相続した車の名義変更、放置すると売れなくなる理由

相続における車の名義変更とは、被相続人(亡くなった方)が所有していた自動車の名義を、相続人へ移転する手続きのことです。陸運局(運輸支局)での申請が必要とされています。

結論から言うと、相続した車の名義変更には遺産分割協議書など複数の書類が必要であり、手続きを放置すると売却・廃車・保険の手続きができなくなる可能性があります。早めの対応が、後の選択肢を広げることにつながります。

車のキーが、そのまま残っていた。

玄関のフック。故人がいつもぶら下げていた場所。誰も動かしていない。そのキーについているキーホルダーは、何年も前に家族旅行で買ったやつだ。

──相続の現場には、こういう「静止した日常」が、あちこちに転がっている。

ところが現実は、感傷に浸る間もなく動いている。車庫に停まっているその車。名義は、まだ故人のままだ。そして「名義変更」という手続きが、じわじわと、しかし確実に、みなさんを待ち構えている。

焦り顔

車も相続の対象になるって、そういえば考えたこともなかった……。

で、結論から言うと

相続した車は、放置すれば「宙に浮いた財産」になる。

売ることもできない。廃車にもできない。任意保険の名義変更もスムーズにいかない。ナンバープレートが変わることもない。ただ、車庫でじっと時間を食い続けるだけだ。

相続財産というと、多くの人が「不動産」「預貯金」に目を奪われる。当然だ。金額が大きい。しかし車もまた、れっきとした相続財産である(民法896条)。遺産分割の対象であり、誰が引き継ぐかを決めなければ、何も始まらない。

名義変更の手続きは、陸運局(正式には運輸支局)で行う。これは義務だ。そして、やるべき順番がある。順番を間違えると、「書類が足りない」「また出直し」の無限ループが発生し、貴重な時間と体力を奪われることになる。

図解

名義変更を放置すると、何が起きるのか

法律上、相続した車の名義変更に「〇ヶ月以内」という明確な期限は設けられていない。ここは正直に言う。だからこそ、後回しにされやすい。

しかし、現実の問題として、以下のようなことが起き得る。

  • 売却できない:車の名義が故人のままでは、買取業者への売却手続きが進まない場合がある。「名義変更してから持ってきてください」と言われるケースが多い。
  • 任意保険の問題:任意保険は「車の所有者」に紐づく。名義が変わっていないと、保険の契約者変更・等級引き継ぎが複雑になる可能性がある。
  • 遺産分割協議が固まらないと動けない:名義変更には相続人全員の合意が必要だ(民法907条)。一人でも欠けると、手続きが止まる。
  • 相続税申告への影響:車は財産評価の対象になる(相続税法22条)。評価額は「中古車市場の取引価格」が基準とされることが多い。財産目録から抜け落ちると、申告内容がズレる可能性がある。

「大した金額じゃないから」と油断していると、後の手続きでジャブのように効いてくる。これが、車の名義変更を「地味に重要な手続き」たらしめる理由だ。

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名義変更に必要な書類と手順

では、実際にどう動けばいいか。ここからが本番だ。具体的なステップをまとめる。

STEP 1:誰が引き継ぐかを決める(遺産分割協議)

まず相続人全員で「誰がこの車を引き継ぐか」を決める必要がある。この合意が「遺産分割協議」であり、全員の署名・捺印が必要だ(民法907条)。遺言書があれば、それに従う形になる場合もある。

STEP 2:必要書類を集める

名義変更に必要な書類は、ケースによって若干異なるが、おおむね以下のとおりとされている。

  • 遺産分割協議書(相続人全員の実印・印鑑証明書付き)
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書
  • 新しい所有者(名義を引き継ぐ人)の住民票
  • 車検証(自動車検査証)
  • 車庫証明書(新所有者の住所で取得)
  • 申請書・手数料納付書(陸運局の窓口で入手可能)

なお、相続人が1人だけの場合(単独相続)は、遺産分割協議書が不要になるケースもある。窓口で確認するのが確実だ。

図解

STEP 3:陸運局(運輸支局)で手続きする

書類が揃ったら、車の使用の本拠地(新所有者の住所地)を管轄する運輸支局へ持参する。郵送では対応できない場合が多い。手数料は数百円程度とされているが、車庫証明の取得には別途費用がかかる場合がある。

混雑する曜日・時間帯は避けるのが吉。午前中の平日、それも月初・月末を外した週の中盤あたりが、比較的スムーズとされている。

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「車だけ先に分割できるか」という疑問

ここで、よくある疑問が浮かぶ。

「不動産や預貯金の遺産分割はまだ揉めているけど、車だけ先に名義変更したい」──これは可能か。

結論から言うと、一部分割は法律上認められている(民法907条)。相続人全員が合意すれば、特定の財産だけを先に分割協議の対象にすることができる。ただし、その際も「相続人全員の合意」は必要だ。一人でも反対すれば成立しない。この点は忘れないでほしい。

また、一部分割をした場合は、残りの財産について後日改めて協議が必要になる。「終わった」と思って油断していると、続きの協議が放置状態になるという、じわじわ型の問題が発生することがある。

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動き出すのは、今この瞬間でいい

相続の手続きは、全部一度に完結させようとすると、途方に暮れる。それは当然だ。不動産、預貯金、保険、年金、そして車。これだけの項目が、同時に「対応待ち」で並んでいるのだから。

だからこそ、「今日の一手」を決めることが大事だ。

車については、まずこの順番で動いてみてほしい。

  1. 車検証を確認し、現在の名義と車の情報をメモする
  2. 相続人が何人いるかを確認する
  3. 誰が引き継ぐかについて、相続人間で話し合いを始める
  4. 合意が取れたら、遺産分割協議書を作成する
  5. 書類を揃えて、管轄の運輸支局へ持参する

これだけだ。一度整理してみると、意外なほどシンプルに見えてくる。

ホッとした顔

やることさえ分かれば、一個ずつ片付けていけそうだ。

車庫に停まったままの、あの車。キーホルダーがついたまま玄関で眠っている、あのキー。それを「ちゃんと次の人の手に渡った」という状態にするのが、手続きの終着点だ。

後から振り返ったとき、「早めに動いておいてよかった」と思える瞬間は、必ず来る。

けっこう重要です、車の名義変更。伝わりましたかね。

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よくある質問

相続した車の名義変更に期限はありますか

法律上、相続した車の名義変更に明確な期限は定められていないとされています。ただし、名義変更が完了していないと売却・廃車・任意保険の変更手続き等に支障が生じる可能性があるため、早めの対応が望ましいとされています。

遺産分割協議が終わっていなくても名義変更はできますか

原則として、誰が車を引き継ぐかについて相続人全員の合意(遺産分割協議)が必要とされています(民法907条)。一部分割として車だけ先に協議することも可能ですが、その場合も相続人全員の合意と署名・捺印が必要です。

車は相続税の課税対象になりますか

車は相続財産に含まれるため、相続税の課税対象になる可能性があります(相続税法22条)。評価額は一般的に中古車市場における取引価格を参考に算定されるとされています。財産目録作成の際に忘れず計上することが重要です。

名義変更の手続きは誰でもできますか

名義変更の手続き自体は、必要書類を揃えれば相続人本人が運輸支局の窓口で行うことが可能とされています。ただし、必要書類の取得や遺産分割協議書の作成が複雑に感じられる場合は、行政書士等に依頼することも選択肢の一つです。

車の査定額が低い場合でも遺産分割協議は必要ですか

車の評価額の多寡にかかわらず、相続財産として名義変更を行う際は相続人全員の合意が必要とされています(民法907条)。評価額がゼロに近い場合でも、廃車の際に法的な手続きが必要になるケースがあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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