課税の基礎控除が年110万円でも、相続時の加算対象や贈与の成立等を確認する。マンションを贈与するなら、評価だけでなく登記等の費用、贈与税や相続税への影響も別に計算する。関連する説明は次の記事で扱う。
生前贈与の制度を目的別に比較|住宅・教育・結婚子育て・配偶者
生前贈与では、贈与税の枠だけで決めず、渡す目的と、自分の生活に残すお金を先に確か…

生命保険金の相続税非課税枠|500万円×法定相続人と課税
受取人を指定した死亡保険金は、原則として受取人自身の財産になる。一方、亡くなった…

購入前に家族で比較する項目
- 購入しない場合を含む、財産全体と相続税の試算。
- 区分所有補正と特例の適用条件、計算に用いた資料。
- 購入諸費用、管理費、修繕、固定資産税、返済等の現金支出。
- 実際に住む人・貸す場合の管理者と、将来の売却見通し。
- 生活費、納税、代償金に使える現預金と分割案。
玲子は、必要な生活費を預金で残す案を考える。将人と詩織は、売らずに引き継ぐ時の役割を確かめる。
必要な相続税の申告・納付は、原則、相続開始を知った日の翌日から10か月以内だ。分け方が決まらなくても、自動的には延びない。
修司家は、購入額に対する節税率だけでは比べないことにした。
各案で、誰が何を取得し、何を払い、現金をいくら残せるか。マンションを買う案も、家族の生活と引継ぎに無理がないかまで調べて判断する。
現行の評価は国税庁No.4667、判決は最高裁2022年4月19日判決全文で確認できる。
ほかにも確認する手続がある場合は、不動産評価・小規模宅地・農地の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
2024年以後もマンションで相続税が下がるか
一律には決まらない。対象と補正率、他の財産・債務、特例等から税額を試算し、購入費用と現金収支も比較する。
購入して住めば通達による評価は必ず認められるか
そのような保証はない。2022年判決は個別の購入・借入れと負担軽減の事情等を踏まえた判断で、自己居住を安全条件としていない。
小規模宅地等の特例も使えるか
補正後の土地部分を基に、用途・取得者・面積・分割と申告等の条件を確認する。建物を含む物件価格全体を80%減らすものではない。
売却査定の60%を申告すればよいか
違う。四要素による評価乖離率と評価水準から補正率を求める。実際の売値や査定額の60%を直接使う計算ではない。
申告期限までに分割できなければどうするか
通常の10か月期限に備え、未分割申告と納付を検討する。後の特例適用には分割見込書等と、更正の請求(多く申告した税額などを、税務署に直してもらうよう求める手続き)など決められた手続が必要になる。



