介護日誌がなくても、予定表、医療・介護の記録、家族の連絡、口座等を合わせて、寄与分の資料を整理できる。確認できる事実と、記憶や不明な点を分けよう。
恵子と亮は架空の家族だ。証拠は、介護の価値を紙の枚数で決めるためではない。その場にいなかった家族や裁判所にも、何をし、財産にどう影響したかを確かめてもらうためにそろえる。
「その月は、父さんが入院していたんじゃない?」。弟の亮に言われ、姉の恵子はカレンダーをめくった。介護日を数えた表には、入院中の日も入っていた。
毎日のように病院へ通っていたので、自宅で世話した日と、頭の中で一続きになっていた。
母はすでに亡くなり、父の相続人は姉弟二人。恵子は無償の介護で父の財産を守った分を、取り分へ反映してほしいと考えていた。亮は姉の苦労を否定したいわけではないが、何を根拠に金額を決めるのか分からなかった。
貢献の内容と、財産への効果を分ける
寄与分は、亡くなった人の財産を守り、または増やす特別な貢献を、遺産の取り分に反映する制度だ。家族として通常期待される助け合いを超えたものか、その働きと財産の維持・増加がつながるかを確認する。
例えば、外部へ介護を頼めば遺産は1000万円になったが、姉の特別な無償介護で1500万円を残せたとする。その差500万円まで単純に半分ずつにすれば、弟は姉が守った部分からも250万円を受け取る。こうした不均衡を調整するのが寄与分の働きだ。計算は寄与分の仕組みと取り分の例で説明している。
500万円と認めるには、何の介護が必要で、誰が何をし、対価をすでに受け取っていないか、どの支出を避けられたかを確認する。
500万円は説明用の仮定だ。介護した人が、自由に決められる額ではない。
恵子の表で入院日が見つかったことも、恵子の介護が全部なかったという話にはならない。自宅での介護、病院への付き添い、病院の看護を、同じ内容として重ねずに整理し直すための手がかりだ。
介護の資料は、四つのつながりを見る
主な資料:要介護認定、診断、ケアプラン、医療・介護の記録
父に何の介助が必要だったかを確かめる。誰がどれだけ行ったかは、この資料だけでは分からない。
主な資料:日誌、予定表、家族への連絡、通院や勤務の記録
いつ何をしたかを確かめる。その全部が特別な貢献と認められるかは、別に判断する。
主な資料:訪問介護の利用票、提供記録、短期入所・入院の期間
外部サービスが担当した時間と内容を見る。利用時間外の家族の負担が、全部分かるわけではない。
主な資料:生活費・報酬・贈与等の口座記録、当時のサービス費用や支払資料
受け取った対価や、どの支出を避けられたかを確かめる。参考費用がそのまま寄与分の金額になるわけではない。
ケアプランには「移動に介助が必要」とある。利用票では、午後にヘルパーが来ている。家族へのメッセージには、夜に恵子が対応した記録がある。
資料を重ねると、一枚だけでは見えない分担が分かる。
要介護度が高いだけでは、恵子がすべての介護を担ったとは分からない。
通院の領収書も、恵子の立替えか、父のお金から払ったかは別に確かめる。資料の名前だけでなく、何を説明できるかを意識しよう。
日誌がないときは、別の記録からたどる
恵子は、介護を始めたとき、相続を考えていたわけではなかった。夜中に何度起きたかを、毎日日誌へ書く余裕もなかった。
残っていたのは、予定表への短い書込みと、亮へ送った「今日は泊まります」という連絡だった。
受診日、介護サービスの利用日、家族の連絡、勤務を調整した日を、日付順に並べる。
医療機関や事業所の資料は、請求できる人と手続を確認して取り寄せよう。近親者や専門職の説明が、出来事の裏付けになる場合もある。
元の資料を残し、作成日や出所を確かめる。
いつ作った一覧か、何の資料から書いたかを示す。当日に書いた日誌とは分ける。
「この日はメッセージで確認」等、根拠を添える。
思い出して書いた部分だと、区別して示す。
空白や不明点を、確実な事実として埋めない。
入院日に行った付き添いと、自宅での介護も分ける。入院日が含まれていたから、介護が全部なかったと決める意味ではない。
亮は、姉がサービスのない夜も実家へ通っていたと、初めて知った。一方、恵子も、亮が病院への連絡を代わっていた日を思い出した。記録は、自分に有利な話だけを増やすものではなく、分担を同じ材料で確かめるために使う。
介護以外も、財産への効果を調べる
家業で働いていた場合
店で働いた日、担当業務、従業員との分担、給料や生活費を整理する。
無償か、それに近い働きで、人を雇う費用を使わずに済んだか、売上げや財産が増えたかを調べる。帳簿、勤務記録、取引先の説明等を確かめよう。
家族の店で働いていたというだけでも、無給だったという一言だけでも、金額は決まらない。事業の状況と本人の働きを結び付ける資料が必要になる。
財産の管理や生活費を特別に負担した場合
不動産管理なら、内容、期間、支出、受け取った管理料や利益を確認する。
生活費の援助なら、額だけでなく、目的と、父のどの支出が減ったかを調べる。通常の家族の助け合いを超える、特別な部分を検討しよう。
自分の資金を出した場合
父の借入金を自分のお金で返したら、振込・返済・約束の記録を残す。ただし、貸したなら貸金の返済、代わりに一時的に払ったなら立替金として、整理する場合もある。
返してもらう権利と寄与分を、同じ支出について重ねて自動的に請求できるとは考えない。
続けた期間や、どの程度その働きに専念したかは、貢献の種類や実情に応じた判断材料になる。
すべての場合に同じ年数や点数を当てず、何をして、どの財産が守られたかを確かめよう。
父から受け取ったお金の用途も調べる
亮は、父から恵子へ毎月送金があったことを気にしていた。恵子は、生活費を立て替えた精算だと説明した。
介護の報酬なら、すでに対価を受け取ったことになる。一方、父の支出を一時的に立て替えて返してもらったお金は、同じ扱いとは限らない。
送金の名目だけで決めず、金額、用途、領収書、当時のやり取りをそろえる。生活費や住まいの提供を受けた場合も、その内容を見る。
少しでもお金を受け取ったら、寄与分は一切ない、と一律には決められない。
また、介護の対価とは別に、多額の贈与等が特別受益(遺贈や一定の生前贈与など、相続の取り分を考えるときに含める特別な利益)として問題になることがある。特別受益を確認する資料も並べ、取り分の全体像を見ておきたい。
資料と希望額をまとめ、話合いへ進む
貢献の期間と内容、対応する資料、対価、財産への効果、希望額を分けてまとめる。
資料を箱ごと渡すより、何を確かめる資料かを一覧にすると、相手も意見を示しやすい。
寄与分は、一緒に相続する人たちの話合いで決める。話し合えない・まとまらないときは、家庭裁判所の調停・審判を利用する。
寄与分の審判は、遺産分割審判の申立てがなければ、不適法として却下される。二つの手続の関係を確かめよう。
死亡から10年を過ぎた後の遺産分割では、原則として寄与分等の事情を考慮しない。記録や記憶が失われる前に、分割を進める意味もある。
期間内に家裁へ分割を求めた場合等の例外、2023年4月1日前の相続の経過措置、全員が合意して分ける場合は、区別して確認する。詳しくは寄与分の条件と10年ルールへ。
相続人ではない子の配偶者等が無償で働いた場合は、別の制度の特別寄与料を確かめる。
家裁への申立ては、相続開始と相続人を知ってから6か月以内、かつ死亡から1年以内という制限がある。介護した人の立場を、初めに確認しよう。
姉の苦労を、弟が確認できる形へする
恵子は、表から入院日を削っただけでなく、その日に何をしたかを別欄へ移した。父の介護が必要だった状態、サービスの分担、自分が担った内容、お金の動きが、少しずつつながった。
亮は、姉の希望額すべてに同意したわけではない。恵子も、ようやく全部分かってもらえたとは思っていない。それでも、何に意見が違うのかを、同じ資料を指しながら話せるようになった。
記録がないことは、介護に価値がなかったことではない。予定表、利用票、連絡、口座を並べ、分かる部分から整理しよう。
準備すれば必ず認められるという約束ではない。実際にあった貢献を、ほかの人が判断できる形へ近づける作業だ。
確認に使える公的資料
ほかにも確認する手続がある場合は、寄与分・特別受益・特別寄与料の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
介護日誌がないと寄与分は認められませんか
日誌がないという一事で決まるわけではない。医療・介護の記録、予定表、連絡、口座等を合わせ、確認できる事実と記憶を分けて整理する。
寄与分の金額には上限がありますか
民法904条の2第3項は、相続開始時の財産の価額から遺贈(遺言で財産を渡すこと)の価額を控除した残額を超えられないと定める。その範囲内でも、主張額がそのまま認められるわけではない。
期間が短ければ必ず対象外ですか
期間だけで一律には決まらない。必要性、内容、負担、対価、通常の助け合いを超えるか、財産への効果を合わせて確認する。
孫や子の配偶者も寄与分を請求できますか
まず相続人かを確認する。孫も代襲等で相続人になる場合がある。相続人でない一定の親族の無償労務は、別の制度である特別寄与料を確認する。
遺言に寄与分500万円と書けば確定しますか
寄与分は共同相続人の協議または裁判所の判断で定める。遺言で特定の人へ財産を多く引き継がせることとは区別する。
家族と金額は制度を説明するための架空の例であり、特定の金額の認定や結果を保証するものではない。



