遺言は、まず方式と原本を確認する。次に、誰に何を渡すか、指定のない財産はあるか、誰が実行するか、権利と税の期限はいつかを、分けて読もう。
父の遺言には「自宅を長男の健太へ、預金を長女の祐子へ」とあった。母の澄江は住み続けられるか心配し、健太は名義変更を進めたいと言う。
ところが、遺言に名前のない証券口座も見つかった。これは架空の家族で、人物・金額は説明用だ。
遺言は、本人の意思を、死後の財産の渡し方等へ反映する制度だ。見つかっただけで、銀行や登記の手続が自動で終わるわけではない。
祐子たちは、内容に納得できるかという気持ちと、必要な確認・手続を、別の欄へ整理することにした。
1.方式と保管場所を確かめる
普通方式の遺言には、自筆証書、公正証書、秘密証書がある。ほかに、特別方式もある。
自宅等で保管された自筆証書や秘密証書は、原則として家裁の検認が必要だ。封印された遺言は、家裁で、相続人または代理人の立会いのもと開封する。
公正証書遺言と、法務局の保管制度で交付された遺言書情報証明書は、検認が不要だ。保管場所だけでなく、方式と書面の種類も確かめよう。
誤って封を開けても、それだけで自動的に無効とはならない。ただし、過料の問題もあるため、経緯を残し、必要な検認を確認する。過料は、違反に対して課される金銭上の制裁だ。
検認は、遺言の形、日付、署名、訂正等の状態を確かめ、改変を防ぐ手続だ。有効性や、一定の家族の最低限の取り分である遺留分を、最終判断するものではない。
作成時の条件は遺言書の作り方、保管制度を利用した場合は法務局保管の証明書と通知を確認する。
2.誰に、何を渡す指定か読む
「自宅を長男に相続させる」「預金を第三者へ遺贈する」「相続分を指定する」では、権利や手続が違う。
遺贈は、遺言で財産を渡すことだ。氏名、続柄、不動産の表示、金融機関と口座、割合を、原本と資料で照らし合わせよう。
相続人以外へ遺贈しても、その人が必ず全財産の遺産分割協議へ加わるわけではない。遺産分割協議は、遺産の分け方を決める話合いだ。
特定の財産を渡す遺贈と、遺産の全部・一定割合を渡す包括遺贈を分けよう。包括受遺者は、包括遺贈で受け取る人をいい、民法990条は、相続人と同じ権利義務を認めている。
澄江が住む家を健太に渡すと書かれていれば、母の住まいを別に確かめる。
遺言全体、居住の権利、家族の話合いを調べずに、「必ず退去」「何も変わらない」と決め付けないようにしよう。
感謝や配分の理由は付言事項に書かれることもある。付言事項は、財産の指定等と別に、本人の思いや理由を伝える文章だ。
希望だけで取得者や家族の権利がすべて決まるわけではない。見出しだけでなく、実際の内容と方式から、法律上の効果を確かめよう。
3.残りの財産と、別の遺言を調べる
証券口座の名前がなくても、直ちに、全員で分け方を話し合うとは限らない。「その他一切の財産」等、残りの財産を扱う条項がないか、先に読む。
これを残余条項という。遺言の対象に入らない遺産なら、相続人全員の協議等が必要になる。
証券口座は、残余条項と名義を照らし合わせる。父の口座だと思っていても、会社の資産なら、そのまま父の遺産へ足さない。
指定受取人の生命保険金も、受取人自身の権利である場合がある。遺産分割の対象と、相続税の対象を分けて考えよう。
複数の遺言があっても、新しいものだけ残して、古い原本を捨てない。
新旧の内容が両立しない部分は、後の遺言で撤回したものと扱う。両立する指定は、残る場合がある。公正証書だから必ず優先するわけでもない。
遺言を作った後に、財産を売った、受取人が先に亡くなった、口座を解約した場合も調べる。
古い記載をそのまま銀行や登記へ使わず、どの指定を、どの財産に実行できるかを確かめよう。未確認の点も残しておく。
4.誰が手続を進めるか確かめる
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、必要な手続を進める人だ。指定があれば、引き受けたか、何をする権限があるかを確かめる。
相続人の希望を調整して、遺言を自由に作り替える役割ではない。
執行者がいない、またはいなくなった場合、利害関係人は家裁へ選任を申し立てられる。遺言による認知や廃除等、執行者の関与が必要な事項もある。認知は法律上の親子関係を認めること、廃除は一定の理由で相続権を失わせる制度だ。
一方、特定の不動産を相続させる遺言では、取得者一人で相続登記ができる場合もある。相続登記は、不動産の名義を相続人へ変える手続だ。執行者がいなければ、すべての手続に全員の同意が必要となるわけではない。
祐子は預金、健太は不動産、澄江は住まいの資料を調べ、提出先と必要書類を記録する。
実際の申請は、権限のある人が行う。調査の担当を決めただけで、故人の口座を自由に操作できるわけではない。
借金も調べよう。信用情報への照会は手掛かりになるが、私的な借入れや保証を含め、すべてが一度に分かるわけではない。
契約書、郵便物、通帳の引落し、債権者からの連絡を確かめる。債権者は、お金の支払い等を求める権利のある人だ。相続人同士で負担を決めても、相手を自動的に従わせることはできない。
5.無効と、遺留分の不足を分ける
法定相続分は、法律で決められた相続の割合だ。その割合と違う配分だけで、遺言は無効にならない。
方式、自書、作成時の能力、撤回等に疑問があるなら、筆跡、医療・介護の記録、作成・保管の経緯等、問題に合う資料を整理しよう。
有効な遺言でも、兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分という最低限の取り分が問題になる。
現行制度では、不足する侵害額に相当するお金を求める。遺言全体を無効にする話とは、分けて考えよう。
自宅3,000万円、預金1,000万円、証券800万円の合計4,800万円を、計算の基礎と仮定する。相続人は澄江と子二人だけで、贈与・債務や、ほかの受益による調整はない。
澄江の法定相続分は2分の1、遺留分全体の割合も2分の1だ。子の遺留分は、各600万円になる。
健太が家と残余条項の証券を、祐子が預金を取得し、澄江が何も受け取らないなら、この条件で母には1,200万円の不足が生じる。
誰にいくら求めるかは、負担の順序や、各人の取得額等も確認する。税額や住まいの権利とは、別の計算だ。
上の仮定で、計算の基礎は4,800万円。母が何も受け取らない場合。
4,800万円 × 1/2
= 2,400万円
法律で定める相続の割合による額
4,800万円 × 1/2 × 1/2
= 1,200万円
この例で母に保障される最低限の取り分
↓ 母の取得が0円なら
= 1,200万円
家と証券を健太、預金を祐子が取得する仮定。母が自動で2,400万円を受け取るという意味ではない。
遺留分の請求は、相続開始と、侵害する贈与・遺贈を知ってから1年間行使しないと、時効で消滅する。死亡から10年が過ぎたときも同様だ。
「遺言を読んだ日から必ず1年」と一律に決めない。ただし、調査中・話合い中でも期限が止まるとは限らない。通知の内容・相手・到達を早めに確認しよう。
税と登記の期限も、別に進む
相続税の申告が必要なら、原則として、相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内に申告・納付する。
未分割や遺言をめぐる争いだけでは、自動で延長されない。家族が合意した家の価額が、そのまま税法上の評価額になるわけでもない。
未分割なら、民法の相続分や包括遺贈の割合で計算し、申告・納付する。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、未分割のまま当初申告で自動的に使えるものではない。分割見込書、後日の分割、更正の請求、例外の承認等を、制度ごとに確かめよう。更正の請求は、払い過ぎた税金を減らしてもらうための手続だ。
遺言と違う配分でも、税の特例がすべて使えなくなるわけではない。実際の取得、分割の時期、居住等の条件と、申告書類を確かめる。
配偶者の軽減で税額がゼロになっても、その適用に申告が必要となる場合がある。
相続放棄の検討、故人の所得税の準確定申告、不動産の相続登記も、それぞれ別の期間を数え始める時点と期限がある。まず相続手続の期限を表にし、誰が相談・提出するかを決める。
調査から手続結果まで、一覧に残す
祐子たちは、方式と日付、指定財産と残余条項、執行者、取得額、澄江の疑問、税と登記の期限を並べた。合意できる点と、専門家へ確かめる点を分ける。
提出後も、銀行の入金や登記名義を確認する。書類を出しただけで、完了とはしない。
遺言と違う分け方を望んでも、相続人だけの合意で、必ず自由に変更できるとは限らない。
遺贈で受け取る人、執行者、遺言の意思、債権者や税への影響を確かめる。家族の気持ちを聞き、実行できる内容へ整えよう。
確認に使える公的資料
ほかにも確認する手続がある場合は、遺言の作成・解釈・執行の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
内容に納得できなければ遺言は無効か
配分への不満と、方式や能力等を理由とする無効の問題は別だ。有効な遺言でも遺留分不足を請求できる場合がある。
検認前に開封すると無効になるか
開封だけで自動的に無効とはならない。過料や原本保全が問題になるため、経緯を記録し、検認が必要かどうかを確認する。
書かれていない財産は全員で分けるか
最後に残った財産の条項等に含まれるかを先に確認する。遺言の対象に入らない遺産なら、相続人全員の協議等が必要になる。
公正証書と自筆証書が両方あればどちらを使うか
方式だけで優先は決まらない。各遺言の有効性と、新旧の内容が抵触する部分・両立する部分を照らし合わせる。
遺言と違う配分では税の特例を使えないか
一律には決まらない。実際の取得や分割時期、居住等の条件、申告と添付書類を制度ごとに確認する。
本記事は一般的な情報である。具体的な効力・権利・税務は、原本、亡くなった日、財産、取得状況等を確認して判断する。



