遺言書とは、被相続人(亡くなった方)が自らの意思で財産の分け方などを記した法的文書であり、民法が定める形式を満たした場合に法的効力を持つとされています。
結論から言うと、遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、それぞれ作成方法・保管方法・発見後の手続きが異なるため、種類ごとの特徴を把握しておくことが円滑な相続につながる可能性があります。
「うちの親は、そんな書類を残すような人間じゃないから」と言い切れる人間は、どのくらいいるだろうか。
言い切ってしまった人間の一部が、後に仏壇の引き出しから、あるいは銀行の貸金庫から、たった一枚の紙切れを発見して、完全に固まる。──そういうことが、現実には起きている。
遺言書が出てきたんだけど、これって何をどうすればいいんだ……?
遺言書。その存在を知っているか知らないかで、相続の景色は180度変わる。だが、実はもう一段階、重要な話がある。遺言書には「種類」があるのだ。そしてその種類を間違えると、手続きが止まり、時間が溶ける。
で、結論から言うと
遺言書は法律上、主に3種類に分類されている(民法第967条)。
- 自筆証書遺言──自分で全文を手書きして作る、最もポピュラーな形式
- 公正証書遺言──公証人が作成に関与し、公証役場に保管される、信頼性最高峰の形式
- 秘密証書遺言──内容を秘密にしたまま、存在だけを公証役場に証明してもらう形式
この3つ、それぞれに「発見の仕方」も「発見後の動き方」も、まったく違う。知っているだけで、次の一手がクリアになる。

自筆証書遺言──最も身近で、最も落とし穴が多い
紙と筆さえあれば作れる。それが自筆証書遺言の最大の特徴であり、同時に最大のリスクでもある。
民法第968条が定める要件は、こうだ。
- 全文を自書(自ら手書き)すること
- 日付を自書すること
- 氏名を自書し、押印すること
ただし2019年の民法改正により、財産目録のみパソコン作成や通帳コピーの添付が認められるようになった(民法第968条第2項)。
問題は、発見後の手続きだ。
自筆証書遺言を発見したら──封印されていてもいなくても──勝手に開封してはいけない。民法第1004条第1項の規定により、家庭裁判所に提出し、「検認」という手続きを経る必要がある。これを怠った場合、5万円以下の過料が課される可能性がある(民法第1005条)。
ただし例外がある。法務局の「遺言書保管制度」を利用して預けられた自筆証書遺言は、検認不要だ(法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条)。保管制度を使っていた場合は、法務局への照会で確認できる。
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公正証書遺言──「最強」と呼ばれる理由
公証人が作成に関与し、原本が公証役場に保管される。これが公正証書遺言だ。
民法第969条に定められた要件を満たして作成されるため、形式不備による無効リスクがほぼゼロ。かつ、自宅に保管する必要がないため「遺失」「隠蔽」「改ざん」が物理的に起きない。
発見後の手続きは、圧倒的にシンプルだ。
- 検認不要(民法第1004条第2項)
- 公証役場に照会すれば存在を確認できる(「遺言検索システム」が利用可能)
- 最寄りの公証役場で検索を依頼できる(全国どこでも可)
親が「公正証書を作った」と言っていたにもかかわらず、書類が見当たらない場合。落ち着いて公証役場に問い合わせるだけで、原本の存在が確認できる可能性がある。これが「最強」と言われる理由の一端だ。
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秘密証書遺言──存在感は薄いが、知っておく価値はある
内容は完全に秘密にしつつ、「この遺言書は確かに私が書いたものです」という事実だけを公証役場に証明してもらう形式(民法第970条)。
実務上の利用頻度は低い。なぜか。
- 公正証書遺言と違い、公証役場に原本が保管されない
- 自筆証書遺言と違い、全文自書の必要がない(パソコン作成も可)が、手続きが複雑
- 発見後は自筆証書遺言と同様、家庭裁判所での検認が必要
「メリットのいいとこ取り」を狙ったはずが、両方のデメリットを引き受けることになりかねない。知識として頭に入れておく程度でよいかもしれない。

3種類を見つけたあと、動く順番
発見した遺言書の種類が判明したら、次のアクションはこうだ。
ステップ1:遺言書の種類を特定する
封筒や書面の様式を確認。「公正証書遺言」であれば公証役場の印鑑や公証人の署名がある。不明ならまず公証役場の検索システムで照会する。
ステップ2:自筆・秘密証書遺言なら、開封前に家庭裁判所へ
相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所に提出し、検認の申立てを行う。申立人は相続人であれば誰でも可能とされている。
ステップ3:内容を確認し、相続人全員で共有する
遺言書の内容は、相続人全員が把握しておく必要がある。特定の一人だけが知っている状態は、後の遺産分割協議で火種になりやすい。
ステップ4:遺言内容と法定相続分の乖離を確認する
遺言書の内容が法定相続分を大きく下回る相続人がいる場合、遺留分侵害額請求権が生じる可能性がある(民法第1046条)。ただしこの権利の行使期限は、相続開始および遺留分侵害を知った時から1年、または相続開始から10年(民法第1048条)。放置すると時効で消滅する。
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よくある質問
遺言書が複数枚出てきた場合、どれが有効ですか
原則として、作成日付が最も新しい遺言書が有効とされています(民法第1023条)。ただし内容が矛盾する場合のみ後の遺言が前の遺言を撤回したものとみなされるため、内容が重複しない場合は複数の遺言書が併存して有効な場合もあります。具体的な判断は内容の精査が必要です。
自筆証書遺言の検認はどのくらい時間がかかりますか
申立てから検認期日の指定まで、概ね1〜2ヶ月程度かかる場合があります(家庭裁判所の混雑状況によって異なります)。検認は相続手続きの前提となる場合が多いため、遺言書発見後はできるだけ早めに申立てを行うことが望ましいとされています。
遺言書がない場合は、どうなりますか
遺言書が存在しない場合、相続人全員による遺産分割協議が必要になります(民法第907条)。協議には全員の合意が必要であり、一人でも欠けると協議は成立しません。協議が整わない場合は家庭裁判所への調停・審判申立てという手順を踏む場合があります。
公証役場への遺言書の検索は誰でもできますか
公証役場の「遺言検索システム」を利用できるのは、相続人・受遺者・遺言執行者など、利害関係のある方に限られるとされています。請求の際には戸籍謄本など、相続関係を証明する書類の提出が必要になる場合があります。
遺言書の内容に納得できない場合、争うことはできますか
遺言書の形式不備・遺言能力の欠如・詐欺・強迫などの事由がある場合、遺言の無効確認訴訟を提起できる可能性があります(民法第963条等)。また形式上有効な遺言であっても、遺留分を侵害されている相続人は遺留分侵害額請求を行使できる可能性があります(民法第1046条)。
種類と手順さえわかれば、あとは順番通りに動けばいいんだな。
遺言書の種類を知っているだけで、発見した瞬間の「で、次は何をすればいいんだ」という脳内の混乱が、驚くほど静まる。自筆か、公正証書か、秘密証書か。その一点を見極めるだけで、検認が必要かどうかが決まり、次の連絡先が決まり、動く順番が決まる。
知っておいて、損はなかったでしょう。遺言書の種類。伝わりましたかね。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。





