相続マンションの売却。登記・税金・管理費・特例。

相続したマンションを売却する流れ|登記・税金・管理費・特例

相続したマンションの売却では、誰が売る権限を持つか、待つ間の費用を誰が払うか、税金を残していくら分けるかを先にそろえる。売値だけを二つに割っても、家族の負担は二等分にならない。

母が暮らしたマンションの鍵を、姉の美穂が預かっている。父はすでに亡く、相続人は美穂と弟の修二の二人。二人とも別に家があり、この部屋へ移る予定はない。「売って半分にしよう」。そこまでは、すぐに決まった。

ところが、修二は少しでも高く売りたい。美穂は、空室なのに毎月届く管理費の請求が気になっている。

母の食器を片付けるのも、内見のために鍵を開けるのも美穂だ。「急いで売るのはもったいない」と言われると、自分の手間まで軽く見られた気がした。以下は手続とお金の違いを考えるための架空の家族で、金額も仮定である。

部屋は二つに切って渡せないが、売ればお金として分けられる。これが換価分割(遺産を売り、そのお金を分ける方法)の分かりやすい役割だ。

ただし、売れるまでの管理と売った後の税金まで一緒に考えなければ、美穂の立替えだけが置き去りになる。

査定前に、売る人と物件を調べる

最初に、遺言と戸籍を調べる。取得者の指定、遺言を実現する遺言執行者の有無、ほかの相続人がいるかで、進め方が変わる。

自宅の自筆証書等は、原則として検認が必要だ。公正証書と、法務局保管の遺言書は、検認不要となる。

遺言がなく、相続人が複数なら、誰が取得するか、全員で売って代金を分けるかを話し合う。

査定を頼むことと、全員を拘束する売買契約は、別の段階だ。話合い前に、一人で買主へ売却を約束しないようにしよう。

  • 登記事項証明書、固定資産税課税明細、手元にある登記関係書類。
  • 親の購入時の売買契約書、領収書、仲介手数料、改良工事の資料。
  • 住宅ローン残高、団体信用生命保険、抵当権の状況。
  • 管理規約、総会議事録、長期修繕計画。
  • 管理費、修繕積立金、駐車場使用料等の請求書と未納額。
  • 室内の不具合、漏水、修繕・リフォームの記録。
  • 賃貸中なら賃貸借契約、敷金、賃料滞納、管理委託契約。

ローンが残っていたら、団体信用生命保険で支払われる対象かを調べる。

借金がなくなっても、登記上の抵当権は自動で消えない。抵当権は、返済がないときに不動産から回収するための担保だ。金融機関へ、抹消書類を準備できる時期まで確かめよう。

空室でも管理費は続く。今の月額だけで判断しない

住んでいなくても、区分所有者としての管理費・修繕積立金はかかる。

母の口座が凍結され、引落しが止まったら、管理会社や管理組合へ連絡する。請求先と支払方法を確かめよう。

長期修繕計画では、積立金の増額予定や大規模修繕の時期、一時金の予定も見る。国土交通省のマンションの管理状況チェックシートも、管理規約や修繕積立金、将来の収支計画の確認を挙げている。

二人の管理費・修繕積立金を、月4万円と仮定する。半年で24万円、さらに半年待てば、もう24万円かかる。

修二が、あと30万円高く売れるかもしれないと考えても、追加で半年待つと、そのうち24万円はこの支出で消える。残る差は6万円だ。

税や、ほかの保有費は別にある。高く売れる保証もない。

誰も住んでいなくても、共用廊下の清掃や建物の修繕準備は続く。部屋を使わないという家族の事情と、建物全体を維持する負担は別に動くからだ。

美穂と修二は、「待つか急ぐか」を責め合う前に、月ごとの費用と立替えた人を同じ表に載せた。

未納管理費等は、買主にも影響する。売買直前に初めて伝えることは避けよう。

仲介会社を通じて調べ、未納額、精算方法、支払日を明らかにする。所有者が変われば滞納も消える、とは考えないようにしよう。

売る人と、費用・分配を決める

分け方 基本的な内容 決めること
一人が現物で取得 取得した人が自分の判断で売却する 他の遺産との調整、受け取る人の税負担
換価分割 売って代金を合意した割合で分ける 売却権限、費用、代金管理、分配割合と時期
代償分割 一人が取得し、他の相続人へ代償金を払う 評価額、代償金、支払資金と期限
共有で取得 複数人が持分を持ち、全員で売却する 持分、契約・決済への協力、各人の申告

換価分割で、代表者の口座へ代金を入れるなら、遺産を売り、分配する合意だと分かるようにする。代表者が単独で取得し、後で自由に贈与する、という趣旨とは分けよう。

登記の方法と、税の計算上、誰が売った人となるかを、協議書の作成段階で司法書士・税理士等とそろえる。

不動産全体を任意に売るには、権利を持つ全員の協力が必要だ。

価格や分け方の合意が得られない場合は、遺産分割調停・審判(裁判官が事情や資料を調べて判断する手続き)などを検討する。共有不動産の売却と同意も参照できる。

二人の半分は、何の半分だろう。

売却代金3,000万円、売却費用120万円、分配前に精算する管理費等30万円と合意した例なら、差額は2,850万円。二人で半分ずつなら、各1,425万円だ。

この三項目だけの仮計算で、各自の譲渡所得税等を払った後の手取りではない。

美穂が30万円を立て替えていたなら、売却口座から美穂へ戻し、残りを合意どおりに分ける等の精算を記録する。

3,000万円を先に二分し、管理費は後でと終えると、美穂が自分の取り分から、全額払う形になりかねない。

登記名義、売る権限、代金を預かる役割も、この合意とそろえよう。

登記の期限と、売却準備を分ける

相続で所有権を取得した人は、相続が始まったことと、その不動産の取得を知った日から3年以内に、登記を申請する義務がある。

遺産分割で取得した場合は、成立日から3年以内に、その内容を反映する登記も必要だ。正当な理由なく義務に違反すると、10万円以下の過料の対象となり得る。

2024年4月1日より前に相続と取得を知っていた不動産も対象で、原則として2027年3月31日までの対応が必要だ。古い相続だから対象外と考えず、法務省の案内で期限を確認する。

売却に必要な登記を、3年の期限まで待ってよい、という意味ではない。

買主へ移す前提として、相続での権利の引継ぎを、登記へ反映する必要がある。相続人申告登記だけで、売却の登記まで済むわけでもない。

決済日から逆算し、戸籍、協議書、印鑑証明書等をそろえよう。

売却益は、親が買ったときの取得費から計算する

土地・建物の譲渡所得は、売却代金から取得費と譲渡費用を引き、使える特別控除があれば、さらに引いて計算する。

限定承認等の例外を除き、母の取得費と取得時期を引き継ぐ。相続日の査定額や相続税の評価額を、そのまま取得費にするわけではない。

マンションは、土地と建物を分ける。建物の取得費は、使用や時間の経過に応じた減価償却費相当額を引いて計算する。

昔の購入代金を、丸ごと引けるとは限らない。購入契約の内訳、後の工事資料、賃貸期間も調べよう。

所有期間による長期・短期の区分も、原則として故人の取得時期を引き継ぐため、相続後すぐ売っただけで短期譲渡になるとは限らない。

判定は売却年の1月1日時点での所有期間による。国税庁No.3270とNo.3202を確認したい。

取得費が不明なら、売却代金の5%を概算取得費とする方法がある。ただし、実額が分かる資料を、先に探そう。

売値が高く、概算取得費が小さいと、大きな売却益が計上されることがある。

実際に払う費用と、税務上差し引ける費用は別になる

仲介手数料や売買契約書の印紙代等、売るために直接かかった費用は、譲渡費用になり得る。

固定資産税、通常の管理費、日常の修繕費等、持ち続けるための費用が、すべて譲渡費用になるわけではない。

二人の例で、税の計算に使う取得費を減価償却後1,200万円、譲渡費用を120万円と仮定する。

特別控除前の売却益は、3,000万円−1,200万円−120万円=1,680万円だ。先ほどの分配前の残額2,850万円とは違う。

1,200万円は、今回の口座から払うお金ではない。母の購入費等を引き継いで計算する、取得費だからだ。

同じ売値でも、二つの計算がある

本文の仮定:売値3,000万円、売却費用120万円。
精算する管理費等30万円、減価償却後の取得費1,200万円。

分配前の現金の仮計算

3,000万円 − 120万円
− 管理費等30万円
= 2,850万円

二人で半分なら、各1,425万円。各自の譲渡所得税等は、まだ引いていない。

特別控除前の売却益

3,000万円 − 取得費1,200万円
− 譲渡費用120万円
= 1,680万円

母の取得費等を引き継ぐ計算だ。管理費30万円を、そのまま全部引けるわけではない。

1,200万円は今回口座から出るお金ではない。現金の分配と税の計算を分け、各人の所得と税額を確かめてから、使える額を考えよう。

逆に、今払った管理費30万円は、現金を減らす。ただし、そのまま全部が譲渡費用になるわけではない。

口座に残る額と、税率を掛ける利益は、別の計算だ。各人の売却収入・取得費等を整理し、税を見積もってから、自由に使える額を考えよう。

三つの税の特例を分けて考える

相続税額の取得費加算

相続税が課された人が、決められた期間内に相続財産を売る等の条件を満たせば、相続税のうち、売った財産に対応する一定部分を、取得費へ足せる。

期間は、亡くなった日の翌日から、相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までだ。一般に約3年10か月といわれるが、相続ごとに末日を計算しよう。

納めた相続税の全額を加算する制度ではなく、特例適用前の譲渡益が上限となる。国税庁No.3267を基に、申告書と計算明細を準備する。

相続税を払ったなら、売ったときの税は要らないのでは、と修二は聞いた。

相続税は、財産を受け取ったことへの課税だ。一方、譲渡所得税は、母の取得費等を引き継いで計算する売却益にかかる。計算する対象が違う。

その上で、条件に合う相続税の一部を取得費へ足し、売却益を調整するのが、取得費加算だ。相続税を払えば、譲渡所得税が一律ゼロになる制度ではない。

相続人自身のマイホームを売る場合

相続人自身が生活の本拠として住んでいたマンションなら、居住用財産の3,000万円特別控除を検討できる。

以前住んでいた家屋の場合は、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却などの条件がある。

住民票を移しただけ、特例のためだけに一時入居しただけで、使える制度ではない。

過去の特例利用、買主との関係、ほかの制度との適用関係も確かめよう。

親の空き家を売る場合の特例

親の空き家を売る特例は、区分所有建物として登記されていないことが、家屋の条件だ。一般的な分譲マンションの一室には、使えない。

空室というだけでは対象にならない。相続人自身のマイホームを売る特例とも、別に考えよう。

空き家特例と取得費加算には同じ財産についての併用制限もある。戸建ての解説や別の相続人の税額を、そのまま自分のマンションに当てはめないようにする。

契約から引渡しまでの担当と精算を決める

  • 売出価格、値下げできる範囲、全員に再確認する条件。
  • 仲介会社と媒介契約、内見や鍵の管理をする人。
  • 管理費等、固定資産税、残置物処分、必要な修繕の負担。
  • 漏水や設備不良などの告知事項と、契約不適合責任の範囲。
  • ローン返済と抵当権抹消、管理費等の精算日。
  • 売買代金の管理口座、精算書、分配割合と分配日。

賃貸中なら、売却するだけで借主が自動で退去するわけではない。

賃貸借の引継ぎ、敷金や賃料の精算を調べる。空室で渡す約束をする前に、退去の見通しを確かめよう。

売却が間に合わなくても、それだけで相続税の申告期限は延びない。未分割での申告と、納税資金は別に準備する。

引渡し後も、所得税等の申告に備え、購入資料、売買契約書、領収書、代金の分配記録を一緒に残そう。

空き家の選択肢は誰も住まない実家を相続した場合、売却までの共有管理は共有不動産の管理行為も確認できる。

母の棚から購入時の契約書が見つかった日、美穂は修二へ写真を送った。

二人は、売却予定表の横に、立替金の精算欄と税金の見込額を置いた。母の部屋を片付ける寂しさまで帳簿では消えない。それでも、「誰が何を払ったか」を言い出しにくいまま終わらせずに済む。

売却の準備で目指すのは、いちばん高い数字を一つ選ぶことだけではない。

売る権限、待つ費用、分配、税金を見えるようにし、二人とも受け取ったお金を安心して使える状態へ進めることだ。

費用を確かめるための公的資料

ほかにも確認する手続がある場合は、不動産の登記・分割・処分の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

故人名義のまま売却を進められるか

査定や交渉を始めることはあるが、買主への所有権移転登記の前提として相続による権利承継を登記へ反映する必要がある。決済日から逆算して相続登記(相続で受け継いだ不動産の名義を変える手続き)を準備する。

空室の分譲マンションに空き家の3,000万円控除を使えるか

一般的な区分所有マンションの一室は、被相続人居住用家屋の空き家特例の対象外となる。相続人自身が住んでいた場合のマイホーム特例とは区別して検討する。

相続直後の売却は短期譲渡になるか

相続直後という理由だけでは決まらない。原則として故人の取得時期を引き継ぎ、売却年の1月1日時点の所有期間で長期・短期を判定する。

管理費や修繕積立金は売却益から全部差し引けるか

保有中の管理費等が自動的にすべて譲渡費用となるわけではない。実際の支出を引く手取り計算と、取得費・譲渡費用による税務計算を分けて確認する。

代表者が代金を受け取り、後で兄弟に分けてよいか

換価分割として進めるなら、売却権限、費用負担、代金管理、分配割合を事前に書面化する。代表者の名義だけで処理を決めず、登記と税金を計算するときの譲渡者の整合を取る。

本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

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