同居していただけでは、相続の取り分は増えない。介護等の特別な貢献を取り分に反映する寄与分と、土地の相続税評価を下げる小規模宅地等の特例は、分けて考える。
澄子と一郎は架空の姉弟で、人物・金額は説明用だ。それぞれの制度で、何が変わるかを見ていこう。
母と暮らしていた澄子は、通院の付き添いや夜間の介助を続けるため、仕事を減らしていた。
母が亡くなり、離れて暮らす弟の一郎から「二人で半分ずつにしよう」と言われた。澄子は、自分の負担が消えてしまったように感じる。一郎は、姉の介護を詳しく知らなかった。
澄子は実家に住み続けたい。一郎にも受け取りたい財産がある。二人は、介護の負担、家の分け方、相続税の確認を別々に話すことから始めた。
同居によって取り分が増えるかという問題と、自宅の相続税評価を減らせるかという問題を分ける。それぞれの条件を満たす資料を確認する。
同居だけでは、取り分は増えない
子が複数いるとき、法律で決められた相続の割合は、原則として等しい。同居した子が自動的に優先され、実家を一人でもらえるわけではない。
まず、遺言の有無、相続人、財産と個別の事情を確認しよう。
財産を守ったり増やしたりするため、特別に貢献した人もいる。残った遺産だけを機械的に分けると、その働きが反映されない。
そこで、一緒に相続する人のうち、条件を満たす人の貢献を、取り分の計算へ反映する仕組みがある。これが寄与分だ。
小規模宅地等の特例は、暮らしや事業の土台となる土地の相続税負担を、一定の範囲で軽くする仕組みだ。
こちらは税の計算に使う。特例を使えた人の相続の取り分を増やしたり、ほかの相続人の権利を減らしたりはしない。
澄子の「住み続けたい」と「介護を考えてほしい」、一郎の「自分の取り分を受け取りたい」は、一つの言葉では解けない。何の制度で何を決めるかを分けると、資料と計算の順序が見えてくる。
寄与分が認められる条件。「貢献した」だけでは足りない理由
寄与分は、亡くなった人の財産を特別な働きで守ったり増やしたりした相続人について、…

寄与分は、介護年数の長さだけで決まらない
民法904条の2は、事業での働き、金銭等の提供、療養看護等によって、故人の財産を守ったり増やしたりした特別な貢献を対象にしている。
同居年数や親子関係だけで、一定額の寄与分が生まれるわけではない。
介護なら、必要だった理由、誰が何をどの程度したか、期間と頻度、外部サービスとの分担、報酬の有無等を調べる。
通常の家族の助け合いを超えて、介護費用の支出を避けられたなど、財産を守ることにどうつながったかを確かめよう。
事業の手伝い、金銭の提供、扶養、財産管理では、調べる内容や評価の方法も違う。
続けた期間や、どの程度その働きに専念したかも、貢献の種類と実情に応じて見る。民法904条の2第2項に、一律の年数や勤務時間が決められているわけではない。
澄子が仕事を減らしたことは、負担を示す事情になる。ただし、減った給与の全額を、そのまま遺産から受け取れるとは限らない。
母の状態、実際の介護、ほかの支援、財産への効果に分けて示す必要があった。
同じ介護や支出を重ねて数えない
- 介護日誌、看護記録、通院や入退院の日付
- 要介護認定、ケアプラン、事業所や病院とのやり取り
- 介護保険サービスの利用と費用の記録
- 仕事の変更や休業を示す資料
- 立替えの領収書、支払口座、母から精算を受けた記録
- ケアマネージャー等、直接事情を知る人の説明
記録のない日を、後から「一日中介護した」と埋めない。分かる部分と不明な部分を区別し、外部サービスの時間と自分の対応を照らし合わせる。
母のお金から払った介護費、澄子の立替え、報酬を受けずにした働きも、分けて整理しよう。
一郎は記録を見て、母が自立していた時期と、夜間の対応が増えた時期の違いを知った。資料があれば希望額が必ず認められるわけではないが、「10年同居した」の一言より、何を考慮してほしいかが伝わるようになった。
寄与分の証明方法|介護日誌・通帳・記録がないときの集め方
介護日誌がなくても、予定表、医療・介護の記録、家族の連絡、口座等を合わせて、寄与…

寄与分と、家を残す資金を計算する
計算のため、相続人は澄子と一郎の二人だけとする。分割に使う家・土地の価額は6,000万円、預金は1,000万円、合計7,000万円だ。
遺言、特別受益、借金等はなく、死亡から分割まで価額も変わらないと仮定する。特別受益は、遺贈や一定の生前贈与等の、取り分を考えるときに含める特別な利益だ。
さらに、澄子の寄与分600万円を、二人が有効に合意したとする。同居10年なら600万円になる、という基準を示した例ではない。
7,000万円から寄与分600万円を引き、6,400万円を二人で半分ずつにすると、各3,200万円だ。澄子へ寄与分600万円を加え、澄子3,800万円、一郎3,200万円となる。
遺産7,000万円を半分にした各3,500万円に、さらに澄子だけ600万円を加える計算ではない。
前の例の続き。寄与分600万円への合意等、同じ仮定を使う。
6,000万円 − 2,200万円
= 3,800万円
取り分にそろえるため、弟へ2,200万円を払う。
1,000万円 + 2,200万円
= 3,200万円
預金に、姉から受け取るお金を加える。
この2,200万円が代償金だ。遺産を多く受け取る人が、ほかの相続人へ渡す調整のお金をいう。
寄与分が認められても、澄子の支払資金は別に必要になる。
住み続けられる案か、融資や分割払いが可能か、売却案を比べるかを検討する。公平な計算ができることと、家を残す案を実行できることは、分けて確かめたい。
小規模宅地等の特例で下がるのは、税の評価額
一定の特定居住用宅地等は、330平方メートルまで、相続税の計算へ入れる土地の価額を80%減らせる。
建物を含む実家の市場価格や、相続税額全体を80%下げる制度ではない。
対象の土地全体が限度面積内で、特例前の相続税評価額が5,000万円、ほかの条件もすべて満たすとする。税の計算へ入れる土地の価額は、1,000万円になる。
減った4,000万円が澄子へ現金で戻るわけでも、実家の売値が1,000万円になるわけでもない。
分割例の「家と土地6,000万円」と、税の例の「土地5,000万円」は、対象と目的が違う数字だ。
特例が使えても、一郎への代償金を、税評価だけで自動的に減らせるとは考えない。
同居親族、配偶者、別居親族で条件が違う
故人の自宅と同じ一棟の建物に住んでいた親族が取得する場合には、死亡直前から申告期限まで住み続けること、死亡時から申告期限まで持ち続けること等を確かめる。
澄子も、同居していた事実だけでは足りない。取得後の居住と所有、建物の区分等を確認しよう。
配偶者には、取得者ごとに定められた要件はない。ただし、特例全体の条件まで不要になる意味ではない。
別居の親族が使う場合には、故人の配偶者・同居相続人の有無、過去に住んだ家の所有関係、土地を持ち続けること等、細かな条件がある。同居なら必ず一番使いやすい、とは決められない。
親が老人ホーム等へ入所していた場合も、認定、施設、入所前後の居住・利用等の条件を調べる。
住民票が同じだけで、実際に同居していたとは決まらない。住民票が違うだけで、すべてが決まるわけでもない。生活の実態と資料を確認しよう。
固定資産税の納税通知書や名寄帳は、調査の手がかりになる。ただし、土地の相続税評価額が、そのまま書かれているとは限らない。
路線価方式・倍率方式、土地の使い方と権利、面積等を税理士と確かめよう。
分割が止まっても、期限を管理する
特例を使うには、申告と必要書類、どの宅地に使うかについての関係者の同意等が必要だ。原則として、申告期限までに分割が済んでいるかも確認する。
特例を使うと税額がゼロになる場合でも、その適用に必要な申告を省略しない。
まだ分割していなくても、申告義務があれば期限内に申告・納税する。分割待ちだけでは、期限は延びない。
分割見込書を用意し、特例は原則として申告期限から3年以内の分割が条件になることを確認する。分割後、払い過ぎた税等を直してもらう更正の請求は、分割を知った日の翌日から4か月以内だ。
やむを得ない事情がある場合の承認と期限もある。分割を待つ間も、税の手続を管理しよう。
寄与分がまとまらなければ、家庭裁判所の調停・審判を検討する。調停は、調停委員を交えて話し合う手続だ。
寄与分の審判は、遺産分割審判の申立てがなければ、不適法として却下される。二つの手続の関係、主張額、資料、費用を確かめよう。
死亡から10年を過ぎた後の分割では、原則として寄与分等の事情を考慮しない。
ただし、期間内に家裁へ分割を求めた場合等には例外がある。満了前6か月以内にやむを得ない事情があった場合は、その事情がなくなってから6か月以内の請求等も確認する。全員が合意して分ける場合も、区別して考えよう。
2023年4月1日前の相続には経過措置がある。死亡から10年となる時と2028年3月31日の、いずれか遅い時までの請求が対象になる。
相続人ではない親族が無償で介護等をした場合は、別の制度の特別寄与料を確かめる。
家裁への請求には、相続開始と相続人を知ってから6か月、かつ死亡から1年という短い期間制限がある。家族なら誰でも同じ寄与分を請求できる、とは考えない。
相続対策まとめ|何から始める?財産・遺言・贈与・生活資金の準備
相続対策は、税金を小さくする作業だけではない。財産を探せること、分け方を決められ…

介護への感謝と、住まいと税の計画をつなぐ
澄子は介護の記録を、一郎は受け取りたい財産と必要な時期を整理した。
寄与分、家の評価、代償金の資金、土地の税務条件を、別の欄へ書く。税が軽くなっても支払資金は増えない。二人は、生活を続けられる案を比べることにした。
介護をした人の負担がすべて法律上の金額になるとは限らない。一方で、法的な条件を確認することが、その負担や感謝を無視することでもない。同居の一言で有利・不利を決めず、何をしたか、何が残り、誰が何を実行できるかを確かめたい。
ほかにも確認する手続がある場合は、寄与分・特別受益・特別寄与料の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
同居すると自動的に取り分が増えるか
同居だけでは増えない。特別な貢献の寄与分と、土地の税評価を減らす特例は、条件と効果を分けて確認する。
寄与分は介護年数で決まるか
一律ではない。必要性、内容、期間、頻度、報酬、財産への貢献等を確認する。減った給与の全額が自動的に認められるわけでもない。
同居していなくても小規模宅地等の特例を使えるか
配偶者や一定の別居親族等の場合がある。親の配偶者・同居相続人の有無、家の所有歴、保有等、受け取る人ごとの条件を確認する。
協議が終わらなければ相続税申告を待てるか
申告義務がある場合は未分割でも期限内に申告・納税する。特例の分割・届出・請求等の条件を別に管理する。
寄与分を認めてもらえない場合はどうするか
具体的な行為と資料を整理し、寄与分を定める処分の調停・審判(裁判官が事情や資料を調べて判断する手続き)を検討する。遺産分割事件との関係と請求時期も確認する。
公的資料・根拠
本記事は一般的な説明である。相続人、介護と支出、居住と土地の状況、期限を資料で確認し、個別に判断する必要がある。



