エンディングノートは、情報と希望を家族に伝えるのに役立つ。財産を受け取る人を遺言で決めるなら、法律上の内容と方式を満たす必要がある。
二つの書類の役割を、架空の家族で考えよう。人物・金額は説明用だ。
隆はエンディングノートへ「自宅は妻の恵へ、預金は子どもたちへ」と書いた。恵は相続の準備が済んだと思ったが、長女の美穂は「銀行でこのノートを見せれば手続できるのか」と聞いた。
長男の健は、父が入院したときの連絡先を、先に知りたいと言う。
自由な書式のノートは、家族が連絡先や資料を探す手助けになる。一方、死後の財産の渡し方には、本人の意思を確かめる遺言の方式がある。
隆は、ノートを使いつつ、法的に実現したいことを別に考えることにした。
時期と、頼みたいことを分ける
| 残したい内容 | 準備の考え方 |
|---|---|
| 死後、誰にどの財産を渡すか | 法的効力を持たせる遺言事項として、適式な遺言書で定める。 |
| 銀行・保険・契約 連絡先の一覧 |
エンディングノート等で所在と連絡方法を整理する。残高や契約は更新する。 |
| 判断力低下時 財産の管理 |
遺言は原則として亡くなった時に効力が生じるため、生前の支援方法や契約等を別に検討する。 |
| 望む医療・介護 | 希望を書き、家族や医療・ケアの担当者と話し合いを重ねて共有する。 |
| 葬儀、納骨、死後の片付け | 希望と担当者、費用を整理する。確実に任せたい事務は契約等も検討する。 |
家族にしてほしいことを、一つの書類だけで実現しようとすると、効力が生じる時期や手続を取り違えやすい。
財産を渡すこと、場所を知らせること、事務を頼むことを、分けて考えよう。
題名だけでは、効力は決まらない
民法960条は、遺言に法律上の方式を求める。遺言で定められることには、相続分や分割方法の指定、遺贈、遺言執行者の指定等がある。
遺贈は遺言で財産を渡すこと、執行者は内容を実現するために手続を進める人だ。誰に何を渡すかを明確にし、選んだ方式を満たす遺言を作ろう。
一般的な記入式・パソコン編集のノートは、それだけでは自筆証書遺言の方式を満たさないことが多い。
ただし、「ノート」という題名だから、必ず遺言の効力がないとも言い切れない。実際の内容と方式で判断する。
家族に解釈を任せないため、遺言書を独立した文書で作り、ノートには存在と保管場所を書く方法が分かりやすい。
ノートへ「こちらが最新版」と書いただけで、遺言の内容を自由に変えられるとは考えないようにしよう。
本文の手書きと、目録の例外を分ける
現行の自筆証書遺言は、原則として、本人が本文・日付・氏名を手書きし、押印する。日付は年月日が分かるように書く。
夫婦二人で同じ一通を共同作成せず、それぞれが作成する。
財産目録は、パソコンで作ったものや、登記事項証明書・通帳の写しを使える。ただし、自書でない目録は、各ページへの署名・押印が必要だ。両面に自書でない記載があれば、両面に行う。
この目録の例外を、本文もパソコンでよいという意味へ広げないようにしよう。
2026年6月公布の改正では押印の任意化や新しい遺言方式が定められたが、施行時期は別になる。作成時点の条件を法務省の現行様式案内と改正制度の案内で確認する。
金額だけでなく、資料の探し方を残す
財産の額だけでは、金融機関や契約が分からず、家族が一から探すことにもなる。
最初から正確な総額を目指さず、資料の場所と問合せ先を中心に整理すると、始めやすい。
- 銀行・証券会社の名称、支店、口座の種類、通帳や取引報告書の場所
- 不動産の所在地、登記や固定資産税資料の保管先
- 生命保険会社、証券番号、担当窓口と保険証券の場所
- 借入先、保証、継続的な支払い、契約書の所在
- 親族、勤務先、専門家など、連絡すべき相手と連絡順
- 遺言書の方式、作成日、公証役場・法務局等の保管情報
借金と保証も書こう。ただし、一覧は調査を助ける資料で、相続人や財産の範囲を確定する証明書ではない。
死亡後は、戸籍や金融機関の資料等で、改めて確認する必要がある。
隆のノートに預金500万円とあっても、生活費を使い、実際に450万円となっていれば、ノートの数字で残高は増やせない。
美穂は金額の横へ確認日を入れ、金融機関と資料の場所を残した。死亡時の残高等は、改めて金融機関の資料で確かめる。
家の見積額、すぐ使える預金、借入残高は、欄を分ける。これらは調査の手掛かりで、税法上の評価額や納税額ではない。
資産が多くても、当面の支払いに使えるとは限らない。恵が、生活費のある場所を知っているかも話し合おう。
秘密情報は、見せる相手を考える
ネット銀行、証券、暗号資産、定期購入等のサブスクリプション、スマートフォンへの通知も、確認の対象だ。
サービス名、登録メールアドレス、支払方法、問合せ先を残すだけでも、家族が契約を探す手掛かりになる。
家族全員に見せるノートへ、暗証番号や復旧用の秘密情報をまとめると、生前の不正利用につながるおそれがある。
情報の所在を知らせるページと、厳重に管理する認証情報を分けよう。誰が、どの場面で確認するかも決めておく。
認証情報を知っていても、財産を処分する権限があるとは限らない。
死亡後は、サービスごとの相続・解約手続を確認しよう。故人になり代わって操作すればよいわけではない。
医療と葬儀の希望は、早めに共有する
望む医療やケアは、状態や気持ちによって変わることがある。
書いて終えるのでなく、家族や医療・ケアの担当者と話し合い、変わった希望を共有しよう。厚生労働省の人生会議の案内も、このような継続的な話合いを勧めている。
葬儀や連絡先の希望を、すぐに開けない場所へしまうと、間に合わないことがある。
財産の分け方の遺言とは別に、急ぐ連絡と葬儀の希望を、家族が見つけられる形にしよう。事務を任せる人と費用の準備が必要なら、死後事務委任等も検討する。亡くなった後の事務を頼む契約だ。
恵が葬儀費用を70万円と見込んでも、それは家族の予算の例で、料金相場ではない。
誰が業者へ連絡・契約し、どの資金から払うかを話しておく。「預金から出す」とノートに書くだけでは、死亡後の払戻しや、家族の費用負担まで決まらない。
健には、急ぐ連絡先をどこで見られるかを伝える。
医療の希望も、死亡後に開く遺言書の中だけへ置かず、本人・家族・医療やケアの担当者が、必要な時に確かめられるようにしよう。
遺言を保管し、ノートへ場所を書く
法務局の保管制度を使う自筆証書遺言は、家裁の検認が不要になる。ただし、内容や、本人に遺言をする能力があったことまで、保証する制度ではない。
検認は、遺言の状態等を確認し、偽造・変造を防ぐ手続だ。自宅等で保管した自筆証書は原則として検認が必要で、公正証書は不要となる。
ノートには「遺言書はどこにあるか」「どこへ連絡すればよいか」を記す。封印された遺言を家族が自宅で開封しないよう、保管方法に合った発見後の手続も伝える。詳しくは遺言書の探し方と法務局の保管制度を確認できる。
まず、三つの情報から始める
- 緊急時の連絡先と、遺言書・重要書類の保管場所を書く。
- 財産と債務の一覧を作り、渡し方を遺言書で定める必要があるか整理する。
- 転居、家族の変化、口座の解約等の際に日付を付けて更新する。
遺言とノートで、受取人や財産の説明が違うなら、どちらを直す必要があるかを確かめる。
法的な配分を変えたいときは、ノートの更新だけで済ませず、遺言も、方式に従って見直そう。
隆は、家族が連絡先と資料を探せるノートを整え、分け方は独立した遺言書で決めることにした。
ノートの更新日と、遺言の作成日は区別する。家族や財産が変われば、両方を読む。書いて終わりにせず、必要なとき、家族が使えるか確かめよう。
ほかにも確認する手続がある場合は、遺言の作成・解釈・執行の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
エンディングノートだけで遺産を分けられるか
遺言の方式を満たさないノートだけでは、希望した財産の持ち主を遺言として指定できない。法的効力が必要な内容は、適式な遺言書で定める。
ノートという題名なら遺言にはならないか
題名だけでは決まらない。内容と方式が遺言の条件を満たすかによるが、一般的な記入式ノートが自動的に条件を満たすわけではない。
財産目録はパソコンで作れるか
自筆証書遺言でも財産目録は自書でなくてよい。ただし、自書でない目録の各ページへの署名・押印等が必要であり、本文の自書条件とは区別する。
医療の希望を遺言書に書けば足りるか
遺言は原則として亡くなった時に効力が生じるため、生前の医療の意思共有は別に行う。希望を記録し、家族や医療・ケアの担当者と繰り返し話し合う。
両方を作った後は何を更新するか
口座、連絡先、契約等はノートを更新する。財産の受取人や分け方を変更したい場合は、遺言書も適式に見直し、両方の矛盾をなくす。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



