NISAの資産は相続できるが、亡くなった人のNISA口座や非課税枠を、そのまま引き継ぐことはできない。相続人の特定口座・一般口座への移管などを行う。相続税の対象にもなり、相続後に売るときの取得価額は、通常の課税口座で保有していた株式とは扱いが異なる。
以下では、夫を亡くした和子と娘の美穂という架空の家族を通して、国内上場株式をNISAで保有していた場合を考える。実際の相談を紹介したものではない。投資信託や外国株式などは、商品ごとの取扱いも金融機関に確認する必要がある。
「これは税金がかからない」と、夫は言っていた
夫の机を片付けていた和子は、証券会社からの封筒を見つけた。そこには、預金とは別に株式があることが書かれていた。評価額は500万円。夫が元気なころ、夕食のあとに株価を見ながら「これはNISAだから税金がかからないんだ」と言っていたのを思い出す。
和子は、その説明を疑ったことがなかった。家計のお金は自分が管理し、投資は夫が管理する。長年、それで困らなかった。夫は、口座の中身を隠していたわけでもない。和子が聞けば、いつも教えてくれた。和子の方も、夫が生きている間は、聞いておく必要を感じていなかった。
娘の美穂は、自分もNISAを使っていた。「私のNISAに移せば、母さんも面倒がなくていいんじゃない」。母を助けるつもりの提案だった。ところが、証券会社へ電話すると、その移し方はできないと言われる。
和子が受け継げるのは、夫が持っていた株式などの財産だ。「税金がかからない口座のまま」という条件まで、家族に残せるわけではなかった。
NISA口座を相続人のNISAへ移すことはできない
亡くなった人のNISA口座で保有していた上場株式等は、相続人自身のNISA口座には受け入れられない。相続する株式等は、金融機関決められた手続を経て、相続人の特定口座または一般口座へ受け入れることになる。自分のNISAの年間投資枠が余っているかどうかで、この結論は変わらない。
美穂の口座へ移せばよいという話も、単なる操作上の問題ではない。誰がその株式を相続するかは、遺言や遺産分割等に基づいて決める。母が取得する株式を、便宜上、娘名義にしてよいと考えないことが大切だ。
相続で受け継いだ株式を売り、その資金であらためてNISAの対象商品を購入することと、相続した株式をそのままNISAへ移すことも別である。前者には売却・買付けという取引があり、売却損益、価格の変動、投資枠などを別に検討する。「NISAを引き継ぐ方法」として、売買を当然の手続のように進めないようにしたい。
和子は、その電話で、まず自分が何を持っているのかを確かめようと考えた。夫の口座にはNISAだけでなく、課税口座の取引もあるかもしれない。残高の合計だけで判断せず、銘柄と数量、どの口座で保有していたかを一つずつ確認することにした。
亡くなった後の手続は、口座のある金融機関への連絡から
NISA口座を開設している人が亡くなった場合、相続人は、死亡を知った日以後遅滞なく、口座のある金融機関へ「非課税口座開設者死亡届出書」を提出する。相続による名義変更や移管の書類と併せ、何を出すかを金融機関に確認する。
金融機関には、次の点を分けて聞くと整理しやすい。
- 亡くなった人のNISA口座・課税口座に、それぞれ何が残っているか。
- 死亡の届出と、残高証明・評価資料の取得に必要な書類。
- 遺言・遺産分割等による相続手続の必要書類と有効期限。
- 受け入れる相続人の口座開設や、特定口座への移管の条件。
- 死亡後に支払われた配当等がある場合、その税務処理。
一般には戸籍関係書類、遺産分割協議書等、印鑑登録証明書、金融機関所定の相続届などが必要になるが、遺言の有無や金融機関によって異なる。法定相続情報一覧図で代えられる書類も含め、取り寄せる前に確認したい。
特定口座で受け入れる場合には、相続によって受け継いだ同一銘柄をすべてその特定口座へ移すことなどの条件がある。受け入れ先の証券会社・営業所や必要な「相続上場株式等移管依頼書」等について、手続先へ確認する。最初から希望する他社の口座へ自由に移せると決めつけないようにする。
和子と美穂は、金融機関に聞いたことを一枚の紙に書いた。母が知らない用語を娘が調べ、娘には分からない夫の取引先を母が探す。片方が全部を引き受けるより、その分担の方が進んだ。夫のログイン情報で取引を続けるのではなく、相続の手続として連絡することも確認した。
非課税になるのは何か。相続税と売却時の税金を分ける
NISAは、一定の配当や売却益に対する所得税等の非課税制度である。NISAで保有しているという理由で、財産そのものが相続税の対象から外れるわけではない。相続税の申告が必要かは、預貯金、不動産なども含む財産・債務(借金など、支払い等をしなければならない義務)や基礎控除等から判断する。
また、その人が亡くなった後も、家族が届出をしなければ非課税のまま保有できるわけではない。亡くなった後の配当等にはNISAの非課税措置が適用されないため、届出までの間に配当等を受け取っていた場合は金融機関へ伝える。
和子が不安になったのは、「夫の説明が間違っていたのか」ということだった。そうではない。夫が自分の運用について話していたときと、夫が亡くなった後に妻が財産を受け継ぐときでは、確かめる税金が違う。生前の一言を、そのまま相続後の手続の答えにすることはできないのである。
| 確認すること | NISAの資産を相続した場合 |
|---|---|
| 相続人のNISAへの移管 | そのまま受け入れることはできない |
| 相続税 | NISA保有という理由では非課税にならない |
| 死亡時までの含み益 | NISAの非課税措置の対象となる |
| 相続後に売ったときの取得価額 | 原則として亡くなった日の終値相当額 |
| 亡くなった後の配当等 | NISAの非課税措置の対象ではない |
300万円で買った株が500万円に。娘が驚いた取得価額
資料を調べると、夫はその株をNISAで300万円で買っていた。死亡日の終値による価額は500万円だった。美穂は、「いま売ると、お父さんが買ってからの200万円にも税金がかかるのか」と心配した。
通常の課税口座にあった株式を相続した場合は、原則として亡くなった人の取得費を引き継ぐ。しかし、NISA口座から相続により払い出された上場株式等は、原則として、亡くなった日の終値に相当する額で相続人が取得したものとみなされる。
この架空の例では、父の購入額300万円ではなく、死亡日の500万円が、相続後の売却損益を考える取得価額の出発点になる。死亡時までの値上がり200万円と、相続後の値動きを分けて考えるわけだ。
- その後600万円で売った場合:500万円との差額100万円を基に売却損益を計算する。
- その後450万円で売った場合:500万円との差額では50万円の損失になる。父の購入額300万円からの値上がり150万円で利益を計算するわけではない。
いずれも、手数料、同じ銘柄の追加取得、取得費加算、他の損益等を考慮していない単純例である。損失が出た場合の損益通算や申告の可否は、口座・所得区分・取引内容などを別に確認する。死亡時までにNISA内で生じていた損失を、そのまま他の課税口座の利益と相殺できるという意味でもない。
夫の口座にNISA分と課税口座分が混在していれば、同じ銘柄でも取扱いを一緒にしないことが重要だ。課税口座の株式については、相続した上場株式の取得費と売却時の税金で分けて説明している。
相続税の評価額まで500万円になるとは限らない
和子はノートに「株は500万円」と書いた。だが、後日、相続税のために作った評価資料には別の数字が並んだ。同じ株に違う金額が出てくると、どちらかが間違っているように感じる。
ここでは、何を計算するための金額かが違う。国内上場株式の相続税評価では、原則として死亡日の終値と、死亡月・その前月・前々月の終値の月平均額を比較する。権利落ちや取引のない日などは、所定の修正を確認する。一方、相続後の売却損益の取得価額は、NISAからの相続払出しについて原則として死亡日の終値相当額となる。
仮に相続税評価が470万円、NISAから相続した株式の取得価額が500万円となっても、数字が違うというだけで誤りとはいえない。相続税申告書の評価額を、そのまま売却損益の取得費欄に転記しないようにしたい。
和子は、ノートの「株は500万円」の横に「何の金額か」と書き足した。相続税の評価、売るときの取得価額、いま市場で売れる価額。夫がいたころは一つの残高に見えていたものを、相続後は自分で分けて確かめなければならなかった。
夫の株を残すか、暮らしのお金にするか
手続を調べ終えるころ、株価はまた動いていた。美穂は、値下がりする前に現金にした方が母も安心だと考えた。和子は、夫が長く見ていた銘柄を、四十九日から間もないうちに手放すことに抵抗があった。
どちらも、税金の仕組みだけでは決まらない。和子にとっては、株を売る話が、夫の机を片付ける話の続きだった。美穂には、母が生活費のために株価を気にし続けることが心配だった。
二人は、まず預金だけでどれくらい暮らせるか、近いうちに必要な支出はいくらかを確かめることにした。売却するか、どれだけ保有するかは、その後に考える。NISAの非課税が続かないことを知ったからといって、今日中に全部を売るという答えまで決まるわけではない。
相続後に株式を受け取った人が引き継ぐのは、金額だけではない。亡くなった人の選択に対する気持ちも、手続を担当する家族の不安もある。だからこそ、税金の説明で片方を急がせる前に、保有しているものと必要なお金を同じ資料で確認したい。誰が引き継ぐか、どう保有するか、いつ売るかは、それぞれ別の判断なのである。
確認に使った公的資料
ほかにも確認する手続がある場合は、保険・金融資産・デジタル・海外の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
親のNISAを自分のNISAに移せますか
相続した株式等を、そのまま自分のNISA口座へ受け入れることはできない。相続する人の特定口座・一般口座への移管等を金融機関へ確認する。
NISAなら相続税はかかりませんか
NISAで保有していたという理由では相続税の対象から外れない。他の財産・債務や基礎控除等を含めて、相続税の申告が必要か確認する。
NISAの株を相続した場合の取得価額はいくらですか
原則として亡くなった日の終値相当額となる。通常の課税口座にあった株式の取得費引継ぎとは区別し、相続時の移管資料を保存する。
死亡後もNISAの配当は非課税ですか
亡くなった後の配当等にはNISAの非課税措置は適用されない。死亡届出までの間に受け取った配当等がある場合も金融機関へ伝える。
相続税の評価額を売却時の取得費に使えますか
同じ金額になるとは限らない。上場株式の相続税評価には月平均額等との比較がある一方、NISAから相続した株式の取得価額は原則として死亡日の終値相当額となる。
口座・商品の種類、相続方法、取引履歴によって必要な確認が変わる。本記事の金額は仕組みを説明する仮定であり、個別の税額や投資判断を示すものではない。



