遺言書の種類は3つ|自筆・公正・秘密証書と発見後の手続

遺言書の種類は3つ|自筆・公正・秘密証書と発見後の手続

通常の遺言には、自筆証書・公正証書・秘密証書の三種類がある。違いは「誰が書くか」だけではない。本人の意思の確かめ方、原本の保管先、亡くなった後に家族がする手続も変わる。

病気などで死亡が迫っている場合等の特別な方式とは分けて、普段の準備で比べる三種類を見ていこう。以下は、和子と子の裕司・由美の架空の例だ。

和子は、夫が亡くなった時に銀行や登記の書類を何度も書いたことを覚えていた。自分の時には、息子の裕司と娘の由美を、できるだけ迷わせたくない。そう思って遺言の下書きを始めたが、長い文章を手で書くのは疲れる。

由美が「私がパソコンで打って、お母さんが名前を書けば?」と提案すると、裕司は「それで遺言になるのかな」と首をかしげた。和子には、生きている間は家族にも全部の内容を話したくない気持ちもあった。これは、方式を選ぶ場面を説明するための架空の家族の話だ。

三種類に共通するのは、本人の意思を後から確かめられるようにすること

遺言を使う時には、書いた本人へ「これはどういう意味?」と聞けない。そのため、本人が残した意思と内容を、後から確かめられる形にしておく必要がある。

自筆証書なら本人が手で書くことや署名・押印、公正証書なら公証人と証人の関与、秘密証書なら封をした証書を公証人と証人へ示して説明することなど、それぞれの決まりがある。秘密証書のこの説明は、裁判所へ申し出る手続ではない。

手続を面倒にするためだけの決まり、と考えると、省いてよさそうな部分に見えるかもしれない。しかし、由美が作った文章へ和子が名前を書くだけで自筆証書にできるとすれば、誰がどう決めた内容かという争いが残りやすい。本人の希望を残すために、選んだ方式の条件をそろえることが大切だ。

3種類の違いを、作成と相続後の手続で比べる

方式 作成・保管・発見後の特徴
自筆証書遺言 本人が原則として本文・日付・氏名を手書きし押印する。自宅等で保管する場合は検認が必要。法務局の保管制度を使った場合は検認不要。
公正証書遺言 本人の意思に基づき、公証人と証人2人以上が関与して作成する。原本は公証人側で保管され、検認は不要。作成手数料等がかかる。
秘密証書遺言 署名・押印した証書を封印し、公証人1人と証人2人以上へ申述する。本文は手書きでなくてもよい。内容と保管は本人側で管理し、相続後は検認が必要。

検認とは、家庭裁判所が遺言書の状態を確認し、記録に残す手続をいう。有効性にお墨付きを与えるものではない。どの方式でも、本人の理解力、内容の明確さ、遺留分(一定の近い家族に法律で保障された最低限の取り分)、後の遺言による変更などは別に確認する。

自筆証書遺言は、本人が書ける範囲と保管方法を確認する

民法968条は、原則として全文・日付・氏名の自書と押印を求める。家族に本文を書いてもらい本人が署名するだけでは、自筆証書遺言の条件を満たさない。作成日に「吉日」などを使わず、年月日を特定できるようにする。

財産の一覧である「財産目録」は、パソコンで作った表、登記事項証明書、通帳のコピーなどでもよい。ただし、本人が手書きしていない目録は、各ページに本人の署名・押印が必要だ。手書き以外の記載が両面にあれば、両面に行う。

この例外があるからといって、誰に何を渡すかを決める本文まで、パソコンで作れるわけではない。

書き間違いを直す際も、訂正箇所を指示し、変更した旨を付記して署名し、変更箇所に押印するなどの方式がある。訂正が重なるなら、新しく書き直した方が内容を確認しやすい。古い遺言との関係も整理する。

和子の場合、由美が入力を手伝った財産目録を使う道はあっても、誰に何を渡すかという本文まで、そのままパソコンで作った自筆証書にすることはできない。手で書けるかだけで急いで決めず、財産と希望を整理し、別の方式も比較したい。

自宅保管と法務局保管では、相続後の負担が違う

自宅で保管する場合、家族が発見できる場所を伝えつつ、紛失や書換えを防ぐ必要がある。法務局の保管制度は、原本と画像情報を保管し、相続後に情報証明書を取得できる仕組みだ。検認が不要になる一方、法務局が内容の有効性や本人の遺言能力を保証する制度ではない。

保管申請は本人が予約して来庁する。1件3,900円の手数料に加え、用紙の余白、片面記載、綴じ方等の条件がある。詳しくは法務省の制度案内と自筆証書遺言の保管制度で確認する。

公正証書遺言は、内容の相談と原本保管を重視する場合に検討する

公正証書遺言では、公証人が本人の意思を確認して作成する。証人2人以上の立会いが必要で、未成年者、推定相続人や受遺者(遺言によって財産を受け取る人)、その配偶者・直系血族など、証人になれない人もいる。家族に頼む前に、公証役場へ適格性を確認する。

本人が希望する配分に加え、戸籍、不動産や預金の資料、受取人・遺言執行者(遺言の内容を実現するために必要な手続きを進める人)の情報を準備する。財産の種類が多い場合や、本人が長い文章を手書きしにくい場合も相談しやすい。署名や意思の伝達に支障があるときは、状態に応じた手続を公証人と確認する。

2025年10月1日から公正証書の作成・保存にデジタル化が導入された。指定公証人の下で電磁的な記録を作成・保存する仕組みがあり、紙の正本・謄本等も利用できる。ウェブ会議による手続は、申出があれば無条件に認められるものではなく、公証人の判断等の条件がある。日公連のデジタル化案内で、対応する公証役場へ確認する。

費用は遺産総額だけでなく、財産を受け取る人ごとの目的価額、遺言加算、証明書、出張等で変わる。相談時に財産と受け取る人の案を示し、見積りを確認する。公証人が関与しても、遺留分や作成時の遺言能力をめぐる争いが必ずなくなるわけではない。

公正証書を検討した和子は、証人を裕司と由美に頼めば済むと思った。しかし、二人は和子の推定相続人(今、相続が始まった場合に相続人になると見込まれる人)なので、証人にはなれない。準備を手伝う家族と、法律上の証人は違う。誰に立ち会ってもらうかは、公証役場へ先に確認する必要がある。

秘密証書遺言は、内容を見せない代わりに本人側の確認が重要になる

秘密証書遺言は、本人が証書に署名・押印し、その証書を封じて同じ印章で封印する。公証人1人と証人2人以上の前で、自分の遺言であることと、筆者の氏名・住所を申し述べるなど、民法970条の方式を満たす必要がある。

本文はパソコンや代筆でも作成できるが、公証人が中身を読んで文言の適切さを点検する方式ではない。財産や受取人が曖昧でも、その場で直してもらえるとは限らない。封をした原本は本人側で保管するため、紛失対策と発見方法も必要になる。

秘密証書の決まりを一部守れていなくても、自筆証書遺言の条件を満たしていれば、自筆証書として有効になることがある。ただし、本文をパソコンで作った場合などに、自動的に有効になるわけではない。

内容を秘密にできる点だけでなく、自分側で文章と原本を管理し、相続後に検認を受ける負担も比べて選ぶ。

「中身を見せない」という希望だけなら秘密証書は魅力的に見える。だが和子が心配していたのは、子どもが後で手続に困ることでもあった。内容を公証人に見せない代わりに、自分側で文言を確かめ、原本を残し、死後に検認する必要がある。この負担も、本人の希望と一緒に比べたい。

希望や本人の状態に応じて、選ぶ順番を決める

  • 本人が自分で書き、費用を抑えて準備したい:自筆証書の方式を確認し、法務局保管を含めて検討する。
  • 複雑な配分や書字の困難がある:財産資料と希望をまとめ、公証人に相談する。
  • 内容を公証人や証人にも見せたくない:秘密証書の条件と、本人側で内容・原本を管理する負担を確認する。
  • 家族間で争いが予想される:方式だけに頼らず、遺留分、本人の説明記録、医療資料、執行者、納税資金を整理する。

2026年に成立した遺言制度の改正には、押印を任意とする見直しや新しい保管証書遺言制度などがあるが、施行日は項目ごとに異なる。成立したという理由だけで、作成時に適用される自筆証書遺言の押印条件を省略しない。作成時点の法務省の施行案内と現行条文を確認する。

遺言書を見つけた人は、方式を確認して原本を保全する

まず原本、封筒、同封物をそのまま保管し、誰がいつどこで発見したかを記録する。封印された遺言書は家庭裁判所で開封する。勝手に開封したことだけで遺言が自動的に無効になるわけではないが、過料や証拠保全の問題があるため、開けずに手続を確認する。

公正証書遺言と法務局保管制度の遺言は検認不要だ。それ以外で検認が必要なときは、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所へ申し立てる。出生から死亡までの戸籍や相続人の戸籍などを準備し、遺言書1通につき800円の収入印紙と連絡費用等を用意する。相続人全員が出席しなければ手続ができないわけではない。

手続の詳細は裁判所の検認案内で確認する。検認を待つ間も、相続放棄や税務申告の期限管理は別に進める。

複数の遺言があっても、方式だけで優先順位は決まらない

公正証書が自筆証書に必ず優先するという規則はない。前後の遺言が抵触する部分は後の遺言で撤回されたものと扱われるが、両立する条項が残ることもある。日付が新しいものだけを残し、古い原本を処分しない。

作成後の不動産売却や受取人の死亡も、実行に影響する。財産、家族、希望が変わったときは、方式を選んだ時点で終わりにせず、本文と保管情報を見直す。内容の解釈や有効性は遺言書の効力を確認する項目で整理できる。

和子は、その場で方式を決めなかった。手書きの負担、どこまで内容を伝えたいか、原本の保管、死後に子どもが行うことを一枚に並べた。由美も、代わりに本文を打つ前に、母が誰へ何を残したいのかを聞くことにした。三つの名前を覚えるより、その方法で本人の意思が届くかを確かめることが、選ぶための手掛かりになる。

遺言の作成・解釈・執行の関連ガイド

作る・探す・効力を調べる・実行する場面を分ける。遺留分・紛争・引継ぎの手続きへ。

目的に合う詳しい説明を探す(18記事)

状況に合わせて、もう一歩詳しく確認する

よくある質問

自筆証書と公正証書では、どちらが優先するか

方式だけで優先順位は決まらない。作成日と各条項を比べ、後の遺言と抵触する部分、両立する部分、有効性を確認する。

パソコンで遺言を書けるか

自筆証書遺言では本文等の自書が必要で、財産目録には例外がある。秘密証書は本文をパソコンで作成できるが、署名・押印・封印等の方式と相続後の検認が必要になる。

法務局へ預けると公正証書になるか

自筆証書遺言のままだ。原本保管と検認不要等の利点があるが、公証人が内容を確認して作る公正証書とは異なる。

秘密証書遺言を公証役場が保管してくれるか

秘密証書の方式を利用しただけで、公証役場が原本を保管するわけではない。本人側で原本を管理し、相続後に発見できるようにする。

2026年の改正で、もう押印はいらないか

成立と施行は別だ。作成時に適用される自筆証書遺言の条件に従い、施行前の改正を理由に押印を省略しない。

本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

最終更新:

文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

TOP

電話でお問い合わせ LINEで簡単お問い合わせ