不動産の相続税評価は、地域、利用のまとまり、形と道路、貸借等の権利関係を順に調べる。家屋や一定の区分所有マンションにも、別の計算がある。
父の土地を二人で分けたいのに、沙織と弟の悠斗が持ってきた数字は違っていた。沙織は固定資産税の課税明細、悠斗は不動産会社の査定書を見ていた。
母は先に亡くなり、父には自宅、貸しているアパート、親族に使わせていた土地がある。
沙織は、父が直し続けた自宅を残したい。悠斗は、貸家を引き継いでも、入居者への対応や修繕ができるか気になる。
これは架空の家族だ。高い数字と低い数字のどちらかを選ぶだけでは、評価は決まらない。
このページでは、複数の土地や用途がある場合を詳しく見る。書類から始めるなら不動産評価の入口、一枚の土地の計算は路線価・倍率と補正の入門も確認できる。
同じ不動産でも、価格の目的が違う
不動産の「価格」は、使う目的によって違う。不動産会社の売却査定額、固定資産税の課税明細、国の地価公示、国税庁の路線価は、同じ土地でも通常は同じ金額にならない。
目的、基準となる時点、計算方法が違うためだ。
相続税法22条の原則は、取得した時の時価による評価だ。
家族の希望や担当者によって値付けが変わらず、公平に、手早く簡単に評価できるよう、実務では財産評価基本通達に従って計算する。通達は土地・家屋の評価方法を体系的に定めており、国税庁「土地家屋の評価」がその概要をまとめている。
売却査定額や固定資産税の税額だけでは、相続税評価額は決まらない。それぞれの数字の根拠と、評価の手順を確かめよう。
地域から、路線価か倍率かを確かめる
土地の評価方式は、所在地によって決まる。路線価が定められた地域では路線価方式、路線価が定められていない地域では倍率方式を使う。
| 方式 | 対象 | 基本計算 |
|---|---|---|
| 路線価 方式 |
路線価が定められた地域 | 正面路線価 × 奥行価格補正率等 × 地積 |
| 倍率 方式 |
路線価が定められていない地域 | 固定資産税評価額 × 評価倍率 |
どちらの方式かは、財産評価基準書 路線価図・評価倍率表で、相続が始まった年と所在地を選ぶ。
死亡が1月でも12月でも、同じ年分の路線価図・評価倍率表を使う。年を取り違えないようにしよう。
倍率地域では、固定資産税評価額から計算を始める。路線価地域では路線価方式を使うため、固定資産税評価額をそのまま申告額にはしない。
冒頭の二人も、まず土地の地域と、使う方式を確認する必要がある。
「1筆=1評価単位」とは限らない
方式の次に、「どこまでを一まとまりで評価するか」を確かめる。これを評価単位という。登記簿上の土地一つを表す「1筆」とは、必ずしも一致しない。
宅地は原則として、利用の単位となる「1画地」ごとに評価する。複数の筆を一体で使う場合は、まとめて一つの評価単位となることがある。
逆に1筆でも、自宅と貸家の敷地など、利用や権利が分かれていれば、別に評価する場合がある。自分で使う居住用・事業用という用途の違いだけで、必ず分けるわけではない。
道路や水路で分かれている場合も、評価単位を確かめよう。農地・山林にも、それぞれの単位がある。山林は原則1筆だが、一定の市街地山林は、利用の単位となる一団で評価する。
地目は、宅地・田・山林等、土地の種類をいう。原則として、登記の記載よりも、相続が始まった時の実際の状態で判定する。登記は「田」でも、実際に宅地として使っていれば、宅地として評価する。
固定資産税課税明細、登記事項証明書、公図、地積測量図、住宅地図、賃貸借契約書、現況写真をそろえよう。これらを照らし合わせ、地目と評価単位を確認する。
沙織たちは、1筆の土地に、自宅と別棟の貸家があると確かめた。父が自分で使った場所、貸した場所、入居者の通路、契約の範囲を図面に書き込む。
「同じ地番だから一つ」と転記する前に、登記の線と、利用・権利のまとまりを比べよう。
沙織たちが調べる順序。下の区画は、位置や面積を示す測量図ではない。
父が自分で使う範囲を確認
賃貸する範囲・入居者の通路・契約を確認
↓ 実際の利用と権利関係を照合
同じ地番でも、別々に評価する場合がある。逆に、複数筆をまとめる場合もある。
見た目で線を引いたり、用途名だけで必ず分けたりしない。親族が使う部分も、賃貸借か使用貸借かを確かめる。
形と道路に応じて、評価を調整する
路線価方式では、正面路線価に奥行価格補正率を掛けるところから始める。さらに、土地の形や道路との接し方に応じて、金額を調整する。
計算には、図面で確認した間口や奥行きが必要だ。形の整った土地を仮に想定した範囲や、その中で実際の土地がない「かげ地」の割合等も調べる。
「売りにくそうだから」と好きな減額率を置かない。通達と補正率表に従い、計算の根拠を申告資料へ残そう。
国税庁「路線価方式による宅地の評価」では、奥行価格補正を基礎に、以下の補正・加算を反映する。
- 二方路線・側方路線がある場合の加算
- 不整形地補正
- 間口狭小補正・奥行長大補正
- がけ地補正
複数の道路に接する場合、奥行価格補正後の路線価が最も高い道路を、正面路線とする。
道路幅や、建物の玄関の位置だけで決めるものではない。
私道、道路に接しない無道路地、道路を広げるために後退が必要なセットバック部分、都市計画道路の予定地にも、それぞれ確認することがある。
利用価値が著しく下がる個別の事情は、通達や国税庁の質疑応答事例と照らし合わせる。使う補正率は年分・地区区分・奥行き等で変わるため、年分と根拠を残しておこう。
路線価方式の具体的な計算手順は路線価方式の計算、雑種地の評価方法は雑種地の評価も参照してほしい。
悠斗は、父が使っていた出入口を見て、正面道路を決めようとした。だが、ふだん使う玄関と、評価で使う正面路線は一致するとは限らない。
接する道路と奥行きの資料をそろえ、判断の根拠を確かめることにした。
貸し借りの権利関係を確かめる
土地の上にどんな権利関係があるかで、評価額は自用地とは異なる。
故人が土地を貸していた場合の「貸宅地」、自分の貸家の敷地である「貸家建付地」、借りた土地に建物を持つ場合の「借地権」は、別に考える。
土地を借りる権利の割合である借地権割合、家を借りる権利の割合である借家権割合、賃貸割合、契約内容を確かめて計算する。
親族間の貸し借りでは、契約書の名前だけで、貸宅地として評価できるとは限らない。
無償で使わせる使用貸借か、賃料を払う賃貸借かを、実態から調べる。地代の有無と水準、権利金の授受、固定資産税の負担、実際の利用状況を確かめよう。
賃貸マンションなど貸家建付地と貸家の評価の詳細は貸家建付地と貸家評価を参照してほしい。
沙織は、父の建物でも、入居者がいることが評価に関わると知った。所有者でも、貸している部屋を、明日から自由に使えるわけではない。
このような他人の権利と実際の利用を、財産の価値へ反映する。ただし、借り手がいれば好きな割合を下げてよいわけではない。
家屋は、課税明細の「価格」を見る
冒頭で触れた課税明細の話に戻る。
国税庁「土地家屋の評価」のとおり、自用家屋は原則として固定資産税評価額に1.0を掛ける。
課税明細では、家屋の「価格・評価額」を見る。税額そのものや、土地の住宅用地特例による軽減後の課税標準額と、取り違えて転記しないようにしよう。
貸家の場合は、自用家屋価額から借家権割合と賃貸割合に応じた額を控除する。
建築中の家屋、門・塀等の附属設備、庭園設備には、それぞれ別の評価方法がある。
一定の居住用区分所有マンションは、2024年1月1日以後の相続等から、区分所有補正の対象となる。建物と敷地の評価を調整する仕組みだ。相続等の時期、構造・階数等の適用条件を確かめよう。
小規模宅地等の特例は、評価の後に判定する
自宅の土地でも、必ず80%減額できるわけではない。
小規模宅地等の特例は、一定の居住用・事業用・貸付事業用の土地について、限度面積まで50%または80%を減額する制度だ。
路線価・倍率方式による評価とは、別の特例である。まず評価し、その後で特例の条件を満たすか確かめる。
受け取る人、用途、申告期限までの保有・居住・事業の継続等、選んだ区分に応じて条件を調べる。配偶者の居住用宅地には、取得者ごとの保有・居住継続の条件はない。全員へ同じ条件を当てはめないようにしよう。
原則として分割と申告書への添付が必要だ。未分割なら、期限内申告と後日の適用の手続も確かめる。「自宅だから誰でも330平方メートルまで80%減」ではない。
自宅を沙織が取得する案で、悠斗は「土地の評価が下がるなら、姉の取り分の値段も下がるのか」と聞いた。
小規模宅地等の特例は、相続税のための減額だ。家族の分割で合意する価額が、自動的に同じだけ下がる制度ではない。税と取り分の評価を、別に話そう。
市場価格との差だけで、否認されるか
路線価で計算した評価額と、市場での売却価格に差がある。そのことを知って、「差が大きいと問題になるのか」と気になる人がいる。
通常の相続で、路線価・倍率方式を使った評価は、市場価格と差があるだけで否認されるわけではない。
原則は、財産評価基本通達による共通の方法での評価だ。それでは実質的に税の負担の公平に反する特別な事情があるとき、例外の「総則6項」が問題になる。
近い将来の相続を見込み、多額の借入れと不動産購入で相続税負担を大きく減らした事案では、鑑定価額による課税が適法とされた。
通達の計算額と鑑定価額の差だけでなく、購入・借入れの経緯と、ほかの納税者との不均衡が判断された事例だ。
価格の差だけで、直ちに別の評価へ置き換わるわけではない。取引の経緯、時価、税の負担の公平を、具体的に確かめる。
反対に、「税を減らす意図が証明されなければ、必ず通達の評価が保証される」とも言い切れない。
悠斗は、昔から父が持つ実家まで、査定額と路線価が違うだけで追徴されるのかと心配した。
金額の違いと、例外的な評価が必要となる取引・公平の問題は、分けて考える。心配だからと、高い査定額を無条件で申告すればよいわけでもない。
手元の書類から、何を確かめるか
まず課税明細の「価格」欄を確認する。登記事項証明書と公図で筆の境界・記載された地目を調べ、現況と比べる。
地積測量図等で間口と奥行きを確認し、賃貸借契約書と実態から権利関係を調べよう。
地域と方式を確かめ、評価単位を決める。その後、形や道路による補正、権利関係を反映する。
家屋は固定資産税評価額の「価格」欄から始め、区分所有マンションは相続等の時期も確認する。評価が出たら、小規模宅地等の特例を別に判定しよう。
形の複雑な土地、親族へ貸した土地、複数筆を一体で使う土地では、調べることが違う。
どこで判断が止まっているかを整理して相談すると、必要な資料と確認する点を絞りやすい。
沙織と悠斗は、財産一覧の横へ「自宅の利用範囲」「貸家の契約と賃貸状況」「親族の利用実態」と、未確認のことを書いた。
誰がどの不動産を取るかは、まだ決まっていない。それでも、一枚の査定書で取り分まで決める前に、評価の前提と、引き継ぐ暮らしの負担を話せるようになった。
ほかにも確認する手続がある場合は、不動産評価・小規模宅地・農地の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
不動産会社の査定額を申告するか
通常は通達に沿う評価方法を確認する。売却査定、固定資産税評価、路線価は目的と基準が異なる。
土地は登記の1筆ずつ評価するか
地目や利用の単位によって異なる。宅地の1画地が複数筆になる場合や、1筆を複数単位で評価する場合もある。
家屋は課税標準額で評価するか
自用家屋は原則として固定資産税評価額を使う。軽減後の課税標準額と取り違えず、貸家や一定の区分所有マンションは別の調整を確認する。
自宅なら必ず80%減になるか
小規模宅地等の特例の区分、受け取る人、利用状況、保有・居住等の条件と申告手続を別に判定する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



